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東京駅自販機売り切れ騒動。「事業場外みなし労働時間制」の落とし穴とは?

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こんにちは。社会保険労務士事務所しのはら労働コンサルタントの篠原宏治です。

4月中旬、「東京駅構内の自動販売機で売り切れが続出している」とのニュースが報じられました。

補充を行っている自販機販売会社の社員10数名が、「事業場外みなし労働時間制」を違法に適用されて残業代未払いで長時間労働を強いられていることを不服とし、ユニオンに加盟して、法律に従って残業を全く行わずに仕事を切り上げているためです。

このケースにおける「事業場外みなし労働時間制の問題点」と「会社が留意すべき落とし穴」について解説します。

「事業場外みなし労働時間制」の概要

「事業場外みなし労働時間制」は、労働基準法第38条の2に規定されており、労働者が、業務の全部または一部を事業場外で従事し、その間の労働時間を算定することが困難である場合に、所定労働時間労働したものとみなす制度です。

ただし、その業務を遂行するために、通常所定労働時間を超えて労働することが必要である場合には、業務遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなします。

この場合において、労働者の過半数代表者と労使協定を締結して所轄労働基準監督署長に届け出た場合には、労使協定で定めた時間労働したものとみなします。

シンプルに言うと、「労働者がどこで何やっていたか確認できないのであれば、労働していたものとみなしなさい」という制度となります。

「事業場外みなし労働時間制」の適用自体が不適切なケース

では、自販機販売会社のケースではどのような点が問題だったのでしょうか?

まず、事業場外みなし労働制の適用自体の問題です。

事業場外みなし労働時間制が適用されるには、事業場外で業務に従事しているだけでなく、労働時間を算定することが困難である必要があります。

厚生労働省の通達(S63.1.1基発第1号・婦発第1号)では、次のような場合は事業場外みなし労働時間制の適用はないとされています。

1. 何人かのグループで事業場外労働に従事し、その中に労働時間管理者がいる場

2. 無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けて労働する場合

3. 訪問先や帰社時刻等の具体的指示を受けて、その指示通りに業務を行う場合

自動販売機の補充業務は、指定の自動販売機を巡回して業務を行う、いわゆる「ルートセールス」であり、上記3の場合に該当する可能性が高いと考えられます。

また、昭和63年の時点で無線やポケットベルによる指示があれば事業場外みなし労働時間制の適用はないことを鑑みれば、携帯電話やスマートフォンなどのモバイル機器がごく当然に利用されている現在においては、事業場外みなし労働時間制が適用される業務はほとんどないと言えるでしょう。

最大の問題点は実働時間よりみなし労働時間が短いこと

最も大きな問題点は、実働時間に対してみなし労働時間が短いことです。

その業務が、通常終業時刻までには終わらず残業が必要となるような業務である場合には、その業務に通常必要とされる時間労働したものとみなさなければなりません。しかし実際には、実働時間に対してみなし労働時間が短く設定されていることが少なくありません。

自動販売機会社のケースにおいても、1日4時間以上の残業代が未払いとなっていたようで、実働時間よりもみなし労働時間がかなり短くされていたことが、労働者が不満を募らせた大きな要因と言えるでしょう。

「事業場外みなし労働時間制の労使トラブルが全国で生じる可能性も

事業場外みなし労働時間制は、全国の企業で営業職の労働者に広く適用されており、多くの場合、残業代の代わりに固定の営業手当(みなし残業手当)が支払われて、一種の固定残業代制度のように運用されています。

今回の自販機販売会社のように、実働時間よりも短いみなし労働時間として残業代の支払いを逃れようとする会社も少なくなく、長時間労働や残業代未払いの温床として問題となっています。

事業場外みなし労働時間制を悪用した残業代逃れが蔓延している背景には、みなし労働時間を何時間とすべきかが明確でないことがあります。

ただ、前述のように、現在は事業場外みなし労働時間制を適用すべき業務がほとんどないと考えられることから、今後は、「みなし労働時間を何時間とすべきか」という以前に、「事業場外みなし労働時間制を適用することが適切か」という観点からの指導が強化されることが見込まれます。

現在、事業場外みなし労働時間制によって実働時間とみなし労働時間に乖離が認められる場合は、早急に労務管理の方法の見直すことをお勧めします。

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