飲食・観光業の人事が語る「人材定着」につながる人事施策とは
- 公開日
“パーパスを実践する企業の挑戦 人手不足時代を乗り越える” をテーマに2日間にわたり開催されたカンファレンス「SmartHR Agenda #4」。さまざまなゲストをお招きし、「パーパス経営」「DX」についてのセッションを開催しました。
「パーパス経営の理解と実践」をテーマに行なわれたDAY1では、「【飲食×観光業】 人材定着を目指す企業の取り組み 〜人事評価とサーベイの効率的な運用方法〜」と題し、SmartHR導入前〜これまでの変化の過程が自社のエピソードを交えながら語られました。登壇したのは、株式会社FAR EASTの伊井 文さん、ハウステンボス株式会社の内海 彩さんです。
- 登壇者伊井 文 氏
株式会社FAR EAST 人事
店舗スタッフを経て、育児休暇復帰後から人事・労務全般を担当。研修制度や福利厚生の設計などの組織開発も手がけている。
- 登壇者内海 彩 氏
ハウステンボス株式会社 人事研修課 企画チーム 評価・サーベイ担当
神戸市外国語大学卒業。2020年に新卒で入社。学生時代、遊園地でのアルバイト経験を通して働く人にも幸せであってほしいと、従業員の働く環境改善に関心を持つように。パークの販売部門で2年間の勤務を経て人事研修課へ異動し、現在は評価・サーベイを担当。
- ファシリテーター坪谷 邦生氏
株式会社壺中天 代表取締役 壺中人事塾 塾長
1999年、立命館大学理工学部を卒業後、エンジニアとしてIT企業(SIer)に就職。2001年、疲弊した現場をどうにかするため人事部門へ異動、人事担当者、人事マネジャーを経験する。2008年、リクルートマネジメントソリューションズ社で人事コンサルタントとなり50社以上の人事制度を構築、組織開発を支援する。2016年、人材マネジメントの領域に「夜明け」をもたらすために、アカツキ社の「成長とつながり」を担う人事企画室を立ち上げる。2020年、「人事の意志をカタチにする」ことを目的として壺中天を設立し現在。主な著作『図解 人材マネジメント入門』(2020)、『図解 組織開発入門』(2022)、『図解 目標管理入門』(2023)など。
知識ゼロからHR部門を立ち上げ
坪谷さん
今日は"意志ある人事"として、FAR EASTの伊井さん、ハウステンボスの内海さんのお2人からお話をうかがいます。まず伊井さんからお願いできますか?
伊井さん
人の役に立ちたい、人に喜んでもらいたいという想いで入社した方々が、自分の強みを発揮できないまま辞めていく姿はもう見たくない。そんな想いから、2023年の6月から新たに2つの取り組みをはじめました。
1つめは目標管理(OKR)の導入です。これからの時代は、個人と組織がいかに強いつながりを持てるかが重要です。自分が大切にしている価値、自分の強みは何か。組織の使命、存在意義は何で、世の中にどんな価値を提供できるのか。自分の強みを最大化してチームに貢献するにはどうしたらいいのか。こうした問いを起点に従業員と対話し、個人の目標と組織の目標をリンクさせたいと考えました。
2つめは、スタッフの声から生まれた研修の実践です。世界各地の生産者やビジネスパートナーとの交流を通して商品の背景を知る「商品ストーリー研修」や、多様な文化のお客様とのコミュニケーション醸成を目的とした「アラビア語文化講座」はその一例です。
人材不足が深刻化するなかで、企業が目指すべきなのは「個人も組織も幸せになれる未来」です。そのためには自社の強みや存在意義、従業員一人ひとりの強みを理解し、社内外に伝えていかなければなりません。組織のパーパスに共感して集まった人材が、それを個人の夢や目標と重ね合わせて定着する。これこそが人材採用の本来の姿であり、個人も組織も幸せになれるひとつの形だと考えています。
DX推進で業務の中にもエンターテインメントを
坪谷さん
続いて内海さんにお話をうかがいます。観光業界もやはり、コロナ禍で大きなダメージを受けましたね。
内海さん
おっしゃる通りです。それでなくてもテーマパークは繁閑の差が激しく、モチベーションを保つのが難しい側面があります。私たちの仕事は、世の中にとって本当に必要なのだろうか。コロナ禍で、観光業に従事する多くの方がそう考えたでしょう。私たちも同じでした。
そんななか「わたしが本来のわたしらしい状態に戻れ、ああ生きてるって素晴らしい、そう思えるほど理想的な空間」というパーパスが策定されました(2023年10月改定)。旅は人々を日常から解放して心を癒し、本来あるべき姿に戻してくれるものです。そう考えると、この仕事が非常に誇らしく思えました。このパーパスをパート・アルバイトを含めた全従業員に浸透していけば、多くの人たちが納得して働ける組織に近づけるはずだと感じました。
坪谷さん
ゼロからの部門立ち上げは、とても大変だったでしょうね。まず何から着手されたのでしょうか?
伊井さん
最初に着手したのは、SmartHRを導入・運用する労務DXプロジェクトでした。導入の翌月には全社運用をスタートする予定だったので、1か月間という短期間でシステムを構築していきました。
おかげさまで紙ベースのやり取りが激減。導入前には入退社のやり取りだけでも月5日ほどかかっていたものが、導入後には最短1日で完了できるようになりました。工数・時間を80%削減できたほか、情報の一元化によって検索や確認がしやすくなり、個々のスタッフとの情報のやり取りもリアルタイムで簡単にできるようになりました。
坪谷さん
2021年から開始された「働きたい会社」改革についても、詳しく教えてください。
伊井さん
2021年のwithコロナ期からは、さらなる職場環境改善を目指した「働きたい会社」改革を推進しました。この頃afterコロナ期を見据えて新規事業展開を行なっていた弊社は、それに対する人事施策として従業員サーベイに着手しました。
その結果、社員の退職意思の高さや成長実感・自己決定感の感じにくさという課題が浮き彫りになりました。こうした課題の解決をはかって人事制度や福利厚生制度、キャリアパスの見直し、残業ゼロ運動の開始、心理的安全性、関係性の質を高めるような対話の場づくりなどの施策を行ないました。
坪谷さん
飲食業界はまだまだ厳しい状況のなか、積極的に人事施策を展開していたのですね。施策の結果、どのような変化がありましたか?
伊井さん
私たちの意欲とは裏腹に、成果は思うように上がりませんでした。有名なメソッドを取り入れて実践したものの、最も重要な社員の意思が伴っていなかったからです。離職率は40%に到達し、店長クラスの社員がつぎつぎに退職。入社間もない社員のうち2人に1人が1年以内に退職してしまうという異常事態でした。
ただでさえ、飲食業界は空前の人手不足です。外食やインバウンドの需要が回復しても、人がいなくては対応できません。採用難易度は日に日に高まり、もう後がない崖っぷち状態に陥りました。
「個人と組織、両方が幸せになる未来」を目指す人事戦略
坪谷さん
ピンチを脱するために、2023年からはまた新しい取り組みを開始されたと聞きました。
伊井さん
人の役に立ちたい、人に喜んでもらいたいという想いで入社した方々が、自分の強みを発揮できないまま辞めていく姿はもう見たくない。そんな想いから、2023年の6月から新たに2つの取り組みをはじめました。
1つめは目標管理(OKR)の導入です。これからの時代は、個人と組織がいかに強いつながりを持てるかが重要です。自分が大切にしている価値、自分の強みは何か。組織の使命、存在意義は何で、世の中にどんな価値を提供できるのか。自分の強みを最大化してチームに貢献するにはどうしたらいいのか。こうした問いを起点に従業員と対話し、個人の目標と組織の目標をリンクさせたいと考えました。
2つめは、スタッフの声から生まれた研修の実践です。世界各地の生産者やビジネスパートナーとの交流を通して商品の背景を知る「商品ストーリー研修」や、多様な文化のお客様とのコミュニケーション醸成を目的とした「アラビア語文化講座」はその一例です。
人材不足が深刻化するなかで、企業が目指すべきなのは「個人も組織も幸せになれる未来」です。そのためには自社の強みや存在意義、従業員一人ひとりの強みを理解し、社内外に伝えていかなければなりません。組織のパーパスに共感して集まった人材が、それを個人の夢や目標と重ね合わせて定着する。これこそが人材採用の本来の姿であり、個人も組織も幸せになれるひとつの形だと考えています。
DX推進で業務の中にもエンターテインメントを
坪谷さん
続いて内海さんにお話をうかがいます。観光業界もやはり、コロナ禍で大きなダメージを受けましたね。
内海さん
おっしゃる通りです。それでなくてもテーマパークは繁閑の差が激しく、モチベーションを保つのが難しい側面があります。私たちの仕事は、世の中にとって本当に必要なのだろうか。コロナ禍で、観光業に従事する多くの方がそう考えたでしょう。私たちも同じでした。
そんななか「わたしが本来のわたしらしい状態に戻れ、ああ生きてるって素晴らしい、そう思えるほど理想的な空間」というパーパスが策定されました(2023年10月改定)。旅は人々を日常から解放して心を癒し、本来あるべき姿に戻してくれるものです。そう考えると、この仕事が非常に誇らしく思えました。このパーパスをパート・アルバイトを含めた全従業員に浸透していけば、多くの人たちが納得して働ける組織に近づけるはずだと感じました。
坪谷さん
パーパスの「私」はお客様だけでなく、スタッフも指しているとお聞きしました。
内海さん
そうなんです。ホテルのサービススタッフ、プロの調理人、船やバスのドライバー、音響照明スタッフ……ハウステンボスにはさまざまな職業のホストクルー(スタッフ)が在籍しています。ゲスト(お客さま)にすばらしいエンターテインメントをお届けするためには、ホストクルー自身が幸せでなければなりません。同時に、業務の中でエンターテインメントを感じられる環境が必要だと考えました。
ホストクルー自身が幸せを感じるためには、働きやすい職場環境の整備も大切だと考えています。そこで、処遇の改善を積極的に進める一方で、DX推進の一環としてSmartHRを導入。労務管理機能と人事評価機能を活用し、パート・アルバイトを中心とした評価制度の見直しにも着手しました。
坪谷さん
人事DX推進の背景には、どのような課題があったのでしょうか?
内海さん
ハウステンボスのパート・アルバイト評価制度には評価項目が少なく固定的だという課題がありました。SmartHRを導入してからは、職種やグレードごとに評価シートを変えられるようになり、多様な職種・業務内容への対応が可能になりました。さらに本人評価やそれに対するフィードバックのフローを追加するなど、評価者・被評価者双方の納得感を向上させる取り組みも行なっています。人事データと労務データが一元化されているので、運用の負担がかなり軽減されました。
今後もゲストとホストクルーの双方がエンターテインメントを感じられる場所を目指して、人事改革を進めていきたいと考えています。
坪谷さん
人事とは「人を生かして事をなす」ことです。お話をうかがうなかで、人事担当者であるお二人ご自身が生き生きとしておられるのを感じました。周りの人を生かすには、自分を生かさなければなりません。皆さんも、まずは自分自身を生かすところから始めてみてはいかがでしょうか。