人事労務管理面の災害対策において、紙より「クラウド人事労務」が強いワケ


こんにちは、特定社会保険労務士の榊 裕葵です。

西日本豪雨で被災された方およびご家族の方に心よりお悔やみ申し上げます。

昨今、我が国では豪雨や地震などによる自然災害が増えており、企業にとっても万一被災した際、従業員を守ることはもちろん、事業活動継続や早期復旧のための備えを整えることが重要となっています。企業の災害対策としては「書庫の転倒防止、避難経路の確保といった安全対策」、「非常食、水などの備蓄」、「緊急連絡網の整備」など、様々な面からの準備が必要です。

これら全てを1つの記事で網羅することは難しいため、本稿では、企業としての人事労務管理上の災害対策に絞って説明をさせて頂きたいと思います。

法定帳簿等の書類保管義務

私は社会保険労務士ですので、労務面で例示をさせて頂くと、「賃金台帳」や「出勤簿」、「労働者名簿」といった法定帳簿には、3年間の保管義務があります。

また、雇用契約書のような権利義務関係を証明する書類は、雇用契約関係が続く限りは保管をしておくべきでしょう。

人事労務に関する書類が消失してしまった場合の弊害

仮に前述の書類が災害で消失してしまったとしても、従業員が数名であれば再度作り直すことは可能かもしれません。しかし、非常に手間がかかってしまうと思います。例えば、従業員数が50名や100名規模になると、消失してしまった書類を再作成することは現実的に困難をきわめます。

人事労務に関する書類が消失してしまうと、災害発生後に企業活動を再開させるにあたっても、

  • 「誰にいくら給料を払えば良いのかわからない」
  • 「有給休暇は誰が何日残っていたのか分からなくなってしまった」
  • 「雇用契約書も労働者名簿も無くなってしまったので、採用日や勤続年数が分からず退職金の計算ができない」

といったよう、様々な形で実務上の弊害が発生してしまいます。

そこで、災害に強い企業体質を作り上げるためには、「書類の管理体制」というのも重要な要素のひとつになってきます。

あるべき書類の管理体制の姿

書類の管理体制としては、まだまだ紙での保管が中心の企業も少なくないと思います。

紙の場合は、火災で消失したり、水害で流出したりしてしまった場合は再現が不可能です。仮に金庫のような場所に保管していたとしても、土砂災害で埋まってしまい、金庫自体を回収不能になってしまうリスクもあります。

そこでオススメの対策としては、仮に紙での保管をメインに考える場合であっても、重要な書類についてはPDF等でスキャンをして、データでも保管をしておくことです。

そして、データの保管場所は、少なくとも中小企業の場合は、パソコン本体のハードや自社サーバではなく、Google DriveやDropbox、Boxなどのクラウド上のストレージに保管をしておくほうが安全であると私は考えています。

中小企業がクラウドを活用するメリット

大企業であれば、国内の複数の拠点や、場合によっては海外にも拠点があり、複数の場所にサーバーを置いてデータのバックアップ体制を整えることができます。

しかし、中小企業の場合は、唯一の拠点が被災した場合、データがすべて無くなってしまうというリスクが想定されます。

この点、たとえばGoogle Driveであれば、Google社のサービスの案内ページには次のような説明文があります。

Google はデータを複数のデータセンターに分散させているため、火災や災害の発生時には、他の安定した安全なセンターから自動的にデータを利用することができます。(引用元:Google

一方で、「クラウドで保存したデータが消えたらどうするのか?」という不安の声も耳にします。確かにGoogle社がデータ消失事故を起こす可能性は0%ではないですが、限りなく0に近いでしょう。

少なくとも災害対策としては、中小企業が自社内のITインフラだけで災害対策をしようとするよりは、安全にデータを守ることができると考えて良いでしょう。

そして、コスト面においても、月額数百円から数千円のID単位での契約が基本ですから、自社でサーバー等を導入するよりも負担感は軽いはずです。更新のためのインストールで追加費用が生じることも基本的にはありません。

「紙での人事労務管理」を卒業し、クラウド人事労務へ

昨今は、クラウド上のマスタに情報を入力したり、CSVやAPI連携でデータを流し込んだりすることで、人事労務情報の管理をクラウド上で完結させられるソフトが登場しています。

雇用契約書なども、クラウド上で作成して電子証明で契約を締結し、そのまま取り交わされた契約書をクラウド上で保管するようなソフトがあります。

このようなクラウドソフトを利用すれば「紙→PDF化→保管」というようなプロセスを経ることなく、効率的にクラウド上で人事労務情報の管理を行うことができ、災害に強い会社作りだけでなく、業務の効率化として働き方改革にもつながります。

もちろん、クラウドソフトを提供するベンダーは、災害を含めデータ消失が発生しないよう、各社が対策を施しています。

クラウドサービスを契約する際には、そのベンダーがどのようにデータ消失を防止する対策を取っているのか、ホームページで確認したり、担当窓口にヒアリングしたりするのもよいでしょう。

なお、労働基準監督署の調査や助成金の申請などで、紙での賃金台帳や出勤簿などが必要になる場合もあると思いますが、ほとんどのクラウド人事労務ソフトで、PDF形式で保存された書類を紙で出力することが可能ですから、自社のペーパーレス化を進めるにあたっての心配は無用です。

まとめ

災害が発生しないことが何よりの願いですが、自然災害の多い我が国においては、対策をしないわけにはいきません。

ひとたび災害が発生すれば、人身に関わることはもちろん、法人として企業活動が長期間停止したり、復旧業務にコストや人手がかかってしまうと、従業員の賃金の支払にも影響が出たりしてしまいます。

従業員が安心して働ける会社をつくるという意味でも、災害に強い企業体質の構築を目指し、その一環として、人事労務情報を含めデータ管理体制についても、是非万全の対策をして頂きたいと思います。

特定社会保険労務士 榊 裕葵

東京都立大学法学部卒業後、上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。独立後、ポライト社会保険労務士法人を設立し、マネージング・パートナーに就任。「社員から信頼される会社作りをサポートする」を経営理念として、顧問先の支援に当たっている。執筆活動にも力を入れており、WEBメディアへの掲載多数。
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