新たな人事システム導入時の課題と解決ポイント【三菱重工業株式会社の人事DX事例をご紹介】
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目次
昨今、「働き方改革」や「DX」など、さまざまな業務分野での業務改善が進んでおり、効率化や生産性向上に向け、企業としてどう推進すべきか検討されているかと思います。しかし現場では、これまでの業務に追われ着手が難しい状況であったり、自社にとって何が適切で、どこから手を付けていいのかお悩みの企業も多いのではないでしょうか。
2022年5月18日「新たな人事システム導入時の課題と解決ポイント」と題したセミナーにて、「大企業ならではの課題」から「企業規模を問わず経営層が押さえておくべき人事DXのポイント」について、関西学院大学 経営戦略研究科 客員教授の落合氏に伺いながら、三菱重工業株式会社 HRマネジメント部 部長の引地氏より、SmartHRを実際に導入した際のプロセスやポイントについてご紹介いただきました。本記事では、セミナーレポートをお届けいたします。
第一部:講演
関西学院大学 経営戦略研究科 客員教授/元ウォルト・ディズニー・ジャパン&アジア バイス・プレジデント/前日本マクドナルド チーフ・ピープル・オフィサー
1979年 明治大学商学部卒。同年ヤクルト本社入社、営業・マーケティングを経て、83年人事部へ。90年に日本ペプシコーラ社に人事企画本部次長として入社。92年日本ペプシコーラボトリング社に出向、リストラクチャリング、人事制度全般の改革をリード。95年から日本ペプシコーラ社人事総務本部長。98年HRマネジング・ディレクターとしてディズニーストア入社。2002年からウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社の人事総務担当責任者/バイス・プレジデント。14年1月からは日本/韓国の人事総務担当責任者を務め、ウォルト・ディズニー・アジアの成長戦略に伴い、人事面からさまざまなサポートも行った。18年6月より21年9月まで、日本マクドナルド株式会社 上席執行役員、SVP/チーフピープルオフィサーとして全社人事システムの刷新をはじめとした改革に従事。また17年より、関西学院大学で経営戦略研究科・客員教授を務める。キャリアカウンセラー、認定コーチ。
第二部:パネルセッション
- パネラー落合 亨 氏
関西学院大学 経営戦略研究科 客員教授
- パネラー引地 淳 氏
三菱重工業株式会社 HRマネジメント部 部長
- モデレーター佐々木 昂太
SmartHR プロダクトマーケティングマネージャー
第一部:講演「人的資本経営とHR DX」
人的資本経営とは
人的資本経営に至る背景
落合さん
まず「人的資本経営とは何か」、「人的資本経営に至る背景」について、簡単にお話をさせていただきます。日本経済が長期的な低迷期に入り、いわゆる失われた30年という期間になっております。なぜ日本の企業経営が停滞しているのか多くの要因がありますが、主な3つの要因を取り上げてみたいと思います。
1. 労働生産性
落合さん
労働生産性は、生き生きと働くということに大きく関わります。いわゆる「社員エンゲージメント」なのですが、日本はOECDの中では最低に位置しています。これだけでも人事が取り組む課題としては非常に大きいと思います。
2.Diversity & Inclusion(※)
落合さん
ダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(包括)とは、個々の「違い」を受け入れ、認め合い、生かしていくことを意味します。私はここに、公平にダイバーシティを扱うという意味合いを入れるため、「エクイティ(Equity)」というワードを加えた「ダイバーシティエクイティ&インクルージョン」も課題のひとつとして取り組むべきと思っています。
(※)性別、年齢、国籍などが違う人々に、それぞれの個性や能力に応じて活躍できる場を与えよう、という考え方で、女性の活躍推進、外国人雇用の促進、高齢者の活用、障害者の活躍推進、LGBTへの理解促進、多様な働き方制度の整備などが含まれる。
3.コロナの状況の中で働き方改革
落合さん
3つ目が昨今のコロナ禍における働き方改革です。「テレワークをどうするか」「テクノロジーをどう駆使するか」など、人事の取り組みでいうと大きな課題だと思います。昨今、企業経営者、大学の研究者、コンサルティングの方々、経済産業省も人にもっとフォーカスをあてて、人を通していろいろな経営課題を解決していくという潮流になってきています。これを総称して人的資本経営といってもいいのではないかなと思います。
経営戦略と人材戦略の融合
落合さん
次に参考記事として、日本経済新聞に掲載された「人材確保『機動的戦略を』経産省、企業向け報告書公表へ」から、一部抜粋して解説したいと思います。大元は経産省リポートによるもので、文中にある「報告書」は、一橋大学名誉教授の伊藤邦雄氏が座長を務めた有識者会議の議論をまとめたものを指します。
経済産業省は日本企業に対し、経営戦略に合った人材を確保するための人材戦略を重視するよう求める有識者報告書を近く公表する。経営目標の達成に向けて社内外から能力のある人材を機動的に集める欧米などに比べて、日本企業は人材面の戦略が弱いと判断。デジタルトランスフォーメーション(DX)などを急ぐためにも従来型の人材活用の見直しを訴える。
(中略)
報告書は「多くの企業で人材戦略と経営戦略が連動できていない」と指摘。人材を人的資本ととらえ、社内人材の育成だけでなく、外部からの獲得も通して「状況に応じて必要な人的資本を確保する考え方へ転換する必要がある」と訴える。(中略)日本では従業員が熱意を持って意欲的に仕事に取り組む指標である「エンゲージメント」が世界的に見ても低い。
(中略)
報告書は人材戦略の具体策として(1)経営戦略上どんな人材が必要か分析する(2)多様な個人の経験や専門性を活用する(3)個人の学び直しを支援する(4)従業員がやる気や働きがいを感じる環境を作る(5)働き方を多様化する――などを挙げる。取締役会で自社の人材戦略を監督・モニタリングをする必要性にも言及する。
落合さん
この記事の要点はズバリ、経営戦略に合った人材を確保するための人材戦略を重視せよ、です。すなわち「経営戦略と人材戦略をきちんと融合させるべき」というメッセージになります。キーワードとしてもう少し挙げるなら、下記の5つになります。
- 経営戦略上、どんな人材が必要かを分析する
- 多様な個人の経験や専門性を活用する
- 個人の学び直しを支援する
- 従業員がやる気や働きがいを感じる環境を作る
- 働き方を多様化する
これをさらに人事的な表現にして「新人材戦略5つのポイント」と題し、次のスライドでまとめています。
新人材戦略5つのポイント
落合さん
図の上段にある「企業戦略のもと人材ポートフォリオを練り直す」は、どういう人材が必要なのかを明確にし、それをどうやって会社の中に確保するかいうことになります。さらにいうなら、「企業戦略がまずありき。企業戦略にあわせて人材を」ということです。右中段にある「社内外に開かれた多様なキャリアパス」ですが、日本の大企業の場合、長期雇用が前提で一社終身みたいな形になっています。そのため、社外に向けてのキャリアパスを作りにくい現状があります。優秀な人材を確保するためには、こういったことも必要だと思います。
右下にある「デジタル時代に求められるスキル」は避けて通れないものです。ヒューマンタッチの中でも、「ハイタッチ」「ロータッチ」「デジタルタッチ」の3つに分けてものを考えたらいいのではないかと思っています。
・ハイタッチ:濃密な少人数、ないしは1on1でコミュニケーションを取るような場
・ロータッチ:大勢の中で人と人が会話しながらコミュニケーションを取るような場
・テックタッチ:デジタル技術を駆使してのコミュニケーションの取り方
これからの時代、何がハイタッチ、ヒューマンタッチとして残るのかを見極めて、デジタル化をどんどん進めていくことが大事だと思います。左下は、いわゆるノーレイティング(社員をランク付けしない新たな人事評価制度のこと)です。人が人を格付けするという人事の仕組みは時代遅れになってきていると思います。これからは「個人の強みにフォーカスしながら、その人材をどうやって育んでいくか」が、企業として求められている姿勢だと思います。
左中段の「人材の多様性を促進し、経営の複雑性に対応する」は、先ほど申し上げたダイバーシティエクイティ&インクルージョンです。SDGsの中でも非常に重きを置かなければならない国連の共通ゴールのひとつで、企業は避けて通れない課題でしょう。
人的資本経営の考え方
落合さん
次に、人的資本経営について整理してみました。私の考え方の定義付けとして、「人的資本経営とは、中長期の企業戦略と、組織・人材戦略を整合化させ、企業の持続的成長とコーポレートガバナンスを確実にするために最も重要な考え方」としています。これを方程式化したものが下記になります。
落合さん
人的資本経営とは「中長期の企業戦略」×「組織戦略+人材戦略」。人材戦略は、広義の意味でタレントマネジメントと呼んでもいいかもしれませんが、私はここにアセスメントという概念を強く入れたいと思っています。そこで、「Talent Assessment Planning」と表現しています。この点線で囲われているブロックが、企業戦略を実行して成果あるものにするための、大事なエンジン部分だと思います。これを裏付ける経営学的な見地からお話しますと、米国の経営学者、アルフレッド・チャンドラーは、「組織は戦略に従う」という有名な言葉を残しています。
つまり、「戦略があって、その戦略にアライン組織と戦略というのは相互に作用するメント(連携)するために組織を作る。組織の構成要素である人材をその中で確保する」という考え方です。また、イゴール・アンゾフという経営学者は、「いくら立派な戦略があったとしても、組織のケイパビリティ(能力)、それからタレントが十分に育っていなければ、戦略の実効性というのは実現しづらい」と述べています。これはどちらも正しい考えだと思います。すなわち、組織と戦略というのは相互に作用するもの、そして「組織があり戦略をどう実行するか」「戦略を実行するためのタレントをどのように確保するか」ということであり、とても重要なことです。
人事に与えられた課題は多く、重要度も高まってきていますが、企業の経営課題を解決するための仕組みが「人的資本経営」であり、今後重要になってくると思います。
佐々木
落合さん、ありがとうございました。ここまでのお話は、事業環境の変化から、企業の人事戦略をトップマネジメントと各事業部の責任者と共同しながら、人事が三位一体で推進する必要があることがポイントのひとつだったと思います。そして、人的資本経営を進めていく中で、人事の皆様としては「HR DXの進め方」が難しいと感じているところもあると思います。次は、そのあたりのポイントについてうかがいます。
HR DXをどのように進めていくか
落合さん
HR DXのロードマップを見ながらお話します。
HR DXロードマップ(1)
Phase1
「Admi.の領域」は、DXを担当している人事担当者の現状です。デジタルのシステムを使って何とか解決していきたいという願いがあり、これが実行されると、煩雑な作業がなくなり生産性の向上はあり得ると思います。
Phase2
「人材のデータや教育データの整理」は、HRダッシュボードの構築と表現しています。人的資本経営では「ガバナンスの強化」も求められます。このHRデータがピープルプラットフォームとして整理され、経営に有効活用されることが「ガバナンスの強化」につながると思います。そして、実効性を評価するために「人の指標化」を作る必要があります。トレンドとして、企業は株主に対して公開・説明するような時代が間もなく来るでしょう。いわゆる会計指標になりますが、そこでやはりHRDXが必要になってきます。
Phase3
「人材戦略・データの構築」の作業は、「Talent Assessment Planning」や、「Organization Development」を戦略にあわせてテンプレート化して、フレームワークを作ることになります。これがあって「人的資本経営の進化」という目的が達成されると思います。開発する人事は非常に大きな役割を担うことになります。
HR DXロードマップ(2)
落合さん
経営的見地からHRDXを見ると、Phase3からPhase2の真ん中ぐらいのところで、戦略的に人事を考えて欲しいという期待値があると思います。HRのデジタルトランスフォーメーションを進めるにあたっては、ぜひPhase3のところまでスコープに入れながら、ロードマップを作っていただけたらなと思います。
佐々木
人的資本経営が企業価値としても評価される時代が来るというのは印象的でした。その重要性を経営と人事と現場のマネジメント層で認識して、ロードマップでいうPhase3を見据えた人材戦略データを活用していくということが非常に大事というのは勉強になりました。
人事部門の課題とチャレンジ
佐々木
HRDXを推進していく際は、社内外のステークホルダーに開示して、巻き込みながら進めていくというお話が非常に印象的でした。さらに、HRDX推進における課題とチャレンジについてうかがいます。
落合さん
1枚のスライドで全体をまとめてお話します。冒頭で紹介した経産省のリポート(通称:伊藤リポート)の繰り返しになりますが、1から5までの提言を人事用語に落とし込み整理しました。
1.経営戦略上どんな人材が必要か分析する
・経営戦略を実行するための組織づくり
OD(Organization Development)というもので、「どういう領域で、いつ、どれぐらい費用をかけて組織をつくったらいいのか」ということを指します。
・キーポジションへ配置する有能な人材(タレント)候補者の選定
これは、サクセッションプランニング(特定のポジションに対する後継者育成計画)とよくいわれている内容です。人材配置や育成をどのようにするのか、最適な人間がいない場合、外からどうやって人材を獲得するのか、いずれも戦略的に考えていかなければいけないと思います。
・マネジメント・パイプラインの構築
ここは非常に大きいテーマだと思います。最近これはトレンドになりまして、日本の大企業の場合、指名委員会の設置というのが取締役の中でも増えてきました。まさにそこですね。トップマネジメントを含めて、マネジメントのパイプラインをどう構築していくのか、とても重要です。
2.多様な個人の経験や専門性を活用する
これは特に、女性や外国人の活用ということも表しています。ダイバーシティエクイティ&インクルージョンをどう推進していくかということです。
3.個人の学び直しを支援する
最近、メンバーシップ型からジョブ型への移行促進がよくいわれています。時代の流れとしては、仕事も勤務地も限定して、それでいてプロフェッショナルに仕事をできるような人材を、どうやって会社の中でリテンションしていくかは重要な局面になってきています。したがって、個人の学び直しを企業が本人の意向に沿って支援していくことが重要になってきます。やり方としては、キャリアカウンセリングや専門スキルのトレーニングなど、また1on1のコーチングなども考えられると思います。
4&5.従業員のやる気や働きがいを感じる環境を作り働き方を多様化する
・社員エンゲージメント
これは先ほどもお話しました社員エンゲージメントをどう上げていくかという重要な課題です。旧来型の人事制度やポリシーではなく、従業員の期待に添う、そして時代の流れや企業戦略に沿う形で新しいものに変えていかなければいけないと思います。
・テレワーク
企業経営者を対象に「テレワークは有効か有効ではないか」というアンケートをある企業が行ったところ、「有効ではない」という回答のほうが多かったそうです。やはり仕組みの問題、ポリシーの問題、それからテクノロジーの問題があるのかなと感じました。これをどう解決して、社員の働きやすさやワーク・イン・ライフにつなげていくか、人事がどのような新しい仕組みを考えていくのか、これも大きなチャレンジであり、課題だと思います。
第二部:パネルディスカッション「三菱重工業株式会社の事例に学ぶ全社DX推進の軌跡」
佐々木
第2部では、人事DXの事例として三菱重工業株式会社 HRマネジメント部部長の引地淳さんに加わっていただき、実際にどのような形で人事DXを推進されているのか、落合さんを含めてセッションをお届けします。
人事システム刷新を検討することになった背景・課題
佐々木
人事システム刷新を検討することになった背景・課題から、どういったところから取り組まれたのか、また現在進めているプロジェクトについて教えてください。
引地さん
エグゼクティブサマリーの図を見ながらお話します。左上「2003年にSAP/HRを導入」と書いています。三菱重工単体で導入したものですが、この保守期限が迫ってきていたことが人事システム刷新の最大の動機となります。また、グループ全体で見た場合のHR関連業務の効率化とDXが進んできたということで、新しい仕組みを取り入れることも狙いとしています。
導入したシステムの全体の構成図
引地さん
この図が今回導入したシステムの全体の構成図です。弊社グループでは、2010年の半ばぐらいから事業会社化を進めており、三菱重工単体と事業会社間との間での出向を中心とした人事交流がかなり増えました。それぞれのグループ会社では個別に人事システムを入れていたことから、人事異動の手続きを効率化しようという背景がありました。
そこで、グループ共通の標準規則の導入とHRシステムの統合ということに取り組みました。グループ全体も含めた人事管理と給与支給などのHR関連業務全般をBPO化するということで、全体での効率化を狙ったというのが今回の取り組みになります。
佐々木
ありがとうございます。人事DXとして大規模なシステムの導入を進めていかれたとのことで、グループ横断で進めていったプロジェクトの体制についてもうかがえますか。
プロジェクト体制
引地さん
プロジェクト体制は、主要グループ会社から数名のメンバーにも参画してもらい体制を組みました。定期的なミーティングを開催して、情報共有や意見交換を密に行うなどコミュニケーションを取りながら進めました。また、HR側としましては、業務委託先の会社も組み入れて、共同プロジェクトの体制としました。
引地さん
こちらが導入スケジュールの図です。全体で20か月のプロジェクトになります。要件定義は左中央ぐらいにありますが、この前段階としてフィジビリティスタディ(フィット&ギャップ)の確認を約6か月、時間をかけて行いました。次に、システム選定で約4か月の期間をかけているので、ここまでで約10か月要しています。
そして、要件定義、開発、テスト、データ移行に進み、約1年半の期間をかけました。経営陣に対しては、いったいどれぐらいのコストがかかって、どれぐらいの期間で回収するかということを説明して、投資計画も踏まえた上でプロジェクトをスタートさせました。
大規模のシステム導入のプロジェクト
佐々木
同様の大規模なシステム導入のプロジェクトを経験されている落合さんにもうかがいたいと思います。人事責任者としてROI、リターンの考え方について、どのように進められましたか。
落合さん
経営陣にとってDXは投資です。ROIがどれぐらいになるのかは、一番の関心事です。株主への説明も必要になります。そのあたりのことも押さえつつ、経営としてきちんと握っていることがとても大事ではないかと思います。引地さんへの質問です。お話をうかがい、大規模な会社全体のデジタルトランスフォーメーションの一環として、HR DXはその中のパートとしてあったというふうに理解しました。
いわゆるIS、情報システム部門のサポートと人事の関わり合い、位置付けなど、そのあたりはどのような感じだったのでしょうか。
引地さん
弊社の場合は、我々HR側がシステム開発においては主導してやっております。ベンダー選定をするとか、どういうグループ会社をスコープに入れるとかですね。今回はグループ標準規則の導入もあり、そういったソフト面では我々の主導となりました。
一方でシステムの導入となるとICT部門との協業が必要となります。今回のプロジェクトはICT部門を共同プロセスオーナーという位置付けで、並列的な関係で進めています。特に弊社グループの場合は情報セキュリティ対策というのが非常に重要で、そのあたりのインフラ整備についてはICTに主導してもらいました。先ほど申し上げたHRが主導することのほかに、ICT側で主導してもらう部分もあり、そのような関係で進めました。
課題を解決するにあたって、SmartHRが検討候補に入った理由
佐々木
次に、三菱重工業さま全体、グローバルでの人事DXを進めていく上で、SmartHRが検討候補に挙がった背景や導入理由を教えていただけますでしょうか。
引地さん
弊社グループにおける課題は、現業部門で会社のPCが直接使えない環境にあるメンバーがいること、そして、直接会社のLANに入ってこられない社外出向メンバーがいることでした。また、弊社グループの場合は、情報セキュリティ対策の関係で、個人デバイスを社内のLANに接続するということが一切禁止されております。そのような課題感や環境の中で、個人スマホで給与明細を閲覧できる仕組みというのを考えてきたというのが背景にあります。
選定の観点は、給与明細の閲覧以外にどのような付加的な機能があるか、コストや拡張性、ユーザーインターフェース、基幹システムとの親和性、導入実績があるかどうか、あとはベンダーさんの信頼性、事業継続性という点で検討しました。
佐々木
先ほど要件定義もありましたが、そういった機能面や、さまざまなデバイスへのアクセス、セキュリティ、他社システムとの親和性と、総合的に判断されてSmartHR導入に至ったというところでしょうか。
引地さん
おっしゃるとおりです。基幹システムと合わせての導入実績があるというところも非常に重要な観点でした。検討における観点をいくつか申し上げましたが、さまざまなサービスを比較して優劣を付けて、総合的に判断した結果、SmartHRを選びました。
選定の主眼は給与明細の閲覧でしたが、実際に導入して雇用契約の機能、PDFをダイレクトに社員に届けるという仕組みがあり、簡単な操作で実行可能であること、スマホ利用を前提とした場合のユーザーインターフェースのデザイン、充実性や拡張性といった点も検討メンバーから評価されました。
SmartHRのサポート体制
佐々木
人事DXを進めていく上で、SmartHRのサポート体制も少しお手伝いできた部分があったかと思いますが、このあたりについてもうかがえますか。
引地さん
この図は、システム全体を導入して5か月後に採ったアンケートの結果です。SmartHRを使用して12月の年末調整を行ったあとの評価になります。
佐々木
ありがとうございます。アンケート結果では非常に満足度が高いようですが、このアンケートはSmartHRで配信されたのでしょうか。
引地さん
そうです。SmartHRのサーベイ機能を使ってアンケートを行いました。従来だとPCを持っていないメンバーとは紙でのやり取りでしたが、スマホで回答してもらうことができました。三菱重工のシステムとは別に、クラウド環境、しかもSaaSベンダーという環境で、現業部門や出向者が直接利用するというのは、今までなかったことです。
SaaSベンダーは、「決められた枠組みの中で解決してください」というコミュニケーションをされる印象がありましたが、システム導入を進めていく中、SmartHRの担当者の名前がすぐ浮かぶほど非常に深くやり取りをさせていただいたという印象を持っています。それぐらいサポート体制としてはしっかりやっていただいたので、人事システム刷新に安心して取り組むことができました。
システムを導入する上で、失敗しないポイントや解決方法
佐々木
さまざまな事例をうかがう中で、結果や成功したポイントについてお話をいただく機会は多いですが、システムを導入していく上で、失敗しないポイントにも触れたいと思います。まず、外資系企業などで人事責任者としてシステム導入の経験をされた落合さんに、お話をうかがいたいです。
落合さん
たとえばアメリカの場合、年末調整はありません。税金は個人がきちんと処理して納めるべきというのが前提にあります。日本の場合、源泉徴収とか給与の支払いに関しては非常に複雑な仕組みを持っています。人事の仕組みに関しましても、日本では「正社員と非正規」、すなわち「無限定と限定」があります。そんなことがあるので、一気通貫でシステムを導入しようとしても、できるところとできないところが出てきます。
ということで、ローカルに根差したベンダーを選定しながら、現実的なソリューションを図っていくこと、そして、どうやってグローバルの仕組みと結びつけていくかが大事になってくると思います。また、グローバル企業であっても「グローカル」といわれているように、ローカルとグローバルをきちんと分け、「どこまでできる、できない」を精査しながらアプローチしていくことが必要です。
佐々木
三菱重工さんでもグローバルの仕組み、システム、国内でのSmartHRをそれぞれ労務システムとして活用していく、このあたりも要件定義で重要視されたポイントだったのでしょうか。
引地さん
そうですね。ご指摘のとおり、給与計算における税金の処理や社会保険などは、グローバルプラットフォームでの処理が難しいので、ベンダー選定も「国内は国内」ということで進めています。結果的に、そこで作った人事データをグローバルプラットフォームのほうに持っていくという流れで、我々のシステム構成は作られています。
横断PJTの先に人事として、見据えている戦略や実現したい未来
佐々木
最後のテーマです。「横断プロジェクトの先に」というところで、今後、三菱重工さんとして、人事DXなどで見据えているビジョン、戦力、実現していきたい点などを教えて下さい。
引地さん
先ほどの導入計画はWave1で、現在Wave2の開発が進んでおり、Wave3以降も取り組みを開始しております。現時点でWave5まで、約2年半の期間で導入計画を策定しており、BPOを拡大することによるグループ全体のHR業務の効率化、生産性の向上ということに取り組んでいます。
またHR部門の組織再編の中で、MHIグループにおける人事戦略の検討を主導する部門(HR改革推進室)をつくりました。各事業所のHRのメンバーも、HRBP、ビジネスパートナーという位置付けで、これから事業部門と並走して戦略的パートナーとしてHRを担っていくという位置付けにしています。また、HRDX推進グループを設立し、HR関連のDX推進とともに、経営戦略や事業戦略を踏まえたHRの戦略を取り進めていくという専門部隊も作っております。
佐々木
システムの導入に対して、体制の作り方、進め方、ポイント、いろいろ参考になるお話をうかがえました。最後に落合さんから総括をお願いします。
落合さん
第1部で「人的資本経営」についてお話ししましたが、各企業がどんどん成長する、そして日本が元気になるために、人的資本経営というのはとても大事な考え方だと思います。これを推進するために基盤となるのがHRDXになります。データやシステムがあって初めて、企業のガバナンス、そして会計の指標がきちんと整い、人的資本経営の可視化ができます。ということで、まだHRDXに着手されない企業の皆さんは、ぜひ会社の成長のためにも、どんどんDXを推進していただきたいなと思います。
佐々木
ありがとうございます。本セッション、以上とさせていただきます。これからもSmartHRとして皆様のDXをご支援できるよう精進してまいりたいと思います。本日はお2人ともお時間をいただきましてありがとうございました。