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優秀人材を惹きつける経営理念と企業カルチャーの創りかた【セミナーレポート】

公開日

この記事でわかること

  • 企業における異動の重要性​
  • 企業を成長に導くチャレンジとは
  • 優れたリーダーの育成に必要なこと
目次

会社を作るのは、一人ひとりの人材です。優れた人材が力を発揮し、イノベーションを起こし続ける。そんな強い組織を作るには、どうすればよいのでしょうか。SmartHRでは日々組織づくりに取り組む経営層の皆さまを対象に、ユニークなスピーカーを招いた少人数制のオフライン交流会を定期的に開催しています。

今回は、世界的なエクセレントカンパニーであるウォルト・ディズニー・カンパニーで代表と人事トップを経験した2名をお招きし、企業を成長させる経営や人事のあり方や具体的な実践方法についての対談を行いました。本記事ではそのエッセンスをお伝えします。

第一部(ポール氏講演)のレポートはこちら

  • 登壇者ポール・キャンドランド 氏

    元ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社 代表取締役社長

    約30年にわたり日本と米国において企業経営に従事し、事業成長を牽引。ペプシコ社での10年以上にわたる勤務を経て、ウォルト・ディズニー・カンパニーにて約20年間のキャリアを過ごす。ディズニー社では、ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社の代表取締役社長を10年、ウォルト・ディズニー・アジアのプレジデント職を3年務め、その間日本およびアジア市場におけるディズニーの飛躍的成長をリードした。ディズニー社を退社後はロサンゼルスを拠点とする教育テクノロジー企業にてCEOを務め、現在は日本企業(ヤマハ株式会社、電通グループ)にて社外取締役として活動する傍ら、関西学院大学のMBAコースにて国際ビジネスにおけるリーダーシップ論の教授職に従事。

  • 登壇者落合 亨 氏

    元ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社 バイス・プレジデント

    1979年 ヤクルト本社入社、営業・マーケティングを経て、83年人事部へ。90年に日本ペプシコーラ社に入社、人事制度全般の改革をリードした。95年から人事総務本部長。98年HRディレクターとしてディズニーストアに入社。 2002年からウォルト・ディズニー・ジャパン(株)の人事総務担当責任者(バイスプレジデント)。2014年 日本/韓国の人事総務担当責任者を務め、ウォルト・ディズニー・アジアの成長戦略に伴い、人事面からさまざまなサポートも行う。2018年 日本マクドナルド株式会社に人事本部上席執行役員/シニア・バイスプレジデントとして入社。現在は関西学院大学院 経営戦略研究科客員教授。キャリアカウンセラー、認定コーチ。

  • モデレーター倉橋 隆文

    株式会社SmartHR 取締役COO(最高執行責任者)

    2008年、外資系コンサルティングファームマッキンゼー&カンパニーに入社し、大手クライアントの経営課題解決に従事。その後、ハーバード・ビジネススクールにてMBAを取得。2012年より楽天株式会社にて社長室や海外子会社社長を務め、事業成長を推進。2017年7月、SmartHRに参画し2018年1月、現職に就任。

ワンカンパニーの実現を目指してはじめたタレントマネジメント

対談するポール氏と落合氏を収めた写真

倉橋

本日はご登壇いただきありがとうございます。ウォルト・ディズニー・ジャパンで代表と人事トップという重要なポストを経験されたお2人に、企業を成長させる経営や人事のあり方についてお伺いしていきます。まず、お2人が入社されたあと、ウォルト・ディズニー・ジャパンの事業はどのように成長していったのでしょうか?

落合さん

1998年、私はディズニーのストア事業を手がけるディズニーストア株式会社に人事責任者として入社しました。入社してまず驚いたのが、人材に対する期待値の高さでした。アメリカ人だった当時の社長は、日本で得た功績を手にアメリカに帰るために、自分の後任を探していました。アメリカのストアと議論しながら人材戦略を決めたものの、後任となる人材が日本にはなかなかいなかったんです。そんななか、やっとのことで見つけたのがポールさんでした。あなたの力が必要なんだと熱心に口説いて、入社してもらったのを覚えています。オペレーションのプロとしてマクドナルド出身の人材を迎えたのも、同じ頃のことでした。

オペレーションと組織、そしてポールさんの戦略思考。私たちはこれらが三位一体となったビジネスを目指していました。しかし、当時の日本ではたくさんのディズニー関連会社がバラバラに運営を行っていて、そんなことは望むべくもありませんでした。ウォルト・ディズニー・ジャパンはこうしたバラバラ状態を収束させ、ディズニーというブランドのシナジー効果を出すために設立された会社です。

その動きをさらに加速させるため、2007年にポールさんが社長に就任。僕も2002年にウォルト・ディズニー・ジャパンの人事総務担当責任者(バイスプレジデント)になっていたので、人事トップとして社長のポールさんをどうバックアップするかということに腐心していましたね。

説明する落合氏の写真

倉橋

ディズニーのように大きなグループだと、文化も風土もバラバラの関連会社同士が連携するのはかなり難しそうですよね。まずは何から着手すればいいのでしょうか?

ポールさん

ワンカンパニーを作るために一番よいのは、人の異動です。会社間で人材が行き来するようになれば、グループ全体もおのずとまとまってくるからです。しかしこれが、一筋縄ではいきませんでした。私もウォルト・ディズニー・ジャパンの社長になったとき、会社全体で人を異動させようとしたんです。すぐに各子会社のリーダーを集めて、来週までに異動させる人材のリストを持ってきてほしいと伝えました。

しかし次の週になっても、いっこうにリストが上がってきません。確認してみると、リーダーは自部門の優秀な社員を異動させたくないと考えていました。一方、社員にヒアリングしてみると、他部門の仕事にも興味があるので他部門への異動もチャレンジしてみたいということでした。このようにグループ間の異動には、難しい面が多々あります。ただ、それでもやってみる価値のある挑戦だと思っています

落合さん

こうした全社的な異動計画において、私は具体的な配置案を考えていました。今話題のタレントマネジメントを、ディズニーでは20数年前に行っていたわけです。異動候補者のリストを作ってもらい、私が適切な配置を考えていく。それがだんだん進化していくと、後継者の育成計画や補欠要員の候補者選定までできるようになっていきました。当時のディズニーは部門が多く、各部門長が皆バラバラに事業責任を持っていました。そのなかで、部門横断的な人事をどう実現するかというチャレンジを続けていたんです。

「プーさんは世界に1つ」の常識を覆した、チャレンジと情熱

説明するポール氏の写真

倉橋

ワンカンパニーを実現するために、人事面でもさまざまなチャレンジをされていたんですね。一般的に企業規模が大きくなるほど、未知へのチャレンジに抵抗が出てくるものだと思います。しかし、ウォルト・ディズニー・ジャパンではチャレンジの精神が生き続けていました。その秘訣は何ですか?

ポールさん

リーダーが並外れた情熱を持っていることでしょうか。私もウォルト・ディズニー・ジャパンの社長時代、情熱をもって数々の挑戦をしました。日本でのディズニーストア展開には、多くの壁があったからです。その最たるものが、世界各国と日本との顧客層の違いでした。

ディズニーストアは世界各地にありますが、そのほとんどが6〜7歳の女の子向けに作られています。一方で日本のディズニーストアのメイン客層は、大人の女性。ほかの国のディズニーストアをそのまま日本にインストールしたのでは商品や内装とお客さまのニーズが合わず、失敗に終わることは明白でした。

たとえば、くまのプーさんというキャラクターがいます。当時世界のディズニーストアで販売されていたプーさんのグッズは、日本の女性たちから「かわいくない」と不評でした。「日本の女性はもっと丸みがあって、やさしげなプーさんが好きなんだ」と気づいた私は、日本独自のプーさんを作ることにしました。サンプルデザインを女性たちに見せると、大好評。これなら売れるという手ごたえがありました。

しかしこのアイデアをアメリカの本社に持っていくと、答えはNO。「世界にプーさんは1つしかない」と言われたんです。私はあきらめきれず、それからも毎月本社への直談判を続けました。このプーさんは、必ず日本人に受ける。そうすれば、売り上げも大幅に上がるという確信があったからです。

風向きが変わったのは、訴えを続けて4か月が経ったころのことでした。私がいつまでもあきらめないので、本社も根負けしたのでしょう。ついに「そこまで言うならどうぞやってください」と言われたんです。グッズの販売をはじめるやいなや、売り上げはバーンとアップ。1つのアイデアが成功したことで、社員からも次々とアイデアが出てくるようになりました

笑顔で対談するポール氏と落合氏を収めた写真

倉橋

4か月とはすごいですね。意思決定者が知らない景色を、現場の方々は知っていたのだと思いました。そしてミドルマネージャーであるポールさんがチームのために情熱を持って訴え続けられたことが、成功につながったのだと思います。これができるかできないかが、イノベーションやクリエイティビティが発揮される会社とそうでない会社を分けるのかもしれません。とはいえ、失敗にもめげずに当初の情熱を持ち続けるのは難しいですよね。リーダーや社員のモチベーションを保つために、何か工夫はしていましたか?

落合さん

仕事への情熱やモチベーションは、エンゲージメントとも言い替えられます。ディズニーでは長年、社員に対してエンゲージメント調査を実施していました。その結果を見ると、入社時には高かったエンゲージメントが勤続年数とともにフラットになってきていて、継続的にエンゲージメントを向上させる必要性を痛感していました。

さらに分析を進めると、いったん落ち着いたエンゲージメントを持ち直させる、共通の要素があることに気づきました。それはリーダーがいかに戦ってくれるか、自分を見てくれているか。職場に仲間がいるかどうかといった要素です。こうした要素を大切にしていたからこそ、ディズニーはリーダーや社員の情熱を保ちつづけられたし、チャレンジをあきらめない強い組織になれたと思っています。

対談を進行する倉橋氏の様子を収めた写真

倉橋

矢面に立って戦ってくれるリーダーがいると、やっぱりチームは強くなるんですね。こうした優れたリーダーを育てるには、どうすればいいのでしょうか?

ポールさん

誰でも強いリーダーになれる、と言う人もいます。でも僕はそうは思いません。リーダー向きの性格って、やっぱりあると思うんです。そういう人を見きわめて、チャンスを与えることが大切だと思います。対外的にも「この人はリーダー候補だ」とわかるくらいにはっきりと周囲と差をつけて、ポテンシャルを花開かせるんです。ときには失敗しそうな局面をフォローして、成功まで導くことも必要です。

一度成功の味を知ると、誰しもやる気が出るからです。リーダーがやるべきなのは、そのためのサクセスストーリーを描くこと。その人の最初の成功体験をデザインするぐらいの気持ちでサポートして、気にかけてあげるとよいと思います。

チェンジはチャンス。その意識が日本企業の未来を変える

笑顔で対談するポール氏、落合氏、倉橋氏の3名を収めた写真

倉橋

会社を成長させるためには、チャレンジが必須だということですね。その点で最近の日本企業では、未知へのチャレンジやそこからくるイノベーションが起きているように見えますか?

落合さん

私はまったく見えないと思います。日本が「守り」の姿勢のままでいると、2040年くらいには大きな壁に突き当たるだろうという危機感を持っています。構造的な問題でいうと、日本の人口は2008年をピークに減り続けています。なかでも少子高齢化は深刻なスピードで進んでおり、生産年齢人口は減る一方。もうまもなく限界社会を迎えるという状況のなか、労働生産性まで先進国内で最低レベルですから、不安しかありません。ではどうするかといったら、やっぱり生産性を上げるしかない。しかし、そのためには相当な投資が必要だと思っています。

倉橋

ポールさんはどうお考えでしょうか。 アメリカと比べて、この30年で日本企業のチャレンジ意識は変わってきたように見えますか?

ポールさん

少し前と比べると、ずいぶん変わってきていると思います。ただ、30年前に比べるとハングリー精神がなくなっているような気がします。当時はちょうどバブルの頃で「日本はアメリカに勝ったよ」「日本は常に新しいチャレンジをしているから、あなたも勉強しなさい」と言われたものです。

でも最近ではそういった機会がめっきり減り、日本全体が「守り」に入っているような空気があります。そのせいで、日本企業本来の強みであったイノベーションや変革が起こりにくい状態になっているのかもしれません。しかし、チェンジ(変革)がなければ、新しいチャンスはやってきません。まずはリーダーがチェンジのための挑戦を続けて、イノベーションが次々と起きる組織づくりのきっかけを生み出す必要があるでしょう。

説明するポール氏の写真

倉橋

まさにおっしゃる通りですね。ポールさんは社外取締役としてさまざまな日本企業の経営に関わっておられますが、日本企業がチャレンジする環境を作るためには何が一番大事だと思いますか?

ポールさん

進んで難しい道を選ぶことでしょうか。楽な道を選ぶのは簡単ですが、それでは成長できないと思うんです。難しい道とは、自分で判断してチャレンジする道のことです。社員が心置きなくそういう道を選べるよう、「うまくいかなくても自分がバックアップしますよ」「失敗してもつぎのチャンスを用意しますよ」という姿勢を示すのが、リーダーの役割だと思っています。

倉橋

日々の行動でチャレンジを促しながら、部下の失敗はサポートしてくれる。そんなリーダーがいれば、チャレンジへのハードルはかなり下がりますよね。スタートアップで成功している企業も、とんでもなく強いパワーを持ったトップがチャレンジし続けています。不安定な情勢のなかでもチェンジを仕掛けてきたからこそ、大きく強い組織になれたのでしょう。チェンジはチャンス。経営者はこれを念頭に置いてリーダーシップを発揮することが、これからの時代の組織づくりのヒントになりそうです。

第一部のポールさんによる講演に引き続き、同じ会場で開催された本対談。対談のあいだには、参加者の皆さまとの意見交換もたびたび行われました。対談終了後にはドリンクと軽食をいただきながらの懇親会が開催され、会社や登壇者・参加者の垣根を超えた交流も。なごやかな雰囲気の中で歓談ははずみ、会場は時間いっぱいまで盛り上がりました。

第一部(ポール氏講演)のレポートはこちら

参加者様と意見交換をする落合氏の写真

お役立ち資料

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