ピープルアナリティクスとは?メリットや進め方について具体例を用いてわかりやすく解説
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目次
ピープルアナリティクスは、人事課題の解決に取り組む企業から近年注目を集めている手法です。本稿では、ピープルアナリティクスの概念や導入のメリット、進め方について具体例を用いてわかりやすく解説します。
ピープルアナリティクスとは?
「ピープルアナリティクス」とは、従業員に関する行動データや属性データなどを収集・分析し、人事領域におけるさまざまな課題解決に役立てる手法です。
一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会の 『ピープルアナリティクスの教科書』では、「ピープルアナリティクス」を以下に定義しています。
人材マネジメントにまつわる様々なデータを活用して、人材マネジメントの意思決定の精度向上や業務効率化、従業員への提供価値向上を実現する手法
ピープルアナリティクスはGoogleやMicrosoftなど米国のIT企業で、導入・活用が進められてきました。人事領域の重要な意思決定において、担当者の直感や感覚だけに頼るのではなく、データを効果的に活用し、より公正で客観性の高い意思決定を目指します。
同協会では、分析する人事データを以下の4つに分類しています。
- オペレーショナルデータ採用・配置・育成・評価・報酬などの人材マネジメントのオペレーションを実行するために必要となるデータセンチメントデータ従業員のモチベーションや組織風土など変化や課題を抽出するために活用されるデータ
パーソナリティデータ
従業員の性格特性や能力特性を指し示すデータアクティビティデータカレンダーやメール・チャットなどの従業員が日々の業務の中でどのような活動をしているかをログとして残すデータ
ピープルアナリティクスの変遷
AIやビッグデータの発展により、人事課題の解決において、より多角的な分析が可能です。今後もピープルアナリティクスの需要は高まっており、今後も伸びが予想されます。
キーワードの検索需要を確認できる「Googleトレンド」では、2018年ごろから日本で「ピープルアナリティクス」の検索需要が高まっています。
またリクルートワークス研究所の「ピープルアナリティクスの歴史的変遷」では、「パフォーマンス」と「キャリア」の分析における変遷を整理しています。
ピープルアナリティクス0.5から1.0(1990年代から2000年代)
- アナログからデジタルへの移行
- 定量データの活用のはじまり
- 基本的な人事データのデジタル化と分析
ピープルアナリティクス1.5から2.0(2010年代から現在)
- 定量・定性データの統合的な活用
- リアルタイムでのデータ収集と分析の実現
- 複数のパフォーマンス指標の統合的な分析
ピープルアナリティクスの実施状況
一方、まだピープルアナリティクスを実施をできていない企業が多いのが現状です。日本能率協会総合研究所(JMAR)HRアナリティクス研究室の「ピープルアナリティクスの実施状況調査」によると、ピープルアナリティクスを実施している企業は17.5%にとどまっています。
ピープルアナリティクスを実施する目的は「配置・配属・人材ローテーション」、「採用」、「一般社員の育成」の順に多くなっています。
またピープルアナリティクスにより得られた成果として「従業員の満足度向上」「教育研修への活用」「労働時間削減」が挙げられます。
(引用)日本能率協会総合研究所(JMAR) HRアナリティクス研究室 - 「企業におけるピープルアナリティクスの実施状況及び人的資本開示の実態の把握」
ピープルアナリティクスを実施するメリット
(1)精度の高い採用が期待できる
ピープルアナリティクスは採用活動の質向上に寄与します。
たとえば、特定の職種で高いパフォーマンスを発揮している従業員の入社前の経験や保有スキルのパターンを特定し、採用基準を最適化できます。また、面接評価と入社後の業績の相関分析により、精度の高い選考プロセスを構築できます。
「ハイパフォーマー」や「ハイパフォーマー分析」については以下の記事で詳しく解説しています。
(2)人材育成施策の精度向上
人材育成施策の精度向上にもピープルアナリティクスは役立ちます。たとえば従業員のスキルや成長過程を可視化し、個々人にあわせた育成プログラムやスキルアップの機会を提供できます。
(3)人材配置施策の精度向上
ピープルアナリティクスにより組織のニーズと個人の適性を統合的に判断し、最適な人材配置を実現できます。職務要件とスキルのマッチングだけでなく、チーム全体のバランスや個人のキャリア志向、組織の長期的な人材戦略を考慮した配置が可能となります。
人員配置の最適化をスムーズに進める方法については、以下の記事をご覧ください。
(4)戦略的な離職防止施策の展開
退職リスクの早期把握と予防的対応が可能です。たとえば、残業時間の急激な増加、休暇取得率の低下、1on1での発言内容の変化、直近の評価の推移などの複数のデータを組み合わせることで、退職リスクの兆候を事前に察知できます。
(5)公平な評価システムの構築
ピープルアナリティクスにより、従業員の業績やパフォーマンス状況について定量的なデータと定性的な判断を組み合わせて評価できます。評価基準の明確化や透明性を確保しやすく、従業員の納得感を高められます。
納得感を醸成するSmartHR社の人事・評価制度については、以下の記事をご覧ください。
ピープルアナリティクスの注意点とデメリット
(1)個人情報の取り扱い
ピープルアナリティクスで収集するデータには個人情報が含まれます。個人情報保護法にもとづく厳格な管理体制と慎重な取り扱いが不可欠です。具体的には以下の対応が必要です。
- 収集するデータの範囲と目的の明確化
- アクセス権限の適切な設定と管理
- データ取り扱いに関する社内規程の整備
- 定期的なセキュリティ監査の実施
とくに従業員データの収集・活用に際しては、透明性の確保と信頼性の構築が重要です。データの範囲や目的を明確に説明し、本人の許可を得ましょう。
(2)データの収集や更新にコストがかかる
データの収集には相応のコストがかかります。たとえば従業員にデータを提供してもらうにも、目的や背景、意図の説明、コミュニケーションが不可欠です。
さらにデータの入力・更新作業も定期的に発生します。また、人事システムの改修や新規導入が必要となる場合もあり、予想以上の投資が求められる可能性があります。
(3)データの分析スキルが必要になる
データ分析には専門的なスキルと経験が必要です。社内や人事部門にそうした人材がいない場合は、外部人材の確保や内部人材の育成が必要です。
ピープルアナリティクスの進め方
ピープルアナリティクスの基本的な進め方
- 経営課題に紐づいた具体的な目的設定
- 適切なデータの特定と収集
- 多角的なデータ分析
- 分析結果にもとづく人事施策の立案・実施
- 複合的な効果測定
ピープルアナリティクスの成功には、データ分析の結果を経営戦略に紐づく人事施策につなげることが重要です。
効果検証については施策の性質に応じて四半期・半期・年次など、適切な間隔で実施しましょう。施策の影響を受けるステークホルダー(経営層、マネージャー、従業員)からのフィードバックを継続的に収集し、必要に応じて軌道修正するのも重要です。
ピープルアナリティクスの推進体制について
日本能率協会総合研究所(JMAR)HRアナリティクス研究室による「ピープルアナリティクスの実施状況調査」。ではピープルアナリティクスを既に実施している企業において以下2つの体制で進めているという回答が多くなっていました。
- 「専門組織は設置していないものの、人事部内にデータ分析担当者をおいている」
- 「人事部内に専門組織を設置している」
(引用)日本能率協会総合研究所(JMAR) HRアナリティクス研究室/企業におけるピープルアナリティクスの実施状況及び人的資本開示の実態の把握(https://jmar-ss.com/homeroom/966)
ピープルアナリティクスを進める基本的な手順は以下のとおりです。
ピープルアナリティクスの目的とデータ分析の例
(1)人材育成を目的としたピープルアナリティクスの例
データ収集と分析
人材育成を目的としてピープルアナリティクスでは、明確なゴール設定が必要です。たとえばハイパフォーマーの特定と育成を目的とする場合、以下のデータを収集します。
- 定量的指標:過去の業績達成度や生産性など
- 定性的指標:組織貢献度や過去の評価コメントなど
また、ハイパフォーマーに共通する要素を得るためのデータとして以下の項目を収集します。
- 業績評価データ(過去3〜5年分)
- エンゲージメントサーベイの結果
- キャリア開発・職務経験
複数のデータを分析して、ハイパフォーマーに寄与している要因を特定します。インタビューによる質的調査も組み合わせるといいでしょう。
施策立案・実施
分析結果に基づき、育成プログラムの設計やキャリアパスの可視化など、具体的な育成施策を展開します。
(2)退職防止を目的としたピープルアナリティクスの例
データ収集と分析
退職防止を目的とする場合、退職の可能性が高い従業員を早めに把握し、施策を実施するためにピープルアナリティクスを実施します。
過去に退職した従業員と勤務中の従業員について以下のデータを収集します。
- 基本情報(職位、職種、勤続年数)
- 残業時間の推移
- 有給休暇取得率
- 目標達成度
- サーベイの結果
過去3年間の退職者データを分析し、退職時期の集中する年次や時期、部門・職種による差異などを特定。さらに残業時間と従業員満足度の関係性や、上司評価と部下の定着率など、重要な相関関係を確認します。これにより、効果的な施策のポイントが明確になります。
施策立案・実施
分析結果から得られた視点をふまえ、急激な残業時間の増加や連続した休暇取得の減少などを「要注意サイン」として設定し、月次でモニタリングするなどの施策につなげられます。サインがみられた従業員には、以下のような施策で対応します。
- 労働時間管理の徹底と適切なフォロー
- 上司による1on1ミーティングの実施
- 必要に応じた人事部による個別面談
「1on1ミーティング」の実施例については、以下の記事で詳しく解説しています。
ピープルアナリティクスはSmartHRを使って効率的に
ピープルアナリティクスは人事領域における意思決定の質向上やさまざまな人事課題の解決に有益な手法です。
成功の鍵は従業員データを負担なく収集・活用できる環境整備です。SmartHRなら、労務手続きを通じてさまざまな従業員データを蓄積。最新で正確なデータを活用しやすい環境が整います。
さらにHRアナリティクス機能では、雇用契約や入社手続きといった労務管理機能で収集したデータと、従業員サーベイや人事評価などのタレントマネジメント機能で収集したデータ(※)をもとに、現状を可視化し、分析できます。マトリクス分析ができる機能も備えており、年齢や部署、役職、人事評価機能の最終結果などの複数の項目を掛け合わせて分析が可能です。
※現在は利用できないデータが含まれています。順次データ連携を実施予定です。
SmartHRのHRアナリティクスの詳細は、以下のお役立ち資料「3分でわかる!SmartHRのHRアナリティクス」をご覧ください。
FAQ
Q1. ピープルアナリティクスとは何ですか?
「ピープルアナリティクス」とは、従業員に関する行動データや属性データなどを収集・分析し、人事領域におけるさまざまな課題解決に役立てる手法のことです。
Q2. ピープルアナリティクスの進め方は?
ピープルアナリティクスを進める基本的な手順は以下のとおりです。
- ピープルアナリティクスを行う目的を設定
- 目的の達成に必要なデータの収集
- データ分析
- 得られた分析結果をもとに人事施策を実施
- サーベイによって人事施策の効果検証
Q3. ピープルアナリティクスを実施するメリットは?
ピープルアナリティクスを実施するメリットは以下の点が挙げられます。
- 精度の高い採用が期待できる
- 人材育成施策の精度向上
- 人材配置施策の精度向上
- 離職率低下施策の精度向上
- 公平な評価を下せる
人材育成や離職率低下など、人事領域におけるさまざまな課題を解決できます。