玉突き人事は回避不可?諦める前に知ってほしい、予防のヒント
- 公開日
この記事でわかること
- 玉突き人事とは何か
- ジョブローテーションとの違い
- 従業員目線・人事目線でのメリットやデメリット
- 玉突き人事を実施する場合の注意点
目次
急な人手不足を乗り切るために実施される人事異動が玉突き人事です。空いたポジションにほかの従業員を異動させ、そこで空いた穴をさらにほかの従業員で埋める異動を繰り返します。
今回は玉突き人事が発生する原因やメリット・デメリット、実施時に失敗を避けるためのポイントを紹介します。
玉突き人事とは?
玉突き人事とは、人事異動の一種です。計画的に実施される人事異動とは異なり、急な人手不足を解消するため、やむを得ず実施されるケースを指します。
玉突き人事は、従業員の突然の休職・退職など、予測不能な人手不足時に発生します。通常の人事異動と比べ、十分な引き継ぎ準備もできないまま異動となったり、キャリアプランに影響を及ぼしたりするため従業員の負担が大きいです。会社としてもできるかぎり避けたい人事異動ですが、致し方のない事情により実施されることがあります。
「縦」と「横」の玉突き人事
玉突き人事は異動内容から「縦」と「横」に分けられます。
縦の玉突き人事は、役職者の休職や退職などにより空いたポストに誰かを昇進させる人事采配です。昇進をともなうため、従業員は出世できるメリットもあります。一方で、突然の昇進で従業員の心の準備ができていなかったり、業務の引き継ぎが不十分になったり、大きな環境変化はストレスやプレッシャーの原因になります。従業員のケアやフォローを忘れないようにしましょう。
横の玉突き人事は、特定部署で欠員が出た場合に、他部署から異動させる人事采配を指します。異動した人員の穴埋めに、さらに別の部署から人を異動させるパターンも少なくありません。縦の玉突き人事と異なり昇進もなく、従業員の負担が大きくなるケースも。
玉突き人事の多くは、この縦と横の性質を組み合わせて構成されます。
混同されやすい言葉との違い
横滑り人事
横滑り人事とは、地位が同程度の他役職への就任を意味します。例えば、営業部長から広報部長へ、経理部長から人事部長へといった異動が横滑り人事に該当します。異動後も、給与条件や会社における地位は変わらないのが一般的です。
玉突き人事と似ており、横滑り人事の場合は計画的に実施されるケースが多いです。横滑り人事のなかでも、急な欠員補充目的の突発的な異動を玉突き人事と呼びます。
配置転換
配置転換とは、職種や職務内容を長期間にわたって変更する、同一企業内での異動を意味します。勤務地は変わらず、業務内容のみ変わるケースが一般的ですが、企業によっては勤務地の変更を伴う異動も配置転換と呼ばれます。
異動の理由や異動後の地位にかかわらず、同一企業内での異動全般を指す点が玉突き人事と異なります。
ジョブローテーション
ジョブローテーションは、その名のとおり職場や職務を定期的に変更する制度を指します。人材研修の一つで、人材育成を目的として実施されるケースが多いです。
急な人手不足解消のために実施される玉突き人事と異なり、組織全体で計画的に実施されるのが特徴です。
玉突き人事のメリット・デメリット
できるだけ避けたい玉突き人事ですが、メリットが全くない訳ではありません。ここで、玉突き人事のメリットとデメリットを従業員目線・人事部目線でそれぞれ紹介します。
従業員の目線から
従業員目線での玉突き人事のメリット・デメリットを紹介します。
<メリット>
- 縦の玉突き人事の場合、昇進にともない昇給が期待できる
- 業務見直しのきっかけになる
- 他部署への異動が適材適所の可能性がある
玉突き人事は思わぬタイミングで実施されますが、業務見直しや配置変更によるポジティブな影響もあります。例えば、ブラックボックス化した業務が異動によって明らかになり、組織全体で業務内容を見直すきっかけになる場合も。組織に新しい風を吹かせる一面もあるのです。
一方で、当然デメリットもあります。
<デメリット>
- 急な異動のため、引き継ぎが不十分になりやすい
- 専門性を磨くのが困難になる
- 新しく配属される部署の業務や人間関係にミスマッチが起こる可能性がある
業務内容や環境の急な変化は従業員に大きな負担がかかります。また、計画にない異動は従業員の育成やキャリアプランにも大きく影響します。一時的な人手不足は解消されるかもしれませんが、長期的な目線では、本来の育成計画やキャリア形成を妨げる可能性もあるでしょう。
一般的に、玉突き人事は従業員にとってメリットよりもデメリットの多い人事です。どうしても必要な場合は、トラブルを防ぐためにも真摯に事情を説明しましょう。
人事部の目線から
人事部目線での玉突き人事のメリット・デメリットもみていきましょう。
<メリット>
- 人手不足が解消できる
- 人員配置バランスの適正化につながる
- 業務見直しのきっかけになり、組織の活性化が期待できる
玉突き人事の目的で最も多いのは急な人手不足の解消です。通常の人事異動は、従業員の適性や組織の状況を鑑みながら計画的に実施するため時間がかかりますが、玉突き人事ならスピード感のある人事異動が可能です。
また、人員配置バランスや業務を見直すきっかけにもなります。業務の属人化を避け、組織全体の活性化を図るために有効なケースもあるのです。
では、人事部目線でのデメリットも確認してみましょう。
<デメリット>
- 不本意な異動で従業員のモチベーションが低下する
- キャリアプランや業務の適性に不満がある場合、リテンションにも悪影響がある
- 計画性のない人事異動に対して、会社に不満を持たれてしまう
玉突き人事の最大のデメリットは、従業員の不満やトラブルにつながりやすい点。業務や環境の変化は従業員の負担になるうえ、突然の人事命令だと引き継ぎも慌ただしく、心の準備も待たずに異動しなければなりません。従業員への適切なケアを忘れないようにしましょう。
玉突き人事のマイナス面を事前に把握し、対策を
玉突き人事にはデメリットが多く、なるべくなら避けたほうが無難です。しかし、近年の人材不足では欠員補充のための採用も容易ではないのも事実。実施がやむを得ないケースもあります。
一方で、玉突き人事が頻繁に起きる場合は根本的な原因把握が必要です。離職率が高い、あるいは休職率の高さが原因なら、従業員が不満を抱えているのかもしれません。
かつての人事異動は会社主体での実施が一般的でしたが、時代の変化とともに価値観や多様性を軽視する人事異動は難しくなりました。Alba Linkが実施した入社1年以内に退職した理由のアンケートでは、「仕事内容が合わなかった」が2位にランクインしています。従業員の適性や価値観を無視した異動はトラブルにつながりかねません。
やむを得ず玉突き人事を実施する場合にも、従業員の適性を最大限生かし、モチベーションを保つ工夫が求められます。
(参考)【入社1年以内に会社を辞めた理由ランキング】男女333人アンケート調査-訳あり物件買い取りプロ
実施する際に注意したいこと
ここからは玉突き人事の実施手順と注意点を紹介します。
1)実施検討中の人事異動が、就業規則に違反しないか確認する
基本的に、労働者は人事異動命令を拒否できません。過去の裁判例でも、使用者が持つ人事権は広く認められており、異動命令にも強い効力があります。ただし、就業規則で人事異動に関する定めを明記しておくなど、あらかじめ根拠規定の設定が必要です。明記がないにもかかわらず急な人事異動を命じた場合、労使トラブルに発展するおそれがあります。
2)欠員が出た部署に必要な人材を把握する
就業規則上問題がない場合は、部署の人材不足を把握しましょう。ポジション埋めだけを目的にするのではなく、業務内容などを鑑みて不足を補うのが理想です。
3)条件に該当する従業員を選ぶ
求める人材の条件が定まったら、該当従業員を選びます。異動後のミスマッチを防ぐためにも、従業員の適性やキャリアプランはしっかり見極めましょう。急を要する人事異動のため、従業員への丁寧なヒアリングは困難かもしれませんが、ここが人事部の腕の見せ所です。日頃から従業員の労務データを集めておけば、スムーズに人材検討ができます。
4)本人や所属部署に異動の相談をもちかける
対象従業員の決定後、本人と所属部署に異動の相談をもちかけます。ここでは異動の内容をポジティブに伝えましょう。欠員によるシワ寄せと受け止められた場合、モチベーションに影響しかねません。もし了承を得られなければ、強引に説得するのは避けたほうが無難です。次に紹介する記事で人事異動時の労使トラブルを避けるためのヒントをまとめていますので、ぜひ参考にしてみてください。
5)異動を実施する
了承を得られたら、異動を実施します。異動後の従業員へのアフターフォローも忘れてはいけません。
余裕ある人員配置は難しい。それでも、玉突き人事は防ぎたい
組織全体の効率化や成長となる計画的な人員配置が理想ですが、なかなか難しいのが現実です。
先にも述べたように、急な人事異動でもスムーズに対応するには、組織や従業員の状況把握が重要です。人員の過不足はないか、従業員のキャリアプランはどうなっているか、常に最新情報が集まる環境をつくりましょう。欠員発生時のシミュレーションもしておくと安心です。
とはいえ、全従業員と定期的に面談したり、Excel上で配置をシミュレーションしたりするのは、人事部・従業員双方にとって負担が大きくなります。
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FAQ
Q1. 玉突き人事とは何ですか?
人事異動の一種です。計画的に実施される人事異動ではなく、急な欠員による人手不足解消のために場当たり的に実施されるケースを指します。昇進をともなう縦の玉突き人事と、それ以外の横の玉突き人事に分けられます。
Q2. 玉突き人事を実施する理由は何ですか?
玉突き人事を実施する理由は、急な人手不足の解消です。通常の人事異動よりも組織・従業員にとって負担が大きく、できるだけ避けたい人事異動ではありますが、やむを得ない状況に実施されます。
Q3. 玉突き人事のデメリットを教えてください。
従業員目線では、急な異動のため引き継ぎが不十分になる、キャリアプランに影響するなどのデメリットがあります。人事部目線のデメリットは、不本意な異動による従業員のモチベーション低下やリテンションへの悪影響などです。