読む、 #ウェンホリ No.40「コントロールしたい気持ちとの向き合い方」
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ラジオ書き起こし職人・みやーんZZさんによるPodcast「WEDNESDAY HOLIDAY(ウェンズデイ・ホリデイ)」書き起こしシリーズ。通称「読む、#ウェンホリ」。
今回のゲストは、精神科医の名越康文さん。テレビ・ラジオのコメンテーターとしてだけでなく、映画評論や漫画分析、最近はYouTubeでの発信も行うなど多方面で活躍しています。今回は、そんな名越さんをお迎えして「“思いどおりにならない”を楽しむゆとりは、どうしたら生まれる?コントロールしたい気持ちとの向き合い方 」をテーマに話します。
1960年、奈良県生まれ。精神科医。相愛大学、高野山大学、龍谷大学客員教授。専門は思春期精神医学、精神療法。近畿大学医学部卒業後、大阪精神医療センターにて精神科救急病棟の設立、責任者を経て、1999年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。著書に『「鬼滅の刃」が教えてくれた 傷ついたまま生きるためのヒント』(宝島社)、『SOLOTIME~ひとりぼっちこそが最強の生存戦略である』(夜間飛行)『【新版】自分を支える心の技法』(小学館新書)、『驚く力』(夜間飛行)ほか多数。「THE BIRDIC BAND」として音楽活動にも精力的に活動中。公式サイト http://nakoshiyasufumi.net/
朝になったらリセットして、また始める
堀井
名越さんに伺いたいんですが。他人をコントロールしてしまうという状況って会社のなかでよくあるかなと思うんですが。無意識でやってる人も多いかと思います。コントロールしがちな人の特徴って、ありますか?
名越
コントロールをうまくできてる人はそれでいいのかなとも思うんですよ。だから、お互いに民主的にやりたいっていう人は、目標を絶えず一致させること。で、たぶんね、朝になって「昨日の続きだ」という人もいると思うんですけど、精神医学とか心理学とかをやってる立場で言うと、朝になったらもう真っ白にして、その日からまた始めるのがいいです。
堀井
へー! ありがとうございます。いい言葉を聞きました。なるほど!
名越
もういっぺんスタートから始まるんです。
堀井
すごい大事だと思います、それ。やっぱり昨日、一昨日のことがもう悶々としたまんま、またスタートするから「悶々スタート」なんですよね。
名越
そうなんですよ。そうするとね、どっちももう、気持ちが絡め取られてるんですよ。
堀井
そう。なんか変な偏見とか見方がついちゃっているから。「どうせ、今日もそれでやるんでしょう」みたいな。
名越
ネガティブな気持ちでもそれに乗った方が楽な感じがするんですよ。予定調和の方が人間、楽ですから。今日は新たな始まり。ゼロからの始まりっていう。
堀井
うちは2、3年に1回ぐらい、大喧嘩をするんですけど。
名越
いいと思います。循環はいい感じやと思います。
堀井
2、3年に1回ぐらい、あるんですけれども。私と夫のいいなと思うところは、朝必ずどっちかが「おはよう」って起きるんですよ。前日にすごい壮絶な喧嘩をしても。そうすると、相手も「ああ、おはよう。コーヒー、飲む?」みたいな。そこからスタートするんですよ。それは毎回そうで。
名越
それね、達人ですよ。
堀井
そう。これ、ノロケでもなんでもなくて今、名越さんの話を聞いて。「ああ、これだからリスタートがちゃんと、ゼロから始まってるんだな」と思って。はい。
名越
すごい大事ですよね。
「節目」を会社でつくること
堀井
会社でもそうですね。
名越
みんなで一緒にちょっと朝から話をするとか、ワークをするとかっていうんですけども。そういうことは、昔はやっていたんです。ところが、コロナになってそれができなくなったでしょう? みんなで何かを共有して。「さあ、今日はもう気分を新たに」っていう、そういうリセットはすごく必要ですね。
もうとにかく心理学で一番必要なのは何かでいうと「節目」なんですよ。節目をつけるっていうことがもうもっとも重要なポイントで。ときどき、竹林に行って竹を見るぐらい、節目がとにかく大事だと。
堀井
節目を見つけるのも大変じゃないですか?
名越
どう節目をつけるかなんですよね。だから朝から冷たい水で顔を洗うっていうだけで、性格が変わったりもするんですよ。でも、ねえ。昔はなんか「みんなで一緒にラジオ体操をしましょう!」とか、あったじゃないですか。昭和は。
堀井
でもそれ、合っているなって思って。今、1周回って思いました。
名越
みんな屋上で体操とか、していたでしょう? ああいう……もちろん、嫌々はダメですけど。なんかそういう節目を会社でもつくるのはいいことかなって。
堀井
どこかの、その新しいIT企業みたいなところで最初、集まってスプーンリレーみたいなことをしてて。「なんだ、この会社?」って思ったんですけど。でも、だからそれも楽しいですよね。
名越
「同調性」っていいますけどね。相手とタイミングを合わせるのって、楽しいんですよね。貴族の蹴鞠みたいなもんですよね。あれも、もしかしたら殿上人が息を合わせるためにやっていたのかもしれませんよね。
堀井
いやー、そうか。節目でそうやってちゃんとリセットしていくっていう。感情を次にもっていかないっていうのは、あるかもしれないですね。
名越
だから会社の行事とか、大事なんですよ。会社でバザーをするとかね。あるいは夏祭りとかね。実はすごく大事で。
堀井
運動会とか「ええっ?」って言っちゃいましたもん。「やるんですか?」って。
名越
たしかに、たしかに。あまり暑いときは危険ですけど。涼しいときにね。無理がない程度にリセット。それで「みんな集まれ!」じゃなくてもいいんですよ。5人とか6人でいいので。なんかみんな、同意の上でやれたらすごくいいですね。
部下に媚びるのも「相手をコントロールしたい」現れ
堀井
なるほど。上司や管理職として仕事をスムーズに進めたり、相手の成長を促すために部下の働きを導くことも……やっぱり「コントロールはなしね」と言いつつも、意識的に導くことって求められたりするのかなとも思うんですが。
たとえば、部下に優しくしてるとなめられちゃうとか。業務が混乱してくるとか、言うことを聞いてくれないとか。実は、コントロールしないとまずいマイナス面もありますよね?
名越
いや、これは難しいですね。要するに結局、言葉は悪いけど「媚びる」っていうことじゃないですか。媚びるということは、相手をヨイショしてやっぱりコントロールしようとしてるんですよ。媚びるっていうのもひとつの強権発動なんですよ。
だから「対等である」っていうことは、相手が何を考えてるかっていうことを理解すること。その理解をするのには、ちょっとした勇気が必要ですよね。
「こいつと話すと長いかな」とか「変なことを指摘されないかな」とかって守りに入ってると、なかなか腹を割れないので。やっぱり、媚びないで部下と正面を切るためには「よし! ここは話を聞こう」と。一旦、腹をポンと叩いて、腹を据えるっていうことも2、3か月にいっぺんぐらいは必要なんじゃないですかね。
堀井
まあ昔はね、本当にそれこそ情で訴えたりとか、バサッといったりとか、いろんなパターンの上司がいて。
名越
得意技がね、あったけど(笑)。
堀井
ありましたよね。いろんなパターンの方がいらっしゃいましたよね。ですけどね、今はやっぱり両方向の気持ちを考えてとか、部下の気持ちを考えてとか。私も管理職になったときに相当、勉強したんですよね。
名越
ああ、そうなんだ。
堀井
部下にかける言葉とか、いろんなものが割と細かく決められていて。よしとされるものがあって。管理職も言葉の選び方とか、繊細に選び取らないといけないので。それは……。
名越
そうですよね。やっぱり3か月にいっぺんぐらい真っ白な気持ちで相手の話を聞く。そういう時間は必要ですよね。たとえ30分でも。
堀井
まったく言うことを聞かないとか、ちょっと斜に構えているとか。そういう社員に対してはどういう心掛けが適切というか、ベターだと思いますか?
名越
僕もいろいろ聞いたんですけど。初めから閉ざしてる人はしばらく放っておく。それで本当に困ったときに、「ケツを拭いてやるよ」っていうことですよ。汚い言葉ですけども。
そういう度量を見せて、こんなことを言うたら失礼かもしれませんけども、相手は頭を打つかもしれない。それで打ったときに、ちゃんと話し合おうみたいな。「泳がしておく」って言ったらあれですけど。そういうことも必要みたいですね。
グッドタイミングを見極めるために、部下を見て・知ること
名越
「人間を扱うときに一番大事なことは何か?」っていうとね、僕はある苦労した落語家さんとこの間、話をしたんですよ。その人がね、「僕の座右の銘は……」って。落語家ですよ? なんか四字熟語とか出てくると思うじゃないですか。臥薪嘗胆とか何でも。「僕の座右の銘は、グッドタイミング」って言っていて。これね、僕ね、「深いな!」って思って。
堀井
ああ、でも本当にそうだなー!
名越
このタイミングを見るというのが、やっぱり上司の上司たる度量ですよね。「よし、こんな話をしてやろう!」とか。でもね、それはタイミングなんですよ。
堀井
わかります。
名越
そのタイミングを見れるように、つまり流れを見えるようになる……それが、上司じゃないんですかね。
堀井
同じ言葉でも、同じ本でも、差し出されたタイミングによって、受け取り方は全然違いますもんね。
名越
そうそう(笑)。「くずかごに放ったろか!」っていうときと「ああ、もう一生大事にします!」っていうときと……。
堀井
ありますね! だからそれを見極めるには、やっぱりその部下のこともちゃんと見てあげなきゃいけない。よく知らなきゃいけない。
名越
それをじっと見るっていうか、じっと見てるとコントロールしたくなるじゃないですか。端の方で見ていて、グッドタイミングで「じゃあ、ちょっと今日、話をしないか?」っていう。
会社の人間関係は、距離が近すぎて悩みやすい
堀井
さあ、仕事の人間関係……その「距離を置く」というのもちょっと関連してるかもしれないんですけども。人間関係、ちょっとドライにした方がいいんじゃないかな、なんていう視点もあるかと思うんですけど。
名越
はい。それは僕もそう思います。僕、ずっとね、機会があって。養老孟司先生と1年間、ずっと対談してたんですけども。
堀井
ご本を出されてましたね。
名越
本当にね、養老先生はそういう意味では一般的に言うと、ドライに見えます。でもね、そのね、結構遠いぐらいの距離でよう見てはるんですよ。よく見ている。「今、調子が悪いんじゃないかな」とかね。「今、いい感じだ」とかね。もう超能力者じゃないかと思うぐらい。
堀井
どういうことですか?
名越
やっぱりね、相手を……言うたら今日のテーマですけども。コントロールしようという気がまったくないんですよ。もうまったく、人なんてコントロールできるわけがないって。でもね、ときどきね、発作みたいにポンってね。「名越くん、こうだよ」みたいにポンッと。ほんならそれがまたね、2年後ぐらいにわかったりするんですよ。だからね、一般的に見ると、とくに人間関係で悩んでる人は、うーん。そうだな。僕、思い切って言うと85%ぐらいは距離が近すぎると思う。
堀井
はい。
名越
それは、たとえば一番極端な例で言うと自分の生い立ち。自分の家庭環境が独特で。家でなにか家業をしておられると、本当にツーカーでやらなあかんでしょう? そういう家っていうのは、距離が近くて当たり前ですよね。やっぱり家庭っていうと、その家しか知らないわけですから。会社に入っても、ちょっと距離が近すぎて「ちょっと面倒くさい人やな」と一時的には思われたり。あるいは逆に、干渉しすぎたっていうようなことで失敗したりっていうことが起こってくる。
で、そのときはもうちょっと、この職場のなかで自分より距離が遠くて。「なんや、この人。省エネみたいに得しているな。でもポイントをつかんで、うまいことをコミュニケーションを取ってるな」っていう人をね、自分のメンター。「心のメンター」って言いますよね? 「この人、ちょっと勉強してやろうか」っていう人を見て。「どんなタイミングでどれぐらいの量の話をしてるだろうか?」って。もうその量とかタイミングだけ見てたらいいんですよ。「あれ? 俺ちょっとウェットすぎる」って。ほんだらね、「冷たいんじゃないか?」って……結局、自分の恐怖心で動いてたりするんですよね。
堀井
はい。周りに見られてるか、とか。
名越
そうすると、過干渉になるので。僕はどっちかっていうと、ちょっと距離が近すぎる人の方が悩みやすいような気がします。
高校野球のがんばりは、短期間だから続く
堀井
会社のなかでは、どうですか? その、ドライな人がたくさんいる会社と、ウェットな関係が割と根強くある会社と、どっちの方がチームとして、会社として……?
名越
いや、ウェット、いいですよ。これ、語弊があるかもしれないけども。たとえば高校野球とか「がんばれ! いけー!」って。でも、3年で終わるやん? 3年どころじゃない。2年やん?
堀井
なるほど! またそれもすごいいいこと聞きました(笑)。
名越
3年もないやん?
堀井
期間限定のウェットさって、ありますよね。「私達、もうお別れするのは前提だから、その期間この絆を……」っていうのはありますね。
名越
せいぜい、600日ぐらいでしょう? だからガチガチになれるんですよね。あんなん、10年やってみ?
堀井
そのウェットさがずっと続くんだったら、しんどいですね。なるほど!
名越
そう。で、利害関係がなくウェットっていうのはありえますよ。「おう、友達!」言うて一晩、飲み明かすって。ほんでまた、それぞれがそれぞれの家に帰っていくと。
だからやっぱり長続きしないといけないですよね。だからプロジェクトだって、そういう短い期間だとガーッといけるかもしれないけど。
今はね、やっぱり新規開発で新しいものを発明したり、発見したり。そういうことが多いでしょう? そうしたら、どう考えても3年以上かかるんですよ。本当のちゃんとしたプロジェクトは。そうすると、多少長距離感があった方が僕はいいのかなと。
堀井
いや、すごいいい導きでした。だから割と短時間でプロジェクトでやってしまうのはもう思いっきりウエットで、ギュッと固まって、バーン! って爆発させて。「はい、集合。はい、終わり!」みたいに。でも、ジトーッとやるのは割とドライに……(笑)。
名越
ドライに。で、「みんな、疲れてない? 大丈夫?」とかね。
堀井
湿度低めで。
名越
そう。そのとき、人間ってだいたい4種類ぐらいいると覚えておくと……4種類、ちょっと多すぎるけど。ひとつはね、すごい熱い人。「いくぞー!」みたいな。この人、すごい面倒見がいいんやけど、近づきすぎるとね、熱すぎるんですよ。このね、ガーッと熱い人。
で、もう1つは同じようにいろいろ感情を表現するんだけど。結果、好かれたいだけの人。この人はムードメーカーで。でも、実行部隊としたら、ちょっと弱いんですよ。
それとは別に、他人にばかり配慮してる人。「大丈夫? 大丈夫?」って言うてる人。こういう人は一番要になってくれるんだけど、あんまり創造力はないんですよ。ほんでこの人が「しんどいんです」って言ったら、1週間ぐらい休ませておかなあかん。人ばっかりで、自分の年休が取れないタイプ。
ほんでもう1つは、もう全然対人関係を気にしてなくて。変人。自分のやりたいことをずっとやってる人。この4種類ってね、変えようがないんです。
堀井
へー! でも、すごい思い当たる(笑)。
名越
この4種類を尊重して……ほんで全部、4種類が必要なんです。全員が「がんばれ!」って言ったら、それは短期間型でしょう? 高校野球型で。2年ぐらいで倒れるんですよ。で、全然もう人のことを気にしない人でも、まともじゃなくなるでしょう? だから、4種類とも必要で、それぞれ尊重して、その個性を大切にしている会社とか部署は伸びるなと思うんですよ。
堀井
なんかいろんなプロジェクトをする前に、ちょっと名越さんにお声を……って思いますけども(笑)。
名越
いやいや(笑)。
堀井
ありがとうございました。
<書き起こし終わり>
文:みやーんZZ
Podcast「WEDNESDAY HOLIDAY」#40の視聴はこちらから
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