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「モチベが上がらない」は悪いこと?波のある自分のまま健やかに働くには

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ビジネスの現場では「モチベーション」の高い状態が理想とされがちです。しかし、本来人間の意欲には波があり「頑張りたくても頑張れない時期は誰にでもあるはず。求められる理想を一度疑ってみることで、健やかに働くヒントが得られるかもしれません

本記事では、NewsPicksパブリッシングの創刊編集長を経て、株式会社「問い読」の代表を務める井上慎平さんにお話を伺います。ご自身の双極性障害の経験から、強さや成長を求めすぎる社会への違和感を綴った著書『強いビジネスパーソンを目指して鬱になった僕の 弱さ考』でも知られる井上さん。モチベーション信仰を解き放ち、自分らしく働き続けるための視点を探ります。

※SmartHRでは、「"働く"を語る水曜日の夜」をコンセプトに、ポッドキャスト番組『WEDNESDAY HOLIDAY(ウェンズデイ・ホリデイ)』を配信しています。本記事は井上さんがご出演された回をもとに制作しています。質問も含め、内容を再編集しています。

井上 慎平(いのうえ・しんぺい)さん

「問い読」共同創業者 / 『弱さ考』著者

出版社ディスカヴァー・トゥエンティワン、ダイヤモンド社を経て2019年、NewsPicksにて書籍レーベル「NewsPicksパブリッシング」を立ち上げ創刊編集長を務めた。担当書に中室牧子『学力の経済学』、安宅和人『シン・ニホン』など。2025年自著『弱さ考』をダイヤモンド社から出版。

その頑張り「未来からの前借り」かも?

はじめに、井上さんは 「モチベーション」という言葉をどう捉えていますか?

井上さん

 急に現れて多くの人が使うようになった言葉ですよね。モチベーションがないと感じると「自分はダメだ」と、外から怒られる以上に自分を責めてしまう。そんな特殊な状況を生んでいる言葉だと感じます。「ダメな自分だから頑張らなきゃ、モチベーションを上げているのが普通なんだから」と言い聞かせてしまうというか。

組織もモチベーションの高い状態を前提として、下がると「問題あり」と捉えがちかもしれません。

井上さん

あらためて考えるとおかしいですよね。モチベーションが高い状態は、決して「普通」ではない気がします。

僕は以前、モチベーションが鬼のように高くてバリバリ仕事をしていました。ですが、今振り返ると、あれは単なる「高揚感」だったと感じます。双極性障害の「軽躁(※)」状態で、空回りして背伸びをしている。未来からエネルギーを前借りしている感覚でした。

※躁状態より軽度だが、気分が高揚し活動的になる状態

本来、モチベーションはたまに楽しいことがあったらふわっと上がるもので維持し続けるものではない。それが僕の捉え方です。波のなかで生きるのが人間ですから。

何かに夢中になって取り組んだあとで「あのときはモチベーションが高かったな」と振り返る。最初から全力が続く状態を「常識」にしていると、たとえば介護や出産、自身の不調といった非常時に耐えられないでしょう。それは個人にとっても脆く辛い生き方ですし、組織にとってもよくない気がしますよね。

井上さんの著書『強いビジネスパーソンを目指して鬱になった僕の 弱さ考』の書影

井上さんの著書『強いビジネスパーソンを目指して鬱になった僕の 弱さ考

水をやりすぎなくても、伸び伸び育つ?

持続的に働ける環境をつくるために、企業や社会には何が必要でしょうか。

井上さん

もちろん企業も悪意があるわけではなく、株主への責任を果たすためにも成長し続ける必要があります。

一方で、人間は動物ですよね。自分が鬱になったときにいろいろ調べたのですが、脳の仕組みからしても、急激な変化や成長は人間にとって「リスク」なんですよね。でも現代の会社員たちはリスクの感覚を取り払って「成長するんだ」と自分を追い込んで働いている。

企業もモチベーションへの向き合い方を変える必要がありそうですね。

井上さん

基本的にモチベーションはコントロールできないものと認識するのがいいかもしれません

今の会社や組織を見ていると、効率やロジックを追求するあまり、個人の「ムラ」が許されづらくなっているような気がしています。「やればやるほど、よくなる」という信念のもと、部下のモチベーションを高めるための1on1が隙間なくカレンダーを埋めていく。

でも、どれほど環境を整えたからといって、必ずしも結果がついてくるわけではありませんよね。人は放っておかれたほうが伸び伸び育つこともあると思うんです。もちろん何もしないことは上司にとっても不安でしょうが、グッと堪えて「放っておく」ことも選択できるといいのかもしれません。

信頼して放っておく勇気が問われますね。

井上さん

人事施策として1on1をちゃんとやろうとするほど、「もっと改善できる」と思えてしまう。ですが、人が伸び伸びと成果を出せるのは、ある程度の「遊び」の空間があるときではないでしょうか。

「ここからはみ出さなければ自由にしていいよ」と、意図的に余白を残す。「遊び」の許容が、結果的に人が健やかにいられる場所をつくる気もします。

ゆらぐチームという「面」を育てる

組織に「遊び」を残すのは、効率を重視する組織では難しそうですね。

井上さん

ただ、ここまでお話しているとおり、隙なく整備された環境なら必ずいい成果が出るのかという疑問もありますよね。

いろいろな企業の方と話していると「ホワイトな環境でもメンタルに不調をきたす人はいる」という話を耳にします。1on1や研修が完璧に整備され、「やりたいことがあれば手を挙げてね」と選択肢が用意されている。理想的ですが、裏を返せば「すべてはあなたのやる気と自己責任」という逃げ場のない環境にもなり得るのかもしれません

本当にいい場所をつくるなら、ある程度のところで「よくする努力」をやめる。そんな逆説があるのかもしれません。

型をつくったり、ルールを揃えすぎるとマイナス面もあるのですね。

井上さん

人事評価の多くは、公平性を突き詰めたロジックで、「ちゃんとした人」を正しく評価するようにできています。でも、それだけだと「そこにいるだけで場が和む」とか「数年間に一回、とんでもない成果を出す人」が、そのままでいられる余白はなくなってしまいますよね。

組織は波を持った人間の集まりですから、本来は全体の状況が波打っているはず。今の組織運営では、そこがあまり意識されづらい気がしています。

「個」の状態だけではなく、チーム全体の波を捉える視点が必要なのかもしれません。

井上さん

組織は小さい生態系じゃないですか。僕はよく組織をビオトープ(※)に例えるんです。生態系って細かく管理はしないですよね。

※生物が自然な状態で生息できる空間

「こういう状態になれば木が生えやすい、魚も生きやすい」といった全体のバランスを1つの「円」として見る。そういう状態をざっくりと整えておくのが最善だと思うのです。

細かくモチベーション管理をするのは、いわば水をやりすぎて全部枯らしているような状態かもしれません。そこそこ望ましい状態が保たれているのかを「面」で見る。本来それくらいしか組織はコントロールできないはずなんです。

1対1の「点」ではなく、場としての「面」を見るということですね。

井上さん

もちろん1on1自体は決して悪くないと思います。ただ、上司が部下を「見る」という1対1の関係に突き詰めすぎると、結果や内面までコントロールできると思い込んでしまい、変な方向に向かってしまう可能性もありますよね。

それよりも5人、10人、50人といった「場」としてのバランスがうまくいっているかを見るほうが大事なのではないでしょうか。

本文のモチベーションを捉え直す視点についてまとめた図

「よく働く」と「よく生きる」を無理に重ねなくていい

組織に遊びを残し、波を許容するには、私たちの「働き方」そのものを変えていく必要があるのかもしれません。

井上さん

大きな話になりますが「モチベーションが命」ではなくなる時代が来る気がしています。2020年頃からその潮目が変わるのを感じていました。

今は「フルスロットルで働く」よりも、あえて「半身で働く」ようなバランスが意識される時代。無理に意欲を上げようとせず、そこから一度手を離してみることは、多くの人にとってごく自然な選択なのだと思います。

「北欧、暮らしの道具店」を運営するクラシコムの青木耕平さんは「モチベート禁止」を掲げていらっしゃいます。人間はそんなにずっと高い状態ではいられないからというスタンスです。

バリバリと高いテンションで走り続けて燃え尽きてしまうより、波があることを認める。そうすれば、親の介護や自身の不調といった「波」が来たときでも、優秀な人がやめずに長く働き続けられます。組織にとっても、そのほうが豊かなのではないかと感動したんです。

最後に、 社会全体が健やかに働ける場所になっていくためには何が必要でしょうか。

井上さん

時間軸を長く持つことが必要だと思います。今はあらゆるものが数値化され、可視化される時代ですが、個人の状態をプロットして追いかけすぎると、波がある人や、少し変わった人が弾き出されてしまいやすい。

だからこそ「見えても見すぎない」ことも大事なのではないでしょうか。数値化できるツールがあっても、あえて放っておく。時間軸を長く取らなければ、組織に「生態系らしさ」は生まれないのかもしれないと思いました。

音声版『WEDNESDAY HOLIDAY』全編の再生はこちらから

音声版では、今回の記事で取り上げた内容以外にも「モチベーション」をめぐるさまざまな話を展開しています。お時間のあるときに、こちらもぜひお聴きください。

フリーアナウンサーの堀井美香さんをパーソナリティに迎え、ビジネス・アカデミック・文化芸能などさまざまな世界で活躍するゲストとともに、個人の働き方や、組織やチームのあり方、仕事を通じた社会との関わり方などをゆるやかに語るトークプログラム。毎週水曜日の夕方5時頃に、最新エピソードを配信しています。配信中のエピソードは、各種音声プラットフォームにて、無料でお聴きいただけます。

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