1. 働き方
  2. well-working

男性育休取得率40%の実態。“長く取りづらい”の起源は明治時代?

公開日
目次

男性の育児休業取得率が2024年度の調査で、40.5%に達しました。しかし取得者の約4割は2週間未満にとどまる状況でもあります。今回は株式会社COTENで女性の社会参与に関する調査に携わられた品川皓亮さんとともに、この実態を生む構造的な問題を掘り下げます。

品川皓亮(しながわ・こうすけ)さん

1987年、東京都生まれ。京都大学法科大学院を修了後、弁護士としてTMI総合法律事務所で勤務。その後、転職・人材事業を行う株式会社LiBに転職し、キャリア支援や採用に関する新規事業に携わる。人事部門の責任者に就任するほか、同社初となる男性育休制度を立ち上げ、自身が取得者第1号に。その後、世界史データベースの研究開発を行う株式会社COTENに所属し、「女性社会参与」に関する調査プロジェクト「Gender Inclusive」に携わる。近著に『資本主義と、生きていく。』(大和書房)のほか、『日本一やさしい法律の教科書』(日本実業出版社)など。2021年より妻と子供4人と大分県で暮らす。

取得率は過去最高でも「2週間未満」が4割

2025年7月に厚生労働省が公表した「令和6年度雇用均等基本調査」によると、男性の育休取得率が40.5%となりました。これは、厚生労働省が1996年に調査を開始して以来、過去最高の取得率です。2025年4月の公表義務拡大に加え、人事・労務担当者が急ピッチで制度整備に取り組んできた成果でもあるでしょう。

一方で、同じ調査からは取得の実態も見えてきます。取得期間を見ると、女性の9割が6か月以上であるのに対し、男性は約4割が2週間未満にとどまっています

育児・介護休業法では、原則として子供が1歳になるまでの間、育休を取得できます。つまり制度上は、希望すれば誰でも一定期間の取得が可能です。それにもかかわらず、約6割はいまだ未取得にとどまっている状況です。

約6割が未だ未取得にとどまる状況を示した図

(男性の育児休業の取得期間のグラフ。最下部が令和5年度[2023年]の数値)

男性育休“取りづらい”を生む3つの構造

では、男性育休が短期取得にとどまることは、何を意味するのでしょうか。政府は「こども未来戦略」で、男性育休取得率の目標を2025年に民間50%、2030年に85%と掲げています。現状の40.5%はその道半ばであり、本当の意味での働き方改革が実現しているとは言いにくい状況です。

経営の視点からも、この問題は放置できません。柔軟な働き方を求める優秀な人材が離れていくリスクや、女性活躍推進が形だけにとどまる可能性があります。短期取得が常態化する背景には、いったいどのような構造があるのでしょうか。

令和5年版男女共同参画白書(p.111)」によると、既婚の20〜30代男性が育休を長く取れない理由は以下が上位を占めています。

  • 収入が減少してしまう…50.0%

  • 職場に迷惑をかけたくない…45.0%
  • 職場が、男性の育休取得を認めない雰囲気である…31.8%
  • 周囲からの評価に影響が出る(昇進等への影響)…21.1%
上記の結果をまとめた図

(出典)「令和5年版男女共同参画白書(p.111)- 内閣府

SmartHR Mag.編集部では、こうしたデータや複数の調査を踏まえ、男性育休が短期取得にとどまる背景に、3つの構造的な要因が絡んでいると考えました。

  1. 欠員耐性の低い組織・業務設計

業務が属人化していたり、人手ギリギリで回している職場では、ひとりが長期で抜けるだけで現場に大きな負荷がかかります。「職場に迷惑をかけたくない」を挙げた男性が45.0%にのぼる背景には、そうした組織設計の問題があると考えられます。

  1. 定常的・継続的に働ける人が有利な評価・昇進の仕組み

「周囲からの評価に影響が出る」を挙げた男性は21.1%にのぼります。即応性や継続性が成果とは別に評価に影響している職場では、育休取得がキャリアリスクになり得ると推察されます。

  1. 家計の設計が男性の収入に依存しやすい構造

「社会生活基本調査(2021年度)」によると、6歳未満の子をもつ共働き夫婦の家事関連時間は以下です。

  • 夫:1時間55分
  • 妻:6時間33分

この差が示すように、家事・育児の負担が女性に偏りやすい状況が続いており、男性が主収入源を担わざるを得ない構造が残っている可能性があります。給付金制度はあるものの、支給までのタイムラグや給付上限もあることから、家計リスクへの不安が取得を躊躇させる一因になっているとも考えられます。

男性育休が長く取れない要因の仮説をまとめた図

今回はこれらの仮説を土台に、男性育休が長く取れない構造的要因や企業がどのように介入できるのかを品川さんとともに考えていきます。話を聞き進めるうちに浮かび上がってきたのは、3つの構造の背後にある根深い問題でした。

男性育休を阻むのは、本当に職場の問題だけ?

品川さんは弁護士や人事責任者を経て、人文知にまつわる調査や発信活動に携わるなど多彩なキャリアを歩まれるとともに、ご自身も4人のお子さんを育てられていますね。ご自身も育休を取得された経験は?

品川さん

1人目のときは弁護士になってまだ1年目で、自分が育休をとるという選択肢すら浮かばなかったというのが正直なところです。その後、下の子が産まれて環境が変化する中で、ようやく育休を“自分ごと”として考えられるようになりました

何かきっかけがあったのでしょうか。

品川さん

複数の子どもの子育ての大変さを経験したのが一番大きいと思います。逆にいえば、それまでは率直にいって、自分(父親)が子育ての主体者であるという意識が持てていませんでした。また、会社で人事の責任者になったことは、大きなきっかけの一つでした。自社の人事制度を一から考え始める際、性別にかかわらず働きやすい組織にするためには男性育休も必要だと考え、新たに制度を立ち上げたんです。僕自身も、この制度を使って半年ほど育休を取得しました。

会議室でお話をされる品川さんの様子

品川さんのように育休を取得する男性は少しずつ増えた一方、短期取得にとどまっている状況もあります。この実態を、品川さんはどう捉えていますか?

品川さん

男性育休は制度としては数字上、機能しているようにみえます。けれども、世の中の空気感としては、過去と大きく変わってはいないのではないかと感じています。

制度の整備だけでは越えられない、2つの壁

編集部では、男性育休が取りづらい背景には、「(1)欠員耐性の低い組織・業務設計」や「(2)定常的・継続的に働ける人が有利な評価・昇進の仕組み」「(3)家計の設計が男性の収入に依存しやすい構造」があると考えました。この仮説について、品川さんはどう思われますか?

品川さん

おっしゃるとおり、僕も男性が育休を長く取れない、もしくは取りづらいという原因が、育休という制度自体以外にあると考えています。なかでも、家計設計が男性の稼ぎ手に依存しやすい構造が大きく影響しているという点は、とても共感しています。とくに男女の賃金格差は大きく影響していると思います。

一方で、挙げてくださった構造的要因が解消されたときに、問題がすっきり解決するとは言い切れないと考えています。大きく2つの観点からです。

1つ目は「3つの要因がクリアされたとして男性は育休を取るようになるのか」という点です。仮に組織設計や評価制度を刷新しても「育休は女性が取得するもの」という規範意識が残っているかぎり、状況は変わらない可能性があると考えています。

2つ目は「『なぜ男性育休を促進したいのか』に立ち返ると、3つの構造的要因だけが問題ではなくなるのでは」という点です。

もともと男性育休という制度は、取りたい男性が取れるようにするという目的にとどまらず、「男女が協力して家事・育児をすることで、最終的に女性の社会参与につながる」という目的のもとに生まれたはずです。

しかし実態として、私たちCOTENの調査を通して、たとえ男性が育休を取得しても、性別役割分業規範の影響で、結局は女性が家事・育児を担わざるをえない状況が残存してしまっている可能性が見えてきました。家庭内に「家事・育児は女性の役目」という性別役割分業規範があるなら、いくら取得率が向上しても本来の効果は得られないかもしれません。

会議室でお話をされる品川さんの様子

こうした考えの背景には、株式会社COTENで携わった「女性社会参与」に関する調査があります。

その調査では、どのようなことが見えてきたのでしょうか。

品川さん

この調査は「女性の労働市場参加を阻んでいるものはなにか」という問いを立て、歴史や社会学、国によって異なるジェンダーギャップに至るまで横断的にリサーチしたものです。

人類の1万年前以上の歴史を遡り、アメリカ大陸やヨーロッパ、アジア、中東などさまざまなエリアで、どのようにしてジェンダーギャップが形成されていったのかを、つぶさに調べていきました。

2年ほどの月日を費やして、「女性の労働市場参加を阻んでいるものはなにか」に対して僕たちが出した答えは「社会規範」、とくに「女性は家庭を守り、男性は外で働く」という性別役割分業規範でした。この規範こそが女性の労働市場参加を妨げる要因の本丸、いわば“ラスボス”だと考えています。

男性育休においても、この性別役割分業規範がどこから来て、現代においてどのように残り続けているのかを理解することが、問題を根本から解くための鍵になると考えています。

性別役割分業規範が生まれたのは、意外と最近?

「女性は家庭を守り、男性は外で働く」といった性別役割分業はどのように生まれたのでしょうか?

品川さん

実は、現代にみられるような明確な性別役割分業規範が確立してきたのは、日本でいうと明治時代以降です。

例えば江戸時代の武家の男性は、「家」を維持するために子育ての責任者とされ、自ら手を動かすこともありました。ある武士の日記には、妻の出産時に医者のところに行ったり、近所の女性たちに手伝いをお願いしたりしたという記述があります。また、出産後には仕事を休んで近所の挨拶まわりに出かけるほか、日常的に、赤ちゃんのおむつを替えたり添い寝をしたりすることもあったそうです。

(参考)本間寛治(1993)『幕末転勤傳 桑名藩・勘定人渡部勝之助の日記』(中央出版)

江戸時代の武家の男性が、そこまで育児をしていたとは驚きです。

品川さん

さらに、下級武士や庶民においては、一家全員で子育てに携わっていました。一家総出で働き、子育てをしなければ、とても家計が回らなかったからです。

江戸時代は農業や家業に従事する人が大半でしたが、明治時代に入ると、産業構造の転換とともに工場で働く男性が増加しました。工場勤務が農業や家業といった従来の働き方と大きく異なる点は、特定の場所に集まって仕事をする必要があるため、働く場と生活する場は分離されるところです。そのため、働く時間の合間に家事や育児を行なうことは難しくなります。結果、男性たちは家事労働や子育てのマネジメントから離れていきました。

さらに、1899年に施行された「高等女学校令」により「良妻賢母(=優秀な次世代を育てるのは母の役割)」教育が積極的に行なわれました。このような発想の影響もあり、「男は仕事、女は家庭」といった性別役割分業規範がより強固になっていきました。

ここで、私たちを悩ませている規範が生まれたのですね……。

品川さん

ただ、すぐに規範が根付いたわけではありません。

たとえば、1900年の日本における女性の労働参加率だけを見ると、かなり高い数値を記録しています。女性の教育や社会的地位という話とはまた別ですが、労働参加率だけなら他国より高かったりする。このころもまだ日本全体が豊かではなかったので、全員で働かなければいけなかったのでしょう。

(出典)『平成9年 国民生活白書』- 経済企画庁

さらに、明治、大正、昭和と国が近代化に向かっていくなかで、この性別役割分業がプラスに働く側面があったのだと思います。1900年代後半からの高度経済成長期の最中、1960年代からささやかれ始めたのが、子供が3歳になるまでは母親が育児に専念すべきという「3歳児神話」です。

上記の歴史についてまとめたCOTENのスライド

子育ての中心的役割が男性から女性に渡ったのが明治時代以降、というのは意外でした。まさに性別役割分業といった規範は社会がつくるものなのですね。

品川さん

そうなんです。そして、男性育休といった制度はこれまでの社会規範のなかで生きてきた人たちがつくっています。つまり、性別役割分業に則って社会や会社で活躍してきた人たちが制度設計をしているという現状が、日本にはあります。

難しいのは、僕も含めて内面化された社会規範に気づかない点です。いわゆる「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み・偏見)」はその典型ですね。

仮に今、道行く人に「性別役割分業的な考え方に賛成ですか?」と尋ねても、多くの人が「いいえ、賛成ではありません」と答えると思います。けれども、そうした意識は心の奥底の潜在的なところに存在するものなので、どうしても制度設計の際にその「無意識の前提」がにじみ出てしまう。

極端な言い方をすると、現在の育休制度は、昭和・平成の時代に「1日に長時間かつ、同じ会社で長きに渡って働くことで成果を出してきた」人たちが設計したものです。もし、現在のように「価値観が多様化して、さまざまな働き方がある」という前提があれば、制度の形自体がもう少し違ったと思います。

男女ともに活躍できる社会を目指すためには、そうした社会規範のもとで活躍してきた人たちの無意識の前提をどう変えていくか——どうしてもそこがポイントになってくると思います。

後編では、男性育休問題について、企業の人事・労務担当者にできることを考えていきます。

(企画/長島 啓喜、取材・文/土橋水菜子、POWER NEWS編集部、写真/横関一浩)

人気の記事