心理的安全性が高い職場のカギはリーダーにあり!効果や測定方法も解説
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この記事でわかること
- ビジネスにおける心理的安全性は「職場において誰もが安心して発言や行動ができる度合い」を指し、個人・チームのパフォーマンス向上、イノベーション創出、問題の早期発見に寄与する
- 心理的安全性を低下を招くのは、「無知」「無能」「邪魔」「ネガティブ」と思われる4つの不安である。解消するにはサーバント・リーダーシップが重要
- 心理的安全性を高めるには、発言しやすい環境づくり、相互尊重、ポジティブ思考の促進、適切な評価制度の構築が必要である
目次
安心して働ける職場で活躍するために必要な要件として、「心理的安全性」という言葉に注目が集まっています。心理的安全性の高い職場では、チームとして成果の最大化に期待できます。また、安心して働けることから、離職防止やスキルアップにも効果があるといわれています。
本稿では「心理的安全性」を高めるメリットや方法、リーダーが取るべき行動を紹介します。
心理的安全性とは(psychological safety)
心理的安全性とは、対人関係においてリスクのある行動をとった結果に対する個人の認知の仕方を意味します。つまり、「無知、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられるかどうかが関係するのです。ビジネスにおける心理的安全性とは、「職場において誰もが安心して発言や行動ができる度合い」を指します。
「心理的安全性」とは「psychological safety(サイコロジカル・セーフティ)」を意味する心理学用語を日本語訳した言葉です。1999年に組織行動学の研究者である、米・ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授によって提唱されました。
ただし、チームに対する信頼感といっても、単なる仲の良さや一致団結して業務に取り組めるかといった点だけでは、心理的安全性は評価できません。
また、「会議中は自由に発言する」「お互いの意見を否定しない」といった形式的なルールを定めればよいわけでもなく、「(踏み込んだ発言をしても)対人関係に悪い影響はない」と安心できるかが重要です。
ぬるま湯的な組織との違い
ぬるま湯的な組織とは、現状維持を好み、変化を嫌い、挑戦が少ない組織のことを指します。以下が、心理的安全性の高い組織とぬるま湯的な組織との主な違いです。
心理的安全性の高い組織の特徴 | ぬるま湯的な組織の特徴 |
変革と改善を奨励 | 現状維持を重視 |
新しい挑戦を奨励 | 挑戦が少ない |
健全な競争がある | 競争が少ない |
リスクを取ることが奨励される | リスクを避けることを重視する |
自由に意見が言える、発言が多い | 意見やアイデア、発言が少ない |
成長意欲が高い | 成長意欲が低い |
心理的安全性が注目された背景
Googleは2012〜2015年までの4年間、仕事は単独よりもチームで作業したほうが大きな成果が挙げられると考え、生産性向上のため研究プロジェクト「プロジェクト・アリストテレス」を立ち上げました。この研究で「チームや組織の生産性向上には、心理的安全性が重要である」と結論づけたのがきっかけで、世界中の企業が心理的安全性に注目し始めたのです。
この成果報告のなかでは、「効果的なチーム」を構築する要素として「心理的安全性(サイコロジカル・セーフティー)」「相互信頼」「構造と明確さ」「仕事の意味」「インパクト」の5つが挙げられました。
なお、心理的安全性は「チーム内」と「チーム間」の2種類があります。それぞれの違いを確認していきましょう。
チーム内の心理的安全性とはメンバーが安心して発言・行動できる状態
「チーム内の心理的安全性が高い」とは、チーム内のメンバーが誰に対しても恐怖や不安を感じず、安心して発言・行動できる状態を指します。
組織内の上下関係に関わらず、誰もが発言しやすい環境であれば他人の意見から学びの機会が増え、業績向上につながります。従業員が働きやすくなるだけでなく、組織側にもメリットがあるのです。
また、先述したGoogle社のリサーチでは、心理的安全性の高いチームのメンバーについて以下の特徴があると報告されました。
- 離職率が低い
- 他のチームメンバーが発案したアイデアを活用できる
- 収益性が高い
- マネージャーから「効果的に働く」と評価される機会が2倍多い
参考:Google re:Work「効果的なチームとは何か」を知る
つまり、チーム内の心理的安全性向上は、従業員・組織の成長を促すといえるでしょう。
チーム間の心理的安全性は部署間・マネージャーの心理的安全性で決まる
「チーム内の心理的安全性」がチーム内のメンバーに対する安心度によって決まるのに対し、「チーム間の心理的安全性」は部署間やマネージャー間の心理的安全性によって決まります。
チーム内の人間関係が良好でも、縦割りの部署間やマネージャー間での心理的安全性が低いケースは珍しくありません。チーム間の心理的安全性が低いと、部署を超えたプロジェクトなど、マネージャー間の調整が必要な場面において他部署に対して保守的、あるいは挑戦的になりがちです。
その結果、「声の大きい人の意見に引っ張られる」「現状維持バイアスがかかり必要な改善が進められない」といった状況になりやすいです。
企業全体の最適化を実現するためには、チーム内だけでなくマネージャー間の心理的安全性の担保も必要といえるでしょう。
心理的安全性を高める5つのメリット
組織の心理的安全性を高めるメリットを5つ紹介します。
(1)個人・チームのパフォーマンスが向上する
心理的安全性の高い環境では、従業員は人間関係にとらわれずに、目の前の仕事に集中できます。
「このような提案をしたら社内の人間関係を悪くするかもしれない」といった心理的ブレーキをかけずに、積極的に新しいアイデアを提案できるため、結果的に個人やチーム全体のパフォーマンスが向上します。
さらに、積極的な情報共有によってメンバーそれぞれの得意分野が明確になり、チーム全体の知識量の増加も期待できます。
(2)業務への責任感が芽生えやすい
自分の発言や意見が組織に受け入れられると、自身の役割や業務に対する責任感や関心度も向上します。一人ひとりが責任感を持って仕事に向き合い、切磋琢磨できる環境が構築されやすくなるのです。
(3)イノベーションが生まれやすくなる
心理的安全性が高いチームでは、一人ひとりの価値観や適正、スキルが認められます。多様な価値観からさまざまな意見やアイデアが生まれ、イノベーションが創造されやすくなります。言い換えれば、現場から出てきたアイデアを黙殺するような「現状維持」を続けていくと、組織の成長は望めないでしょう。
(4)会社への満足度やエンゲージメントが高まる
心理的安全性の高いチームでは、従業員一人ひとりが自身の能力を発揮できている実感を得られます。この実感が、仕事への満足度や組織への愛着感につながるのです。
また、従業員の組織に対する満足度はエンゲージメントに直結します。エンゲージメントが高まれば離職が減り、人材の流出防止にもつながります。
(5)問題の早期発見が可能になる
「失敗したら非難されるかもしれない」といった不安は、ミスの隠蔽や報告遅れの原因になりかねません。心理的安全性が高い環境ならば、自分の抱える問題やミスを認めやすくなり、課題が表に出やすくなります。
業務を進めるうえで、トラブル発生はつきものですが、事態が深刻化する前に発見できるため、被害を最小限に抑えられます。
心理的安全性の低下を招く4つの不安
心理的安全性が低い職場で働く従業員は、「無知」「無能」「邪魔な存在」「ネガティブ」といった4つの不安を抱えているといわれます。これらの不安は自信のなさにつながり、従業員は自分自身を隠し、周りの顔色を伺うようになります。
それぞれの不安について詳しくみていきましょう。
(1)「無知だ」と思われる不安(Ignorant)
また、「同じことを2回聞くな」と叱責された経験があると、「こんな質問をすると、無知だと思われないだろうか」と不安に感じ、質問をためらってしまう人もいるでしょう。しかし、質問をしなかったばかりに、後で困るケースもあります。
恥ずかしいだけならまだしも、無知なまま業務に携わってミスを引き起こし、業務効率やパフォーマンス、モチベーション低下につながっては元も子もありません。
(2)「無能だ」と思われる不安(Incompetent)
失敗をした際に「こんな仕事もできないのか」と失望されるのではないかという不安です。ミスを隠し他者に責任転嫁してしまう人もいます。
従業員がミスを隠すのが常習化すると、組織はトラブルに対応する経験や力を得られません。何より会社に損害をもたらす事態が発生するリスクがあります。
(3)「邪魔をしている」と思われる不安(Intrusive)
自分の発言が否定されると、「議論の邪魔になるのではないか」と不安になり、積極的な発言を避けるようになりがちです。活発な議論ができなければ、当然新しいアイデアや提案も出にくくなります。
また、発言が少ないためメンバー同士の考えも共有しにくく、組織力やチームワーク低下の原因を引き起こします。
(4)「ネガティブだ」と思われる不安(Negative)
反対意見を述べると「いつも他人の意見を否定する」「ケチをつけている」と思われるのではと不安に感じる人もいます。客観的な判断にもとづいた反対意見であっても、他人と異なる意見を言えなくなるのです。
しかし実際には、議論を活性化して課題点を指摘・改善するためには、多様な意見が必要です。「適切な反対意見はアイデアのブラッシュアップにつながる」と組織全体が認識する必要があります。
心理的安全性の高さを維持できるリーダーの特徴
業務効率を向上させるためには、良好な人間関係の構築が必要です。チーム内の心理的安全性を高め、維持できるリーダーにはカリスマ的なリーダーシップではなく、サーバント・リーダーシップが求められます。
サーバントは「使用人」を意味し、サーバント・リーダーシップとは「支援的なリーダーシップ」を意味します。ここで、サーバント・リーダーシップの特徴を紹介します。
なんでも話せる親しみやすい人物である
リーダーと聞くと、「尊敬できる人」といったイメージをもつ人もいるでしょう。しかし、現場において、尊敬できても近寄りがたいリーダーのもとでは心理的安全性は高められません。
たとえ仕事に関係ない話であっても、気軽に会話できる雰囲気をつくり出せる。そんな人物がリーダーであれば、チーム内のコミュニケーションは円滑になります。チームの心理的安全性を高めるには、親しみやすく何でも話せるリーダーが必要です。
自分の知識の限界を認められる人物である
また、リーダーであるからといって常に完璧である必要もありません。わからない、解決できない課題を素直に認められる人物がリーダーならば、部下も困ったときに周囲の助けを求められます。
そのようなリーダーがいるチームは、トラブルやミスを抱え込まず互いにサポートし合える環境になり、結果的に組織全体の業務効率が向上します。
相手を受け入れている姿勢を見せている
サーバント・リーダーシップには、相手の発言をしっかり「聴く」姿勢が求められます。部下が発言しているときに、きちんと話を聞いていると伝わるような姿勢を心がけましょう。
たとえ忙しくても、別の作業を進めながら聞くような姿勢は望ましくありません。必要に応じて質問を返したり、相づちを打ったりすれば、相手は「話を聞いてもらえている」と安心できます。
可能な限り具体的に指示ができる
自身が優秀であるがゆえに、「このくらい言わなくてもわかるだろう」と、具体的な説明や指示をしないリーダーもいますが、これでは部下の負担は増えるばかりです。
疑問を抱えたまま業務に取り組むと、作業効率が落ちたりミスを引き起こしたりしかねません。できる限り具体的な指示を与えれば、指示を受けている側も理解しやすいでしょう。わからない点についてその場で質問できるため効率的に業務を進められます。
メンバーの積極的な参加と責任感を生み出している
担当範囲を明確に決めて部下に業務を任せ、一人ひとりが責任をもって取り組めるようサポートするのもサーバント・リーダーシップの特徴です。
「チームの雰囲気を良好にする」とは、単純に「仲良しチーム」をつくるわけではありません。メンバーそれぞれが組織における役割を自覚し、積極的に業務に挑戦できる環境を整備できるリーダーは、チームの生産性と心理的安全性を高めます。
チームの心理的安全性を高める方法
組織の業務効率向上のためにも、チームの心理的安全性を高める必要性は十分に伝わったと思います。とはいえ、何をすればチームの心理的安全性が高められるのか、具体的な手段がわからない人も多いでしょう。
心理的安全性向上をはじめとする職場環境の改善は、組織全体で取り組む必要があります。とくに、リーダーだけでなく、メンバー全員で実施するべきであると理解を求めることが重要になります。
また、「コーチング」「チームビルディング研修」といったコミュニケーションスキルの活用も有効です。「コーチング」や「チームビルディング研修」についてはこちらの記事で詳しく紹介しています。
どんな意見でも発言できる環境をつくる
立場の上下にとらわれず、誰もが発言しやすい雰囲気づくりは、メンバーの積極的な発言を促します。先述した「心理的安全性の低下を招く不安」で紹介したように、自身の発言に対して否定的な反応をされると、自信喪失し消極的になってしまう人もいます。
また、チーム内の声の大きい人も意見ばかりが採用されるような環境も望ましくありません。チームメンバー全員に均等に発言の機会があり、そしてどの発言も等しく大切にされていると実感してもらえる環境が重要です。
お互いを尊重し、感謝やサポートをし合う雰囲気をつくる
組織が成長するためには、多様な価値観を認め合い、取り入れていく必要があります。メンバー同士がお互いの意見を尊重し、必要に応じてサポートし合えるチームなら安心して業務に取り組めます。
誰にでも苦手・不得意な分野はあるものですが、「このチームなら助けてもらえる」と確信できる環境づくりを進めましょう。
ポジティブ思考を促す
チームの心理的安全性を低下させる原因の1つとして、「ネガティブだ」と思われる不安があると説明しました。言い換えれば、ポジティブな思考や発言はチームにとってプラスな影響を与えます。
メンバーがポジティブに物事をとらえられるように、リーダーが率先して前向きな意見や行動を示すようにするとよいでしょう。
評価制度、サポート制度を見直す
上司が部下を評価する際に個人の成果のみを評価対象としてしまうと、メンバー同士が協力ではなく競争関係になる可能性があります。また、失敗を恐れ、ミスの隠蔽をするケースもあるでしょう。
個人成果のみで評価するのではなく、チームやプロジェクト単位で評価をするなど、不公平感のない評価基準を用意しておく必要があります。
なお、自発的な発言ができないメンバーの意見を傾聴する姿勢も忘れてはいけません。メンター制度や1on1を導入し、部下の抱える不安や緊張を取り除くサポートを心がけましょう。
発言に慣れるための機会を用意する
自発的な発言に慣れてもらう機会をつくることも重要です。1on1など、ある程度の心理的安全性がある人を含めた少人数で、発言する機会を設けて心理的安全性を感じてもらうとよいでしょう。
また、業務に関する内容ではなく勉強会など発言のハードルを下げた場を設定するなどして、発話機会を設け、不安を取り除けるとよいでしょう。
チームの心理的安全性を測る7つの質問
チームの現状の心理的安全性の高さを評価するためには、結果を数値などで可視化する必要があります。心理的安全性を測定する方法として、エイミー・エドモンドソン教授が提唱した「7つの質問」が有効です。
←あてはまる・あてはまらない→ | ||
No. | 質問項目 | チェック |
Q1 | チームのなかでミスをすると、たいてい非難される | 5・4・3・2・1 |
Q2 | チームのメンバーは、課題や難しい問題を指摘し合える | 5・4・3・2・1 |
Q3 | チームのメンバーは、自分と異なるということを理由に他者を拒絶することがある | 5・4・3・2・1 |
Q4 | チームに対してリスクのある行動をしても安全である | 5・4・3・2・1 |
Q5 | チームの他のメンバーに助けを求めることは難しい | 5・4・3・2・1 |
Q6 | チームメンバーは誰も、自分の仕事を意図的におとしめるような行動をしない | 5・4・3・2・1 |
Q7 | チームメンバーと仕事をするとき、自分のスキルと才能が尊重され、活かされていると感じる | 5・4・3・2・1 |
Q1・Q3・Q5はスコアが低いほうが、Q2・Q4・Q6・Q7はスコアが高いほうが心理的安全性が高いと判断されます。もしもネガティブな回答が多い場合は、チーム内で信頼関係が築けておらず、先述した「4つの不安」を抱えている可能性が高いです。
質問票の解答結果から、客観的・定量的にチームの現状を把握でき、自分たちが具体的にどのような対策を行うべきかもわかります。また定期的に測定すれば、組織がよい方向に向かっているのか否かも客観的に評価できます。
現状を客観的に把握するためには、サーベイの活用も効果的です。従業員サーベイによって心理的安全性を高める方法については、以下の記事でより詳しく解説しています。
リーダーによる積極的な環境づくりで心理的安全性を高めよう
企業活動を継続・発展させるためには、どのような企業であっても「人的資本経営」を無視できないでしょう。従業員が活躍できる環境を整えるためには、昨今注目されつつある「心理的安全性」についても意識する必要があります。
組織の生産性向上のためには、心理的安全性が担保されており、well-beingな組織構築が重要ではありますが、それも一朝一夕に実現するものではありません。チーム全体で組織の環境改善に努めるのはもちろん、リーダーが積極的に環境づくりに取り組めば、チーム内に心理的安全性の高い雰囲気が浸透していくでしょう。
Q1. 心理的安全性とは?
A.心理的安全性とは、対人関係においてリスクある行動を取った結果に対する個人の認知の仕方を意味します。ビジネスにおいては「誰もが安心して発言や行動ができる職場環境」を指します。
Q2. 心理的安全性が高いメリットとは?
A.チーム内の心理的安全性が高ければ、メンバーは安心して業務に集中できます。また、メンバー同士でサポートし合って業務を進められるため、組織全体の業務効率向上にもつながります。
また、従業員一人ひとりが自身の能力を発揮できている実感をもち、エンゲージメントが高まる効果も期待できます。
Q3. 心理的安全性が低くなる要因は?
A.自身の発言や存在が否定される環境は、心理的安全性が低いといえます。「無知」「無能」「邪魔をしている」「ネガティブ」といった4つの不安が心理的安全性を低下させる要素として考えられています。