「産官学」それぞれの視点から考える“生産性向上”と“HRテクノロジー”【パネルセッションハイライト】
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2018年5月9日、日本の人事部主催「HRカンファレンス2018 -春- TECH DAY」が開催されました(後援・厚生労働省、経済産業省)。
同イベントでは、
「人と組織」の課題解決には、HRテクノロジーが欠かせない。その理由と可能性を体感する、HRカンファレンスの1DAYイベント
というコンセプトのもと、「HRテクノロジーとは何か? なぜ今求められるのか?」「テクノロジーは人事の現場をどう変えているのか?」など多様な講演が展開され、SmartHR 代表取締役・宮田昇始も、パネルセッション「“産官学”それぞれの視点から考える“生産性向上”と“HRテクノロジー” 」に登壇。
同セッションでは、人事、組織開発などの研究・教育に従事する多摩大学大学院・徳岡晃一郎教授による司会のもと、経済産業省 産業人材政策室・伊藤禎則参事官とともに、ディスカッションを行いました。
本稿では、その内容の一部をハイライトとしてご紹介します。
HRテクノロジー活用は「イシュードリブン」が大前提
伊藤参事官は、HRテクノロジー活用のポイントを、「どの人事上の課題を解決するのかという“イシュードリブン”(Issue Driven)での発想」が重要であると語ります。
つまりHRテクノロジーありきでの活用ではなく、自社のボトルネックを十分に理解した上で、各個別的な課題に対して求められる解決の手段として、それに適したHRテクノロジーの、適材適所の活用が求められると考えられます。
また、SmartHR宮田は働き方改革のフローとして、具体的なロードマップの策定に始まり、法令遵守などの守りの人事施策を徹底した上で、攻めの人事施策展開に移るという進行例を紹介。生産性向上とHRテクノロジーの活用においては「ロードマップ策定段階における課題抽出が重要」であると語り、“イシュードリブン”での考え方に同意しています。
HRテクノロジーは、活用すること自体が目的ではなく、あくまで手段・ツールという考えのもと、解決すべき課題の掌握と分析が重要といえるでしょう。
更に、漠然と「生産性向上!」とうたったところで、生産性向上を実現させるのが難しいのもまた事実です。生産性は、「アウトプット÷インプット」という図式で示すことができますが、分母たるインプットと、分子たるアウトプットとを因数分解して認識し、それぞれに対する最適な対策を施すことが求められます。
その中で徳岡教授は、「インプットを最適化させるための“働き方改革”、アウトプットを最大化させるための“Best and Brightest”、これらを支える人々の人生を豊かにする“100歳人生の変身資産形成”」という3つの観点でHRテクノロジー活用と向き合うことの重要性を説いています。
経済産業省 産業人材政策室 参事官
1994年 東京大学法学部卒業、入省。米国コロンビア大学ロースクール修士号、NY州弁護士資格取得。筑波大学客員教授、大臣秘書官などを経て、2015年より現職。経産省の人材政策の責任者。政府「働き方改革実行計画」の策定にかかわる。副業・複業、フリーランス、テレワークなど「多様で柔軟な働き方」の環境整備に取り組む。また人材投資、「経営リーダー人材育成指針」策定、HRテクノロジーの普及などを推進。リカレント教育をテーマに「人材力研究会」(資料公開;「経産省 人材力研究会」で検索)を主宰。
HRテクノロジー普及における3つの障壁
「HRテクノロジーの導入は、やるかやらないかというよりも、いつどの課題解決から着手するかという実装段階に入っているのではないか」と触れた上で、徳岡教授が宮田に質問。
「産業界におけるHRテクノロジー実装の障壁はどのようなものがあるか」という問いに対し、「大きく分けて、導入予算・個人情報の取り扱い・担当者のITリテラシーの3点が障壁になりやすい」とコメントしています。
前者2点に関しては、比較的やわらぎつつある課題ではあるものの、一方の“担当者のITリテラシー”に関しては、「使ってみたいが担当者がツールを使いこなせるかを不安に感じているケースがある」とし、物理的な課題の存在を示唆しています。
この「ITリテラシー」という障壁は、特に都市部・地方部や、業界特性による差が生まれやすい課題であると考えられます。
今後、産業サイドの課題を解決し推進させていくかは、助成金・給付金等による経済的な支援はもちろん、リカレント教育等によるスキル向上など、様々な面での官学のバックアップがカギになりそうです。
株式会社SmartHR 代表取締役 CEO
2013年に株式会社SmartHR(前KUFU)を創業。2015年11月に自身の闘病経験をもとにしたクラウド人事労務ソフト「SmartHR」を公開。利用企業数は1万社を突破。IVS、TechCrunch Tokyo、B Dash Campなど様々なスタートアップイベントで優勝。HRアワード 2016 最優秀賞、グッドデザイン賞2016、東洋経済すごいベンチャー100にも選出。
重要性が飛躍的に高まる人事。「HRのリカレント教育」を
急激な労働人口の減少や、第四次産業革命時代における産業構造の変化。そして働き方改革、そして生産性革命という潮流の中で、人事の役割も大幅に変化していくと考えられます。
その中で伊藤参事官は、「人事の重要性は飛躍的に高まり、今後の経営競争力を左右していくのは間違いない」と語る一方で、求められるスキル水準が高まることも踏まえ、「人事も学び続ける必要があり、“HR分野でのリカレント教育”を強化していきたい」とコメントしています。
更に「HRテクノロジーによってAIやデータなどが人事の世界に入ってくるからこそ、エモーショナルな部分も含め、働くひと1人1人と向き合い、寄り添う時間が増えるのではないか」とメッセージを残しています。
徳岡教授は「伊藤参事官、宮田さんがおっしゃったように人事の役割が非常に重要になるのは間違いない。その中でのHRテクノロジー活用においては、人事を担う皆さん自身のITリテラシーの向上が重要になる」とコメントし、セッションを締めくくっています。
多摩大学大学院 教授・研究科長/株式会社ライフシフトCEO/フライシュマンヒラードジャパン SVP・パートナー
東京都生まれ。東京大学教養学部卒業、オックスフォード大学経営学修士。日産自動車人事部、欧州日産(アムステルダム)を経て、人事、組織開発、コミュニケーションなどのコンサルティング、研究・教育に従事する一方で、人生100年、現役80歳の時代を生き抜くためのAIをベースにしたライフシフトポータルを企画中。主な著書に『イノベーターシップ』(東洋経済新報社)、『MBB:思いのマネジメント』(野中郁次郎、一條和生との共著、東洋経済新報社)、『人事異動』(新潮社)、『人工知能Xビッグデータが人事を変える』(共著、朝日新聞出版社)、『しがらみ経営』(共著、日本経済新聞出版社)など多数。
まとめ
当パネルセッションでも挙がったように、働き方改革・生産性向上においては、イシュードリブンに則り、解決すべき経営課題・人事課題と向き合い、解決に向けた全体的なロードマップの策定と、各個別課題に対する最適なソリューションの選定が重要です。
HRテクノロジーは今まさにそれを後押しする重要な手段のひとつとなっています。
一方、社会全体というマクロな視点で捉えると、普及にあたっては「ITリテラシー」という障壁も存在します。
その壁を乗り越えるには、人事のスキルアップデートも大きなポイントであり、産官学一体となった“HR分野のリカレント教育”が待ち望まれ、今後のHRテクノロジーの普及のカギを握りそうです。
「人事部改革」こそが、今踏み込むべき第一歩なのかもしれません。
※ 詳細なるセッション内容は後日、「日本の人事部」より公開されるレポート記事をご覧ください。