HRテクノロジーは従業員体験をどう変えるのか?【はじめてのHRテクノロジー #1】

2020.06.17 ライター: 山岸 慎治

はじめまして。NPOカタリバの山岸慎治と申します。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行し、完全な終息がいつになるかまだ見えない中で、アフターコロナを見据えてHRテクノロジーの導入を検討し始めている企業もいらっしゃると思います。

一方で、ここ2〜3年ほど、HRテクノロジーが世の中で急激に注目され始め、老舗大手からITベンチャーまで様々な企業がHRテクノロジー市場に進出してきています。昔のようにオールインワン型で企業にカスタマイズされたサービスが減少傾向にあり、数あるHRテクノロジーの中からどのように自社にマッチしたサービスを導入すればいいのかを悩まれている人事担当者さまは多いのではないでしょうか。

本連載「はじめてのHRテクノロジー」では全3回にわたり、HRテクノロジーがEmployee Experience(従業員体験)に与える影響や、実際に導入するにあたって企業規模やITリテラシーに応じて注意すべき点を、私自身の過去の導入経験や事例を基にお話します。

第1弾の今回は、HRテクノロジーが従業員体験に与える影響とHRテクノロジーを導入するにあたって知っておくべき前提に関して解説していきます。

自己紹介

最初に簡単な自己紹介をします。私は現在、福島県の公立中高一貫校にて認定NPO法人カタリバの教育コーディネーターとして働いています。少し前、2020年3月までは東京で合同会社DMM.comや株式会社POLといった企業にて、人事として労務や採用、人事評価といった業務を担当していました。

幼いころからPCやインターネットに触れてきた経験から、人事業務に就いてからも自社ファイルサーバ構築やSaaS導入等を担当する機会が多かったです。具体的には、入社管理サービス、就業規則管理サービス、勤怠システム、給与計算システムといったかなり幅広くHRテクノロジーに携わってきました。

そしてDMM.com在籍時には、社員数約2,000名に対してクラウド人事労務ソフト「SmartHR」を導入して、入社手続きフローや年末調整業務フローを全て見直すというプロジェクトをメインで担当し、そのご縁もあって今回、連載を担当する運びとなりました。人事職とは少し離れた今の立場だからこそ、フラットに人事領域について執筆していけたらと思います。

HRテクノロジーがEXや経営に与える影響とは?

さて、みなさんは「HRテクノロジー」と聞くと、どのような印象をお持ちでしょうか。「人事担当者の工数削減」や「業務効率化」が真っ先に頭に浮かぶ方も多いのはないでしょうか。確かにそれらはHRテクノロジーを導入する大きな目的のひとつではあるのですが、私は、HRテクノロジーを導入する最大のメリットはEX(Employee Experience)や経営の改善にあると考えています。

EXとは、直訳すると「従業員体験」となるのですが、「従業員が会社/組織での業務や体験・活動を通じて得られる体験価値を最大化すること」という従業員視点の体験の最大化までの議論が一般的かと思います。

ところが、元々EXは、UX(User Experience/ユーザー体験)やCX(Customer Experience/顧客体験)と同じく、「従業員体験を最大化することで、製品やサービス質の向上、ひいては顧客体験の最大化にも繋がり、結果的に事業や経営に良い影響を与える」という考えのもと生み出された概念です(※)。そのため、EXは良くも悪くも経営に対して大きな影響を与えると考えられます。

参考:Tracy Maylett著「The Employee Experience」、Ben Whitter著作「Employee Experience」

HRテクノロジー導入によってEXが向上した例

HRテクノロジーがEXに与える影響を解説するための一番わかりやすい例として、私が過去にクラウド人事労務ソフト「SmartHR」を導入した時の話をしたいと思います。

まず、SmartHR導入以前は、入社手続きは全て紙書類でおこなっていました。アナログな対応ゆえに抜け漏れがあり、従業員が入社時に必要な証明書類や印鑑を自宅に忘れ、社会保険手続きが遅れた結果、保険証が届くのに1ヶ月近くかかってしまうこともよくありました。

SmartHR導入後は、入社前にアカウントを発行して、従業員本人に必要書類(住民票等)をオンラインで記入してもらうことで、手続きの大幅な効率化が進みました。

詳しくは以下の記事にまとまっています。
DMM.com時代のSmartHRについてのインタビュー記事

こちらの取り組みにおけるEXへの影響は、

  • 「従業員にとって入社手続きが簡単になることで時間短縮ができた」
  • 「保険証を早く手元に受け取ることで、病院に行く上での心理的不安点を取り除けた」
  • 「入社日に入社手続きの説明等をする時間がなくなったので、入社日に事業や業務に関する説明の時間をより多く設けられた」

といったわかりやすい影響にとどまりません。

入社手続きは「会社文化に触れる最初の接点」

入社手続きは、従業員にとっては会社との最初の業務的な接点となるため、従業員からしてみれば「この会社はこういう会社なんだ」と会社文化に触れる最初の接点となります。

これから新しく入社してくる従業員は会社に対して高い「期待」を持って、ワクワクしながら来るわけです。それなのに、入社手続きで紙書類のやりとりが何度も発生したり、記入ミスをして書類を再印刷してもらったり、世の中が印鑑を減らそうという潮流のなか、何ヶ所も印鑑を押さないといけなかったりすれば、不必要にストレスを感じる可能性があります。それは、その後のモチベーションにも影響を与えかねません。

しかし、入社手続きがオンラインで効率化されていれば、「この会社は業務の効率化によって、従業員の無駄な作業を省くことで、より本来やるべき価値創造の最大化に時間を使わせてくれる会社なんだ」と感じてもらうきっかけとなりえます。業務効率に対する会社のスタンスを理解した社員が、入社後に自ら業務改善提案を行い、顧客価値の最大化に寄与してくれることも考えられるでしょう。

HRテクノロジー活用で問われる「価値創出のための取り組み」

これは人事の皆さまにも同じことが当てはまります。様々なHRテクノロジーを導入することによって、業務の効率化や、人事データを取得することが容易になりますが、それ自体が目的にはなりません。

効率化によって生まれた時間を利用し、取得した人事データを分析して経営に活かすなどの、「価値創出のための取り組み」が大切です。

例えば、勤怠データと従業員サーベイの結果を照らし合わせて、勤怠が乱れがちな従業員やその比率が多い部署を洗い出して、内部で問題が発生していないか分析し、必要に応じて1on1や産業医面談、部署異動を提案するといった「予防」業務に繋げるなどが挙げられます。

このように、HRテクノロジーの活用は、単純な業務効率化メリットだけではなく、上記のような施策が巡り巡って、EX向上→顧客体験向上→経営改善へと繋がるサイクルを生み出すでしょう。

HRテクノロジーを導入する上での重要ポイント

それでは実際にHRテクノロジー導入する場合、どのような点に注意すれば良いのでしょうか? ここではどんな会社においても当てはまる、導入にあたっての重要なポイントを3点挙げます。

(1)サービスに会社のやり方をあわせる

まず第一に、原則として会社のやり方にサービスを合わせるのではなく、サービスに会社のやり方を合わせる覚悟を持つことをオススメします。

従来、パッケージソフトの時代には各社にカスタマイズしたサービスの提供を売りにしている会社も多かったのですが、クラウドソフトはできる限りカスタマイズ要素(変数)を減らすことにより、少人数・低コストで使い始められるメリットがあります。

ベンダー側に依頼することで多少のカスタマイズができる場合もありますが、クラウドソフトは既に様々な企業モデルから最適なパターンを見つけ出して製品化しているはずなので、サービスのやり方に自社のやり方を合わせて、どうしても自社独自のやり方がある場合にはサービス外で運用上の工夫をするようにしましょう。(但し、独自規格が増えれば増えるほど、クラウドソフトを利用するメリットが薄れてしまいます。)

(2)属性の近い企業を参考にする

次に、自社にあったサービスを探すにあたり、「同業種」「同規模」など属性の近い企業が利用しているサービスを参考にしましょう。

どうしても世の中のIT先進企業と同じサービスを使いたいと思ってしまいがちですが、社員数が多いからこそデータ分析を活かせるサービスや、ITリテラシーが高いからこそ有効活用できるサービスなどもあります。

これらの情報を入手するにあたっては、各ベンダーのウェブサイトで公開されている導入事例や活用事例が参考にしやすいほか、まだ公開されていない情報も営業担当が持っている場合があり、聞いてみると良いでしょう。また、最近ではnoteなどをはじめとしたブログサービスに、運用の実例が投稿されるケースも増えていたり、Peatixなどのイベント情報サイトを見れば、HRサービスについてのリアルなユーザーの声を聞ける交流会が企画されていたりします。

このような情報を整理したうえで、まずは自社のポジションをしっかりと認識し、一番費用対効果が高いサービスから徐々に導入していくことをオススメします。

(3)理念に共感できる企業のサービスを選ぶ

最後に理念に共感できる企業のサービスを選びましょう。

例えば、同じ勤怠管理システムであっても、「給与計算担当の工数を最大限削減する」という業務担当者目線のサービスもあれば、「画面がシンプルで従業員が使いやすい」という従業員目線のサービスもあります。

これはどちらが良い・悪いではなく、「今回のシステム導入にあたって何を達成したいのか? なぜ導入するのか?」といった、目的に合ったサービスを選ぶべきです。

これらは、

  • ホームページに記載されているサービス説明ページのキャッチコピーどの機能にフォーカスを当てているのか?
  • 導入事例で誰にどのような質問をしているのか?

などを読み込むことで、その企業/サービスの理念が見えてくるでしょう。

おわりに

世の中に色々なHRテクノロジーが溢れている中で、各サービスの特徴や機能をまとめている記事やサービス自体の解説をしている記事はたくさんあります。しかし、それらのサービスを手段として人事が次に届けるべき価値について言及されている記事はまだまだ少ないため、今回はHRテクノロジーがEXに与える影響と比較サイトには載っていない導入にあたっての注意点について書きました。

今回は若干抽象的な話となってしまいましたが、残り2回の連載では導入にあたってもう少し具体的な注意点(社内で抑えておくべき関係部署やサービス選定のポイント等)についてお話ししますので、引き続きご期待いただけますと幸いです。

山岸 慎治

認定NPO法人カタリバ 教育コーディネーター。映画祭イベント運営や人材派遣会社管理部門を経て、合同会社DMM.comにて人事労務、株式会社POLにて人事全般を担当。現在は東京を離れて、福島県の「福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校」にて外部教育コーディネーターとしてキャリア教育等に従事。
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