心の多様性との向き合い方って何?〜Smart相談室のプロコーチが行っているちょっと変わったセッション#1〜
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2022年12月20日、オンラインカウンセリングサービス「Smart相談室」を提供する、株式会社Smart相談室主催のオンラインセミナー「Smart相談室のプロコーチが行っているちょっと変わったセッション#1 心の多様性との向き合い方って何?」が開催されました。この記事では、Smart相談室カウンセラーの須藤 拓 氏をお迎えして、心の多様性をテーマにお話しいただいたセミナーの様子をお届けします。
Parole Language代表 Smart相談室カウンセラー
株式会社Smart相談室 CEO
副人格の存在を客観視する
須藤さん
まず、皆さんに質問です。「心の多様性」と聞いて、思い浮かぶことを教えてください。たとえば、家族といるときと会社にいるときに、自分自身が同一であるかを考えてみると、自分自身のなかの多様性を感じていただけるのではないでしょうか。コメントでは「天使と悪魔」「本音と建前」というワードをいただいていますね。「ケーキを食べたい」「食べないほうがよい」など、自分のなかに2つの声がある状態もコメントいただいています。藤田さんはいかがですか?
藤田
「人によってものごとの捉え方が違うこと」や、「タイミングごとに心の状況が変わる現象」を思い浮かべますね。私は家族以外の人といるときのほうが、はしゃいでいるように思います。家にいるときは、きちんとしています。
須藤さん
「家では家族に甘えて、職場では同僚に甘えてもらう」というコメントもいただいていますね。一方で「どちらの自分も少年の心をもったままなのは変わらない」という方もいるようです。多くの方は、家族といるときや会社にいるとき、恋人といるときで少し違いがあるのではないでしょうか。
須藤さん
コーチングではこの現象を、私たちの心のなかに、多くの人格が存在しているという考えで客観視します。「心の声」「サブパーソナリティ」「副人格」「Inner Family」など呼び方はさまざまですが、この人格への気づきが大事であることを、今日はお話いたします。
須藤さん
本日の要点は「自分のなかには多様な価値観をもった副人格がいること」「メタ的な視点をもって“こういう自分がいる”と気づいてバランスを取ること」「その副人格は自分の内部、他者との関係に影響していく」の3点です。
コメントに、「多重人格のことでは?」といただいておりますが、ジギルとハイドのように入れ替わった自分の記憶を失ってしまうといった、病気に近いものはコーチングでは扱いません。今回は、誰もが自覚する可能性のある、自分のなかにある多様な人格がテーマです。
「多様な人格がいる」という自覚が余裕を生む
重要なのは、自分の心は1つだけではないと自覚することです。よくある例を説明していきます。上司から「今週中にプレゼン資料まとめてもらえる?」と言われたとします。そのとき、「期待に応えたいから頑張るぞ」と考える自分がいる一方で、「今月はかなり残業したから休みたい」「このくらいで休みたいなんて情けない」「チームを大事にできていないのかな」と、反する感情を抱くかもしれません。
そのようなときに心が1つしかないと思っていると、いくつもの違う感情に対する葛藤を乗り越えられず、自責傾向になったり苦しくなってしまったりするでしょう。逆に、「心はそもそも多様で、さまざまな人格が自分のなかにいる」という考えであれば、相反する自分がいることを認め、多元的に捉えられます。そうすると心の整理がつき、「期待に応えるために頑張るか」「今月は健康優先にするか」など、行動を選べる余裕が生まれるのです。
もうひとつ例をご紹介します。会社内で上司に「今、相談したいのでお時間をいただけますか」と声をかけたとき、「今は忙しいので難しい」と断られたとします。心が1つしかないと思っている人は、「この人はいつも怒っている」「自分は嫌われている」と考えてしまうでしょう。相手が発した一時の感情が、今後の関係性にまで影響してしまうこともあるのです。
心の多様性を理解していると、感情から目を離して「この人が怒っているのは、何か満たされないものがある」と冷静に考えられます。心の多様性を理解することは、他者の感情に飲み込まれず、客観視することにつながるのです。
心は多数の副人格の集合体
須藤さん
このように、「心」というのは、多数の副人格の集合体です。「本当の自分が中心にあって、周りに副人格がいる」のではなく、さまざまな副人格のすべてが本当のあなたなのです。「休みたい」も「活躍したい」もあなたの本当の気持ちで、矛盾した気持ちを同時にもっていることは当然なのです。
須藤さん
副人格は独立していて、それぞれ感情や価値観、願いをもっています。一人の人間のなかに存在するので、似た傾向を持っているのではと考えがちですが、驚くほど異なる価値観や願いをもっているといわれています。
その性格にはよい面も悪い面もあります。たとえば、常に健康一番という価値観の「健康さん」という副人格がいるとします。彼には「適度な休憩を上手にとってくれる」という利点があります。逆に、「忙しいときにもさぼってしまう」という悪い側面もあるのが健康さんです。
さぼってしまう自分の行動が、「健康第一」という価値観に由来しているのであれば、人格自体に問題はないと捉えられます。ただ悪い影響が出てしまっているときは、副人格のニーズが満たされていないともいえるのです。
指揮者の視点から副人格のバランスを保つ
須藤さん
このように、さまざまな感情や価値観をもつ副人格の客観視が大事です。「セルフ」とは、自分のなかの副人格をメタ認知するための視点です。自分の副人格を、オーケストラのようにまとめあげる指揮者のように俯瞰することをイメージしてください。この指揮者の視点をもてると、「君は音が大きすぎるよ」「君はもっと大きな音を出して」などとコントロールでき、副人格同士の調和がとれるようになるのです。
セルフの視点で副人格の存在を捉えたら「このような私もいるんだ」という言葉を日常的に使ってみてください。すると感情から少し目を離せるようになります。
藤田
おもしろいですね。私にも、意識的な自分以外に2人の副人格がいます。1人は「リトル康男」です。「リトル康男」は、何か意思決定するときにフラットな意見をくれて、それが抑止力になることもあります。ただ、必ずしも「リトル康男」の意見に従わなくてもいいんです。このやりとりがあると、失敗しても成功しても、その決定に対して私は納得できます。私の言動を第三者的に考えてくれる存在です。
もう1人は、「康男ちゃん」です。「康男ちゃん」は、無邪気であまり真剣に物事を考えず、「したいのであれば、すればよい」というスタンスです。「康男ちゃん」が現れるとき、私は非常にリラックスしています。
フォーマルな場所で「康男ちゃん」が出てくると問題もありますし、リラックスしたいときに「リトル康男」が出ると困るので、コントロールするように心がけています。でも自在に出せるわけではなく、あえて意識している程度です。気づかないうちに失敗していることもあります。
須藤さん
不本意な自分が出てくることはよくありますよね。たとえば食べ物を前にしたときに、「これは本当に食べていいのか」と一旦立ち止まることで、「食べる」か「食べない」かの選択肢をもてます。その選択肢に気づけないと、不本意な行動を起こしてしまいます。
デモセッション:自分のなかにある副人格を見つける
須藤さん
ここからは藤田さんと一緒に、副人格をテーマにデモセッションをしていきます。
副人格が対立して葛藤を抱えた実例を思い浮かべながら、自分のなかにある人格や、彼らの声を聞いてみてもらえればと思います。今回、藤田さんには、「やりたいけれど、やっていないこと」の事例をご用意いただきました。
藤田
テーマは「大学院に進学したいのだが……」です。私はすでに、経営学の大学院を卒業しています。再び大学院に通うと決めているのですが、経営学の博士にするか、スポーツの修士にするか、決められずにいるのです。
須藤さん
魅力的ですね。スポーツを先に考えてみましょう。スポーツの大学院に通いたいと思う理由はどのようなものでしょうか。
藤田
私は趣味のジョギングや筋トレを効率的に続けたいのです。動画や本で最先端の理論を勉強していますが、新しい理論が年々出てくるので、最新情報を自分自身で学んでいきたいんです。
須藤さん
大学院に通うことで、何が満たされるのでしょうか?
藤田
効率的に筋肉が大きくなって、走るのが早くなると思っています。さらにその手法を、みんなに教えてあげたいです。
須藤さん
「効率」が大事なのでしょうか。「好きだから」も強く感じます。
藤田
「好き」が前提ですね。好きでないと毎日重い物を持ちあげたり、長い距離を走ったりできません。
須藤さん
端的に言うと、「大学院でなら自分の好きなことをできる」ですね。経営学の博士は、なぜ魅力的なのでしょうか。
藤田
博士になったほうが、仕事がうまくいくのではないかという考えからです。
須藤さん
スポーツの話をしているときの藤田さんと、仕事上での藤田さんは雰囲気が違いますね。
藤田
真面目ですよね。私は経営学の修士を取得したことでキャリアアップでき、世界観も広がって、経営面でのスキルも広がりました。博士を取得すれば、さらに広がるのではないかと期待しています。
須藤さん
博士号の取得によって、どのようなことが満たされるのでしょうか。
藤田
社会的な価値を発揮できそうだと考えています。今の日本の閉塞感や経済の元気のなさを打開できるのではないでしょうか。
須藤さん
社会意義を感じますね。博士課程を志している藤田さんのなかの人格は、何を成し遂げたいと思っていますか。
藤田
社会的意義ですね。周りに影響を与えたいと思っています。
須藤さん
社会的意義が大事だと思っている藤田さんのなかの人格は、どのような服装でしょうか。
藤田
ビジネスカジュアルですね。白かブルーのワイシャツで、ネクタイはしていないです。
須藤さん
かっちりしていそうですね。名前はありますか。
藤田
ビジネスパーソンか、起業家でもいいですね。
須藤さん
藤田さんのなかのビジネスパーソン、あるいは起業家さんが社会的意義を求めている。もう一方の、スポーツ課程を志している人格のイメージはいかがでしょうか。
藤田
社会的価値というよりは、みんなに「楽しさ」を提供しているイメージです。自分自身も楽しんでいると思います。装いはTシャツでハーフパンツ、スニーカーですね。
須藤さん
この人の価値観、大事にしていることはなんでしょうか。
藤田
筋肉を大きくすることが大事で、それが叶ったらウハウハしていると思います(笑)。
須藤さん
筋肉が大きくなると、何がよいのでしょうか。
藤田
自分が満たされます。
須藤さん
自分が満たされることや楽しいことが、この人格にとってのポイントなのですね。非常に大事な副人格だと思います。名前はつけていますか?
藤田
イメージで言うと「康男ちゃん」です。先ほどのビジネスパーソンは「リトル康男」ですね。
須藤さん
その2人の葛藤なのですね。
藤田
その2人以外にも人格はいるのかもしれませんが、この2人と考えるとしっくりきます。
須藤さん
この決断に際して2人がいるとわかったうえで、どちらの人格に活躍してほしいと思っていますか。
藤田
「康男ちゃん」は、年齢を重ねてからでも活躍できると思いますが、「リトル康男」のほうはタイミングがあると思います。
須藤さん
今すぐではなく、今後の人生で「康男ちゃん」を楽しませてあげる機会があると考えているのですね。
藤田
「リトル康男」にもずっと活躍してほしいですが、勝負時がある気もしています。機が熟したタイミングを選びたいんです。
副人格の客体化で気持ちの変化に気づける
須藤さん
客観的な視点を入れて、セッションをまとめます。藤田さんは最初から、「リトル康男」と「康男ちゃん」の存在を自覚していらっしゃいました。大学院の選択に限らず、あらゆる意思決定の場でこの2人の葛藤があったと思います。
藤田
ありました。このセッションで服装などを聞いてくださったので、よりイメージが明確になりました。私自身の表情にも出ているとおっしゃってくださったように、両者に対して、自分の気持ちも変化していると気がつきました。
須藤さん
副人格に名前をつけることで客体化できます。「リトル康男」は藤田さん自身ではないので、名前をつけたり服装など具体的に想像したりして、区別することが重要です。コメントでは、「話題によって表情が別人ですね」というご意見もいただいています。全体の雰囲気が対照的でしたね。
藤田
気持ちや考えを名前で表現することには意味がありますね。以前、知人が「小さくて赤い自分が怒ってくる」という表現を使っていました。言語化で自分のなかにある副人格をよりイメージでき、自分の癖やバイアスに気づけると思いました。
須藤さん
「小さい赤い人が怒っている」という表現は興味深いですね。その場合、怒っているのは「小さい赤い人」であって自分自身ではありません。セルフの視点で副人格を認識することで、感情に飲み込まれにくくなります。怒っている副人格になりきってしまうと、入り込んでしまい、選択肢がなくなってしまいます。自分のほかのリソースを使うためにも、「怒っているのは誰か」を考えていくことは重要です。
副人格を見つけるスタートは、「やりたいけれど、やっていないこと」など、内面の葛藤を観察することからはじまります。副人格の視点で日記を書くなどのジャーナリングも効果的なので、ぜひ取り組んでみてください。
副人格の種類を認識しリソースとして活用する
須藤さん
ここからは、副人格の種類についてお話しします。学者によって諸説ある部分ですが、仕事でも使えるように6種類だけ、わかりやすくご紹介します。
(1)自主性さん
まずは、自主性、主体性が非常に重要だと考えている「自主性さん」です。よい面は、自主的な選択や行動をしていけるように、私たちを助けてくれることです。一方で「何でも自分でやりたい」と思ってしまい、アドバイスを受け入れにくくなってしまう難点もあります。
(2)批評家さん
「内なる批評家さん」は、評価されたい、認められたい、または評価したいという方向に気持ちを働かせます。学習欲や向上心に結びつくよい面もありますが、完璧主義に陥ったり、自責傾向になる悪い面が出る場合もあります。
(3)安心、安全さん
身体、精神の安全を最優先する「安心、安全さん」のよい面は、ストレスや不安を回避する力があるので、無理せず安定した道を選ばせてくれるところです。一方でリスクを取りにくくなって、新しいことが怖く感じるのは「安心、安全さん」の悪い面が出ているときです。
(4)冒険家さん
好奇心が強く、何かに挑戦したい、変化や成長に対する思いが強い「冒険家さん」です。よい面として、新しいものへの興味が強く、クリエイティブ性がありますが、飽きっぽく、ルーティンが苦手な傾向もあります。
(5)マネジャーさん
次に、任務遂行が何より大事な「マネジャーさん」です。分析的、生産的、冷静に物事を判断していく力がある一方、周りからは冷徹に感じられたり、成果主義につながってしまう面もあります。
(6)バランサーさん
周囲との調和を何よりも大事にする「バランサーさん」は、仕事をしていくために必要な人ですね。チームワークが上手な一方で、自己犠牲的になってしまったり、自分の意見を飲み込んでしまったりする側面もあります。
複数の副人格の協力で心を整理できる
ここで、いただいたコメントを紹介します。「自分には“臆病な冒険家”がいて、ビクビクしながら用意周到に挑戦していきたい人格がいます。その場合は“臆病な人”と“冒険家”がいると考えたほうがよいのでしょうか」というご質問です。その人格は「臆病な冒険家」と考えられますが、「冒険家さん」と「安心、安全さん」の葛藤ともいえますね。
私が独立したときの話を例にあげてみましょう。独立を考えた当時、「会社を辞めるなんて無理」「給料をもらえなくなる」とリスクを示唆する「安心、安全さん」が強く騒いでいました。同時に「冒険家さん」も「新しいことに挑戦したい」と強く主張して、両者が葛藤していたんです。
そのとき私は、リスクを計算できない「冒険家さん」の悪い面に対して、「安心、安全さん」が強く反発している構図に気づきました。そこで「冒険家さん」の夢を叶えるために、リスク回避能力の高い「安心、安全さん」に協力してもらうと考えることで、心の整理をつけられました。このように副人格は、考え方を整理するリソースとしても使えるのです。
まだまだ副人格はありますし、当てはまらない方もいると思いますが、「セルフ」の視点での客観的な観察が大切なのです。
セルフの視点でバランスをとる心がけが重要
須藤さん
指揮者である「セルフ」の視点がないデメリットは、特定の副人格が大きく出てしまうことです。たとえば、「内なる批評家さん」が大きくなってしまうと、「評価されないといけない」という生き方から抜け出せずに、完璧主義に陥ります。また、ほかの生き方に気づけず、「冒険家さん」の活動が抑えられ、窮屈な思いをするでしょう。自分のやりたいことができなくなるなど、考え方や行動がかたよってしまいます。
重要なのは、「自分のなかの多様な価値観をもった副人格」を「セルフ」の視点で認識し、バランスを取ることです。自分の感情を整理できれば、自分自身や他者との関係によい影響を与えられるでしょう。
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【執筆:まえかわ ゆうか】
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