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人材ポートフォリオとは?高まる必要性や仕組みを図解でわかりやすく解説

公開日

この記事でわかること

  • 人材ポートフォリオの基本
  • 人材ポートフォリオの活用方法
  • 完成イメージとよくある課題の解決策
  • 作成手順
目次

人材ポートフォリオは経営戦略の実現に向けて「どこに」「どんな人材が」「どれくらい必要か」を分析するための枠組みです。配置の理想と現状の比較により、企業がとるべき人事マネジメントが明らかとなります。

本稿では人材ポートフォリオの考え方や設計例、見えてきた課題への取り組み方などをわかりやすく紹介します。

人材ポートフォリオは必要な人材像の分析ツール

人材ポートフォリオの概要をまとめた図。

人材ポートフォリオとは、経営戦略の観点から必要な人材像の質と量を分析するための枠組みです。

異なる2つの軸を組み合わせた4象限(軸で区切られた枠)で求める人材像を定義し、「どこに」「どんな人材が」「どれくらい必要か」を可視化します。

難しく感じるかもしれませんが、まとめた結果は上図のようにシンプルです。この場合、Y軸は「個人で成果を発揮するタイプ」か「組織の能力を引き上げるタイプ」か、X軸は「創造」と「運用」のどちらの職種が向いているかを示します。

それぞれの組み合わせにより、

  • 「個人×創造」:技術や商品、企画を考案するクリエイティブ人材
  • 「個人×運用」:既存の業務を円滑に進めるオペレーター人材
  • 「組織×創造」:組織の仕組みや方向性をつくっていく経営層人材
  • 「組織×運用」:チームを管理するマネジメント人材

などとわけられます。

これらに既存の人材を当てはめていき、過不足などを踏まえて適材適所の人事異動や採用活動の方針を決めるのです。

国内での普及はまだ途上といえる人材ポートフォリオですが、経産省の調査結果からもわかるとおり、多くの企業で重要性が認識・議論されています。

動的な人材ポートフォリオの進捗というタイトルのグラフ。人材ポートフォリオの定義、必要な人材の要件定義、適時適量な配置獲得というアンケート質問に対し、いずれも「重要性を認識議論しているが対応策は未検討」と応えた割合が最も多い。

(出典)人的資本経営に関する調査 集計結果」令和4年5月(p.7) - 経産省

他企業に先行して取り組めば、経営・人事戦略において一歩リードできるだけでなく、後述のように従業員や投資家へのアピールにもなるはずです。

ところで、似たツールとして自己分析に使われる「ジョハリの窓」を連想した方もいるのでは?「ジョハリの窓」は、自分を主観と客観の2軸で分析するツールですが、人材ポートフォリオは軸を自由に設定できる企業版ツール、という違いがあります。

2022年から国内での注目度も上昇

技術の発展や社会環境の変化により、企業にも従来の経営・人事戦略からの脱却が求められています。そんななか、2022年ごろから注目を集めはじめたのが人材ポートフォリオです。その背景には「人材版伊藤レポート2.0」の公表や、上場企業を対象とした非財務情報開示の義務化がありました。

人材版伊藤レポートとは、経済産業省が開催した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」の成果をまとめた報告書。2.0ではさらにその内容を深掘りしており、人的資本経営の具体化や実行に移していくためのアイデアが提示されています。

そのなかで「イノベーションを起こす人材の発掘、育成にあたって人材ポートフォリオを構築できるかが課題」と言及があります。人材ポートフォリオは企業が新たな社会環境に対応するために必要な取り組みといえるでしょう。

経営戦略と人材戦略の連動を難しくする経営環境の変化は、以前から始まっている。まず、デジタル化の進展によって、人材に求められるスキル・能力が急速に変化している。AI やロボットと協調し、イノベーションを起こすための人材のスキル・能力をどのように定義し、育成を行っていくかも課題である。(中略)また、脱炭素化をはじめとする新たな事業機会の創出に向け、高度な専門性はもちろん、多様な視点を持ち、新たな発想を生み出せる人材がますます求められる。こうした必要性に対応し、動的な人材ポートフォリオを構築できるかが課題となる。

また、近年は経営方針や人的資本といった非財務情報の提示が企業に求められています。

2008年のリーマンショック以来、海外投資家を中心に財務諸表のみによる企業判断をハイリスクとする考え方が広まりました。また、2018年には国際的なガイドラインを策定するISO(国際標準化機構)が、企業における人事・組織・労務の情報開示に関する「ISO30414」を公開。国内でも2023年に金融庁が上場企業に対して非財務情報の開示を義務づけると発表しています。

人材の多様化や社会の急速な変化を踏まえても、人的資本開示への関心は増す一方です。これからの企業には人材ポートフォリオを活用した体系的な人事戦略が必要になるでしょう。

人的資本や開示の義務化について詳しく知りたい方は以下のeBookでもわかりやすく解説しているので、ぜひ参考にしてください。

Q&Aですぐわかる!人的資本開示完全ガイド

人材ポートフォリオがもつ中長期的な効果

人材ポートフォリオは即効性のある解決策ではなく、「中長期的な経営戦略と現有人材との間のギャップを可視化」(人材版伊藤レポート2.0より)とあるように、長期で効果を発揮する施策です。

既存の人材をポートフォリオにあてはめれば、人材の過不足が見えてきます。その結果、過剰な人材を不足するポジションに異動させたり、不足する人材を育成で補ったりといった対策が取れるようになるのです。人事課題の解決は人件費の最適な配分や生産性の向上にもつながります。

また、適切な人材配置計画の存在は投資家への説得力にもなります。繰り返しとはなりますが、近年では業績などの財務情報だけでなく、社会課題に対する姿勢や人材への配慮も投資において重視される傾向があります。ESG投資に代表されるように、健全な経営をしている企業こそ長期的な利益が期待できると考えられているのです。

可視化される課題と解決策のイメージ

ここからは具体的な人材ポートフォリオの設計例と、そこから見えてくる課題について解説します。

(設計例1)「組織・チーム」「創造・運用」の2軸・4象限

「組織・チーム」「創造・運用」の2軸・4象限で、欲しい人材を分類した図。分類はテキストにて後述。

上記の人材ポートフォリオは従業員の能力を軸としています。この分類は、人材ポートフォリオでは一般的な方法です。

この場合では「個人で活躍するタイプか」「組織の強みを引き出すタイプか」を横軸に、「既存の仕組みの維持・運用が得意なタイプか」「新たな事業や商品の創造が得意なタイプか」を縦軸に設定。4象限の定義方法は事業モデルや規模によって異なりますが、

  • 「個人×創造」:新しい商品や技術などを生み出す「クリエイティブ」
  • 「個人×運用」:与えられた業務をこなす「オペレーター」
  • 「組織×創造」:事業戦略などを構築する「エグゼクティブ」
  • 「組織×運用」:チームを管理する「マネジメント」

などが考えられます。もちろん、企業によっては商品や技術開発が不要なケースもあります。その場合は自社に必要な役割へ適宜入れ替えるといいでしょう。

(設計例2)「若年層・中年層」「正規雇用・非正規雇用」の2軸・4象限

「若年層・中年層」「正規雇用・非正規雇用」の2軸・4象限で、欲しい人材を分類した図。分類はテキストにて後述。

業務内容に大きな違いがない場合などは年齢や雇用形態といった、人材の性質を軸に分類するのも方法の一つです。

  • 「若年層×正規雇用」:経営層候補として育成する人材
  • 「若年層×非正規雇用」:即戦力としての人材
  • 「中年層×正規雇用」:企業活動を牽引する人材
  • 「中年層×非正規雇用」:経験に裏打ちされた知見を獲得するための外部人材

といった分類ができます。

課題と解決方法のモデルケース

人材ポートフォリオを作成していくと、「必要な人材が足りていない」「過剰に確保している人材がいる」といった課題が見えてくるでしょう。

これらに対し、「新規従業員の採用」「既存従業員の育成」「配置転換」を組み合わせて解決策を打ち出します。また、もし人事マネジメントだけでの解決が難しい場合は、既存の従業員を生かした事業モデルへの転換や仕組みづくりなど、根本的な対応を視野に入れましょう。

以下ではさきほど紹介した2つの設計例をもとに、可視化される課題とその解決策のモデルケースをご紹介します。

【「オペレーター」に対して「マネジメント」が少ない】

オペレーターは企業活動を進めるために欠かせない人材ですが、その数に対してマネジメント人材が少ない状況も考えられます。この場合、適切な業務管理や指示が行えず、オペレーターの作業効率が低下する恐れもあるでしょう。

マネジメント人材を増やす方法としては

  • マネジメント能力のある人材を新規採用する
  • 既存従業員を育成し、マネジメント職へ異動させる

などが考えられます。とくに、オペレーターをマネジメントに配置転換できれば、最小限の配置転換で個人の負担を削減できます。

また、配置転換を行わずとも、育成を通じてオペレーターの質を上げ、マネジメントの管理負担を減らす方法もあります。

【「クリエイティブ」や「エグゼクティブ」が少ない】

新企画の立案や商品開発、経営方針の策定など創造業務に適性のある従業員が少ない場合、企業の成長が硬直する恐れもあります。

クリエイティブやエグゼクティブ人材を増やすには、

  • 従業員のなかから希望者を募る
  • 経験者を中途採用する

といった方法が選択肢となるでしょう。もし人材を確保する余裕がない場合は、誰でも自由にアイデアを投書できる意見箱を設置する、ブレストを兼ねたランチミーティングを定期開催するなど、人事の絡まない解決策も候補となります。

【「若年層×正規雇用」が少ない】

若年層の正規雇用が少ない場合、将来的に人材が枯渇する恐れがあります。中長期的な経営戦略においては、人材の流出を常に意識しておかなくてはいけません。10年後、20年後も現在のパフォーマンスを維持できるのか。もしできないのであれば、どう流入を増やし、流出を減らしていくのかを検討します。具体的には以下のような対策があげられるでしょう。

  • 企業説明会の実施など、新卒採用に注力する
  • 非正規雇用者の正社員登用を積極的に行う

ほかにも、定年退職した人材の再雇用制度を設け、若手育成に協力してもらう方法も考えられます。

人材ポートフォリオ作成の大まかな手順

ここからは人材ポートフォリオの導入手順について紹介します。

人材ポートフォリオ作成の5ステップをまとめた図。

(手順1)自社の事業計画やビジョンを明確にする

人材ポートフォリオ作成では目標設定が重要です。

事業計画やビジョンが曖昧なままでは、求めるべき人材像も見えてきません。もしそのまま進めてしまうと、ミスマッチが続く恐れもあります。

人材版伊藤レポート2.0でも、将来的な目標から求める人材を逆算する重要性が述べられています。

経営戦略の実現には、必要な人材の質と量を充足させ、中長期的に維持することが必要となる。このためには、現時点の人材やスキルを前提とするのではなく、経営戦略の実現という将来的な目標からバックキャストする形で、必要となる人材の要件を定義し、人材の採用・配置・育成を戦略的に進める必要がある。

(手順2)人材の軸とパターン、必要数を決める

事業計画やビジョンが固まったら、人材ポートフォリオの2軸・4象限を設定します。また、どの人材がどれほど必要かも合わせて検討します。

設定例は前述のとおりですが、ここでは各象限に優劣を設けないように。

前述した設計例1の場合、オペレーターよりマネジメントが優れていると捉えてしまうと、確保する人材がマネジメントに偏る恐れがあります。人材ポートフォリオが示すのは能力の優劣ではなく適性です。必要な箇所に必要な人数の配置が、企業の生産性を最大化させるのです。

(手順3)現状分析

2軸・4事象が定まったら、従業員をポートフォリオにあてはめます。

この手順では従業員の適性・能力把握が欠かせません。もし主観的な判断だけで分類を進めた場合、人材のミスマッチが起こる可能性もあります。必ず、客観的なデータも踏まえて判断をしたいところです。

人材ポートフォリオの制作は短期間でできるわけではなく、日頃からの適性検査や人事評価、定期面談の積み重ねの延長にあるといえるでしょう。

(手順4)理想と現状のギャップを確認

従業員の分類が完了し、人材ポートフォリオが完成したら、いよいよ活用の段階に入ります。まずは事業計画やビジョンの実現に向けて決めた人材の配分に対し、不足や余剰はないか、理想と現状のギャップを確認しましょう。

(手順5)課題に対して対策を考える

人材ポートフォリオの目的は可視化されたギャップの解消にあります。

もし不足がある場合、採用で補充するのか、既存社員を育成するのか、余剰がある場合は配置転換でバランスをとるのかなどを検討します。

このときポイントとなるのが、具体的な目標と期限設定です。ロードマップ作成により改善計画の頓挫を防ぎます。これらの必要性は人材版伊藤レポート2.0でも言及されています。

人材ポートフォリオの目指すべき姿(To be)を検討する上で、必要な人材像をできる限り具体的に定義する。また、その必要な人材を「○年以内に△△人生み出す」というように、期間や人数に関する具体的な目標も可能な範囲で設定し、定期的にその目標達成の進捗を検証する。

短期間で作成するためのヒント

手順3でも紹介したように、人材ポートフォリオの作成には詳細な人事データが必要です。裏を返せば、人事データの蓄積・活用がすでに進んでいる場合は、データを整形するだけでも大まかなポートフォリオが作成できます。本来推奨される手順とは逆になりますが、まず年齢やスキルで従業員を分類したあと、事業計画に合わせてアップデートしていくといった方法も一つの手です。

もし人事データが適切に管理されていない場合は、将来的な必要性も考慮してツールの導入も検討したいところ。

人的資本の開示は今後ますます求められると考えられます。また、昨今の市場変化を考えると、事業計画の修正に応じた人材ポートフォリオの定期的な見直しも欠かせないでしょう。その都度、人事データを集め直すのは効率面からも避けたほうが無難です。もし導入がまだなら、人材ポートフォリオ作成のタイミングで人事データの活用体制を整えておきましょう。

SmartHRなら人事データの管理が手軽にできるだけでなく、簡単操作で人材を分析できる機能も備わっています。

SmartHR分析レポート機能のサンプル画面

SmartHR「分析レポート機能」の画面

また、導入時の負担が少ないのもSmartHRの特徴。以下ではSmartHRでデータの一元管理を実現した実例を紹介しているので、ツールを検討している方はぜひ参考にしてください。

人材ポートフォリオをもとに、最適な人員配置を

人材ポートフォリオは人員配置に欠かせない取り組みといえます。適材適所の配置があってこそ、企業の中長期的な経営戦略を実現できます。

ただし、配置は従業員のモチベーションやリテンションに強く影響します。個人の生産性を上げ、企業全体の成長を促進するためにも、個々の適性にマッチし、かつ客観的な根拠のある人事マネジメントが重要です。

SmartHRなら人材ポートフォリオの作成に必要なデータ管理が簡単にできるうえ、配置シミュレーション機能で配置後の効果も予測できます。人材ポートフォリオの導入を検討している方は、ぜひ参考にしてください。

お役立ち資料

3分でわかる! SmartHRの配置シミュレーション

FAQ

  1. Q1. 人材ポートフォリオとは何ですか?

    経営戦略の観点から必要な人材像の質と量を分析するための枠組みです。「どこに」「どんな人材が」「どれくらい必要か」を可視化し、適材適所の人事異動や採用活動の指標などに使用します。

  2. Q2. 人材ポートフォリオの作成は、何の役に立ちますか?

    人材ポートフォリオが明らかにするのは人事が抱える課題です。人材の過不足や理想とのギャップ可視化により、不足する人材を育成で補ったりといった対策が取れるようになるのです。人事課題の解決は人件費の最適な配分や生産性の向上にもつながります。

  3. Q3. 人材ポートフォリオの作成を効率化するには、どんな方法がありますか?

    人事データの蓄積・活用がすでに進んでいる場合は、データを整形するだけでも大まかなポートフォリオが作成できます。まず年齢やスキルで従業員を分類したあと、事業計画に合わせてアップデートしていくのも一つの手です。

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