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経営戦略から逆算するタレントマネジメント。第1回「タレント会議」から見えてきたものとは?

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近年、従業員がもつ資質や能力を把握して人事施策に活用することで、企業の長期的な成長を目指す「タレントマネジメント」に注目が集まっています。株式会社SmartHRでは、2024年からタレントマネジメントの考え方にもとづいた人事施策・タレント会議をスタート。プロジェクト実施の背景にあった課題やアプローチの方法、第1回目のタレント会議を終えた今、未来に向けて考えていることについて、担当者の2人にお話を聞きました。

経営幹部とマネジメントラインの育成は、候補の可視化から

SmartHR社で開催したタレント会議とはどういった人事施策なのでしょうか。

六原さん

タレント会議とは、SmartHRにおける「タレント」を可視化するプロジェクトです。今回開催した第1回目のタレント会議では、将来の経営幹部と、マネジメントラインの候補にフォーカスしてプロジェクトを進めました。

六本木さん

まず最初に、現在マネジメントを担っている役職の方々に、将来のマネジメント職候補を選んでもらいます。その後、職歴・評価や、候補者自身が記載したキャリアイメージをそれぞれ携えて、会議を実施。推薦者はその場で、候補者を選んだ理由や将来のキャリア像を話し、参加者はサポート方法などについて質問をしながら、意見を交わします。それによって、後任の育成を進める意識づけをしたり、育成のノウハウを共有したりする狙いがあります。

タレント会議が生まれた経緯や、背景にあった課題について教えてください。

六原さん

SmartHR社では、2021年くらいから2023年にかけて大幅に社員が増えました。しかし、VP(Vice President)やマネージャーを兼務する人がいるなど、マネジメント業務を担当できる人材が育っていないことが課題でした。マネジメント職への任命を推薦する機会自体はあったのですが、候補者が可視化されていなかったため、それぞれの部署が、どんな期待値で、どんな育成をして候補者を推薦してきたのかがわからない状況だったんです。

六本木さん

組織図にも大きな変更があるなかで、企業として成長を続けていくために、当社では新しく全体を俯瞰した中長期的な人事戦略を策定しました。タレント会議という施策は、上流の事業戦略・人事戦略の流れを引き継いで生まれたアイデアでした。

SmartHR社の組織階層では、上位の階層からCxO、VP、ダイレクター、マネージャー、チーフというマネジメント職がありますね。それぞれに対応したタレント会議を開催したのでしょうか。

SmartHRの組織階層とポジション

SmartHRの組織階層は5階層に分かれている

六原さん

「VP・ダイレクター編」と「マネージャー編」の2つに分けて開催しました。VPやダイレクターは広範囲の管掌領域を持つ社内横断的な役職、マネージャーはその下で専門領域を統括する役職のため、求められる人物像が異なります。

今回は1回目のトライアルということもあり、この2つのレイヤーに分けて開催しました。

六本木さん

チーフの選出は、各組織の現場に任せています。もちろん、後任の育成が課題として顕在化している組織には人事として関わりますが、全社共通の関わり方は決めていません。チーフ層については、現場の自由度を保つことが、組織の機動力を高めることにつながると考えています。

「タレント」の定義は、経営戦略から導きだす

お2人はタレント会議にどんな役割で参加しているのでしょうか。

六原さん

タレント会議はVPofHRの宮下がリードしているのですが、人材育成部のマネージャーとして、主に上位役職層(VP/ダイレクター)の企画・運営を担当しています。

六本木さん

私は現場の相談に対応する組織人事部のマネージャーとして、タレント会議のマネージャー編の企画を担い、部内のメンバーとともに施策を進めています。ただ、私一人で企画を進めたわけではなく、組織人事部全員でつくり上げている、という表現が正しいです。

そもそも、SmartHRにおいて「タレント」とはなんでしょうか。

六原さん

当社では「従業員全員が活躍できるタレント候補である」と定義しています。しかし今回は、マネジメント職のサクセッションにフォーカスしました。そのため「数年後にマネジメント職を担えるのは誰か」という観点でタレントを選出してもらいました。

六本木さん

全員がタレント候補であっても、実際には、育成のために使えるコストやリソースは限られています。優先的に育成したい/すべき人材は誰なのか、という基準で選ぶように周知しました。

どのような基準だったのでしょうか?

六本木さん

全体の人事戦略をつくる際に、SmartHRで活躍している人の傾向をまとめた3つのポイントがあったため、タレント会議でも基準にしています。

六原さん

基準は「(1)人を動かせる人」「(2)変革を起こせる人」「(3)後任をつくれる人」ですね。VP・ダイレクター編では、候補者を選出したのちに、推薦者にこの3ポイントに当てはめた評価を書き出してもらいました。

経営戦略から逆算した人事戦略の策定と実行を推進しているんですね。

上司と上司。上司と部下。キャリアについて話す土壌をつくる

タレント会議プロジェクトはいつスタートしたのでしょうか。

六原さん

2024年の1月頃から動き始めました。まずは候補者の名前やポジション、求める人材像に対しての評価などを記入してもらう「タレントシート」を作成しました。各VPに書き入れてもらい、最終的に初回のVP・ダイレクター編を開催したのが2024年の3月でした。

約3か月で開催したのですね。当日の様子を教えてください。

六本木さん

VP・ダイレクター編は、合計で5時間半に及びました。候補者の優れている点や課題に対し、周りの人が推薦している人と比較できるので、参加したCxO/VPには、たくさんの気づきが得られる時間だったと思います。

六原さん

候補者には事前に、資格や経歴のほか、自身が思い描いているキャリアプランを出してもらいました。その「キャリア情報」を手元におきながら、議論しましたね。

タレント会議・タレント選抜で大事なポイントはなんでしょうか?

六原さん

やはり他者からの期待や要望と、本人の希望、その両軸を保ちながら進めることが大切です。「このポジションに就いてほしい」と、本人の「こうなりたい」は必ずしも一致するものではありません。推薦者からも、候補者に対して、推薦した理由や期待していることを直接伝えてもらうよう促しました。もし今の時点で意向が違ったとしても、タレント会議を起点に擦り合わせる土壌が生まれればと考えたんです。

3月にVP・ダイレクター編を実施した後、マネージャー候補編はいつ開催されたのでしょうか。

六原さん

2024年5月です。そのため、マネージャー編では、VP・ダイレクター編を受けて運営方法をアップデートできました。たとえばVP・ダイレクター編では、空欄に候補者を書き込んでもらう形でしたが、マネージャー編では社員のリストを渡して候補者をチェックしてもらう形にしました。素質のある人はたくさんいるはずなので、選択肢を広くもってもらいたかったんです。

六本木さん

マネージャー編ではキャリア情報を集めませんでした。マネージャーに推薦されているからといって、就任が確約されているわけではないので、期待値のコントロールが難しくなってしまう懸念があったためです。そのような調整をいくつもしながら臨みましたね。

タレント会議は、他の施策と連動して力を発揮する

第1回目のタレント会議を振り返っていかがでしたか。

六原さん

VP一人ひとりに、後任を育成しようという意識づけができたのが大きな意義ですね。タレント候補を可視化し、本人にもその意向を伝えると、自然に育成へと意識が向きます。以前のような「後任は誰にしよう」という段階から「この人を育成するんだ」という段階へ、一歩前進したと感じています。

六本木さん

マネージャー編でも、それぞれのマネージャーが育成について考えるきっかけになりました。今後も定期的な開催が大切だと思います。会社の規模が大きくなると、マネージャーも増えます。新しいマネージャーがタレント会議を経て他のマネージャーと会話をすることで、マネジメントに関する視座が上がる効果も期待できますね。

六原さん

ただ、キャリア情報の収集や、VP・ダイレクター・マネージャーのタレントシート入力の負担、情報の可視化の難しさなど、改善点も見えてきました。

次回以降に向けて、どのような取り組みを考えていますか。

六原さん

タレント会議には、「タレントの可視化」と「その後の育成」という2つの役割があると考えています。今回は可視化を実現できました。タレントに選ばれた人の研修・育成プログラムへのつなぎこみも始まりましたが、今後長い目で見ると、もっと個々人に合わせた育成を実現したいと考えています。

六本木さん

マネージャー編では、候補者それぞれに対して具体的な育成方針も検討され、「こんな経験を積んでもらえればよいのではないか」という話が出ることもありました。ただ、まだまだそういった事例が多いとはいえない状況です。一律の研修ではなく、適切なプロジェクトへのアサインなど、具体的な育成アクションへ落とし込む仕組みを整えられたらと考えています。

六原さん

また、育成という出口施策だけでなく、SmarHRでこれから必要になっていくタレントの特定も進めていく必要がありますね。今回は現在の組織図に当てはめてマネジメント職を定義しましたが、今後は、2〜3年後の組織図をイメージしながら、未来を見据えた人材の定義をしていきたいと考えています。

具体的にはどのような取り組みとなるのでしょうか。

六本木さん

次回以降は、たとえば専門的なスキルをもつエキスパート編の開催も視野に入れています。

六原さん

ほかにも、全社として足りていない属性や、経営上のキーポジションの特定も必要です。一例ですが、女性管理職比率の可視化や、マルチプロダクトをつくるという経営戦略にもとづいた、新規事業を創造できる人材の定義など、やるべきことはたくさんあります。

求める人材の特定ができれば、タレント会議で可視化でき、育成だけでなく、配置や採用など次のアクションを起こせます。

人材育成の意識づけが、サステナブルな経営につながる

タレントマネジメント施策を推進するためには何が必要でしょうか?

六原さん

目の前の実務に集中しながらでも、SmartHRの機能を使って手軽にマネジメントに必要な情報がそろっている状態にできれば、タレントマネジメント施策は一気に加速すると思います。

タレントマネジメントのニーズに応える、データや仕組みを用意する必要があるということですね。

六本木さん

はい。そのためにもまずは、全社員のキャリア情報が集まっている状態を目指すべきだと思います。そして育成に対する意識としても、タレント会議の前後のみ考えるのではなく、常に考えている状態にするのが理想です。

六原さん

育成について考えることは、組織の戦略や未来について考えることにつながります。現場の社員が日々、企業の未来を意識すれば、きっとサステナブルな組織がつくられていきます。タレント会議はそのトリガーやチューニングの場になればよいと思っています。

スケールアップ企業・SmartHR社ならではの話もあったかと思いますが、タレント会議の知見は他の企業でも生かせるでしょうか?

六本木さん

はい。開催ペースや集める情報など、ベースは共通していると思います。従業員が1,000人を超える大企業だと、社員一人ひとりの顔が見えなくなってくるため、タレントを可視化したいというニーズが高まる傾向がありますね。

六原さん

企業がお客さまに対してサステナブルに価値を提供し続けるものだと考えると、その価値を生み出す人材を生み出すために、どんな企業にもタレントマネジメント施策は必要だと考えます。ただ、始め方にはさまざまな形があってよいと思いますね。

六本木さん

そうですね。少人数の会社だったとしても、一人ひとり「この人のよいところは?」「伸ばさなければいけないところは?」と話してみる。そういった取り組みが、タレントマネジメント施策の始まりだと思っています。

六原さん

いざ始めるとなったときに、データが集めやすいよう、私たちのプロダクトが貢献できればと考えています。

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