読む、 #ウェンホリ No.48「評価が前提の社会を見つめ直す」
- 公開日
目次
ラジオ書き起こし職人・みやーんZZさんによるPodcast「WEDNESDAY HOLIDAY(ウェンズデイ・ホリデイ)」書き起こしシリーズ。通称「読む、#ウェンホリ」。
今回のゲストは、人事のスペシャリストである株式会社We Are The Peopleの安田雅彦さんです。
働くなかで、企業としても、個人としても、常に求められるのが「成長」。昨日より今日、今日より明日と常に何かしらの形で変化が求められ、その度合いが評価に影響するわけですが…見方を変えれば、評価しなければいけないから成長が求められるともいえるのでは!? ということで、さまざまな企業で人事のコンサルティングをしている安田さんと「成長」と「評価」について考えてみたいと思います。
株式会社We Are The People代表取締役。1967年生まれ。1989年に南山大学卒業後、西友にて人事採用・教育訓練を担当、子会社出向の後に同社を退社し、2001年よりグッチグループジャパン(現・ケリングジャパン)にて人事企画・能力開発・事業部担当人事など人事部門全般を経験。2008年からはジョンソン・エンド・ジョンソンにてSenior HR Business Partnerを務め、組織人事や人事制度改訂・導入、Talent Managementのフレーム運用、M&Aなどをリードした。2013年にアストラゼネカへ転じた後に、2015年5月よりラッシュジャパンにてHead of People(人事統括責任者・人事部長)を務める。2021年7月末日をもって同社を退社し、以後は自ら起業した株式会社 We Are The Peopleでの事業に専念。現在、20数社のHRアドバイザー(人事顧問)を務める。ソーシャル経済メディア「NewsPicks」ではプロピッカーとして活動。
その数字を達成したら、世の中の人からなんて言われたいですか?
堀井
ゲストをご紹介しましょう。株式会社We Are The People代表取締役、安田雅彦さんです。安田さん、初めましてよろしくお願いいたします。
安田
はい、初めまして。よろしくお願いします。We Are The Peopleの安田でございます。
堀井
もう人事のプロフェッショナルということで。さあ、今日はこちらのテーマで今回、皆さんに聞いていただきたいなと思っております。「成長ってなんだろう? 評価が前提の社会を見つめ直す」です。
働くなかで企業としても個人としても常に求められているのが「成長」です。昨日より今日、今日より明日と常に、何かしらの形で変化が求められ、その度合いが評価に影響するわけなんですけれども。見方を変えれば「評価しなければいけないから、成長が求められる」ともいえるのでは……ということで。
成長と評価について、改めて考えていきたいなと思ってるんですが。ズバリ、企業における成長は本当に必要でしょうか? 安田さん、いかがでしょう?
安田
その成長という言葉の定義にもよると思うんですが。最近、「パーパス経営」なんていうものがいわれていて。本当にビジネスの根幹にあるものは、来年の利益何%、売上何%……ある意味、それはもう結果でしかなくて。
本当に大事なことは、我々は何のために存在していて、我々のビジネスが成長してるってことは世の中にどういう変化を起こすのか? 10億の今の売上が20億になったら、世の中の誰がハッピーになるんだ? これが最初にあって。
それを示すインジケーターというんでしょうかね? その結果としての数字がある。「成長」というと「売上、利益」みたいな印象があるんですが。より世の中をよくしていく。世の中に価値を創出していくところにビジネスのドライバーをフォーカスしていく。
堀井
社会への信用だったり、価値から逆算していくというか。
安田
そうですね。本当に繰り返しますけども。数字と利益はあくまで結果なわけですよね。利益にしたって、その価値創出を今後、永遠に続けていくために必要なものとして利益確保があるわけですから。
そもそも、「何のためにビジネスをしてるんだっけ?」っていうところ。僕はよく言うんですけど。「その数字を達成したら、世の中の人からなんて言われたいですか? その数字を達成したら、どういう風景が見えるんですか?」と。
「パーパスみたいなものをあぶり出してほしい」という企業さんの依頼に向けて、ワークショップをやったりしてるんですけど。会社として我々のビジネスが成長する……我々は何のために事業をしていて、「我々の事業はどういう意味があるのか? どのような変化を起こすのか? どういう風に世の中を変えていくのか?」っていう。
そこと、あともう1つは個人ですよね。私のライフにおいて、何を重要視していきたいか? どうなっていきたいのか? ここが一致していると、いいわけですよね。だから「ああ、私もそれに乗った!」と、この状態をどう作るかがこれからの企業に求められることであり、かつ企業と個人の関係であり。
それでこれは「個人も」なんですよ。個人も今、自分が働いてる職場に対して「俺が今やってる仕事ってどういう価値があるんだろう? そしてそれは自分の生き方とどういう接点があるんだろう?」ということを真摯に向き合って考えられるといいなと思いますよね。
社員はどういう状態でハッピーになるのか? 満たされるのか?
堀井
その会社の成長と個人の成長が並走してるのが、すごいバランスとしてもいいなと思うんですけれども……。
安田
まあ、理想的にはそうですね。
堀井
そうですよね(笑)。どうでしょうか? 個人が成長していく20代、30代と、いろいろ成長の仕方があると思うんですけれども。個人として成長してると意識する年代とか……安田さんから見て「みんな、意識が向いてるな」、「ちょっと50代になると落ちてくるな」とか。そういうのは、ありますか?
安田
ありますね。どういうキャリアをたどっているか、どういう曲線を生きているかもあるとは思うんですけど。節目節目で自分の大事にすること、目指したいことと向き合うのはすごく大事だと思いますし。
結構、企業はキャリアカンバセーションというものをやったりしてはいますけども。大事なことは、本人自身がどういう風に自分の将来を考えるか? 僕はそれ、ぼんやりでいいと思うんですね。
あともう1つ、大事なことは今の堀井さんの質問とも巡り巡ってたどり着くんですけども。「欲望は何ですか?」だと思うんですね。「あなた、なんて言われたいのか? どうなりたいのか?」って。それを最近はね、「WILL、WILL、WILL」って……「あなたのWILLは?」「WILL、WILL、うるせえ!」って。「WILLハラ」っていわれることもあるんですけど。
堀井
そうなんだ(笑)。
安田
大事なんですよ。それは本当に、なんというか、ナントカシートに書くような大層なWILLじゃなくて。それはシンプルに他人にどう思われたいか? シンプルにどういう幸せを得たいか? これが最近のウェルビーイングにもつながってくると思うんですけども。
あなたはどういう状態でハッピーになるのか? 満たされるのか? とちょっと向き合ってですね、ぼんやりとでも考えてみるのはしてもいいかなと思うし。これからはそこがすごく大事かな。
で、企業側の立場から言うと、会社側の都合だけで「キャリア、キャリア」って言うんじゃなくて、もっと広い意味で「あなたにとっての幸せって何だろう?」を社員とかに……まあ、そこまで会社が入り込むのか?はあると思うんですけれども。でも、そういう機会を与えていく。それがいつまでも生き生きと働く社員のためには大事かなと思いますけどね。
堀井:その社員の欲望とかWILLがわかれば、マネジメントの方としても導き方、声かけの仕方とか、あるわけですもんね。
安田:それはあると思いますね。職務能力の80%は日頃の仕事で培われるっていわれるんですよね。僕もそうだし、おそらく堀井さんもそうだと思うんですけど。
今まで自分が成長を実感した情景を思い出すと、誰かに何かを言われたとき、あとは日頃の仕事で……「それはナントカ大学院で学んだあの授業です」ってことはあんまりないと思うんです。
まあ、ゼロじゃないです。ゼロじゃないけど、あんまりない。そうすると、いかに今日の、明日の仕事のなかにそういう風にパッとした気づきというか、成長機会を作り出すか? そのためには、会話がすごく大事で。
ファーストラインマネージャーがハッピーであることが大事
堀井
会社の成長、それから個人の成長を伺ってきましたけれども。今度はその組織やチームが団体として成長していくために必要なことは、どういうことでしょうか?
安田
そこですごく大事なのはマネジメントというか、中間管理職……まあ「中間管理職」っていう仕事はないんですけどね。
僕は持論があって、組織というのは組織図で最初に部下をもつ人。これ、ファーストラインマネージャーっていうんですね。まさにファーストライン、最前で部下をもつマネージャーの人がハッピーであること。ここが大事です。
ハッピーかつ、遵法、コンプライアントに、そして適切にマネジメントをしている。そうすると、人と組織の問題はほとんど起きないんですね。そこがすごく大事だと思うんです。
で、マネージャーたちが本当に組織に対してシンパシーを得て、エンゲージをしている状態というのをいかに作り出すかが、結果的には単位としてのチームのチーム力のアップとか。で、その人がワークすることは、その組織がどこに向かっているかが当然、明確になっているわけで。ここはすごく大事だなと思いますよね。
堀井
私も企業で社員として働いてましたけど。いろんなマネージャーや管理職の方が上にいて。上の人の頭の中が混乱してるときは、下にいる何十人も混乱するんですよね。
マネジメントを担う人は、常に自分を良い状態にする努力を
安田
あと本当に最近、ウェルビーイングという言葉があるように、中間管理職、マネジメントを担う人は常に自分を良い状態にしておく努力が大事だと思うんですよね。よく、僕らなんか研修でも聞いたんですけども。「飛行機が緊急着陸するときにお母さんはまず、自分がマスクをつけてから子どもにマスクをつけるんだ」っていう。それは、自分が良い状態であるからこそマネジメントができるわけなので。常に自分をいろんな意味で……メンタルもフィジカルも良い状態に保つのが、これからのチームを率いる人の必須項目の1つかなと思いますよね。
堀井
これ、すごくいいことを伺いました。それは意識としてあんまりなかったですね。「部下のため」、「ここをちょっとカバーしよう」、そういう気持ちの方が多くて。「自分を立て直そう」とか「自分がいい感じでいよう」っていう意識は、自分も管理職のときはなかったかもしれないです。
安田
そうですよね。常にマネージャーがハツラツとしている。ハッピーでいること。で、もちろんある程度ね、説得力と共感をもつマネジメントをした結果、「私も管理職になりたい」って。あと、ちょっと急に実務的な話になりますけども。「管理職になりたい」人が少ない組織は、あんまりいい状態ではないですね。
堀井
へー!
安田
ある程度いい状態……この「いい状態」は、エンゲージしている。きちんとある程度、成長も安定的に続けている組織。やるべきことができている組織は、ある程度みんながマネージャーを目指したい。「私もああいう風になりたい」となってることが多いですね。これはもう、絶対そうです。
堀井
マネージャーが成果を出してるというか、会社をいい方向に導いてるのが目に見てわかるような状態だと、みんなもなりたがりますもんね。それはね。
安田
なのでさっきの話に戻ると、ファーストラインマネージャーを元気にしていくのは結局、一番部下をもっているのはファーストラインマネージャーですよ。当たり前ですよね? ファーストラインマネージャーの人にバーッて7〜8人部下がついているので。で、この人たちがキラキラしていたら、一番大多数である一般社員はそのキラキラに向かって動き出すので。
堀井
その話をなんか、はい。知りたかったです(笑)。上司にも言いたかったですね。私もファーストラインマネージャーだったので。
安田
そこ、大事ですね。
フィードバックを受け入れてもらうためには、日頃の会話が重要
堀井
わかります。あと、どうしても日本の企業だとフィードバックでマイナス面を伝えるのが苦手かなとも思うんですが。その部下の仕事に対するフィードバックについて、伺っていきたいんですけれども。どうですか?
安田
フィードバックはすごく大事ですね。今、人的資本経営、戦略人事など、小難しいことを言ってますけど。その人が気づいて成長していくことのきっかけはフィードバックだと思いますし。話題にも出る評価制度だって、これも広義でいうフィードバックですよね。
期待されてるあなたと実際のあなたのギャップを伝える。これを成長機会とする。そして自信と再確認をもってもらうのが、まさにフィードバックなんですよね。
たぶんグローバルカンパニーで働いたことがある人は1回は聞いたことがあると思うんですけど。「フィードバックはギフト」って言うんですよね。フィードバックはギフトなんだと。それがネガティブフィードバックであっても、ギフトなんだと。この前提がまず大事ですよね。「うちの組織にとってフィードバックはギフトですよ。フィードバックは成長機会ですよ」っていう前提が必要。
さっきの「ネガティブフィードバックをどうするか?」っていう意味で言うとですね。もう1つは、口を開けば仕事の話しかしない関係なのに、いきなりネガティブフィードバックするのは、言う側も言いづらいし、言われる側もまた聞かないですよね。ネガティブフィードバックを受け入れてもらうためには、そもそも日頃の会話が僕はとても大事だと思うんですよね。
ポジティブなフィードバックは、将来にどう影響するかも一緒に伝えるとよい
堀井
ネガティブなフィードバックについて伺ってきたんですけれども。今度はポジティブなことを言った後に、いい方向に導いていくやり方というのは、どういうことがありますか?
安田
ポジティブなフィードバックは、これも結構事前が大事なんですけど。そのポジティブなフィードバックは、それだけでいいわけですよね。
ちょっと話を戻すと、フィードバックには構造があって。「EEC」っていうんですね。「E」は「Example」。具体的な実際例。「先日のあなたの新しい働き方説明会の件、配布資料がとてもわかりやすかったです」と。
で、次の「E」は「Effect」。影響ですよね。「これからもぜひ、ああいう風に素晴らしい資料を作ってください」という「Congratulation」。褒めの「C」とか。あと、これがネガティブだと「Change」の「C」なんですよね。
「事実」とその「影響」、「だから素晴らしかったです」とか「だからこうしてください」っていう構造でフィードバックするのは結構大事なんですけど。そのポジティブな話のことで言うんだったら、結果的にその今回のあなたの素晴らしかったことは、将来のあなたにこういう風に結びついてきますよ、みたいな。
「それぐらいのことができるんだったら、もう企画担当できるよ!」とか。ポジティブフィードバックのときに、その人が将来どうなりたいと思ってるのかが頭に入ってると効果は倍増ですよね。
堀井
そうでしょうね。その人が目標としてない設定をしても、「いや、そっちじゃないんだよな?」っていうことですよね。
評価は「査定」ではない、エンゲージメント向上につなげるもの
堀井
もう1つ、伺いたいんですが。企業におけるその評価制度も皆さん、迷っていらっしゃるところかなと。
安田
評価ってなんか、嫌ですよね。「評価」を英語で言うと「Evaluate、 Evaluatation」なんですけど。元々は来年のお給料を決めるとか、限られた原資で賞与を分け合うっていう。その来年のお給料を決める、賞与の分け分け査定ロジックだったみたいな。
堀井
「分け分け査定ロジック」(笑)。
安田
もうそういうものでもなくて。いろいろ社会も複雑になり、エンゲージメントがすごく大事になってきて。「明日もここで働きたい。だから私はこの会社にいるんだ」っていう、前向きな姿勢がビジネスを前に進めていくことがだんだんわかると、「評価」というよりはどちらかというと……まあ、評価もするんですけど。
どちらかというと、その評価・レビューによってわかった強みや伸びしろを来年、この次のあなたにどう生かしていくか? あなたの将来像にどう近づいていくか?ということをちゃんと伝えていく。これが現代なんですよね。
だから査定ツールとしての、決め決めツールとしての評価制度から育成するための、エンゲージメントを上げるためのデベロップメントツール。
そしてそのシステムからもう1つ、今ちょっと踏み込んで意識されてるなと僕がみているのは、「うちはこういう方向に向かってるから、あなたのこの方向はこうだよね」っていう話になることを考えると、そもそも会社は事業を通じて何を世の中に伝えたいかが、さっきのパーパス。この話に触れざるを得ないんですね。
そうすると結局、この会話で「我々のビジネスの大事なところって、なんだろうね?」とか、「大事にしたい価値観ってなんだろうね?」っていう話になるんで。
堀井
そういうことがわかると、適正化や人事配置、いろんなものがまた変化しますよね?
安田
一番は成長をしなきゃいけない。でも成長の幅は人それぞれで。
少なくとも昨日より今日、今日より明日、より良い日々を、日常を作っていきましょう。我々がビジネスを通じて、その社会の日常に貢献していきましょうと。だから昨日より今日、頑張るんですけど。
なぜか、その結果をお給料や賞与に反映させないといけないので。だから最近、ノーレーティングなんていうのはもしかしたら「あなたの評価はA」「あなたの評価はB」というので自動的に「だから5%だ」「10%だ」みたいなことをあまりオートマティカルにしないで。
本来のその人のやるべきことに対してもっともっと細かく、乱暴な5段階評価にしないで、その頑張り幅に応じてお給料や賞与を反映させるというやり方。それがノーレーティングなのかなと思いますけどね。
堀井
すごくわかりました。なんか、いろんな誤解があったなと思っていて。企業は大前提として「社会のために」。そこから業績を出して、それで結果があるってことだったし。
フィードバックは、「向こうに嫌な思いをさせるんじゃないかな?」みたいに思っていましたが、フィードバックはギフトだったのがすごく今、グッと来ましたし。
安田
「フィードバックはギフトだ」っていうのを、当時、私の上司もいちいち言っていたので、難しいんでしょうね。難しいからこそ、あえて「フィードバックはギフト」っていう冠をつけていて。でも、やればそれはギフト。成長のきっかけとしてのギフトだと僕は思いますけどね。本質的にもね。
堀井
はい。ありがとうございます。次回はそのコミュニケーションについて伺っていきたいなと思います。成長について安田さんと話しておりましたら、あっという間にお時間となりました。
安田
はい。ありがとうございました。
<書き起こし終わり>
文:みやーんZZ
Podcast「WEDNESDAY HOLIDAY」#48の視聴はこちらから
働くの実験室(仮)by SmartHRについて
Podcast「WEDNEDSAY HOLIDAY」を企画している「働くの実験室(仮)」は、これからの人びとの働き方や企業のあり方に焦点をあてた複数の取り組みを束ね、継続的に発信するSmartHRの長期プロジェクトです。
下記ウェブサイトから最新の活動が届くニュースレターにも登録していただけます。