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給与のデジタル支払い解禁!企業との相性やメリット・デメリットは?

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こんにちは。社会保険労務士の吉田です。4月から解禁となった「給与のデジタル払い」は、多くのメリットがあるものの、工数増大の可能性もあるなどデメリットもあるため、多くの人事・労務ご担当者さまが注目しているのではないでしょうか。

本稿では、「給与のデジタル払い」と相性のよい企業や、導入のメリットとデメリットを解説いたします。

「給与のデジタル払い」とは?

​​給与のデジタル払いとは、デジタル通貨や電子マネー、スマートフォンアプリを使った送金サービスなど、銀行振込とは異なるデジタル化された手段で、従業員へ給与を支払うことです。

振込手数料の削減やリアルタイムの送金が可能になることから、企業や従業員にメリットがあるとされています。しかし、まだ多くの企業が導入を検討している段階のようです。

給与のデジタル払いの動向

2023年4月時点での導入には否定的な意見も多いものの、給与のデジタル払いは徐々に注目を集めています。否定的な意見の理由は、下記になります。

  • システムの導入・運用に関するコストや手間
  • セキュリティ上の懸念
  • 従業員のデジタル化への抵抗感

しかし、振込手数料の削減やリアルタイム送金の利点を評価する企業も増えており、今後の普及が期待されています。

4割以上の企業が導入を検討中

株式会社エイチームライフデザインが2023年2月に実施した​​調査によると、導入を検討していない・決められていない企業は53.7%で、デジタル払いの導入を検討している企業は46.3%となっています。

(出典)4月解禁の給与デジタル払いに関する意識調査!4割以上の企業が実施すると回答 - 株式会社エイチームライフデザイン

その理由は、コスト削減が期待されるためです。確かに、給与のデジタル払いに利用される資金移動業者として名乗りを上げているPayPayや楽天、auなどでは、入出金時の手数料が無料もしくは割安なものが多く、デジタル払いにおいても同様となる可能性が高いです。

(出典)4月解禁の給与デジタル払いに関する意識調査!4割以上の企業が実施すると回答 - 株式会社エイチームライフデザイン

一方、「従業員へのメリットを感じない」「法整備が不十分」といった理由で導入に否定的な意見も多く見られます。

確かに、従業員のデジタルスキルや年齢層によっては、デジタル払いに対する理解が十分でない場合もあり、導入に慎重な意見も少なくありません。また、デジタル資産に対する法規制や税制上の問題も、導入を躊躇する要因となっています。

(出典)4月解禁の給与デジタル払いに関する意識調査!4割以上の企業が実施すると回答 - 株式会社エイチームライフデザイン

給与のデジタル払い導入に際しては、従業員に対して、企業の規模や従業員の年齢層、業種などに応じた適切なサポートや教育が重要になります。また、導入時にはセキュリティ対策などの確認も欠かせません。今後の動向に注目しながら、企業にとって最適な給与支払い方法の検討が求められます。

従業員の利用意向も約3割にとどまる

モバイルマーケティングデータ研究所が2023年3月に公開した調査結果によると、実際に給与のデジタル払いを利用したいと考えている従業員は約3割にとどまります。

(出典)2023年3月給与デジタル払いに関する調査 - MMD研究所

その理由はいくつか考えられます。まず、デジタル払いに対する知識や理解が十分でないことが挙げられます。

たとえば、「デジタルマネーが使える店舗でしか利用できない」点をデメリットと考える従業員も多いようです。しかし、給与支払いが可能なデジタルマネーは、口座からの自由な入出金が可能です。そのため、デジタルマネーを銀行口座に移動することも当然可能で、お金の入口がどこになるかの問題に過ぎません。 

ほかにも、新しい技術に対する抵抗感や不安が大きい従業員もいるでしょう。また、セキュリティ上の懸念やプライバシーに関する問題も、利用意向が高くない要因となっています。従業員にとって「慣れ親しんだ銀行振込が安全である」という認識も根強く、新しい支払い方法への移行に慎重な態度を取る要因と考えられます。

給与のデジタル払いのメリット

給与のデジタル払い導入する企業にとってのメリットはどのようなものがあるのでしょうか。

メリット(1):銀行振込に比べて手数料を削減できる

デジタル払いにより、銀行振込と比較して手数料が大幅に削減される可能性があります。これが企業が導入検討するメリットの第1位であり、経営効率化が期待できます。

メリット(2):複数回での支払いも検討できる

​​給与のデジタル払いの導入により、給与を複数回に分けて支払えるようになります。従来の銀行振込では、手数料や送金日数が関係するため、月1回の支払いが一般的でしたが、デジタル払いの導入により、その制約が緩和されます。

また、デジタル払いを利用することで送金手数料が削減され、さらにリアルタイムでの送金が可能となることから、企業は給与を月2回以上の支払いが容易になります。このような柔軟な支払い方法は、従業員にとっても生活費を管理しやすくなり、急な出費や貯金への影響も軽減されるでしょう。

ただし、複数回の給与支払いは、給与計算業務の負担が増すことも考慮が必要です。

メリット(3):外国人労働者への給与支払いが容易になる

​​デジタル払いの導入により、銀行口座開設のハードルが高い外国人労働者への給与支払いが容易になります。そのため、外国人労働者の採用力が向上し、企業の労働力の多様化が促進されることも期待されています。

しかし、現時点ではデジタルマネー口座の上限額は100万円と決まっているため、残高が上限を超える場合、従業員は銀行口座に送金する必要があります。これは、銀行口座開設のハードルが高い外国人労働者にとっては大きな課題となります。

デジタル払いは、外国人労働者の給与支払いを容易にする可能性があるものの、このような制約が現実的な問題として存在しています。今後の規制改革や金融サービスの進化によって、これらの課題の解決が期待されていますが、企業は現状を踏まえた対策を検討する必要があります。

給与のデジタル払いのデメリット

では、給与のデジタル払いには、企業にとってどのようなデメリットがあるのでしょうか。

デメリット(1):セキュリティ・プライバシーの問題

​​給与のデジタル払いは、サイバー攻撃や不正アクセスのリスクが高まる可能性があり、企業はセキュリティ対策の強化と、従業員の個人情報を適切に保護する必要があります。

デメリット(2):給与振り込みの工数増大

デジタル払いの導入に伴い、新たなシステムの導入や運用に関する工数の増大が懸念されます。とくに導入初期段階では、口座情報の収集や従業員からの同意取得に労力がかかることが予想されます。

デメリット(3):給与システムとの連携が不透明

既存の給与システムとの連携が不透明で、システム間の互換性やデータ移行の問題が生じる可能性があり、対応にコストや手間がかかることが懸念されます。

デメリット(4):デジタルマネーに対する不信感と労使関係や求人への影響

デジタルマネーに対する不信感は、まだ根強いものがあります。企業が給与のデジタル支払いを推進した場合、労使関係や求人に悪影響が出る可能性もあります。

たとえば、従業員の不安や不満が信頼関係を損ない、離職率や生産性の低下につながる恐れがあります。また、デジタル技術に慣れていない求職者やセキュリティ懸念からデジタルマネーを避けたい従業員は、デジタルマネー導入企業での就業の敬遠も考えられ、人材確保が困難になる場合があります。

給与のデジタル払いを導入検討するべき企業

「給与のデジタル払い」と相性のよい企業は以下のような特徴をもっています。

技術革新に前向きな企業

デジタル化に積極的で、新しい技術やサービスを活用して効率化やコスト削減を目指す企業では、自動化やクラウドサービスの活用で給与計算や支払いの手間が軽減され、業務改善につながります。

多様な労働者がいる企業

外国人労働者や若年層など、銀行口座開設のハードルが高い従業員を多く雇用している企業では、デジタル払いは手軽な選択肢となります。これにより、多様な労働力の確保が容易になり、企業の競争力の向上が期待されます。

給与支払いの柔軟性を求める企業

デジタル払いの導入によって銀行振込よりも手数料や日数が短縮され、月2回以上など複数回の支払いも検討しやすくなります。これにより、従業員の生活をサポートし、働きやすい環境を整備できます。

給与のデジタル払いの導入ステップ

会社として給与のデジタル払いを導入する際、以下のようなステップが必要となります。

ステップ(1):就業規則の改定、労使協定の締結

給与のデジタル払いは賃金に関わるため、就業規則または賃金規程の改定が必要です。また、労使協定も締結する必要があります。

ステップ(2):労働者の同意

給与支払い方法の変更は、従業員に直接影響を与えるため、従業員の同意を得ることが不可欠です。またこの同意については、書面または電磁気記録による必要があります。 

ステップ(3):業者の選定

デジタル払いにおいて、振込先のデジタルマネー口座は労働者本人が指定します。しかし、デジタルマネー口座を提供する業者は多数存在するため、信頼性や手数料、利便性などを比較検討し、会社として支払いが可能なデジタルマネー業者を選定し、不適切な業者へのデジタルマネー支払いを拒否するなどの対応が必要となります。

ステップ(4):必要事項の説明

デジタル払いの導入にあたっては、従業員に対して新しい支払い方法の利用方法や注意点などを十分に説明し、理解を深めてもらうことが大切です。また、導入後のサポート体制や問い合わせ窓口を設けることで、従業員の不安や疑問を解消できます。​​

国のガイドライン整備に向け、情報収集に努めよう

現在、従業員からの要望も高まっていないため、多くの企業が導入を検討していません。しかし、将来的には従業員からの需要が高まり、国のガイドラインの整備によって、手数料削減以上のメリットが生まれるでしょう。

そのため、今は準備期間と捉え、デジタル払いに関する情報収集やシステム改善を進めることがおすすめです。将来的に対応するために準備しておけば、導入のタイミングが来た際にスムーズに対応できるでしょう。

お役立ち資料

【2023年版】人事・労務向け 法改正&政策&ガイドラインまるごと解説

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