人事制度の設計が、企業拡大の鍵を握る。最短整備ロードマップ
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社員が増えてくると、会社の規模や実態に適した人事制度の整備や見直しが必要となります。そこで、この記事では人事制度設計の方法や進め方、各ステップのポイントを解説。人事制度を通じて業績や社員満足度の向上につなげたいという経営者や人事担当者はぜひ参考にしてください。
人事制度の設計・運用ロードマップ
まずは、人事制度設計の全体像を押さえましょう。
上の図は、人事制度の設計手順をまとめたロードマップです。事前準備から運用まで、手順は大きく9ステップにわけられます。
人事制度設計は作業量が多く、時間もかかります。かといって、調査から実際の運用までの期間が長すぎると、状況が変わって実態に合わない人事制度となったり、ほかの業務に支障が発生したりする恐れもあります。
そのため、調査データの管理や評価シートの作成といった細かな作業は専用ツールを使うなど、可能なところは業務負担をなるべく減らし、効率よく作業を進めていくことが大切です。
人事制度は3つの柱でできている
人事制度は以下の3つから成り立っています。
等級制度とは、能力や職務、役割に応じて社員の格付けを行い、役職や処遇を決めるための制度です。
評価制度は社員を評価するための制度。評価基準や方法、評価者などを明確にする役割があります。
報酬制度は給与や賞与などに関する制度です。
なお、人事制度は給与や役職がどのように決まるかを定めた社内ルールの1つであり、就業規則にその内容が落とし込まれているケースが一般的です。また、人事制度は人事評価制度と呼ばれることもあります。
人事評価については、下記記事にてより詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
人事制度設計のステップとポイント
前述の通り、人事制度設計は大きく9ステップにわかれます。
また、人事制度の設計に取りかかる前に一度、社員へ制度の新設や整備の計画があることを周知をしておくといいでしょう。
現行制度について不安や疑問、要望についてヒアリングの協力を得やすくなるほか、社員側も、新制度を受け入れる心の準備ができます。
社員への周知が済んだら、さっそく人事制度設計を行っていきましょう。
1.【土台づくり】会社において最も大切にしたい理念や目標を明確にする
人事制度は会社が目標に向かうための指針となる制度です。社内でどのような人を評価し、昇給させていくかを決める基準となるのが、組織の掲げる目標や理念なのです。
そのため、まずは会社として何を大事にしたいのかを明確にします。
「この会社で実現したいことは何か?」「どんな価値観を持った人と働きたいか」「社員が会社を語るとき、どう話してもらえたらうれしいか」などを一つひとつ、丁寧に言語化していきましょう。
「経営理念」や「ミッションステートメント」をどのような思いで決めたのか再確認するのも1つの手です。
2.【現状分析】社内の課題を洗い出す
会社で最も大切にしたいことが決まったら、次に社内の課題を洗い出します。
人事制度の整備を行うことになった背景や、人事制度で解決したい課題が整理されれば、制度に欠かせない要素も自然とみえてくるはずです。
たとえば、人を増やそうと考えたときに、何が障害となるでしょうか。1つは、昇給ルールや評価制度が曖昧で、外部から安心して働ける会社と認識されにくい点があげられるでしょう。
調査では社員へのヒアリングも重要です。公平な制度作りには現場からの視点も欠かせません。具体的には「会社の現状をどう思うか」など、個別インタビューを行います。
また、自社の決算書や賃金台帳から課題点を整理する方法も有効です。決算書を同業他社と比較するのも1つの手。他社と比べて「売上は伸びているか」「生産性は高く維持できているか」「人件費の比率は適正か」などを確認するといいでしょう。
3.【設計(1)】等級制度をつくる
人事制度設計では「等級制度」→「評価制度」→「報酬制度」と固めていくのが基本となります。まずは骨幹となる等級を決め、次に等級に応じた評価項目を策定、最後に等級や評価を組み入れた報酬制度を整備していきます。
前述の通り、等級制度は能力や職務、役割に応じて社員の格付けを行い、役職や処遇を決める役割をもちます。
なお、課長や部長などの役職も社員の格付けを行うものです。等級と役職は相関関係にあることが一般的です。
等級制度は以降の評価制度、報酬制度にも大きく関わるポイント。しっかりとつくっておけば、後々の作業もスムーズに運べるでしょう。
4.【設計(2)】評価制度をつくる
等級制度を設計したら、次は評価制度の策定に取りかかります。
評価制度の設計では『1.【土台づくり】会社において最も大切にしたいことを明確にする』で決めた内容や等級制度をもとに、「どんな人が」「どんな行動・結果」を出したら評価するのか、基準を定めていきます。
なお、従来の人事評価では次のような手法が一般的でした。
- 業績評価:売上や成約件数など、業務であげた実績を評価対象とする手法
- 能力評価:業務で発揮したリーダーシップなど、個人の能力を評価対象とする手法
- 情意評価:業務に対する積極性や熱意など、個人の勤務姿勢や態度を評価対象とする手法
しかし、これらは評価者によって評価がばらつくといったデメリットもあり、近年では新たに次のような手法が注目を集めています。
- コンピテンシー評価:管理職であればストレス管理やタイムマネジメント、営業職であれば対人交渉能力など、職務ごとに定義された行動特性を評価対象とする手法
- 360度評価:1人の社員に対して、さまざまな立場、役職の人間が評価を行う手法
- 目標管理制度(MBO):社員やチームそれぞれが事前に目標を定め、その達成度に応じて評価を行う手法
- ノーレイティング:社員の格付けを行わず、リアルタイムの目標設定とフィードバックを繰り返して個人を評価する手法
人事評価にはさまざまな手法があるので、社風や業務内容に合わせて組みあわせながら選ぶといいでしょう。
また、評価は一定のサイクルで行うのが一般的です。評価項目とともに、年間スケジュールも事前に決めておきましょう。
評価期間 | 上半期 | 下半期 |
評価対象期間 | 4〜9月 | 10〜3月 |
評価実施時期 | 10月 | 4月 |
評価フィードバック | 11月 | 5月 |
ここまで説明してきたように、評価業務は煩雑になりやすく、経営者や評価担当者の負担が増える恐れもあります。
評価をスムーズに実施するためにも、SmartHRなど、人事評価をサポートするサービス導入の検討もおすすめです。
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5.【設計(3)】報酬制度をつくる
等級制度、評価制度が定まったら、報酬制度をつくります。
社員数が少ない、あるいは社員全員が営業職で給与基準が一律でよいうちは、報酬制度が曖昧でも問題なかった場合が多いです。
しかし、会社の規模が拡大するとさまざまな職種が集まってきます。特定の立場の社員が不利にならないような、平等な報酬制度の作成が人事制度設計の肝といえるでしょう。
たとえば、報酬制度には以下のようなものがあります。
報酬制度では『1.【土台づくり】会社において最も大切にしたいことを明確にする』で決めた内容を反映することがポイント。社員が目標達成に向けて自発的に取り組むような、基本給や諸手当、賞与、退職金の仕組みをつくることが大切です。
6.【最終チェック(1)】法律上の問題がないか確認してもらう
人事制度がある程度設計できたら、運用を開始する前に必ず弁護士や社会保険労務士に相談して、法律上の問題がないかチェックしてもらいましょう。
とくに、給与の引き下げや手当の廃止があった場合は「不利益変更」として労働基準法に抵触する恐れがあります。
不利益変更とは、会社が一方的な判断で社員にとって不利益になる労働条件の変更を指します。訴訟などの大きなトラブルに発展するケースもあるため、制度変更の際は事前に同意書をとる、給与が下がってしまった社員に対しては調整手当をつけて補てんするといったフォローも検討しておいたほうが無難です。
7.【最終チェック(2)】運用シミュレーションで不備がないかチェックする
運用シミュレーションでは、現行制度から新制度へ問題なく移行できるか、移行後の人件費はどうなるかなどを確認します。
一般的に、制度変更後は人件費が増加する傾向にあります。非の打ち所がない人事設計だったとしても、人件費が急増するようであれば経営の負担になりかねません。人件費の増加が許容可能な範囲に収まるかどうか、社員一人ひとりの賃金の変化をシミュレーションし、必ずチェックしておきましょう。
また、賃金が下がる社員には前述の通り、フォローが必要になる場合があります。調整手当の金額などもこの段階で検討しておきたいところです。
8.【周知】社員向けの説明会を開く
制度設計を行う前の周知の必要性については前述の通りですが、制度完成後も必ず社員に向けて説明の機会を設けます。
全体に周知する際は、土台づくりの内容から説明をはじめるのが効果的です。会社が何を目標とし、どのような人材を求め、制度変更に至ったのか。理由から説明することで、社員の納得も得やすくなるでしょう。
また、人事制度は社員全員がいつでも参照できるようにしておきましょう。
ハンドブックを作成して配布するほか、クラウド上など、オンラインでいつでも閲覧できる場所に保管しておくのも方法の1つです。
9.【運用】新制度の不備や課題を、運用しながら定期的に見直す
人事制度設計は運用して終わりではありません。運用後も定期的な見直しと修正が必要です。
新制度を実際に運用をしてみると、シミュレーションでは見つからなかった不備や社員の不満が出てくる場合があります。
評価サイクルごとなどで定期的に制度の見直しを行い、徐々によりよい形にしていくことが何よりも大切といえます。
運用開始後はこんな問題に注意
新しい人事制度を運用した直後には、おもに以下のような問題が発生しがちです。
(1)評価担当者によって評価にばらつきが生じる
(2)目標設定が適切に行えない
(3)制度自体に対する不満が出る
(4)評価業務の負担が他業務を圧迫する
それぞれどのように解決すればいいのでしょうか? 詳しくみていきましょう。
(1)評価担当者によって評価にばらつきが生じる
詳細な評価基準を設けていたとしても、担当者によって評価にばらつきが生じる可能性もあります。とくに、主観的な判断が入ってしまうと平等な評価を行うことはできません。評価を公平にするためにも研修などを実施し、評価基準の統一を図ることが重要です。
(2)目標設定が適切に行えない
目標管理制度(MBO)などの評価手法では社員が自ら目標を設定しますが、人によっては難しすぎる、あるいは簡単すぎる目標を決めてしまう恐れがあります。
慣れていないうちはやはり、個人で適切なハードルの目標を設定するのは難しいものです。最初のうちは上司との個別面談で一緒に擦り合わせていくなど、フォローできる体制を用意しておくといいでしょう。
目標設定については、下記記事にてより詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
(3)制度自体に対する不満が出る
新しい人事制度について社員から不満が出る場合もあります。
要因としては「評価結果に納得がいかない」「制度がわかりづらい」などがあげられます。とくに評価基準が曖昧だと社員のやる気が失われるだけでなく、会社自体に不信感を持ってしまうリスクも。
制度の不満を解消するには、まず評価結果のばらつきをなくすことが最優先です。また、制度設計の背景もしっかり伝えることで、理解を得られる場合もあります。
そのほか、なぜそのような評価になったのか、上司からのフィードバックの質や頻度をあげることも、評価に対する納得感につながります。
フィードバックについては、下記記事にてより詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
(4)評価業務の負担が他業務を圧迫する
評価はする側もされる側もストレスを感じやすいものです。また、人数が増えるほど面談や評価シートへの記入、回収や集計に時間がかかり、他の業務に支障をきたす可能性もあります。
個人の負担を減らし、業務を効率化するためにも削れる作業は削りたいところ。例えば、評価シートの回収や集計といった単純作業は、ツールを利用することで大幅に作業時間を減らせるでしょう。
SmartHRでも人事評価をサポートするツールを提供していますので、ぜひ参考にしてみてください。
さらに深く人事制度設計を学びたい方はこちら
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人事制度設計はプロに相談するのも最適解の1つ
人事制度設計に行き詰まったら、外部コンサルタントは社会保険労務士といった専門家に依頼するのも1つの手です。
多くの実績をもつ専門のコンサルタントであれば、他社事例なども踏まえた客観的なアドバイスが期待できます。また、プロのノウハウを参考にすることで、自社人事担当者の成長にもつながるでしょう。
また、社会保険労務士は労働関連の法律や社会保険制度の専門家です。制度変更に伴う法的リスクなどにもしっかりとした対応が望めます。普段から付き合いのある社会保険労務士であれば、気軽に相談できるというメリットもあります。
人事制度に関する業務は効率化がカギ
ここまで、人事制度設計のステップや課題などを紹介してきました。
評価項目の設定やシミュレーション、運用後の定期的な見直しや評価担当者の教育など、評価業務は実務面の負荷が重くなりがちです。
SmartHRでは人事制度に関する業務負担を減らしつつ、評価の透明性を高めるツールを提供しています。もし制度設計や運用が心配な方は、ぜひチェックしてみてください。
また、社員が増えてくると勤務時間の管理や給与計算、保険の手続きといった人事労務の手間も増加します。人事制度について考えるこのタイミングだからこそ、人事労務の課題を解消できるツールも合わせて検討してみてはいかがでしょうか?
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FAQ
Q1. 人事制度の設計は、何からはじめる?
A.まずは会社として最も大切にしたい理念や目標を明確にしましょう。人事制度は会社が目標達成に向けて、どんな人材を求めるかを共有するための制度。以降の作業をスムーズに進めるためにも、しっかり定義することが大切です。
Q2. 人事制度をつくるには、どのくらいの期間が必要?
A.9ヵ月から1年間が1つの目安となります。丁寧にじっくり作り込むことも大切ですが、あまり時間をかけすぎると現状に合わない制度となる恐れもあるため、なるべく効率的に進めることがポイントです。
Q3. 人事制度の3本の柱とは?
A.「等級制度」「評価制度」「報酬制度」が人事制度における柱となります。とくに等級制度は評価や報酬の基準となる、人事制度の骨格。実際の設計でも等級制度→評価制度→報酬制度の順番で行うのが基本となります。