ハラスメントサーベイを行うときの5つの注意点を法務担当者が解説!
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こんにちは、SmartHRで法務を担当しています、弁護士の上原(うえはら)です。
2020年6月1日に施行されたパワハラ防止法で、企業に対してパワハラ対策のための相談窓口設置が義務化されました。中小企業については2022年3月31日までは努力義務となっていますが、2022年4月1日には、大企業と同様に義務化が適用されます。
このように、ハラスメントに関する法律が改正されているなかで、自社のハラスメントに関する状況を早期に把握する重要性が近年高まりつつあります。
今回は、SmartHR「従業員サーベイ」機能を利用したハラスメントサーベイの活用方法を含めハラスメント調査を行う際の注意点について、お伝えしていきます。
ハラスメント調査を行うべき理由
パワハラ防止法や各種ハラスメントの防止指針においては、従業員からハラスメントに係る相談の申出があった場合において、企業には「事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること」が義務付けられています。
また、各種ハラスメントについて適切に対応しない場合、従業員に対する安全配慮義務違反となる可能性があります。
ただ、ハラスメントに関する相談や紛争が発生してからではどうしても対応が後手に回ってしまい、十分な対策やケアが難しくなってしまうことが多いです。
そこで、従業員からハラスメントの相談を受ける前に、企業が先回りしてハラスメントに関する状況を把握し、問題が大きくなる前や顕在化する前に適切な対応をすることで、自社でのハラスメントの課題を最小限にできます。
これにより、ハラスメントに苦しむ従業員を減らし、結果として企業としても法律を遵守し、紛争から身を守ることにつながります。
つまり、事前のハラスメントサーベイを含むハラスメントに関する調査を行うことは、従業員と企業の双方を守ることに繋がる非常に重要な活動となります。
ハラスメント調査における5つのポイント
企業にとって重要なハラスメント調査ですが、やり方を間違えるとあまり実効性のないものとなってしまいます。
よくあるハラスメント調査に関するお悩みとして、
- 回答率が低い
- ハラスメントと関係のない回答が多い
- 実際にハラスメント事案に気がつけてもどう対応していいか分からない
といったものが挙げられます。
これらのお悩みを意識しつつ、実効性のあるハラスメント調査を行うための5つのポイントをお伝えしていきます。
- 定期的に実施する
- 匿名で実施する
- 情報の共有範囲や目的を明確にする
- ハラスメントの分類を特定しなくてもいい
- セカンドハラスメントに注意する
1〜4はハラスメントサーベイ実施時の注意点であり、5はハラスメントサーベイ実施後のヒアリング等の場面における注意点となります。
(1)定期的に実施する
ハラスメントはサーベイを1回実施したことで全てが解決するといった性質の問題ではありません。
サーベイで実態把握 → 正式な調査 → 対応 → 解決
という流れで長期的に取り組むべき問題です。
そのため、定期的にハラスメントサーベイを行うことで、新たな課題を把握し、実施した施策の効果などを測定することが可能となり、より効果的なハラスメント対応が可能となります。
定期的にハラスメントサーベイを行うためにも、予め質問事項が用意されており、回答の分析も可能なSmartHRの従業員サーベイをぜひご活用ください。
(2021年9月に追加された5つのプリセットサーベイについてはこちらをご覧ください。)
(2)匿名で実施する
ハラスメントサーベイの回答率が低いことの原因の1つとして、誰がどう回答したかが分かってしまうこと、つまり、匿名性が低いということがあります。
また、次のポイントとも関連しますが、回答者である従業員としては、「回答したいけど、回答したことにより不利益なことが起きるのは避けたい」と考えるものです。
そのため、匿名での回答を可能とすることは回答へのハードルを下げ、回答率向上ひいては実行的なハラスメントサーベイの実施に欠かせないものと考えられます。
一方で、「匿名のアンケートだと、その後の対応が取りようがないから匿名のアンケートは難しい」というご意見もあるかと思います。
そこで、ハラスメントサーベイを実施する際は、基本的に匿名とした上で、個別のヒアリングや調査を希望する方のみ記名いただくという形で実施するのが良いと考えます。この方法であれば、匿名性も保ちつつ、追加調査や対応が必要な事案に関しては対応が可能となります。
ただし、個別ヒアリング希望が大量に寄せられるとご担当者様の負荷が急激に増えてしまいますので、「※個別ヒアリング希望について、全てご希望に応えられるわけではありません。予めご了承ください」といった注釈も併せて記載するとさらによいと思います。
(3)情報の共有範囲や目的を明確にする
前述したとおり、回答者である従業員は「回答したいけど回答したことにより不利益なことが起きるのは避けたい」と考えるものです。
この点に関する従業員の不安を解消するためにも、ハラスメントサーベイ実施時に、
- どのような目的のサーベイなのか
- 回答をどの範囲で共有するのか
- 今回のサーベイを受けてどこまで対応するのか
- 回答内容が人事評価などと結びつくのか否か
といった説明をしっかり行うとよいと思います。
特に、「回答をどの範囲で共有するか」は回答者にとっての心理的安全性に関わる部分ですので、目的に応じた範囲をしっかりとお伝えできるとよいでしょう。
また、「今回のサーベイを受けてどこまで対応するか」はハラスメントサーベイの期待値調整のためにもしっかりと伝えるべきです。
「ハラスメントサーベイに回答したけど、何も対応してくれなかった」ということにならないように、サーベイで現状把握するのみなのか、結果を受けてより具体的な調査も行うのかなど、具体的に記載できると、従業員も担当者もお互いに不満を持たずに済むと思います。
(4)ハラスメントの分類を特定しなくてもいい
ハラスメントサーベイ時によく見るのが、
- 「パワハラを受けたことがありますか?」
- 「セクハラを受けたことがありますか?」
といった質問事項です。
この形式に直ちに問題があるわけではないのですが、「自分が受けたのがどのハラスメントなのかよく分からない」という回答者の場合、「パワハラ」や「セクハラ」といった限定した表現にしてしまうと、回答に迷って結果「該当なし」と答えてしまう可能性があります。
ハラスメントサーベイの目的は、全社的なハラスメントの実体の把握であり、個々の事象がパワハラなのか、セクハラなのかは担当者が分類できればよく、必ずしも回答者が分類できている必要はありません。
そのため、ハラスメントサーベイ実施時は、自社の従業員のハラスメントに関する知識レベルに応じて、具体例を添えた上でハラスメントの分類を特定して質問事項を設定するか、ハラスメントの分類をしない質問とするか検討しましょう。
ハラスメントの分類をしない質問事項は、
- 「あなたがハラスメントかなと思うことを受けたり、見たりしたことはありますか?」
のように記載し、「ハラスメントかどうか悩ましいものでも記載していいですよ」という意思をしっかり伝えるのも重要です。
いずれの方法にせよ、ハラスメントを事前に把握できず、問題が大きくなったタイミングで顕在化することは一番避けなければなりません。つまり、リスクを拾えないのが一番危険な状態であり、リスクでないものもサーベイで集まってきてしまうというのは、リスク管理の観点からは決して悪い状態ではないです。
そのため、ハラスメントサーベイ実施時には自社の状況を考慮した上で「ハラスメントかどうか悩ましいもの」も含めてなるべく多くの回答が得られるように質問事項を工夫できるとよいのではと思います。
(5)セカンドハラスメントに注意
こちらは、ハラスメントサーベイ実施後の個別ヒアリングなどの際に気をつけるポイントです。
一般的に、以下の5つを意識すると良いとされています。
- 相談者や関係者への印象や先入観を捨て、公正中立な姿勢で受け入れ、プライバシーを尊重し秘密を厳守する
- 相談者がどのような解決を望んでいるかを把握し、尊重する
- 問題をもみ消そうとしたり相談者を責めるような言動は厳禁
- 対応が困難と思われる場合は専門家につなげる
- 相談者にメンタルヘルス不調の兆候が見られる場合は、心療内科などの受診を促す、行為者から避難させるなど早急に対処する
個別ヒアリングを行う際は、これがハラスメントに該当するか・しないかのご自身の考えを伝える必要はありません。基本的に、ヒアリング対象者のお話を聞くことに集中しましょう。
お話を聞いて、どのような対応、解決を望んでいるかをしっかり把握しましょう。その場で「そういった対応はむずかしい」といった結論を伝える必要はありません。
ヒアリング対象者をさらに傷つけてしまうことがないように、1〜5を意識してヒアリングを行いましょう。
おわりに
今回はハラスメントサーベイ実施時のポイントについてお伝えしました。
ハラスメントを防止し、企業も従業員もお互いに気持ちよく働くためにも、定期的にハラスメントサーベイを行えるとよいのではないのでしょうか。
SmartHRの従業員サーベイ機能は、匿名での回答や回答結果の分析だけでなく、柔軟な質問事項の設定、標準的な質問事項の利用が可能です。効果的なハラスメントサーベイを実現する各種機能が備わっておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。