MBO(目標管理制度)とは?メリット・デメリットや運用のポイントをわかりやすく解説
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この記事でわかること
- 似ているOKRとの違いから、MBO(目標管理制度)が何かを解説。
- MBOのメリット・デメリットとは。社員・管理職・企業の目線から多角的に解説。
- MBOはどのように設定するのか。設定方法とともに、MBO種類3型を紹介。
- 導入するのが正解とは限らない。MBOが向いている企業、向いていない企業とは。
- 組織と個人、上司と部下はどう連携するべきか。~MBOの効果的な運用ポイント~
目次
この記事では、目標管理制度(MBO)の概要や運用方法などの基本知識に触れながら、期待できるメリット・デメリットなどを紹介します。従業員のマネジメント方法を見直したい人や、人事評価の仕組みについて調べている人などは、ぜひ参考にしてください。
目標管理制度(MBO[Management by Objectives])とは?
目標管理制度(MBO)とは、従業員一人ひとりが決めた目標の進捗度合いによって人事評価をする、マネジメント方法です。英語では「Management by Objectives」と略され、もともとは経済学者のピーター・ドラッガーが著書『現代の経営』のなかで発表した手法です。日本では1960年代半ばごろに普及が進み、バブル崩壊後に注目を集めるようになりました。
近年、リモートワーク普及により、「従業員の進捗を把握しづらい」「モチベーションの維持が難しい」などの課題を抱える企業は少なくありません。対面のコミュニケーションが減り、従業員一人ひとりの自律性を高めることが求められているなかで、MBOの導入を検討するケースが急増しています。
MBOの特徴は、従業員自らが設定した目標の達成度によって、人事評価されることです。自発的に決めた目標値が評価の指標となり、報酬や昇進などに直結するため、従業員のモチベーション向上が期待できます。
MBOとOKRの違い
MBOと似た言葉にOKRがあります。OKRとは、Objectives and Key Resultsの略であり、日本語では「目標と主要な結果」を意味します。OKRは目標管理手法のひとつであり、国内外を問わずさまざまな大企業に導入されたことで注目を集めているフレームワークです。
目標の見直し頻度の違い
目標を見直す頻度が、MBOとOKRでは異なります。MBOでは半年から1年に1回の頻度で目標を見直すのに対し、OKRは四半期に一度が目安です。これはあくまで目安であり、実際には1週間や1か月に一度の頻度で見直すケースも珍しくありません。
MBOの目標見直し期間が長い理由は、人事評価の側面が強いためです。MBOではノルマをどの程度達成しているかを評価することも多いため、目標見直しの頻度があまりにも多すぎると正確な評価が難しくなってしまいます。一方、OKRは「何を成し遂げたいか」、目標を明確化するためのフレームワークであり、そのときどきの状況にあわせて軌道修正が求められるため、目標見直しの頻度が増えます。
測定方法の違い
OKRの測定方法は、SMARTの法則にもとづく点が特徴です。SMARTとは、
- Specific:具体性
- Measurable:測定可能性
- Achievable:達成可能性
- Relevant:経営目標との関連性
- Time-bound:期限
など英単語の頭文字をとったワードです。OKRでは、これらの指標を用いて、具体的な数値で測定します。
MBOでも、定性的かつ定量的に測定されるケースがほとんどです。ただ、実際には企業によって測定方法が異なり、独自の手法で計測しているケースも少なくありません。
共有範囲の違い
目標の共有範囲にも明確な違いが見られます。まず、OKRでは設定した目標が組織全体に共有される点が特徴です。OKRでは、組織全体の目標に対し、個々の従業員がどれくらい貢献できたかを重視する傾向があるため、設定目標は全社に共有されます。
一方、MBOでは本人と上司のみで情報を共有するのが一般的です。個人の成果を確認し、人事評価にも反映させることが多いため、上司が直接部下の成果をチェックしたほうが合理的です。
目的の違い
OKRの目的は、組織が設定した目標の達成です。業務効率化や生産性の向上などを目的としています。一方、MBOは組織課題の克服に伴う生産性の向上目的や、従業員の適正な評価指標として活用するケースがほとんどです。
双方の大きな違いは、人事評価に活用するか否かです。設定した目標をどの程度達成できているかを評価に活用するMBOに対し、OKRでは人事評価に利用しません。OKRは、あくまで組織全体の方向性を合致させ、総合力で目標をクリアするために設計します。
目標達成期待基準の違い
OKRの目標達成期待基準は、60~70%です。OKRは高すぎるくらいの目標を掲げ、従業員のチャレンジ精神やモチベーションアップを狙うため、60~70%程度の達成率を求めることがほとんどです。毎回達成率が100%である、といったケースでは、設定している目標が低いとみなされます。
一方のMBOは、100%の達成率が求められます。基準の達成度合いをチェックし、人事評価に活用するためです。なお、OKRとMBOとの違いについて、より詳しく知りたい方は以下の記事へアクセスしてください。
MBOのメリット
MBOは多くの企業で導入されていますが、メリット・デメリットを理解して正しく活用することが大切です。ここでは、MBOによって期待できるメリットをご紹介します。
社員のモチベーションが向上する
MBOは、従業員それぞれが自身の目標を決定します。「人から命令された業務や、ほかの人が決めた指標に従うのはなかなかやる気が出ない」という従業員は案外多いものです。自らが決めた目標に向かって行動し、それがチームや企業に貢献できていると実感すると、自分の存在価値や役割を再確認できます。目標達成に向けた充実感につながりやすく、モチベーション向上が期待できます。
また、MBOを人事評価に活用するケースも多く、目標の達成率がそのまま報酬や昇進につながります。「目標を達成するときちんと評価してもらえる」という充実感を得やすく、業務へのやりがいが生まれるでしょう。
社員の能力が向上する
従業員は自らの目標設定により、自発的な問題解決に努めます。今までは指示を受けることが多く、受動的な姿勢で業務に取り組んでいた人が、主体性をもって仕事ができるようになります。
また、それぞれの従業員に合った目標を設定することで、弱点を克服できます。上司と部下が連携を取り、定期的にフィードバックがもらえるため、安心感を覚えながら苦手な業務に取り組めるでしょう。日々の行動はもちろんのこと、事前の目標設定が重要なポイントになるため、話し合いを重ねて適切な数値や期限などを決めましょう。
評価しやすくなる
MBOは従業員それぞれの目標達成度を可視化できるため、人事評価に活用できます。「どのような目標を立て、達成するために何をしたか」「目標をどの程度達成できたか」などは、従業員の業績を判断する指標になります。具体的な数値によって達成率を判断でき、透明性が高く客観的な評価をくだしやすいです。
統一性ある組織運営につながる
MBOでは、個人や部署単位で目標を設定するものの、基本的には組織全体の目標や方向性をベースとします。組織の目標や方向性をベースに、個々の従業員が目標を設定するため、統一性のある組織運営につながる点が魅力です。
個々の目標と組織が成し遂げるべき目標がリンクしているため、従業員が目標達成に向けて努力するほど企業の目標達成にも近づきます。結果的に企業の事業が安定するだけでなく、新たなビジネスの創出や成長、発展にもつながります。
MBOのデメリット
ここでは、MBOのデメリットをご紹介します。導入にあたって注意すべきことや、対策方法などを調べている人はぜひ参考にしてください。
管理職の負担が増える
ただ目標を設定すればよいわけではなく、それらを定期的に振り返る、行動改善のプロセスが大切です。上司は部下の目標達成率を定期的に測定し、フィードバックしなくてはなりません。管理職は進捗チェックや面談などの手間が増えるため、それらを負担に感じる人もいます。
また、なかには「思い通りに成果が出ず、何度も目標や行動を見直さなくてはならない」「上司の評価が厳しく、かえって部下のやる気を削いでしまった」などのトラブルが発生するケースもあります。管理職の精神的ストレスにつながらないように、業務量や業務内容などの調整が必要です。
個人と組織で目標がそろわないケース
MBOにおいては、組織目標と個人目標の方向性が合っていないと、思うような効果は得られません。個人目標に固執するあまり、組織としての目標達成がおろそかになっては意味がありません。個人目標の設定時は、「組織目標と結びついているか」「個人的な目的にかたよりすぎていないか」などをしっかりと確認しましょう。
また、組織内で目標の難易度にばらつきがあると、トラブルの原因になります。「達成が難しい目標を立てている人もいれば、すぐに達成できる安易な目標を立てている人もいる」という状態では不公平感が生まれ、かえって組織のモチベーションが下がってしまいます。また、公平な人事評価ができないなど、MBOのメリットを享受できなくなるため、どのような個人目標を設定するかがMBOの成功を握るといっても過言ではありません。
目標が建前化する
目標の達成率が人事評価に影響を与えるとなると、あえて低い目標を立て、安易に報酬を得ようとするケースがあります。目標内容を上司が確認しなかったり、従業員の能力を把握しきれていないと、適切な目標設定が難しくなります。目標と人事評価を連動させる場合は、上司と部下でしっかりとコミュニケーションを取り、従業員の能力に合った目標設定が大切です。
職種によっては目標設定がしづらい
部門や職種によっては、成果を数値化しにくく目標設定が難しいケースがあります。たとえば、人事や総務といった部門は、成果の数値化が困難です。「新入社員の育成に注力する」「スピーディに社内文書を作成する」といった目標が考えられるものの、このような目標ではどうなったら目標達成とみなせるのかもわかりません。
この場合、本人と上司の間で認識の齟齬が生じるおそれがあります。本人は達成した実感を得ているのに、上司が未達成と判断してしまう、といったことも起こりかねません。
予想外の評価を受けた部下は、モチベーションの低下を招き上司にも不信感を抱くおそれがあります。このようなことが起きないよう、成果の数値化が難しい部門、職種でも、できるだけ定量的に評価できるような目標設定が求められます。
MBOの設定方法
従業員に目標を決めてもらい、その達成度によって人事評価を行う目標管理制度(MBO)。ここでは、効果を発揮するMBOの設定方法をご紹介します。
(1)社員自身で目標を設定する
従業員一人ひとりの目標を決める前に、まずは組織目標を設定します。組織目標は個人目標の方向性を定める重要な指針となるため、企業が抱えている問題点やチームの反省点などを洗い出し、課題を把握したうえで適切なものを採用しましょう。
組織目標が決まったら、その内容を踏まえて個人目標を設定します。必ず上司と部下で話し合い、双方が納得できる設定が大切です。基本的には1年を通して掲げる目標であるため、組織目標から外れていたり、上司と部下で足並みがそろっていないと、不満が生じるため注意しましょう。
(2)目標達成の基準を確認する
MBOは、目標達成の測定方法が企業によって異なります。また、基本的には目標の100%達成を目指すため、はじめに目標達成の基準をしっかりと決めておくことが大切です。「売り上げを増やす」「生産性を向上させる」など漠然とした目標は達成度を測りづらいため、必ず数値や期限を盛り込んだ具体的な目標を設定しましょう。
また、それらの数値は上司と部下で話し合い、自身の能力や組織目標などとすりあわせて決めるのが望ましいです。基準の数値が高すぎたり低すぎたりすると、モチベーションや生産性の低下につながります。
(3)行動を開始し成果を計測する
設定したMBOにもとづき、業務を開始します。上司は継続的に部下にフィードバックし、現時点の達成率や改善策などを伝えることが大切です。現状を把握したうえで、「目標を達成するには1か月あたりどれくらい売り上げを立てればよいのか」「毎日何件営業をかければよいのか」など、目標達成の基準から逆算し、短いスパンで業務の計画を立てるとよいでしょう。
思うように成果が出ない場合は、日々の行動や目標の立て方に問題があるのかもしれません。原因を探り改善策を複数検討したら、そのなかで最も効果が期待でき、新たなトラブルが発生しないものを実践しましょう。
MBOの種類
MBOには、人事評価型や課題達成型、組織活性型など3型あります。前段では、一般的なMBOの設定方法を解説したものの、種類によって特徴や取り組み方などが異なるため注意が必要です。
人事評価型
人事評価型は、MBOを人事評価に活用する手法です。従業員が自ら目標を設定し、情報を共有した上司が達成度合いを鑑みながら評価します。人事評価型MBOは、従業員を評価する際の指標とするだけでなく、従業員のモチベーションアップやスキルアップも主な目的です。
人事評価型MBOを導入するメリットは、従業員の公平な評価につながることです。現在も年功序列で従業員を評価している企業は少なくありません。年功序列では、実力のある若い従業員がどれほど成果を出しても正当な評価を得られず、モチベーションの低下や離職にもつながりかねません。不平等な評価を解消でき、従業員のモチベーションアップや定着率向上につながる点が魅力です。
ただ、従業員が目標をクリアしても、それが必ずしも企業の成果につながるわけではありません。組織としての目標達成を第一に考えるのなら、次に紹介する課題達成型MBOが適しています。
課題達成型
課題達成型は、組織の目標達成を第一に考え、そのうえで従業員個々の目標を設定するMBOです。たとえば、10人の従業員が在籍している企業が月間売上1,000万円達成の目標を掲げたとしましょう。このケースでは、すべての従業員に月間売上100万円の目標を設定し、達成できたら自然と組織の月間売上1,000万円を達成できます。
基本的に、課題達成型はトップダウン形式で実行されるケースがほとんどで、個々の目標達成が組織の成果に直結する点がメリットです。ただ、あまりにも過酷なノルマを従業員に課してしまうと、目標達成どころかモチベーションの低下や離職を招くおそれがあるため注意が必要です。
組織活性型
組織活性型は、従業員が自ら目標を設定することで、自主性や責任感の強化を図れるMBOです。日本の企業に浸透しているMBOの多くは、この組織活性型です。
自身で目標を設定するため、「達成に向けて尽力しよう」といった強い気持ちが働き、より高いモチベーションのもと業務に注力できます。ひいては組織の活性化につながり、生産性の向上も実現できます。
MBOが向いている企業
階層的なピラミッド型企業に、MBOは適しています。MBOは、基本的に組織と個人の目標をリンクさせます。個々の従業員が目標達成に向けた努力が、組織の成果につながることが求められるため、ピラミッド型企業との親和性は最適です。
MBOが向いていない企業
MBOが向いていないのは、経営方針や戦略が頻繁に変わる企業です。このような企業の場合、従業員はその都度目標の設定変更が必要になります。変化への柔軟な対応が求められるため、短いスパンで目標の見直しや評価をするOKRが適しています。
また、ルーティンワークがメインの業態もMBOには適していません。経理をはじめとしたルーティンワークがメインの部署は、数値目標での管理が困難です。定量的な測定が難しい業態や職種においては、MBOとOKRどちらも使いづらいと考えられます。
MBOを運用する際のポイント
MBOの運用を成功させるには、種類ごとの特徴やメリット・デメリットを理解したうえで取り組まなくてはなりません。MBOの運用を成功させるため、以下のポイントを押さえておきましょう。
組織目標と個人目標を結びつける
MBOに関わらず、新しいルールや規則の導入時は、その役割や目的などをあらかじめ従業員への周知が大切です。「なぜ導入されるのか」「どのような効果があるのか」など理解しないまま運用をはじめると、足並みがそろわないからです。
MBO導入時は、まずは企業が抱える課題を洗い出し、それらをしっかりと従業員に伝えることが重要です。「企業課題克服に向けて、組織目標や個人目標を設定する」と伝えれば、方向性がぶれることは少ないでしょう。
従業員への周知を徹底しつつも、克服すべき組織課題を明確にし、組織目標を立て、個人目標に落とし込むような結びつけが重要です。
上司と部下で目標設定する
従業員が共有、相談せずにひとりで目標設定する場合、安易な基準を設けたり、個人主義にかたよるケースもあります。必ず上司と部下で目標を共有し、下記の項目を参考に、内容が適切かどうかを話し合うとよいでしょう。
- 従業員の能力に合っているか
- 組織目標と関連しているか
- 従業員が自ら望む内容か
- 具体的な数値などを含んでいるか
とはいえ、理想を押し付けたり、従業員の希望にそぐわない目標を無理やり設定しても意味がありません。目標がノルマのように「強制的にやらされるもの」という位置づけになってしまうと、従業員の主体性を損なってしまいます。従業員の自主性を尊重したうえで、高すぎず、低すぎないレベルの目標を立てることが大切です。
評価に至った背景を明確にする
MBOは目標達成率を明確に可視化できるものの、そのぶん最終的な成果にとらわれすぎてしまう恐れがあります。100%目標を達成できなかったからといって、工程そのものが間違っているとは限りません。上司は部下の業務プロセスにも目を向け、行動の変化や成長度の評価も大切です。もし過程が人事評価につながらなかった場合は、その理由を丁寧に説明しましょう。
また、1か月ごとなどの細かい目標を立て、その都度面談などでプロセスを確認する方法もあります。部下は達成感や充実感を得られやすく、上司は目標達成に向けた進捗を確認しやすいため、双方にとってメリットがあります。
MBOで企業や個人の目標達成を
MBOは、従業員が定めた目標の達成度合いで人事評価に活用する手法であり、生産性の向上効果も見込めます。3つの種類があり、それぞれに特徴があることも把握しておきましょう。MBOの運用により、従業員のモチベーションアップやスキルアップが実現し、評価しやすくなるメリットが得られる一方で、管理職の負担が増える、目標が建前化するなどのデメリットもあるため注意が必要です。
MBOが向いている組織もあれば、MBOよりOKRのほうが適している企業もあります。自社にどちらがマッチしているのかを考え、そのうえで導入と運用を検討してみましょう。
MBOを成功させるためには、適切な目標設定が大切です。組織目標と関連しており、個人の能力に合った目標設定が望ましいでしょう。必ず上司と部下が話し合い、コミュニケーションを取りながら具体的な内容の決定が重要です。
FAQ
Q1. MBOとは何の略ですか?
A.MBOはManagement by Objectivesの略であり、日本語では目標による管理や目標管理制度と訳されます。人材マネジメントの手法として、経営学者のピーター・ドラッカーが提唱しました。
Q2. MBOとOKRの違いは何ですか?
A.MBOとOKRはどちらも目標を管理する手法であるものの、目的や評価の頻度などが異なります。また、目標が共有される範囲もMBOが上司と本人だけであるのに対し、OKRは組織全体であり、理想的な目標の達成度や計測方法などにも違いがあります
Q3. MBOにはどのような種類がありますか?
人事評価型と課題達成型、組織活性型の3つがあります。人事評価型は、MBOを人事評価に活用する手法であり、従業員が設定した目標を上司が評価します。課題達成型は、トップダウンで取り組む点と組織の目標を第一に考える点が特徴です。組織活性型は、日本で最も広がりを見せているタイプのMBOで、従業員が自ら目標を設定し、自主性や責任感の強化、組織の活性化を図れます。