「両立」なんて存在しない?仕事と育児の“戦略的”向き合い方
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共働き世帯が増え、多くの人が「仕事と育児の両立」という高い壁に直面しています。仕事を頑張りたい、でも子育ても手を抜きたくない。そんな理想と現実の狭間で、プレッシャーを感じている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、民放初の乳幼児向け番組『シナぷしゅ』を立ち上げたテレビ東京プロデューサー・飯田佳奈子さんに話を伺いました。2児の母として「毎日が総力戦」と語る飯田さんに、プレッシャーを逃がすための“二枚舌”戦略や、育児経験をキャリアの味方に変える考え方をお届けします。
※SmartHRでは、「"働く"を語る水曜日の夜」をコンセプトに、ポッドキャスト番組『WEDNESDAY HOLIDAY(ウェンズデイ・ホリデイ)』を配信しています。本記事は飯田さんがご出演された回をもとに制作しています。

テレビ東京 制作局 プロデューサー
東京大学文学部卒業後、2011年にテレビ東京に入社。営業局を経て制作局へ。2018年に第1子を出産し、産休中に民放初の乳幼児向け番組『シナぷしゅ』を企画。2019年の職場復帰とともに番組をスタートさせる。2022年に第2子を出産。現在は2児の母として番組制作に携わっている。
仕事と育児、“両方立っている状態”は存在しない?
多くの人が直面する課題が仕事と子育ての両立です。飯田さんは現在、小学校1年生と2歳のお子さんを育てていらっしゃいますね。日々はいかがですか?
飯田さん
今は子供たちが長期休暇なので、毎日「自転車操業」というか総力戦で生きています。「バイトリーダー」のような気持ちで1か月のシフトを組み、夫や親に「何時にどこで何があるから、ここをお願い」と指令を出していますね。
家庭でもプロデューサーのような立ち回りですね。
飯田さん
大変ですが、キャリアを小休止するよりも、走らせながらの方が自分にはフィットしている感じがあります。
でも、私はそもそも「両立」という言葉自体があまりよくないと思っているんです。Instagramなどで仕事と育児の両立について相談をいただくのですが、皆さんやっぱり復職や両立に不安を感じていらっしゃる。
仕事の現場にいれば、子供のことは頭の片隅にあっても、子育てが立っている状態かというと、ちっともそんなことはありません。仕事と子育てが両方立っている瞬間なんて、この世に存在しないと思うんです。
飯田さんが統括プロデューサーを務める乳幼児向け番組『シナぷしゅ』のブランドムービー
両方が立っていないと、と思う方は多そうですね。
飯田さん
いったい誰が言い出したんでしょうね(笑)。両方ちゃんとしていなければならない理由なんてありませんし、判定する裁判官もいません。自分で「できている」と思えれば成立している。だから私は「二枚舌」というか「いい言い訳」を見つけたと思っています。
仕事を頑張った日は、育児が少し疎かになっても「今日は仕事を頑張ったしOK」。逆に仕事が思うようにいかない日は「まあ今日、育児めっちゃ頑張ったな」って。免罪符を使い分けて、自分を過大評価しながらやっていくんです。
そもそも、子供って予測不能じゃないですか。突然熱を出したり、大事なミーティングがある時に限ってお迎えの電話がかかってきて、「はい、おしまいです」という日もある。だから、変に両立させようとするより両方にいい顔をするくらいがちょうどいいんです。
「働く」と「育てる」のモヤモヤを解く処方箋
飯田さんのInstagramには、仕事と育児の両立に悩む方々からの相談が絶えないといいます。番組内では、皆さんから寄せられたリアルな葛藤に飯田さんが独自の視点で答えていただきました。
相談①:妊娠中のもどかしさと不安
「現在第一子を妊娠中です。これまで思いっきり仕事をしてきた私にとって、無理が利かない今の状況をもどかしく感じることがあります。仕事も子育ても両方、どちらも後悔なく楽しむためにどんなマインドを持てばいいでしょうか?」
飯田さん
そもそも、妊娠しているという状態自体が不安でいっぱいですよね。私が今どういうマインドで生きているかというと「目の前のことを一生懸命やる。それ以外は一旦置いておく」に尽きます。仕事の球が飛んできたら全力で打ち返す。子育ての時間だったら、目の前の球を打ち返す。
とにかく視界に入っていることだけを頑張れば、そのときの自分に胸を張れます。一瞬一瞬、「めっちゃ頑張ってる」と思っていればいい。寝る前に「あー!今日もよく生きた、偉い!」と、加点方式で自分に丸をつけてあげてほしいです。
相談②:復職前のプレッシャーで病みそう
「来月、育休から復職する予定なのですが、今から不安で不安で病みそうです。何かアドバイスをいただけますか?」
飯田さん
まず「考えない」ことですね。今はせっかくの育休中なんですから、全力で今を楽しむ。想像しているネガティブなことって実際には起きなかったりします。それに、会社員なら一人じゃない。SOSをしっかり出して、周りとコミュニケーションを取っていけば大丈夫。「自分にSOSを出す許可」を出してあげてください。
相談③:仕事も家事も100点を目指して苦しい
「4月から業務が変わり、残業が増えて仕事が追いつきません。家事は夫がやってくれて助かっていますが、私も両立を上手にやりたい。仕事を諦めたと思われたくないのが本音です。」
飯田さん
「諦めたと思われたくない」という気持ち、よくわかります。
ただこの瞬間が50:50じゃなくても、人生トータルで100点が出て「両方よくやった」と思えればいいと思うんです。独身時代と同じフォーマットでは物理的に無理が出ます。「今は育児に熱量が割かれる時期だから、仕事はこれぐらいでも絶対に100点だ」と採点基準を甘くしていいと思うんです。

育児経験は社会を生き抜く「最強の武器」になる
相談を伺って、完璧を目指しすぎないのが大切だなと感じました。
飯田さん
そうですね。私は子供を産んでから、変な理想から解放された気がします。以前は完璧主義でしたが、自分の血の繋がった子供でさえ思いどおりにならないなら「他人は思いどおりにならなくて当然だ」と思えるようになったんです。
それがプロデューサーの仕事にもすごく活きています。仕事をしているとわかり合えないこともありますが、「人には人の気持ちがあり、生き方がある。わからなくて当然」というスタンスから入っていけると、すごく仕事がしやすくなりました。
育児とプロデューサー業、どちらもマルチタスクですし、通じるところがありそうですね。
飯田さん
育児はすごくクリエイティブな仕事だと思っているんです。いわば自分の子供の人生のデザインを下書きするような作業ですよね。「どんなキャンバスにする?」「どんなテクスチャーで、鉛筆で描く?」と土台を用意するような。
実際に塗りつぶしていくのは子供自身ですが、その下地を用意するのもクリエイティブなこと。「こんな作業をさせていただいてありがとうございます」という気持ちで向き合っています。
多様な“事情”を理解し、誰もがSOSを出せるチームへ
子育てをしていると、急な呼び出しなどで物理的に現場を抜けなければならない瞬間がありますよね。チームでは、どのような仕組みでフォローし合っているのでしょうか?
飯田さん
『シナぷしゅ』のチームは子育て中のスタッフも多いので、「ごめん! 子供の呼び出しだから帰るね」というのは日常茶飯事です。お互いに穴埋めし合える空気があるので、すごくやりやすいですね。
ただ、一方で難しいなと感じた経験もあります。1人目の復帰後、まだ『シナぷしゅ』が始まる前のことです。配属先で年配の男性が多かった場で、逆にみんなが私に気を使いすぎてしまう現象が発生したんです。
よかれと思っての配慮が、逆効果になってしまったんですね。
飯田さん
そうなんです。「子供も小さいから無理しないでね」がいきすぎてしまって……。私としては「よし、復職するぞ、頑張るぞ!」という気持ちで戻ってきたのに、申し訳ないくらいに仕事に制限をかけられてしまう。「私はもっと働きたい、もっとできるのに」というもどかしさがありました。
「ホワイト企業」ゆえの悩みというか。気遣いがおおげさになりすぎて、働きがいを損ねてしまうケースですね。
飯田さん
だからこそ「自分がこういう風に働きたい」という理想のライフプランをしっかり持って、周りとシェアすることが大事だと思うんです。
たとえば、ある先輩スタッフが「子供が中学受験だから、この時期は子育てにコミットしたい」と宣言したことがありました。そうすれば周りも「じゃあその期間の負担をどう減らそうか」と一緒に考えられます。
事情をオープンにすることで、周囲も納得感を持ってサポートに回れる。チーム全体のしなやかさが高まりますね。
飯田さん
そうですね。加えて、忘れてはいけないのが「育児だけが正義」と思い込まないこと。育児中でない人にも、それぞれの事情やライフスタイルがありますよね。
子育て中の人は朝が早い人が多いけれど、他のメンバーは夜に力を発揮するタイプかもしれない。こちらが「寝かしつけの時間にチャットを送らないで」と配慮を求めるなら「寝ている早朝に送っていいんだっけ?」と、私たちも配慮を返せるといいですよね。
育児や介護といったわかりやすい理由だけでなく、誰もが見えない事情を抱えながら働いている。そんな多様さを前提に、お互いがSOSを出し合えるチームビルディングをしていきたいなと思います。

音声版『WEDNESDAY HOLIDAY』全編の再生はこちらから
音声版では、今回の記事で取り上げた内容以外にも「育児と仕事」をめぐるさまざまな話を展開しています。お時間のある時に、こちらもぜひお聴きください。
フリーアナウンサーの堀井美香さんをパーソナリティに迎え、ビジネス・アカデミック・文化芸能などさまざまな世界で活躍するゲストとともに、個人の働き方や、組織やチームのあり方、仕事を通じた社会との関わり方などをゆるやかに語るトークプログラム。毎週水曜日の夕方5時頃に、最新エピソードを配信しています。配信中のエピソードは、各種音声プラットフォームにて、無料でお聴きいただけます。






