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ケンブリッジ流、人事評価制度の考え方【ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ人事が語る、人事評価制度 #1】

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Great Place to Work Institute(GPTW)が主催する2022年「働きがいのある会社」ランキングベスト100に選出された(中規模部門:従業員100~999名部門で第8位)、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ。

プロジェクトファシリテーションとITを軸に、経営戦略検討からIT導入までを支援するコンサルティングファームとして、企業の変革プロジェクトの成功に貢献しています。

今回はHRの渡辺歩さんに同社の人事評価制度について伺いました。全4回となるインタビュー企画、第1回のテーマは「人事評価制度の考え方」です。

■ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ株式会社  HRマネージャ 渡辺 歩氏

新卒で大手鉄道会社に入社し、乗務員や人事の業務を担当。2012年にケンブリッジにコンサルタントとして入社。大手クライアントの業務改革やIT組織再編など、9つのプロジェクトを経験。2018年にコンサルタントから人事に転換し、ケンブリッジの採用、人事企画・運用、労務管理など一連の人事業務を担当している。

ケンブリッジの評価制度

「コンピテンシー」と「職位ごとの期待値」で構成

ケンブリッジの評価制度は、「コンピテンシー」「職位ごとの期待値」によって構成しています。

まずコンピテンシーについては、ケンブリッジにおける優秀なコンサルタントの定義を23個の要素(コンピテンシー)に分解しています。それにより、「あの人は優秀だね」と漠然と評価するのではなく、「コンピテンシーでいうと論理的思考力と目的思考が優れていて優秀だね」と具体的に評価できるようにしています。

コンピテンシーは、論理的思考にはじまり、目的志向、スコープ管理など、プロジェクトマネジメントでよく言われる要素から、ケンブリッジのコンサルタントに必要となるファシリテーション、プレゼンテーションといった要素もあります。コミュニケーション、クライアント認知、セルフマネジメントといったソフトスキル、最後に人材育成、メンタリングまで、全部で23個の要素があります。

コンピテンシーの評価基準をまとめたシートには、それぞれの項目の定義・職位ごとに求められるレベルがすべて言語化されています。

また、コンピテンシーとは別に、職位ごとの期待値も言語化しています。職位ごとの期待値をまとめたシートには、職位に応じてどのようなことが求められるのかを記述しています。職位ごとの期待値で評価対象期間の成果を評価、コンピテンシーで行動やふるまいを評価、と組み合わせて運用しています。

例えばシニアアソシエイト2という職位では、「担当領域をフォローのもと主体的に取り組むことができたか」などが明示されています。それに対し、「役割を果たせていた」「かなり手取り足取りだった」といった具合に評価しています。

プロジェクトにアサインするとき、フィードバックをするとき、人事評価を作るときなど、折に触れて職位ごとの期待値を参照する習慣が浸透しています。なので、上長によって職位に求めるものが違う、評価が甘い・辛いなどのギャップは生じにくいシステムにしています。

「コンピテンシー」と「職位ごとの期待値」の棲み分け

コンピテンシーと職位ごとの期待値の棲み分けについてですが、コンピテンシーは評価対象者の行動、ふるまいを具体的に検証していて、職位ごとの期待値が成果に対する評価に該当します。

評価者にも2つの流派があります。まずはコンピテンシーで評価してみてから職位ごとの期待値と見比べて「合ってるね」とレーティングする人。

そして、先に職位ごとの期待値で当たりをつけてからコンピテンシーをチェックしてみて「要素分解してみると、足りない部分もありそう」と調整する人。具体と抽象から両面でチェックしています。

12〜13年前から基本的にこの仕組みでずっとやっています。言語化されたコンピテンシー、職位ごとの期待値の2点によって、良くいえば「納得性のある評価」、別の言い方をすれば「ぐうの音も出ない評価」が実現できていると思います。

一方で、評価する側に論理的一貫性や根拠といった説明責任がかなり求められるので、評価者の負荷が高く、評価を渡すタイミングが遅くなってしまうという課題も抱えています。

評価制度の考え方

ケンブリッジの評価制度が他社とは少し異なる特徴を持っているのは、クライアント向けにサービス提供するコンサルティングという業種に特化した形になっているからだと思います。

コンサルティング会社は、人がほぼ唯一の資産です。だからこそケンブリッジの働きがいや成長の根底には、この評価制度があります。評価の運用をないがしろにすると、必ずどこかでしっぺ返しが来ると考えています。

この評価制度の3つの特徴とその背景について、さらにお話します。

(1) 成果主義ではなく能力主義

一般的に評価制度は、「成果」と「成長」という2つの面を持っていることが多いと思いますが、ケンブリッジでは「成長」に重きを置いています。もっと正確にいうと、「成果主義」ではなく「能力主義」だと考えています。

クライアント向けの仕事をしている以上、成果は外的要因によって左右されてしまいます。急にお客さまのご予算が削られてしまい、プロジェクトが中止になる……ということもあれば、逆にお客さま側に突如スーパースターのようなメンバーが配属され、プロジェクトが円滑に進むこともあります。

そのため、プロジェクトの成果だけでコンサルタントの評価をするのは難しい側面があります。成果を一切評価しないというわけではないのですが、外的要因によって左右される成果より能力の方にスポットを当てようと考えています。

その理由により、ケンブリッジではPM(プロジェクトマネージャー)を含めたプロジェクト現場に売上目標を設定していません。現場のPMが売上目標を持っていないというのは、コンサルティング会社の中では結構不思議な例らしいです。

売上目標を設定しないもう一つの理由は、ケンブリッジでは「RIGHT=お客さまにとって正しいことをする」という行動規範を設けているからです。売上目標を置いてしまうと、現場のPMに「お客さまにとっては正しくないが、ケンブリッジの売上が上がる」という振る舞いを強いることにもなりかねません。

プロジェクトは、1年以内に終わるものはほとんどなく、長いものだと3年、5年、もしくは10年のロードマップを描いて順番にやっていくプロジェクトもあります。そこに、ケンブリッジ側の単年の評価を無理やり反映するような取り組みをするのは良くないと思います。

さらに、これを続けていくことが長期的にお客さまと良い関係を築き、事業にプラスに返ってくる、という考えが根底にはあります。

(2)コンピテンシーで一律に評価

コンピテンシーで一律に評価をしている背景には、ケンブリッジがワンプール制ということがあります。ワンプール制というのは、コンサル業界の言葉なのですが、要は部署が分かれていないのです。

「金融機関向けのコンサルタント」「製造業界向けに生産管理システムを導入するコンサルタント」という感じで分かれてはおらず、誰もがどのプロジェクトでも活躍することが期待されています。

ですから、共通認識として公平性や妥当性を担保するには、コンサルタントの振る舞いという共通の部分に評価の基準を置くべき、という考えに至っているのです。

もし部署がはっきり分かれていて、採用も部署単位、部署間異動もほとんどなし、という運用だとしたら、やっぱり評価基準も部署ごとに見直すべきだと思います。しかしそこが頻繁に行き来するので、共通するのはコンピテンシーということになるわけです。

とはいえ、最大公約数的なスキルとして共通で絶対に持っておいてほしいわけではなく、コンピテンシーは「標準的に求められるスキル」という位置づけにしています。やっぱり人間にはデコボコがありますし、デコボコはあっていいと思います。

特に近年は「デコボコは確かにあるが、弱みを補うよりももっと強みを伸ばしてほしい」と優れている点に重きを置いた評価に少しずつ変わってきています。

評価制度そのものはそんなに変わっていませんし、年次評価のタイミングで、特に「昇進するか、しかないか」を判断するときが大きいですが、捉え方が「いかにその人の活かす場を会社が提供できるか」という観点に変わりつつあります。

(3)ミッション・ビジョンとは直接対応していない

ベンチャーではミッション・ビジョンが人事評価と直接リンクしている会社が多いと思いますが、ケンブリッジでは、ミッション・ビジョンと評価基準がリンクしていません。

なぜか考えてみたのですが、これは何事においても「お客さまのためになるかどうか」に重きをおいているからだと思います。ミッション・ビジョンを基準にしてしまうと、「自分たちの会社にとっていいかどうか」がコンサルタントの評価の軸になってしまうような気がします。

コンピテンシーに書いてある23個の要素は、すべてお客さま向けの価値に直接つながることなので、クライアントにとって価値あることをしているかに重きを置いているのかなと。

仮に私たちが自社プロダクトを作るなど事業の形が変わることがあったら、評価基準も変わるのかもしれません。目線がもっと自社に向くのかもしれないですね。

次回は評価制度の運用方法について解説していきます。

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