コロナ禍における「解雇」や「労働条件引き下げ」について事業主が注意すべきこと【弁護士が解説】

2022.03.23 ライター: 弁護士法人ALG&Associates

こんにちは、弁護士法人ALG&Associates大阪法律事務所所属弁護士の松本昌浩です。

コロナ禍において、引き続き厳しい経営状況が続いている企業もあるなか、厚生労働省が公表した「令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況」では、「解雇」などに関する民事上の個別労働紛争が前年度より増加していることがわかりました。

個別労働紛争の内訳として、解雇は +9.4%増加したほか、労働条件引き下げは +10.4%、退職勧奨は +12.3%増加しています。

新型コロナウイルス感染症拡大の影響により事業の継続が困難になった場合、解雇や労働条件の見直しを検討することは起こりうることです。しかし、企業側の対応によっては、このような労働紛争につながるため、適切な対応が求められます。

解雇や労働条件引き下げの対応を検討する場合、どのようなことに注意すべきか、「助言・指導とあっせんの事例」も交えて、実務上のポイントを解説いたします。

(参考)令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況 – 厚生労働省

経営状況の悪化による解雇について

解雇については、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」、その解雇は権利を濫用したものとして無効とするとされています(労働契約法16条)。経営状況の悪化により解雇をしなければならない場合にも、こちらに当てはまるかどうかを検討しなければなりません。

会社の経営状況の悪化に伴う解雇には、大きく分けて、会社解散による解雇と整理解雇(会社が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇)があります。

経営状況の悪化に起因するという点は両者に共通していますが、違いとしては、前者が経営状況の悪化のため会社自体が清算消滅するのに対し、後者は経営状況が悪化した会社を立て直すことを目的とし会社自体は存続するという点です。

会社解散による解雇の場合

会社解散による解雇の場合、会社自体がなくなるため、通常は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められると考えられます(もっとも、会社解散の経緯などによっては例外的に解雇権の濫用とされる場合もあります)。

整理解雇の場合

整理解雇の場合、会社の存続のために従業員を削減するため、解雇権の濫用にあたるかどうかはより慎重に判断されることになり、一般的には以下の4つの観点に着目します。

1)人員削減の必要性

まず、「人員を削減する必要性があるか」という観点です。解雇は解雇される従業員及びその家族の人生にも大きな影響を与えるものですので、経営状況を立て直すために人員削減までする必要がない場合には、解雇権の濫用を基礎づける1つの事情になるでしょう。

2)整理解雇選択の必要性

次に、「人員削減の手段として整理解雇を選択する必要性があるか」という観点です。人員削減の方策としては、解雇以外にも、配転、出向、一時帰休、希望退職の希望などの手段があり、一般的にはこれらの手段の方が解雇よりも従業員に与える影響が小さいと考えられます。

そのため、解雇以外の手段をすでに実行していたのか、実行できない事情があったのかなどを踏まえる必要があります。その他の手段を講じることで経営の立て直しを図ることができたのであれば、解雇権の濫用と判断される可能性が高くなります。

3)解雇される者の選定の妥当性

そして、「解雇される者の選定が妥当であるか」という観点です。整理解雇がやむなしの場合にも、解雇される者の選定において、合理的な基準に基づいて公正に選定されたものでなければ、解雇権の濫用を基礎づける事情となりえます。

4)解雇のための適正な手続の有無

最後に、「適正な手続のもとで解雇がなされたか」という観点です。整理解雇の必要性や、その時期、規模、方法などについて労働組合又は労働者の納得を得るために説明し、誠意をもって協議することが重要となります。

「解雇」「労働条件引き下げ」「退職勧奨」において実務上注意すべきポイント

1.解雇

整理解雇を検討する場合には、上述した1)人員削減の必要性、2)整理解雇選択の必要性を検討したうえで、実際に整理解雇を実施する場合には、3)解雇される者の選定のために客観的で合理的な基準を定め、4)適正な手続のもと整理解雇を実行することを心掛ける必要があります。

なお、近年の裁判例では、この4点全てを満たさなければならないという考え方から、4つのポイントとして総合的に判断するという考え方を取るものが増えてきています(4点全てを満たさなくとも整理解雇として有効とされることもあるということです)。

もっとも、全てを満たさなくともよい場合があるとしても、明らかに配慮が足りないポイントがある場合には、その他のポイントがどうであっても、解雇権の濫用と認められる可能性が高くなりますので、4つのポイントについて慎重に対応すべきことには変わりありません。

2.労働条件引下げ

労働条件は労働契約を締結する際に会社と労働者との合意によって設定されますが、この労働条件を変更する場合には、会社と労働者との間で再度合意を形成する必要があります(労働契約法8条)。

労働条件を引き下げる場合には、労働者にとって不利になりますので、合意を得るために丁寧に誠意をもって説明し、労働者に納得してもらう必要があります。

また、引き下げる労働条件は就業規則で定める労働条件を下回ることはできません。仮に就業規則に定める条件よりも労働者にとって不利な条件に変更したい場合には、就業規則の変更も必要となることに注意が必要です。

就業規則を変更するためには、その変更が合理的であり、かつ、変更後の就業規則を労働者に周知する必要があります(労働契約法10条)。そして、変更が合理的かの判断は、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況などの事情を総合的に考慮することになります。

3.退職勧奨

退職勧奨は労働者の任意の退職意思を引き出すものです。解雇ではないため、整理解雇の際に留意すべき上述の4つのポイントにとらわれる必要はありません。ただし、あくまで労働者の任意でなされなければなりません。

会社から相当性を逸脱した態様で退職を迫られた結果、半ば強制的に退職の意思表示をした場合には、その会社の退職勧奨は不法行為となり、労働者に対して損害賠償責任を負う可能性があります。

新型コロナウイルス感染症による影響を理由に解雇などを検討する場合の注意点

新型コロナウイルス感染症の影響で経済状況が悪化した場合でも、解雇、労働条件の引下げ、退職勧奨などを必要とするときには、上述のポイントを注意すべきことには変わりありません。

新型コロナウイルス感染症に関しては、政府が、生活、経営状況に影響が出ている者に対して、補助金などの救済措置を講じています。

そのため、「整理解雇をする際、人員削減の必要性があるかの検討の中で、これらの救済措置を講じたが、経営状況の悪化を防げなかった」というようなことは1つの事情となります。また、この事情は、労働条件の引下げのために就業規則を変更する場合においても、労働条件の変更の合理性を基礎づける1つの事情になるでしょう。

「令和2年度の助言・指導とあっせんの事例」からみる、注意点の解説

ここで、厚生労働省が公表した「令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況」にある、「令和2年度の助言・指導とあっせんの事例」をもとに、注意点を解説いたします。

(参考)「令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表します 「いじめ・嫌がらせ」の件数が引き続き最多、「解雇」等に関する民事上の個別労働紛争が前年度より増加 – 厚生労働省

解雇に関する助言・指導の事例

解雇に関する助言・指導の事例

(出典)「令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表します 「いじめ・嫌がらせ」の件数が引き続き最多、「解雇」等に関する民事上の個別労働紛争が前年度より増加 – 厚生労働省

契約期間の定めがある労働契約については、原則として契約期間が満了するまでの間労働者を解雇できません。例外的にやむを得ない事由がある場合のみ解雇できます(労働契約法17条1項)。

あえて労働契約において契約期間を定めることで、その期間の雇用を保障し合う趣旨からすると、この「やむを得ない事由」とは、一般的な解雇の要件である「客観的に合理的な理由」があり「社会通念上相当である」と認められる事情よりも、さらに厳格に解すべきであり、期間満了を待つことなく直ちに雇用を終了しなければ重大な損害が発生するなどの特別に重大な事情が必要となります。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大は未曽有の事態であることは否定できませんが、単にそのことのみをもってやむを得ない事由があったということは難しく、その他会社がおかれている状況などもふまえて判断することになります。

そして、事例1においては、検討の結果、解雇ではなく、会社都合による休業として、契約期間満了まで継続雇用したものと考えられます(この場合、休業手当は平均賃金の60%以上であればいいため、会社は平均賃金の100%は負担せずにすみます)。

労働条件引き下げに関する助言・指導

労働条件引き下げに関する助言・指導

(出典)「令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表します 「いじめ・嫌がらせ」の件数が引き続き最多、「解雇」等に関する民事上の個別労働紛争が前年度より増加 – 厚生労働省

労働条件を変更するためには、会社と労働者との間の合意が必要となります。上記の事例2では、所定労働日が会社からの通告で一方的に変更されようとしていたため、労働者との間で話し合って労働条件を決めるよう助言がされています。

そして、話し合いの結果、所定労働日は減らすものの、賃金は当初の所定労働日と同等の支払いをすることで、両者が納得し合意に至ったものと思われます。会社と労働者が納得をするのであれば、これ以外の決着も当然あり得るところで、大切なことは双方の納得に向けてしっかりと話し合うことです。

おわりに

新型コロナウイルス感染症による影響は、会社にとって大きな脅威ですが、同時に、労働者にとっても大きな脅威です。そのため、会社の経営立て直しのために必要な解雇、労働条件引下げなどであったとしても、適切な手続きを進めましょう。

適切な手続きを進めなければ、労働者の反発を生み、紛争となることもあります。そうなれば、さらに経営状況にダメージを与える可能性もあります。このような事態は会社にとっても労働者にとっても当然望ましいものではありません。

労働者に不利益な対応をする際には、慎重に検討を重ねて、場合によっては弁護士などの専門家にも頼りながら進めていくよう心がけましょう。

弁護士法人ALG&Associatesは、中小企業・ベンチャー企業のみならず上場企業の企業活動に伴い生じるあらゆる問題解決に積極的に取り組んでいます。東京宇都宮埼玉千葉横浜名古屋大阪神戸姫路福岡に支部があり、約90名の弁護士が所属しております。企業法務・労務だけではなく、医療過誤交通事故離婚相続刑事など幅広く専門性を追求し総合病院型の法律事務所を目指します。
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