従業員の自立心を組織の原動力へ。企業と個人の「パーパス」を一致させるためのポイント【行列のできるしごと相談所 vol.2レポート 後編】
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目次
社会の変化やテクノロジーの進化もあり、テレワークをはじめとした新しい働き方よりも身近なものとなっています。
一方で新しい働き方を取り入れた結果、同僚や会社との間に物理的・精神的距離が生まれ、それが課題となることも。
このセッションでは“距離”が広がる社会の中で、多様な価値観を持つ人々が信頼関係を築き、チームとして成果を出すためのヒントを探ります。
- スピーカー篠田真貴子さん
エール株式会社 取締役
- スピーカー安田雅彦さん
株式会社ラッシュジャパン 人事部長 Head of People
- モデレーター薮田孝仁
株式会社SmartHR 執行役員・VP of Human Resource(人事責任者)
前編、中編は以下よりどうぞ。
仕事だけでなく「How are you?」を聞くコミュニケーションを増やす
薮田
続きまして、これからのチームづくりについて、実際マネジメントをされている方々にアドバイスはありますか?
安田さん
今の環境下では、やっぱり「コミュニケーション頻度を増やそう」とお伝えしています。また、コミュニケーションをとるにしても、仕事のことだけを「どんな感じ? 大丈夫?」ってToDoリスト的にチェックするんじゃなくて、「How are you?」をきちんと聞くのが大切です。
篠田さん
皆さん戸惑いはないですか?
安田さん
戸惑いはあると思います。どれくらい細かくチェックインして「How are you?」を聞いているかって、人によって違うので、みんながみんないきなりできるわけじゃないんですよね。
篠田さん
ですよね。マネージャーの皆さんも、不安や戸惑いはありそうです。
安田さん
マネージャー側としても「そんなに他の人のケアをしている場合じゃないんだけど」って気持ちもあるかと思います。そのため、先日メンタルヘルスやマインドフルネスの講習をやった際も、最初のアジェンダに「まずは皆さん自身が心身ともにハッピーでいましょう」って伝えるようにしていましたね。
従業員の言う「会社」が指すのは、実は上司?
篠田さん
先ほど見せていただいたデータでも、「会社の方針が」とか「会社との信頼が」ってありましたが、“会社”っていう主語について少し怪しんでいまして。一般社員から見たら、“会社=上司”じゃないですか。
逆に言うと、会社の方針はさておき、上司が自分にとってほんとに素晴らしい上司だったら、「会社の方針がわかりません」ってなかなか言わないと思うんですよね。
安田さん
「会社の方針がわからない」って、だいたい上司に不満があることの言いかえですよね。
篠田さん
はい。だから従業員が使う“会社”という文言は、実は一番接点のある上司と読みかえて問題を理解しないと、話がズレやすいのではないかと感じています。
安田さん
退職の8割は上司に原因があるって言われていますからね。“会社”の概念自体、やっぱり揺らぎだしている。故に、きちんと理解しなきゃいけないフェーズはあると思うんですよね。そもそも物理的にオフィスがないとか。
「何のためにビジネスをするのか?」と向き合う
薮田
ちょうど次のテーマが「従業員と会社の関係性」なので、そのままいきましょう。この大きな変化を乗り越えていくにはどうすればいいのか。今の話の流れでお伺いしたいです。
篠田さん
大変ですよね。ある大手企業の幹部に伺った話ですが、(2020年)4月から9月の上半期、通常ですと新規契約何件って営業目標があるものの、コロナ禍で新規訪問していくこと自体が憚られる状況も考えて、営業目標をなくしたらしいんです。
安田さん
営業目標を? 素晴らしい。
篠田さん
そうなんです。そうすると、やっぱり管理職の方々は、その営業の技術を磨き続けて管理職になれって言ってきたのに、いきなり無しになっちゃった。まさに、「会社とは何なのか」「私たち契約取りに行けないんですかね」、みたいな問いが生まれたと。
薮田
今までのノウハウが使えなくなったんですね。
篠田さん
それほど大きな影響がある中で、新しい形でお客さんに貢献していこうって会社全体の方針だったそうで。そうすると、管理職の方は、現場でお客さんと接している従業員から積極的に教えてもらって、そのアイデアの中から支社なら支社でできることを汲み上げていく動きになった。結果、どこまでうまくできたかは、それぞれだと思いますが、改めて「自分たちは何のためにいるのか」を、みんなが考えるきっかけになったらしいんです。
このような問いと向き合ったか否かで、従業員と会社の距離の分岐点があるのかなと感じました。
会社と従業員の「パーパス」が重なる領域を追求
安田さん
僕も同感ですね。「私たちは何者で、何のためにこのビジネスをやって、世の中にどういう価値を提供したいんだ」みたいな話に戻らざるを得ない。最近だと“パーパス型”という言葉もありますが、何のためにビジネスをするのかをもう一度突き詰めていく。
そしてその価値が伝わることの結果として売上があるんだという思考方法を、泥くさく追求していかざるを得ないと思うんですよね。
篠田さん
会社は会社でパーパス(目的)があり、これを理解してもらえるようにコミュニケーションを取るんですけど、同じぐらい大事なのが一人ひとりのパーパス。
その会社であろうがなかろうが、一人ずつの「人としてこうありたい」とか、逆に「こういうことは許せない」っていう想いがあって。個人としても、そこがクリアになっていると「だから自分は、この会社で働いているんだな」とか「会社の価値観と私の大事にする価値観が、重なっているから良いんだな」って再認識しやすいんですよね。
つまり、会社と個人双方の話で、会社のパーパスがハッキリしていても個人のパーパスがぼやけていると、物理的になかなか同僚と会えないときに、迷子になりやすい。「そもそも自分って何がしたいんだっけ」がわからないと。
安田さん
個人のキャリアについても、その会社でのフレームだけではなく、まずその人がどうなりたいかがあって、その過程で今働いているこの会社ではどのような成長機会を見つけていくのか、そういう考え方にシフトしだしています。プロアクティブな一人ひとりの自立心が、組織の原動力になっているのかなと思いますね。
篠田さん
5年前に『ALLIANCE』という書籍を監訳したんですが、今まさに安田さんがおっしゃったようなことが中核にあるんです。企業と個人、それぞれ成し遂げたいことがあるなかで、それが合致する領域で「この仕事をあなたにお願いしたい」と託すと、逆に個人としても「その仕事を全うすることで自分にこういう経験が積める」とか「スキルを磨ける」など、互いに明確になって信頼関係をつくりやすい。
「なんとなくずっと居てほしいな」とか「なんとなくずっと雇ってほしいな」だと、お互いぼんやりしちゃって、信頼関係を揺るがすんだろうなと思います。
薮田
「なんとなく居てくれるだろう」って会社が一方的に期待してしまうことはありそうですよね。
価値観さえ合っていれば、あとの方針は自主性に任せる
篠田さん
一方で「経営陣の方針がハッキリしないんですよ」って話も聞くんですが、そうだとしても、そのチームの中で勝手に決めちゃっていいと思うんですね、自分たちの権限の範囲内で。「この支社やこの営業所では、少なくともこうやりたい、あなたはどうなの」って議論は、ある程度できるんじゃないですか。
安田さん
各部門のキックオフミーティングで「我々の行動指針をつくろう」「いやいや、そもそも会社の方針ってどうなんですか」みたいな議論になっちゃって進まないとか。そんなの、自分たちでやっちゃえばいいんですよと思いますね。
薮田
ラッシュさんは、各部門にお任せしているんですか? 各店舗の店長さんがどのようにされているのか伺ってみたいです。
安田さん
ラッシュが大事にしている価値観の根底に「倫理的にビジネスをする」ことがあるので、そこさえ押さえられていれば、その先はどのような方針を持っても良いとしています。
薮田
各店舗ごとに自由ということですか?
安田さん
自由というか、ラッシュがお客さまや世の中に感じて欲しい価値をクリアにし、それを実現するためであれば、そのプロセスは各店長にお任せしています。そこをお任せするほうが、エンゲージメントが上がり、パフォーマンスも上がるだろうと。よく“上司がいない店長”なんて話をするんですが、80店舗あってもエリアマネージャーをあえて置かないようにしている。
これまで多店舗展開のビジネスに携わってきてエリアマネージャーが基本的にいたので、僕もラッシュへの転職時にその話を聞いて、驚いたんです。でもラッシュは広告を打たないので、販売スタッフがお店でお客さまに価値を伝えるのが、最大にして唯一の方法であって、マネジメントのレイヤーが増えると、やらされ感が出て、ブランドの価値がちゃんと伝わらなくなってしまう。
もちろん大変ですよ、80店舗すべてが直接本社とつながるわけですから。俗に言う「チェーンオペレーション」なんてことも、なかなかできませんし。それでもエンゲージメントは高いんじゃないかなと思いますね。
薮田
自主性を各店舗に持ってもらうと。
安田さん
いわゆる“オーナーシップ”や“アントレプレナーシップ”ですね。本当に大変ですけど。
篠田さん
今のお話、すごく共感するんですよね。やっぱり自らやろうって思ったときのパワーが解き放たれる感覚って、いったんそれを見たり経験したりすると、もう戻れない。
安田さん
解き放たれる、そのとおりですね。
篠田さん
それを経験したことない人だと、指示したほうが良いんじゃないかとついつい思っちゃうんだけど、そんなことはないんですよね。もちろんプラスマイナスは状況次第ではあって、特に非常時はある程度中央集権にしないと統制できないと思いますが。でも、消費者の心を動かすことがビジネスの中核にある場合は、平常時は自主性に任せることが大切だと思います。
安田さん
リテールじゃなくても、営業でもなんでもお客さまと接する現場は色んなことがあるので本当に大変で、ラッシュにとって今のやり方が100%うまくいっているんだとは言い切れません。でも、店舗ごとの自主性に任せたからこそ良かった瞬間は確かにあって。
薮田
企業が一方的に管理するよりは、自主性にまかせて、従業員との関係性をつくっていくことが、これからのマネジメントのヒントなのかもしれませんね。
自己理解で「利き能力」を活かせる仕事を探す
篠田さん
自主性に任せるっていう観点では、一人ひとりが自己理解を深めていくことも、必要になってきているなって思います。
薮田
自己理解とはどのようなことでしょうか?
篠田さん
自分はこういうことがイヤなんだとか、こういうことが嬉しいんだとか。これは極端な例ですけど、私はエールに入社する前、1年ちょっとブラブラしていて、なんにもしていなかったんですけど、良かったんですよ。
何かって言うと、組織に所属していないのは初めてで、人になんにも頼まれないんですよね。なんにも頼まれていないし、一銭にもならないんだけど、組織や人に興味があるからそのような本を読んだりnoteを書いたりすることで、「自分はこんなことに興味があるんだな」って感じられて。みんなはもうイヤだイヤだと苦労していることでも、自分にとっては苦じゃないことって、きっと自分の持ち味だと思うんですよね。
安田さん
僕がいつもする例え話なんですが、利き腕で字を書くと、サラサラとスムーズに書ける、なんなら字を書いていることを意識しなくたって書ける。当たり前ですよね。ところが利き腕じゃないほうで字を書くと、途端に時間はかかるし、うまく書けない、イライラする、早くやめたくなる。
この例のように、いかに自分の“利き能力”を見つけるかって大切。篠田さんがおっしゃったようなジャーニーによって自分の利き能力が見つかることもある。仕事探しって難しいですけど、いかに自分の利き能力を活かせるような仕事や仕事の仕方、生き方を見つけるられるかが大事だと思いますね。
篠田さん
実はちょっとしたトラップがあって、まさに今の例えを使わせていただくと、みんなが利き手とは逆で書いているから、自分も一所懸命、逆の手で書けるようにと努力した場合、「努力した」って誇りを自分の強みと勘違いしてしまうことがあるんです、本当は得意じゃないのに。
色んな方と対話を重ねていくと、「自分は努力してできるようになったことにこれだけプライドがあるのに、なんでどうでもいいと努力してなさそうな人のほうがこんなに上手なんだろう」みたいなことから少しずつ自覚が深まる。この積み重ねだなって思います。
まとめ
薮田
そろそろ時間が迫ってきたので、まとめに入っていきます。「距離ある時代のチームづくり」ということで、これからのチームづくりで大切にしたほうが良いものをそれぞれ伺いたいです。篠田さんからよろしいですか。
篠田さん
コミュニケーション頻度を増やすのは、意図的にやらないといけないんだなと。それは面倒くさいとか恥ずかしいとか言っていないで、やるメリットのほうが多いなと感じました。
安田さん
僕は最後にあった、「自分を知る、他人を知る」みたいな、自分や他人を受け入れ向き合っていくことが大切だと感じました。今日のセッションでもあったように第三者に自分のことを話すような機会を設けたり、noteを書いてみたりするのも良いと思いますね。
そして会社はそういう取り組みを奨励する、会社としても一人ひとりに向き合うことでより良いチームをつくっていく。
薮田
マネジメントサイドは1on1などのコミュニケーションの機会をつくり、相手を深く知っていくことがチームづくりとして大切で、一個人としては、自分のことを理解して、自分のことを周囲に理解してもらうようにしていくということが大切なように思いました。すごく勉強になりました。安田さん、篠田さん、本当にありがとうございました!
安田さん&篠田さん:ありがとうございました!