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コンセプチュアルスキルとは?15の要素とスキルを高める方法を解説

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目次

ビジネス環境が目まぐるしく変化する現代において、物事の本質を理解し、適切な判断を下す能力が重要になっています。そのようななかで注目を集めているのが、コンセプチュアルスキルです。本稿では、コンセプチュアルスキルの基本的な考え方から、構成要素、高め方まで詳しく解説します。

コンセプチュアルスキルとは

コンセプチュアルスキルとは、組織全体を広い視野で捉えて本質を見抜く能力です。日本語では「概念化能力」と訳されます。コンセプチュアルスキルをもつ人は、複雑な問題を理解し、新たなアイデアを生み出し、戦略的に判断できます。

カッツモデルにおけるコンセプチュアルスキル

コンセプチュアルスキルは、ハーバード大学のロバート・L・カッツ氏が1955年に発表した「スキル・アプローチによる優秀な管理者への道」で提唱されました。カッツ氏は、優れた管理者に必要な能力を「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」の3つに分類し、これは後に「カッツモデル」として広く知られるようになりました。

このモデルでは、組織における役職を3つの層(トップマネジメント層・ミドルマネジメント層・ロワーマネジメント層)に分類し、各層に必要なスキルを以下の3つに定義しています。

  • コンセプチュアルスキル:組織全体を広い視野で捉えて、本質を見抜く能力
  • ヒューマンスキル:部下や同僚との効果的なコミュニケーションを通じて、信頼関係を構築し、チームを効果的に機能させる能力
  • テクニカルスキル:専門的な知識や技術を活用して業務を遂行する能力

カッツモデルでは、職位が上がるほどコンセプチュアルスキルの重要性が増すとされています。

カッツモデルでは組織における役職を、トップマネジメント層・ミドルマネジメント層・ロワーマネジメント層の3つに分類し、各層に必要なスキルを定義していることを表す画像

組織の全階層で必要とされるコンセプチュアルスキル

現代社会はVUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)の時代といわれ、先行きが不透明で予測が困難な状態です。

このような環境下では、過去の成功体験や既存のビジネスモデルが通用しなくなるケースが増えています。上司からの指示を受けて動く「トップダウン方式」では、変化のスピードに追いつけず、ビジネスチャンスを逃す可能性が高まります。

そこで重要となるのがコンセプチュアルスキルです。このスキルが高い人材には、以下のような強みがあります。

  • 複雑な状況を整理し、本質的な課題を特定できる
  • 既存の枠組みにとらわれない新しい解決策を考案できる
  • 組織全体への影響を考慮した戦略的な判断をくだせる

たとえば、新規事業の立ち上げにおいては、市場環境の分析から事業モデルの構築、リスク評価まで、包括的な視点をもった意思決定ができます。これにより、企業は柔軟かつスピーディな対応が可能となります。

企業がVUCA時代を生き抜くには、組織の各層においてコンセプチュアルスキルが高い人材が不可欠です。

コンセプチュアルスキルを構成する15の要素

コンセプチュアルスキルを構成する要素は幅広く、従業員の階層によって必要な要素は変化します。以下、15の要素を3つの領域に分類して解説します。

コンセプチュアルスキルを構成する15の要素は思考力、状況理解力、イノベーション創出力の3つに分類されることを表す画像

1. 思考力

コンセプチュアルスキルの土台となる思考法です。

(1)論理的思考(ロジカルシンキング)

物事を体系的に整理して筋道を立て、矛盾なく考える思考法です。それぞれの因果関係や論理関係を適切に把握しながら、結論に向けて論理的な思考を重ねます。

(2)水平思考(ラテラルシンキング)

既成の論理や概念にとらわれずに、視点を変えて自由にアイデアを生み出す思考法です。ロジカルシンキングと相互補完の関係にあります。

(3)批判的思考(クリティカルシンキング)

自分の考えや意見に客観性をもたせ、感情や主観に流されずに物事を判断する思考プロセスです。「本当に正しいのか」といった批判的な視点から建設的な結論に導きます。

(4)戦略的思考

幅広い要因や条件などの分析を通じて、戦略的で合理的な思考を展開する能力です。高い戦略的思考力があれば、日常業務やマネジメントのなかで発生するさまざまな問題にも画期的な解決策を見出せます。

(5)直感力

論理的思考だけでは得られない洞察を瞬時に得る能力です。経験や知識にもとづいて、一見関連性のない事柄からパターンや関連性を見出し、新しいアイデアを生み出します。

2. 状況理解力

問題や課題を正確に把握し、本質を理解するための能力群です。

(6)多面的視野

物事をさまざまな角度から捉える能力です。多様な意見を取り入れ、幅広い視野で変化する環境にも適応できます。

(7)俯瞰力

物事を俯瞰的に捉え、全体像を理解する能力です。個々の要素だけでなく、全体像を把握し、関連性や因果関係を理解することが重要です。

(8)洞察力

物事の本質を見抜く能力です。複雑な問題に直面した際に、隠れた要因や将来の可能性を予測できます。

(9)先見性

業界動向や技術進歩、社会情勢などを注意深く観察したうえで将来を予測し、適切な戦略を立てる能力です。

(10)応用力

これまでに習得した知識やスキルを新しい局面で活用し、解決に役立てる能力です。

3. イノベーション創出力

新しい価値を生み出すために必要な能力群です。

(11)知的好奇心

未知のものに興味をもち、深く理解しようとする能力です。変化に適応し、イノベーションを生み出すための原動力となります。

(12)探究心

物事の本質を探ろうとする能力です。「なぜこうなったのか」など追求することで、新しい知識や洞察が得られます。

(13)受容性

他者の意見や状況を柔軟に受け入れる能力です。組織内の多様性を尊重し、異なる価値観を取り入れることで、イノベーションを促進します。

(14)柔軟性

変化する状況や予期せぬ問題に適応する能力です。これまでの概念にとらわれずに効果的な方法を選択できます。

(15)チャレンジ精神

困難な課題や新しい状況に対して、恐れずに立ち向かう能力です。失敗を恐れず、困難な状況をポジティブに捉え、創造的な解決策を見出す姿勢です。

これらの15要素は相互に関連し合い、補完し合う関係にあります。また、職位や役割によって求められる比重は異なりますが、いずれの要素も高度なコンセプチュアルスキルの発揮には欠かせません。

コンセプチュアルスキルが高い人の特徴と行動パターン例

コンセプチュアルスキルは複数の要素で構成される総合的な能力のため、単純な数値化は困難です。しかし、以下の5つの主要な特徴と具体的な行動パターンによって、スキルの高さを把握できます。

コンセプチュアルスキルが高い人の5つの特徴について表す画像

(1)説明がわかりやすい

複雑な事象から本質的な要素を抽出し、他者にわかりやすく説明できます。たとえば、経営戦略を現場メンバーに説明する際、抽象的な概念を具体例に置き換えたり、相手の理解度に応じて説明の粒度を調整したりすることができます。複雑な業務プロセスを図式化して提示することも得意です。

(2)問題を本質的に解決できる

表面的な事象に惑わされることなく、問題の根本原因を特定し、解決に導くことができます。短期的な対症療法と長期的な解決策を適切に使い分け、複数の解決案を比較検討しながら最適な方法を選択します。

(3)発想力ゆたか

既存の枠組みにとらわれない柔軟な思考ができ、異なる分野のアイデアを応用できます。単なる思いつきで終わらせることなく、アイデアを実現可能な形に具体化する力も持ちあわせています。他業界の成功事例を自社に応用したり、新しいビジネスモデルを提案したりする際に、この特徴が顕著に表れます。

(4)業務効率が高い

業務の目的と全体像を常に意識しながら、効率的に業務を進められます。目の前のタスクを淡々とこなすのではなく、仕事の目的や自分の役割を考え、継続的な業務改善を実践します。定型業務の自動化提案やチーム全体の業務フローの最適化など、組織全体のパフォーマンス向上にも貢献します。

(5)良好な人間関係を構築できる

相手の立場や考えを深く理解し、建設的な対話を導くことができます。多様な価値観を受け入れ、部門間の利害調整や、異なるスキルや知見をもつメンバーとの協働を効果的に進めます。とくに部下との関係では、信頼関係を深めてチームの結束力を高めることにも長けています。

※上記は一例です

コンセプチュアルスキルの向上がもたらす3つの組織的効果

(1)イノベーション創出力強化

既成概念にとらわれず、多角的に考え、周囲の新しいアイデアを柔軟に受け入れることで、従来の枠組みを超えた新しい価値創造が可能になります。たとえば製造業において、経営層が新たな市場機会を発見し、管理職が生産プロセスの革新的な改善を実現し、現場がより効率的な作業方法を考案するといった各層での創造的な取り組みが促進されます。連鎖的なイノベーションにより、組織全体の競争力が高まります。

(2)生産性向上

コンセプチュアルスキルの向上は、業務プロセス最適化につながります。具体的には、経営層による事業ポートフォリオの見直し、管理職による部門横断的なプロジェクト推進、実務層による業務プロセスの改善といった取り組みがより効果的に実施されるようになります。

(3)環境変化への適応力強化

組織全体のコンセプチュアルスキル向上により、変化への対応力が高まります。市場を観測したうえで自社が直面している現状を客観的に捉えて分析することで、課題を適切に抽出できます。これにより流動的かつ適切な対処をとれます。

コンセプチュアルスキルを高める個人トレーニング

コンセプチュアルスキルは、意識的なトレーニングにより段階的に向上できます。以下に、日常業務のなかで実践できる4つの基本的なトレーニング法を、習得の順序に沿って解説します。

コンセプチュアルスキルを高める個人トレーニング法4つを表す画像

(1)目的意識の習慣化

まずは、日常から行動の目的を意識する習慣をつけることから始めます。たとえば、週次報告書の作成においては「上司への報告」という表面的な目的だけでなく、「進捗の可視化によるリスクの早期発見」という本質的な目的を意識することで、より効果的な報告が可能になります。

(2)言語化による思考の明確化

次に、考えていることを言葉で明確に表現する練習をします。具体的には「この案件の本質は○○である」「この問題の原因は△△にある」など、事象や課題を自分の言葉で定義します。たとえば「営業成績が低下している」という状況に対して、「新規顧客との接点が不足している状態」と定義し直すことで、解決の方向性が明確になります。

(3) 抽象化と具体化

より高度な練習として、抽象化と具体化を訓練します。

抽象化:個別の事象から共通要素を見出す

  • 複数の成功プロジェクトから成功要因を抽出する
  • 顧客クレームの傾向から本質的な課題を特定する

具体化:概念を実践可能な形に落とし込む

  • 経営理念を各部門の行動指針に落とし込む
  • 中期経営計画を具体的な施策に展開する

(4)クリティカルシンキングの実践

最後に、より深い分析と判断のためのクリティカルシンキングを実践します。

  • データの信頼性を確認する (例:売上増加の要因が一時的なものか、持続的なものかを精査)
  • 複数の視点で検討する (例:新施策の影響を、コスト・品質・顧客満足度など多角的に分析)
  • 前提を疑う (例:「これまでこうやってきた」という思い込みを見直す)

コンセプチュアルスキルを高める企業研修・施策

コンセプチュアルスキルの効果的な育成には、個人の努力にくわえて、体系的な組織的支援も重要です。具体的な施策と実践方法を解説します。

コンセプチュアルスキルを高める企業研修・施策4つを表す画像

(1)体系的な教育プログラム(OFF-JT)

OFF-JT(Off the Job Training)は、通常業務から離れて実施する研修です。外部研修の参加や社内外講師による集合など手法はさまざまで、外部の専門知識の習得や他部門との交流も可能です。

コンセプチュアルスキルの思考法や心構えを実務経験のみで習得するのは容易ではありません。OFF-JTによる体系的な学習の機会により、個人の取り組みを補完できます。

基礎教育のプログラム例

  • 入門レベル:思考法の基礎講座(ロジカルシンキング、クリティカルシンキング)
  • 中級レベル:ケーススタディを用いた問題解決演習
  • 上級レベル:経営シミュレーションやビジネスゲーム

効果的な実施方法

  • 1回あたり4〜8時間の集中講座
  • 週1回の定期的な学習会
  • オンラインとオフラインを適切に組み合わせる

(2)実践的なスキル開発(OJT)

OJT(On the Job Training)は、日常業務のなかで上司や先輩が指導する研修です。OFF-JTで学んだ知識やスキルを実践し、定着させます。コンセプチュアルスキルを指導する難易度は高いため、トレーナーとなる先輩や管理職に育成の方針や具体的な目標を伝えておくことが重要です。

OJT実施のポイント

  • 具体的な行動目標の設定
  • 定期的なフィードバック機会の確保
  • 成功・失敗事例の共有と分析
  • トレーナーへの事前研修実施

(3)評価・配置・採用との連携

評価項目のなかにコンセプチュアルスキルに関連したポイントを設けることで、従業員に企業の考え方が浸透しやすくなります。また、個人のコンセプチュアルスキルを把握し、スキルバランスを考慮して人事配置できれば、組織全体のスキルアップも期待できます。くわえて、コンセプチュアルスキルを採用基準に盛り込むことも効果的です。

(4)効果測定と改善

(1)〜(3)の施策の効果を以下の指標から測定し、継続的に改善します。

短期的な指標:

  • 研修参加者の理解度・満足度
  • 実践スキルの向上度

中長期的な指標:

  • 改善提案の質と量
  • プロジェクト成功率
  • 部門を超えた問題解決件数

コンセプチュアルスキル開発を支援するSmartHRの機能

コンセプチュアルスキル開発で重要なのは、施策を個別に実施するのではなく、相互に連携させながら、継続的に運用することです。また、eラーニングを効果的に活用することで、より効率的な育成が可能になります。

SmartHRの「学習管理機能」では、PDFや動画をアップロードし、オンライン研修(コース)を作成できます。研修や学習履歴を一元管理・可視化し、配置シミュレーションやキャリア台帳、人事評価といったSmartHRのほかの機能と連携させ、効率的なスキルマネジメントを実現できます。

お役立ち資料

3分でわかる!SmartHRの学習管理

  1. Q1. コンセプチュアルスキルとは?

    コンセプチュアルスキルとは、組織全体を広い視野で捉えて本質を見抜く能力です。日本語では「概念化能力」と訳されます。コンセプチュアルスキルをもつ人は、複雑な問題を理解し、新たなアイデアを生み出し、戦略的に判断できます。

  2. Q2. コンセプチュアルスキルは、どのような場面で必要になりますか?

    経営戦略の立案、新規事業開発、組織改革など、複雑な意思決定が求められる場面でとくに役立ちます。また、日常的な業務改善や問題解決においても、本質的な課題を見抜くために必要とされるスキルです。

  3. Q3. コンセプチュアルスキルはどのような要素で構成されますか?

    ロジカルシンキング、水平思考、批判的思考、戦略的思考、多面的視野、俯瞰力、知的好奇心、探究心、受容性、柔軟性、先見性、応用力、直感力、洞察力、チャレンジ精神などの15の要素で構成されています。

  4. Q4. コンセプチュアルスキルの育成は、どの職位から始めるべきですか?

    全階層での育成が理想的ですが、まずは経営層・管理職層から展開するのが効果的です。その後、実務層に展開することで、組織全体のスキル向上が期待できます。

  5. Q5. コンセプチュアルスキルが高い人の特徴は?

    説明がわかりやすい、問題を本質的に解決できる、発想力が豊か、業務効率が高いといった特徴があります。また、良好な人間関係を構築し、常に目的思考で物事を考え、データや根拠をもとに判断する傾向があります。

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