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【聴くが共創を生む】従業員エンゲージメントと企業価値向上の秘訣【SmartHR Connect レポート】

公開日

この記事でわかること

  • 「聴かれる」ことを通して、従業員の認知が変化し、エンゲージメントが向上
  • 「聴く」ことで、異なる価値観を受け取り、文脈をつなげたコミュニケーションができる
  • 多様性を力に変える「石垣」のような組織の実現には、「聴きあう」ことで他者理解をすることが大切
目次

“人事・労務DXをリアルの場で加速させる”をテーマに6月13日(火)に実施されたオフラインイベント「SmartHR Connect」。

エール株式会社取締役の篠田真貴子さんを迎え、「【聴くが共創を生む】従業員エンゲージメントと企業価値向上の秘訣」と題した単独講演を行っていただきました。

登壇者 篠田 真貴子 氏

エール株式会社取締役

社外人材によるオンライン1on1を通じて、組織改革を進める企業を支援している。2020年3月のエール参画以前は、日本長期信用銀行、マッキンゼー、ノバルティス、ネスレを経て、2008年〜2018年ほぼ日(旧・東京糸井重里事務所)取締役CFO。退任後「ジョブレス」期間を約1年設けた。慶應義塾大学経済学部卒、米ペンシルバニア大ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大国際関係論修士。(株)メルカリ社外取締役。経済産業省人的資本経営の実現に向けた検討会委員。人と組織の関係や女性活躍に関心を寄せ続けている。『LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる』『ALLIANCE アライアンス――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』監訳。『デュアルキャリア・カップル――仕事と人生の3つの転換期を対話で乗り越える』日本語版序文。

本講演以外にも「SmartHR Connect」のイベントレポートを公開中です。人的資本経営・エンゲージメント向上などのお悩みの解決にぜひお役立てください。

「聴かれる」体験を1on1セッションで提供

本講演では「聴く」という行為が従業員エンゲージメントを高めるうえで、マストのスキルであることを皆さまにお伝えできたらと思います。

サービス「YeLL」の利用がある場合は、ない場合と比較して、従業員エンゲージメントの変化がプラス側に多かったことを示したグラフ

まずはじめにお見せしたいのが、弊社クライアントの一部門におけるデータです。我々のサービスである「社外人材に話を聴いてもらう」1on1 のセッションに参加してもらった前後で、従業員エンゲージメントがどのように変わったかを示しています。

従業員エンゲージメントとは、組織という「システムの状態」であり、従業員の主観・感情を持って測れます。

黄色がセッションを受けた47名、灰色が受けていない183名で、棒グラフの高さが数か月間のビフォアアフターを示しています。上に伸びていれば従業員エンゲージメントはプラス、下ならばマイナスに転じていることを意味します。

スライド下部に黄色枠で示す4項目がとくに伸びていることがおわかりでしょうか。こうした傾向はほかのクライアントの調査結果でもみられます。

篠田さんの講演の様子

調査結果について、我々は「聴かれる」ことを通して、自身の業務・職場について認知が変わった結果、エンゲージメントが向上したと捉えています。具体的には話を聴いてもらったことを通して、自分のさまざまな内面が言語化されたのです。たとえば「自分はこういうことを大事にしているから、この仕事に燃えるのか」といった考えが、明確に意識されるようになったのだと考えています。

「聞く」と「聴く」の違いを意識

それでは、「聴く」という行為とはそもそも何かを詳しく話していきます。一言で「きく」といってもさまざまなバリエーション、意味があります。まず取り上げたいのが、そもそも「きいていない」状態。私もかつては(今もあやしいですが)、あまり人の話に耳を傾けていませんでした。

30代のころ働いていた欧米の外資系企業では、会議でだれかが話しているところに割り込んで、自分の主張をきっぱり言うと褒められる職場環境でした。次に自分が何を言うかで頭がいっぱいになってしまい、人が話している内容が頭に入ってこない、という場合もありました。これでは「きく」ことができる環境ではありません。

さらに、「きいていない」事例のひとつとして、私が監訳した『LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる(日経BP)』という書籍のなかには、「ずらす対応」というものがありました。これは人が話しているのに、すぐ自分の話に主題をずらしてしまうというケースです。これでは「きいている」ことにはなりません。

「きく」ために望ましいのは「受け止める」対応。「えっ、そうなの!?」「結局どうなったの!?」と相手の話をメインにし続ける態度です。

このように「きいていない」「きいているようで、きいていない」という状況があります。一方で、相手の話にしっかり耳を傾ける「きく」行為にも2種類があります。

もんがまえの聞くと、みみへんの聴くの違いを図示したもの

左図は、「with Judgement」と題して、「聞く」という漢字をあてています。普段私たちが、一生懸命「きく」という行為を実践したときにあてはまる状態です。この場合、内心は聞き手の考えがあり、相手の話に照らし合わせて「そうだね」「違うな」と判断をしています。そうした感情は知らず知らずのうちに、聞き手の表情や身振り手振りに現れていきます。

一方で右図のように、「without Judgement」として、自分の考えをいったん留保する方法もあります。ここでは「聴く」をあてており、これこそが本講演のテーマです。

これは話し手が持論を述べたのに対して、聴き手が「そういうお考えなんですね」「もうちょっと聞かせてください」と、とくにジャッジをせずに「聴いて」いる状態です。聴き手はもしかすると、話し手とはまったく違う考えを持っているかもしれません。しかし「聴く」とは、その判断をいったん脇に置く方法なのです。

業務・職場の気付きは学びの質向上にも

ここで補足しておくと、「聞く」と「聴く」について、どちらがよい・悪いという話はしていません。両者は場合によって、使いわけが重要といえるでしょう。たとえば「話す」という行為でも、皆さんは会議での話し方、プレゼンテーションのときの話し方、ご家族と一緒にいる場合の話し方などを自然に変えていらっしゃるかと思います。

一般的に会話する両者の考え方が一致していれば、左側の「with Judgement」の「聞く」のほうが、話し手はより強い共感が得られ、話が弾むでしょう。

一方で私が今回、講演のテーマとした「聴く」で得られる共感は限定的といえます。しかし「聴く」は、個人と組織のパフォーマンスを高めるうえで、実に多大な効果があるのです。大きなメリットとして、異なる価値観を受け取って、ほかの人に橋渡しができる点があげられます。

私たちは仕事をするうえで、社外の取引先のみならず、社内の従業員同士においても相手の意図を汲む行為が欠かせません。しかし人それぞれ価値観は違い、目的に応じてやりとりされる情報や意思決定も部署によって違います。相手の肯定的な意図を信じる「聴く」態度をとることが、異なる文脈どうしをつなげるコミュニケーションにつながります。

さらに、「聴かれる」話し手にもメリットがあります。冒頭でも述べたとおり、業務・職場について新たな気付き、経験学習に結びつけられる点です。ここで気付きについて、もう少し深掘りしたいと思います。

コルブの経験学習モデルを図示している。このモデルでは、経験、観察、概念化、実践の4要素を循環的に繰り返すことで学習を進められることを示す。

「コルブの経験学習モデル」という理論があります。これは経験からどのように学んでいくかを概念化して整理したサイクル図です。

この図において、仕事のなかで意識的に気づけなかったことは、たとえ経験しても学びのもとになりません。しかし、じっくりと「聴いてもらう」ことで、サイクル図のなかでも黄着色の部分にある「何が起きたのかな?」「どういう意味なのかな?」といった概念化や、捉え直しができる可能性があります。

すると再び同じ経験をしたら、そこから学べる要素が増えたり、学びの質が上がったりする場合があるのです。

自己理解で物事をポジティブに捉えられる

「聴かれる」ことは話し手の価値観の言語化にもつながります。実際にエールのセッションを受けた方の事例を紹介しましょう。画像に示すのは、セッションにて社内では言いづらい感情を述べていただいた、大手企業の中間管理職の人の事例です。

例としてエールのセッションを受けた中間管理職の方の20週間における変化を図示したもの

この方は上司の指示に疑問を抱いているほか、部下からは厳しい意見を述べられるなど、上下関係の板挟みにある状態でした。

セッションにより「聴かれる」ことを通して、自分の辛さの源が「孤独感」だと言語化されました。さらにこの方は、その辛さと本音を上司に話されたのですね。そうしたら上司の人は思ったよりも傾聴してくれて、その後は仕事がやりやすくなったそうです。

一方で、部下の方からは相変わらず「うちの課は風通し悪いですね」と言われましたが、今度は「正直に言ってくれてありがとう」と感謝の気持ちが芽生えたのです。部下の突き上げに対し、以前は孤独だと思っていたのが、今度は感謝の気持ちに変わる。このような結果は「自分の根底にある問題は孤独感なので、他者が意見を述べてくれたならば、むしろ人とつながるチャンスだ」と気が付いたためでしょう。

「聴かれる」と人の考えはより柔軟に

また、「聴かれる」ことで自身の思い込みから開放される場合もあります。『THINK AGAIN(三笠書房)』という書籍に、非常にわかりやすい事例があったので引用します。

この本では「Motivational Interviewing(動機面談)」という強いエビデンスに支えられた手法が紹介されています。依存症の治療や企業の組織変革などにおいて、欧米を中心に活用されているそうです。

事例として、医療現場で「子どもに予防接種を打たせたくない」と強く信じている母親が出てきます。でも医師は公衆衛生の観点から、子供に予防接種を受けてもらいたいわけですね。医師は面談の場を設けて、母親を説得するのではなく、彼女の話をずっと「聴く」と判断したのです。とくに「予防接種についてどういう考えなのか」とか、「その考えはどこから来ているのか」に耳を傾けます。

篠田さんの講演の様子

医師は最後に「あなたとは予防接種に関して考えが違うのですが、少しだけ話を聞いてもらっていいですか」と切り出します。そして「あなたが産んだお子さんに予防接種を打たせるかどうかは、あなた自身のご判断です。どちらを決めるとしても、親として最善を思ってお決めになっていると、よくわかりました」と話すのです。

すると母親は、かなり高い確率で「やはり予防接種を打ちます」と決断するのだそうです。人間は考えが違う人から説得されると、かたくなにガードが上がってしまうものです。一方で賛成してもらわなくとも、自分の考えがいったん受け取られたというだけで、少し心にゆとりができて、違う考え方も受け取ってみようと思うようになるのです。これが人のおもしろいところですね。

企業において部下が「会社の方針がよくわからない」との意見を述べた場合でも、動機面談のように話を聴いてもらえる場があれば、より柔軟な考えになるかもしれません。ひいては、従業員エンゲージメントの上昇につながる可能性もあるでしょう。

参考:アダム・グラント(2022)『THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す』(三笠書房)

「聴きあう」ことで組織の多様性を力に変える

最後に「聴きあう」ことの重要性にも触れましょう。多くの企業は管理職の聴く力について、課題感を持って対策をされています。しかし私は、全従業員の聴く力の引き上げが極めて有効だと考えています。

米Googleが、社内でパフォーマンスの高いチームは、ほかのチームと比較してどのような違い・特徴があるのか定量的に調査したそうです。その結果、「メンバー間の話す量が均等である」ことに加え、「非言語コミュニケーションに敏感なメンバーである」とわかりました。

話す量が均等であるならば、メンバーそれぞれはほかの人が話している時間をどのように過ごしていたのでしょうか。非言語コミュニケーションに敏感なチームなので、お互いにそっぽを向いていたというケースは考えにくいでしょう。メンバーの雰囲気や表情をなんとなく感じながら、チームとして機能していたと推察できます。

つまり、パフォーマンスが高いチームは、実は互いに「聴きあって」います。よくいわれる「心理的安全性」のもとになったのは「聴きあって」いるチームだったのです。

これまでの組織イメージが再現性・連続性を重視していたのに対し、これからの組織イメージは創造性・独創性が期待される

現代ではGoogleを含む「GAFA」に代表されるように、ワクワクするといった思考や、人々が憤りを感じる感情・価値観を解決するような事業課題が重要視される時代になってきています。

そうした世界においてはそれぞれ形の異なるメンバーで構成され、違いを鍛え、その多様性を力に換えていく「石垣」のような組織が求められていきます。すると、従業員一人ひとりのレベルでは、自分がどのような形をしているかの「自己理解」が必要になるでしょう。さらに周りがどのような形をしているかという「他者理解」をし、企業としてどのような在り方を目指すのか考えることで、初めて効果的なチームを組めます。

他者理解・自己理解をするためには「聴きあう」行為が不可欠です。これにより高まっていく従業員エンゲージメントは、いわば石垣を組むための「のりしろ」といえるでしょう。まず「聴く」から始め、解像度を上げ、対話をしていくことで、企業も人もそれぞれのポテンシャルを大いに発揮できると思います。

お役立ち資料

あなたの組織は対応できている?「心理的安全性」を低下させる3つの問題

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