1. 働き方
  2. キャリア

読む、 #ウェンホリ No.49「停滞は悪なのか。ペースダウンすることの意義」

公開日
目次

西友、グッチ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ラッシュジャパンなど、さまざまな有名企業で人事を担当していた安田さんと話す今回のテーマは、 『停滞は悪なのか。ペースダウンすることの意義』。

今の社会では、企業も個人も成長を続けることがポジティブだとされています。しかし、常に右肩上がりで成長を続けることは難しく、時期によっては停滞やペースダウンを経験することもあるはず。「キャリアのペース配分は自分で選択できるべき」と語る安田さんと、働くうえで起こる停滞の意義について一緒に考えていきます。個人の停滞を見つめることで見えてくる、これからの企業に必要な考え方とは?

ゲスト安田雅彦(やすだ・まさひこ)

株式会社We Are The People代表取締役。1967年生まれ。1989年に南山大学卒業後、西友にて人事採用・教育訓練を担当、子会社出向の後に同社を退社し、2001年よりグッチグループジャパン(現・ケリングジャパン)にて人事企画・能力開発・事業部担当人事など人事部門全般を経験。2008年からはジョンソン・エンド・ジョンソンにてSenior HR Business Partnerを務め、組織人事や人事制度改訂・導入、Talent Managementのフレーム運用、M&Aなどをリードした。2013年にアストラゼネカへ転じた後に、2015年5月よりラッシュジャパンにてHead of People(人事統括責任者・人事部長)を務める。2021年7月末日をもって同社を退社し、以後は自ら起業した株式会社 We Are The Peopleでの事業に専念。現在、20数社のHRアドバイザー(人事顧問)を務める。ソーシャル経済メディア「NewsPicks」ではプロピッカーとして活動。

堀井

今回のゲストは前回に続きまして株式会社We Are The People代表取締役、安田雅彦さんです。安田さん、今回もよろしくお願いします。今回のテーマは、「停滞は悪なのか? ペースダウンすることの意義」です。

前回、話したように企業も個人も成長を続けることはポジティブなこととされています。しかし、常に右肩上がりで成長を続けることは難しく、停滞したり、場合によっては低迷することも。とくに日本においては、経済成長の鈍化や人口減少などが課題として挙がることもちらほらです。しかし、そのまま停滞することや低迷することは許されないのでしょうか? このあたり、安田さんと一緒に考えていきたいなと思っております。

キャリアにおいて停滞期は誰にでもある

安田

まあ、キャリアのことについて言うと、やっぱりしゃがむ時期はありますよね。僕も30年、ずっとやって。それなりに、経歴を語られるといいところしか言わないのでピカピカ、日が当たるところだけを歩いてたように思いますけど、よくよく見てみると、本当にモチベーションが上がらない、エンゲージしていない時期もありましたし。

でも、やっぱり大事なことは「今はそういう時期なんだな」とか。あとは振り返ってみたときに「あれはああいうときだから俺、停滞してたんだろうな」みたいな風に……なんていうか、専門用語で「メタ認知」っていうんですか? ちょっと客観的に認識しておくというのは大事かなと。

無限な下り坂なんていうものはないわけで。キャリアについて言えばある程度、停滞期。失速する時期はあるかなと思いますよね。

堀井

前に私もここでちょっと話したんですけど。やっぱり産休とか育休とかが私にはあったわけですね。そうすると、どうしても育児に時間を割かれて、思うように仕事ができないっていう。
そんなとき、上司から言われてすごく救われた言葉が「今は仕事、やらなくていいよ。その代わり、子育てがある程度落ち着いたら、会社の業務にガバッとシフトしなさい。だから最後に帳尻が合えばいいですよ」っていう。

安田

それはすごくいいアドバイスですね。

堀井

そういう風に言ってくださった人がいて。そのときに本当に救われたんですよね。「今は、ごめんなさい。4時に帰ります。だけど、子供が中学校ぐらいになったらバリバリ復帰しますんで」みたいなことを自分で思っていて、自分で覚悟が、腹が据わったみたいなところがあったので。なんか、その自覚ってすごい大事だなって思いますね。

自分のキャリアのドライバーは自分

安田

大事ですね。あと、やっぱり今のお話でいいなと思うのは、「今はしなくていいよ」ですけど。でも、「堀井さんがしたければ、してもいい」であって。つまり、その堀井さんに選択肢が与えられていたと思うんですよね。

だから、僕もキャリアの最後は女性が多い……30人の部下のうち28人が女性みたいな感じだったので。ママさん社員がいたんですけども。やっぱり「どうしたいか?」は聞けるようにもしてまして。

細かい制度上の話だと、「本人がどうしたいか、今がそのキャリアにおいてどういう時期か?」を踏まえて、要求レベルのコントロールをしていたんで。

さっき僕、話しながら思ったんですけど。結局、「しんどいわー。ずっと成長しなきゃいけないのかな?」って思った時点で、それは成長させられているんですよね。自分である程度、自分の意思があって。「自分のキャリアのドライバーは自分だ」って考えていればある程度、加速も減速も自分次第なんで。

そうなってくるとガーッと加速するときでも、やらされ感があるなかでやると、どうしてもしんどくなってきますよね。「ここは自分の意思で減速をしているんだ」っていう風になれば、ちょっとは違うのかなと思いますけどね。

堀井

本当に「選択」ですよね。「自分で今、ここを選び取ったから。納得して今、自分でここにいるんだ」っていうことだと思いますよね。

「管理職になる/ならない」とか「管理職に憧れる/憧れない」みたいなことも、自分のライフスタイルにあわせて。「今、私は管理職はやらない」とか、「今、やるべきだ」とか。そういう選択があってもいいですよね。

安田

そうだと思います。最近、エンゲージメントってよく言いますけども。ある程度の裁量とか選択があるほうが、そこのエンゲージメントって生まれると思うんですよね。だから、頑張れる。

会社側の立場からいうと、いかにこういう選択の余地っていうのを作っていくかだと思うし。自分の個人の立場でいうと「自分のキャリアのハンドルを握っているのは自分だ」っていう意識をどのようにもつかはすごく大事かなって。

堀井

いや、すごい金言をいただきました。「自分でキャリアをハンドルしていく」、すごい主体的だし、いいなと思いました。

停滞しているときは、職務経歴書を書いてみよう

堀井

「停滞」に関して聞いていきますけれども。今回のタイトルでもありますが。停滞することによって、実はいい面もあったりするんでしょうか?

安田

するんじゃないですかね? さっき言った、「この時期は自分にとってどういう時期なんだろう?」っていうのを自己認知することは大事。あと、冷静に見つめなおすのは意外と、その自分の強みや弱みがわかったりしますよね。

だから、僕は「自分は今、停滞してるな」ってどんよりしてる人におすすめなのは1回、職務経歴書を書いてみるといいんじゃないかなと思うんですよね。レジュメとかって言ったりもしますけど。そうすると、自分が今日までずっとやってきたこと。いろんな仕事をやってきた。「ああ、意外と俺っていろんなことをやってるな」とか。

あとは、その逆もありますね。「意外と俺、やってないな」とか。「考えてみたら、こういう経歴だけ見たら俺、どっちかっていうとシステムよりは物流の人だよな」とか。「どっちかっていうと俺、営業っていうよりは企画だよな」とか、わかったりするんですね。

だから、停滞してどんよりしている、キャリアの行き先がわからなくなってる人で、「でも、ちょっと今の状態は嫌だな」と思うんだったら、職務経歴書を書いてみるのがおすすめですね。

堀井

いわゆる「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」みたいな。学生さんが就活でエントリーシートに書くような……。

安田

僕も最初、「ガクチカ、ガクチカ」って聞いて、どこか美味しい地下の食堂街かと思っていたんですけど(笑)。「学生時代に力を入れたこと」ですね。これ、社会人だって当然、あるわけで。社会人だって「シャカチカ」じゃないですけども。でもシャカチカ、大事ですね。

堀井

シャカチカ、出ました(笑)。

安田

ちょっとうるさそうですけどね。シャカシャカして(笑)。ちなみに僕、外資系で働いてると常に「いい話があったら聞いてみる」スタンスで、挑んでいたんですよね。そうすると、常に職務経歴書、英文レジュメみたいなのはアップデートしていくんですけども。

僕、上司と喧嘩するとすぐに職務経歴書をアップデートするんですよ。「絶対もう辞めてやる!」って思って。意外と僕、感情的なんで。「ふざけんな!」って思って。

堀井

へー! それはどうして? アップデートすると、どういう効果があるんですか?

安田

それをアップデートして、エージェントに送って。「明日、マンズールに会ってやる」とか……僕、たまたまお抱えのエージェントがバングラデシュ人だったりしたんで。「明日、あいつに会ってやる。今日、アップデートしてすぐ明日の朝、送るんだ!」とかって。

堀井

じゃあ、もう上書き上書きで(笑)。

安田

「絶対もう、やめてやる! 絶対にやめてやる!」って思って。それでガーッとやってもやってくうちに、だんだん冷静になってくるんですよ。

「まあ、でも逆にこの経歴書、俺がみたら、雇うかな?」とか。「まあでも、ここで……今やっているあのプロジェクト、最後までやったほうがいいんだろうな」とか。だんだん冷静になってくるんですよね。そうするとパソコンを閉じて。「明日も頑張るか!」ってこう、なるわけですね。これ、本当なんですよ。

堀井

でもなんか、自分の価値がちゃんとリアルにわかるのかもしれないですね。

過去の経歴だけでなく自分のやる気スイッチを振り返る

安田

そうですね。リアルに考えて。価値がない人なんか、いない。これ、ヒューマニズムで言ってるんじゃなくて。ビジネスって、そういうもんなんです。

なので、きちんと職務経歴書を紐解くことによって、自分のビジネスを通じて得られたであろう価値を自分なりに言語化してみるのはすごく大事で。それは停滞期であってもなくても……停滞期であればなおさら、やってみるといいんじゃないかなと思いますよね。

堀井

そうですね。一度自分でちゃんと、自分のことをわかる作業ですよね。

安田

あともうひとつ。職務経歴書はどっちかっていうと、やったことのファクトだけなんですけど。もう1つ、大事なことは「このとき、何がわかったんだろう?」とか。これを僕は「キャリアヒストリー」っていうんですけども。

そのとき、すごく嫌だったこととか、そういうことをちょっと横っちょに併記してみるんですよね。そうすると、もうちょっと自分の過去のキャリアから得られたものとか知見をもって、もうちょっと膨らんで見えてくるみたいな。

職務経歴書に「会社はあてにならないとわかりました」とはあんまり書かないですよね(笑)?「ここで当時の子会社の人事担当として会社清算をした」ってのは書きますけど、そんなことまでは書かない。でも、そこが実はすごく大事なんですよね。で、それを自分で書いてみる。

あともう1つ、20年、30年、10年……5年でもいいです。すごく、お昼を食べるのを忘れるぐらい熱中したときが1回はあるはずで。もしくは、やっていて楽しかった仕事があると思うんですよね。

それはなぜだろうと考えてみる。そうすると、それは「仕事自体は非常に面白かった」とか「一緒に働く仲間がよかった」とか。「それによって得られるリターン(昇格、給料など)がよかった」とか。「その仕事の内容が自分の知的好奇心をくすぐった」とか。いろいろあると思うんですよね。

その、まさに自分が夢中になったときが、今の言葉でいうエンゲージしてる状態で。で、そのエンゲージしてる状態の仕事は絶対いい仕事になるんですね。

「俺、あのときめっちゃいい仕事だったんだけど、仕事の出来栄えは最悪だったんだよな。ワハハハハハッ!」みたいな話はあんまりなくて。

だから就活でいうガクチカ。どういうところにエンゲージできたんだろうか。そしてなぜ、それができたんだろうかを自己分析してみると、「ああ、自分のやる気スイッチってこういうところなんだな」みたいなのがホワンホワンってわかってきて。

そうするとあら、不思議! 気づいたときには停滞から脱しているみたいな。その感じはあるかなと思いますけどね。

人事が厳しいことを言えるように、常にコミュニケーションの土壌を作っておく

堀井

さっき安田さんから出て、すごいいい言葉だなと思ったのが「価値のない人など、いない」とおっしゃってたんですね。

周りでね、やっぱり「ああ、停滞しちゃってるな」とか、「なかなか停滞、長すぎないか?」とか。そういう人もいると思うんですが。そういう人とのチームでの接し方とかって、何かありますか?

安田

停滞してるっていうことは当然、モチベーションも低い。エンゲージメントも低い。そして停滞するのは理由がある。「なんとなく、理由もまったくわからないんだけど停滞している」ってことは僕はあんまりないと思いますね。

自分がやりたい仕事と今のアサインメントがちょっと合わないとか、なんとなく上司と合わないとか、なんとなく同僚と合わないみたいなところに原因があると思うので。

一番はね、「放置しない」だと思います。その停滞してどんよりしている人に「ちょっと今は放っておこう」みたいに放置しないことが大事ですよね。

堀井

なるほどね。人事畑にずっといらして、人とコミュニケーションを取ることって多かったと思うんですが。安田さん流の、人事としての社員との向き合い方って、どういうコミュニケーションでしたか?

安田

やっぱりいつでも厳しいことを言えるように、いつでも鋭いことを切り込んでいけるように、常にコミュニケーションの土壌をずっと作っていくことですね。

堀井

どういうやり方ですか? その作り方は。

安田

とにかく現場を回る。とにかく社員の顔を見て話す。あと、やっぱり1,800人もいたら、その1,800人全員と話しているわけにもいかないので。

できるだけ発信する。それは社内発信もそうだし、SNSもそうなんですよ。当時、ラッシュっていう会社の人事部長だったので「ラッシュジャパン人事部長の安田雅彦」で発信していって。

それで社員の人に「安田さんってこういう人」となんとなくわかってもらえるっていう。

それと、自分の目が届く範囲だったら、会えば「おお、元気? 久しぶりだよね」って話せるぐらい、それぐらいの関係性の人の数は圧倒的に、可能な限り増やす。

だから、僕がラッシュを辞めるときには店舗が100店舗ぐらいあったんですけど。100店舗の店長とは会えば「おお、元気?」っていう話を……これはもう、絶対です。

これを労を厭わずできないと、人事をやる資格はないです。これはもう、AIだろうとなんだろうと、どれだけテクノロジーが進もうが、やっぱり会ったときにどんだけ「おおっ!」って言えるのか? これが僕はすごく大事だと思いますね。

人事は職場の「なんか変だな?」を見逃さないように

堀井

結構ね、人事って奥まったところにあるイメージで。できる人たちが、なかなかあんまり出てこない、秘密主義のところも多いのかな、なんて思ってたんですけど。でも、そうですよね。なんかよくパトロールされたりしてたんですよね?

安田

パトロールしました。よく知っていますね(笑)。ジョンソン・エンド・ジョンソンにいたときに僕は10階にいたのかな? 10階にいて、8階と9階が担当事業部だったんですね。で、僕はだいたい6時半をすぎると8階、9階の自分の担当事業部をぶらぶら歩いて。

「ああ、安田さん。どうしたんですか?」って言われると「おお、お前らがちゃんと仕事してるかどうか、チェックしに来たんだよ」「うわっ、パトロールだ!」とか。

僕の顔を見て「あっ、そうだ。思い出した」とか言って。「安田さん。この間の人事制度の説明時にああいう風に言っていたじゃないですか」とか、言ってくるんですよね。その話をすることで「ああ、ここはある程度、伝わってるんだな」とか。

あと、もっと言うと……これは非常にアナログなんですけど。リモートでこれは通じなくなっているんですけど。見てると、わかるんですね。「ああ、彼が今一番、忙しいな」とか。「あの人とあの人、うまくいってないな」とか。

大阪支店に行くんですよね。大阪支店に行くと「ああ、安田さん、久しぶりです」「おお、久しぶり。元気?」「元気です」「まあな、大阪も暑いよな」とかやっている。そうするとみんな、「行ってきます!」って出ていくんですよ。

「行ってきます!」「おお」「行ってきます!」ってやっていると「あれ? あいつ、『行ってきます』って言ってなかったな? なんか、変だな?」ってなるんですよね。これ、実に昭和な人事なんですけども(笑)。

堀井

いや、でもいろいろデータ化されてますけど。会ってとか、見てしかわからないことって、ありますよね。

安田

「毎回、必ずあの人、発言に食いつくのに。あれ? 今回、何も言わないんだ」みたいな。その次も「あれ? 言わない」ってなって。で、気づいたら「退職します」みたいな。

「なんか変だな?」っていう、この職場の風土の「なんか変だな?」は見逃さないようにはして。で、話を戻すと常に職場の雰囲気、組織の雰囲気、空気を読み取るようにはしていましたね。

それがあるから、やっぱりコミュニケーションを取るときには、それは安田雅彦としてのコミュニケーションも、ラッシュジャパンの人事部長として全社に対してするコミュニケーションも、「たぶん今、組織はこういう空気感だから、こういう言い方をしたほうがいい」と気を遣ってましたね。

リモートワークが進んだ時代だからこそ、社員に顔を見せに行くのが大事

堀井

そうやってパトロールする時間とか、お話をする時間を取るためにもですね、やっぱり実務とかはね、SmartHRさんにおまかせしていただいて……。

安田

本当にそうですね。

堀井

半年に1回ぐらい告知を……今、思い出したようにしましたけど(笑)。

安田

私ね、これは事実なんですけど。ラッシュジャパンの人事部長を6年半やって。2021年の7月末で辞めたんですけど。

たしか、年末調整入れたのが2018年なんですよ。そのときに、社員の方から言われたんですよ。「安田さん、今期の人事部の最大の貢献は年末調整をSmartHRにしたことですよ」って。

堀井

アハハハハハハハハッ! でも、そういうことですよね。

安田

「これは安田さん、ラッシュジャパン人事史上最大の貢献です!」って言われましたね。

堀井

だって、SmartHRさんが入っていなければ安田さんはパソコンにかじりつきだったりして、みんなと会って何かをしゃべる時間は、もしかして余分に取れなかったかもしれないですもんね。

安田

だから僕の、安田雅彦ラッシュジャパン人事部長サクセスストーリーの6ページ目ぐらいには「年末調整をSmartHRに」っていうのが入っています(笑)。

堀井

ここでグーンと曲線が上がるわけですね(笑)。いや、でもそうだと思います。なんか人事って奥まったところにあるイメージなのを、そこから出てきていろんな人の表情をみるとか、人材をみるのは、結局……。

安田

そうですね。リモート、テキストで重要なことが決まっていくような、こういう時代だからこそ、直接的に社員に顔を見せにいくのは、僕はこれからも大事になると思うんですよね。

テクノロジーでできることは、していく。僕ね、アウトプレースメントは、あんまり好きじゃないんですよ。だって「単純な仕事は外に出して」って言いますけど。その単純な仕事をやらされる人の身にもなれって話で。

そんなものは、なくすんですよね。なくすのが吉で。もうSmartHRさん、基本のソリューションとしては、そういうアプローチだと思うんですよ。そもそもなくすか、ギュッとミニマイズしちゃうのが僕は正しいオペレーションじゃないかなと思うんですよね。

安定雇用が保証されない時代、人事は何を示すべきか

堀井

日本におけるその人事制度とか、これからの未来とか、想定とか、どういう感じで安田さんは思ったり、考えたりしていますか?

安田

やっぱり旧来型の人事制度……すべてがそうだとは思わないんですが。やっぱり大企業がモデルになっているんで、多くはそうだと思うんですけれども。

単身赴任も、意思のない人事異動も、突然の役職変更も、なぜみんなが受け入れられるのか?っていうと、それは長期雇用と、それから長期で働いていくうちにお給料も上がる前提があるからみんな、滅私をするんですね。

つまり、自分の意思をこの将来の安定雇用と安定給与成長と、それから一応、エキサイティングな仕事が将来、待ち受けていること。だから今の自分をベットするわけですよ。先があるから。

でも、その前提はもう今や、ないわけですよね。それが「ない」となると、嫌な単身赴任も、突然の職種変更も、受け入れる理由はないんですよ。

だとすると、今のこの仕事でどれだけ……「今、あなたがやっているこの仕事が、この会社を出てもあなたにとって貢献する価値がある仕事なんだ」と示さなければ、俗にいう、「明日もこの仕事で頑張ろう」っていう気持ちにはならないですよね? 

だから本当に今この瞬間を……「今は大変で面白くない仕事だけど、そのうち君も出世すればいい将来が待ってるから」っていう、この文句はなし! 「今のこの仕事が今のあなたと、そしてあなたの将来にとって価値があるんだ」っていうこと。

それから、「自分たちがビジネスを通じてどういう未来を描きたいのか?」っていうこと。ここのビジョンと個人のビジョンをどう重ねるか。

最近、人的資本経営ってよく言われて、僕もそれでよく話すんですけど。実はヒューマン・キャピタルマネジメントは別に外資系じゃ当たり前のことで。50年前ぐらいから言われたことなんですよね。

グローバルでも、最近のトレンドは、アカデミックに言うと人材育成の主体を……昔から「人材育成は大事だ」って言ってきたんだけど、それはあくまで企業の都合なんですよ。「将来こういう風景に会社が行きたいから育てる」っていうことで、そこで本人の意思は無視されていたんですよね。

ところが今は、「その人もその未来を望んでる」状況を作り出す。個人の意思とか成長欲求、自己実現をすごく重視しているので。さっき言ったように、どういう風に会社のビジョン、会社の成長と個人の成長の方向性を一致させて。「だから私もこの船に乗っているんです!」と思わせるかどうかがすごく大事じゃないかなと思いますけどね。

堀井

はい。ありがとうございました。もう私は30分、首がもげるかと思うほどに、ずっとうなずいておりましたけれども。今回もあっという間にお時間が来てしまいました。本当にありがとうございました。

安田

ありがとうございました。

堀井

停滞は悪なのか? ペースダウンすることの意義を伺ってきました。そしてあらためて、働くことについてもいろいろと考えさせられるお話だったかなと思っております。2週にわたってお越しいただきました。ゲストは株式会社We Are The People代表取締役、安田雅彦さんでした。安田さん、本当にありがとうございました。

安田

ありがとうございました。

<書き起こし終わり>

文:みやーんZZ

Podcast「WEDNESDAY HOLIDAY」#49の視聴はこちらから

働くの実験室(仮)by SmartHRについて

Podcast「WEDNEDSAY HOLIDAY」を企画している「働くの実験室(仮)」は、これからの人びとの働き方や企業のあり方に焦点をあてた複数の取り組みを束ね、継続的に発信するSmartHRの長期プロジェクトです。

下記ウェブサイトから最新の活動が届くニュースレターにも登録していただけます。

働くの実験室(仮)ウェブサイト

人気の記事