JALが取り組んだ、従業員エンゲージメント向上のためのワークスタイル変革

2022.04.15 ライター: SmartHR Mag. 編集部

2021年9月15日、「JALの実務担当者が事例を紹介! 時代に先んじた人事制度に取り組み、従業員エンゲージメントを向上させる秘訣とは?」と題し、セミナーを開催いたしました。

登壇いただいたのは、日本航空株式会社 人財戦略部の東原様。モデレーターは、SmartHR春花が担当。本稿では、日本航空株式会社が生産性向上のために進める「働き方改革」の全容や、働き方の多様性・従業員エンゲージメント向上のために取り組むワーケーションなどの施策をご紹介します。

働き方改革に取り組みたい方や、効果を感じられていない方、ワーケーションなど時代に即した新しい働き方について興味がある方は、ぜひご覧ください。

■日本航空株式会社 人財戦略部 アシスタントマネジャー 東原 祥匡 氏

2007年日本航空株式会社入社。現業部門での経験の後、2010年より客室乗務員の人事、採用を担当。2015年より社外への出向を経て、2017年12月より現職。現在は規程管理や勤怠といった労務対応、LGBTQの理解促進、ワークスタイル変革のなかでもワーケーションの推進に向けた取り組みを担当し、社員一人一人がイキイキと活躍できる制度や風土創りに努めている。

※掲載内容は、2021年9月15日、セミナー実施時点の情報となります。

日本航空における働き方改革・制度導入のこれまで

東原さんについて

東原さん:日本航空の人財戦略部に所属しております、東原です。2007年に新卒入社し、はじめの2年間は空港でのチェックインやゲート業務、国際線を中心に客室乗務員として勤務していました。2010年からは客室乗務員の人事、採用、広報などを担当し、2015年からは2年間の出向。そして、2017年の末から現在の職務に従事しています。

現在はいくつかの部署を兼務しております。その中で、勤怠や規程といった労務管理、ダイバーシティ&インクルージョンという観点でLGBTQの理解促進、そして今日のメインのテーマであるワークスタイル変革を担当しており、ワークスタイル変革やワーケーション、意識改革などを通して、社員がイキイキと働ける環境づくりに取り組んでいます。

ワーケーション導入は、企業理念実現のための1つの施策

春花:ワークスタイル変革のために、なぜワーケーションを導入したのでしょうか?

東原さん:弊社ではワーケーション制度をダイバーシティ&インクルージョン(以下D&I)の施策の1つとして取り入れています。そもそもなぜD&I、従業員がイキイキと働く環境づくりに取り組んでいるのかをお話しさせてください。

まず、弊社の企業理念です。「お客さまに最高のサービスを提供します」そして「企業価値を高め、社会の進歩発展に貢献します」という理念があります。

1つ目の理念、「お客さまに最高のサービスを提供します」については、世の中の変化のスピード、ニーズの多様化に関わらず、お客さまに最高だと思っていただけるサービスを提供していくことが重要です。

2つ目の「企業価値を高め、社会の進歩発展に貢献します」という理念、こちらに関しては、2010年に経営破綻したことで大変ご迷惑をおかけしてしまったのですが、事業を存続するからには、世の中に貢献できる会社を目指さなくてはならないと考えています。

これらを達成するためには、全社員の物心両面の幸福が必要です。全社員の幸福の追求のためにD&Iに取り組む必要があると考え、その一環としてワークスタイル変革を進めています。

JALグループ企業理念

春花:なるほど。ワークスタイル変革、つまり働き方改革の推進だと思うのですが、その第一歩はどのように進められたのですか?

東原さん:2011年から会社の課題を社長自らのトップのコミットメントとして発信しました。2011年から2012年にかけては、グループ会社間を超えたつながりや、海外の採用と日本の連携、適材適所で活躍の場を展開するという点にフォーカス。2014年には女性活躍の観点、2016年にはLGBTQの促進や障がい者雇用を掲げてきました。

ワークスタイル変革に着目した発信は2015年と2017年です。2015年は諸環境整備がメインで、2017年には労働時間の目標を掲げました。

トップコミットメント

東原さん:2015年は特に制度の導入に力を入れました。フリーアドレスやフレックスタイム制度を入れたり、IT関連ではノートパソコンの導入や、固定電話から社給携帯への変更を進めたりしました。

柔軟性のある働き方ができ、より生産性を上げるため、2017年に総実労働時間1,850時間という目標を立てました。弊社の場合所定労働時間が8時間ですが、残業を月間4時間程度とし、年次有給休暇を20日取ると、大体この時間が達成できます。

新たな制度導入は各部門のトップがジャッジ。社内で成功事例が生まれ、全社に広がる

春花:どのように社内の理解や共感を得ていったのでしょうか?

東原さん:全体的な目標イメージはトップダウンで共有していきました。社長自らがやり方を伝え、仕事の内容や、フリーアドレスやフレックスタイムなどの制度導入は、各部門のトップがジャッジしていくという進め方です。

全社一律の制度変更ではなく、実施するか否かは組織ごとに判断し、当事者意識を持って改革を進めていくこととしました。結果的に、改革に成功した組織の成功事例が周りにも波及していきました。ここは非常に重要なポイントだったと思います。

春花:社内の方を巻き込みながら、成功事例を作っていったのですね。

東原さん:これらを進めた結果、ワークスタイル変革を進める部署ができ、より展開しやすくなりました。

春花:IT化の促進も1つのポイントだと思います。特に航空業界では多様な職種があり、業務も複雑ではないかと思います。ペーパーレスを目指すなかで難しい点はありましたか

東原さん:特に問題は起こらなかったです。何十年も紙文化でしたが、柔軟性のある働き方実現のために、紙は減らしていくべきだと決意し、期限を決めて部門ごとに取り組んでいただきました。

本当に必要な紙はスキャンしてクラウド上に保管したり、文書の保存期限があるものはファイリングしたりしましたね。必須の書類以外で、念のため保管していたものは、その機会に捨てるという判断をした方もいましたが、その後特に問題は起こらなかったようです。業務全体を見直し、思い切って捨てることも働き方改革の重要なポイントかもしれません。

春花:ペーパーレスを進めた効果はいかがでしたか?

東原さん:BCPという観点でよい効果があったと思います。天災などが起こっても事業を推進できるようになりました。特に昨今は、新型コロナウイルスの流行により、従業員の健康を守りながら事業運営ができている実感がありますが、これらは以前から取り組んできた働き方改革のおかげです。

休暇取得促進のため、ワーケーションを導入

春花:2017年に掲げた労働時間削減の目標については、どのような施策まで視野に入れて動かれていたのでしょうか?

東原さん:総実労働時間1,850時間という目標を打ち出した2017年時点では、「残業なしにしよう」「休暇を取ろう」という程度で、ワーケーションまで考えていませんでした。

ワーケーションに着目したのはもう少し後、2017年度の途中でした。社員に「どうすれば夏休みや冬休みの長期休暇を取りやすくなるか」を質問したところ、「遠隔地でテレワークができれば、帰省先で長く滞在できます」という声があがったんです。休暇取得促進ができていない課題と、ワーケーションの考え方が合致し、取り組みがスタートしました。

休暇取得促進のため、ワーケーション制度を導入

「ワーケーション」「ブリージャー」2つの制度を運用

春花:ワーケーション制度について詳しく教えてください。

東原さん:ワーケーションという言葉は、ワークとバケーション、つまり、仕事と休みの融合という定義のため、ワーケーションにはさまざまな形があると思います。ですので、まずは弊社のワーケーションがどういった制度なのかをご説明します。

JALのワーケーション制度について

(JALのワーケーション制度について)

東原さん:上記の図の左側が、「ワーケーション」と位置づけているものです。休暇の中でちょっと業務が発生したとき、もしくは、少しだけ仕事をすればあとは休暇として過ごせるときに活用できます。

上記の図の右側にある「ブリージャー」は、ビジネスとレジャーの造語です。こちらは業務がメインで、休暇要素もある制度になっています。出張に休暇をつけるという使われ方が多いですね。これもワーケーションの中に含む場合もありますが、弊社は別の制度としています。

自分自身がまず利用し、徐々に口コミで制度活用が広まる

東原さん:働くこと・休むことへの意識改革、休暇取得促進の喫緊の課題は意識改革でした。働くこと、休むことへの意識を変えることが重要です。

ただ、はじめはなかなか取得者がいませんでしたので、半年ぐらいかけて自分自身がワーケーションを利用し、その必要性について考えていきました。私は現在の部署に着任する前、2年間社外に出向していたのですが、社外に身を置くことで、自分や会社、今後の人生を客観的にみつめられたんです。

単に家とオフィスを往復しているだけではなく、外からの刺激・インプットが増え、業務に対する意思決定にも活かせるようになりました。すごくいいなと思ったんです。

ワーケーションの向き不向きもあるし、要らないという人もいると思うんですが、この選択肢があることで社員自身の前向きな気持ちを誘発できると感じています。

徐々に利用者、リピーターが増え、口コミにより制度の活用が進みました。社員のニーズにマッチしたものを考えることはとても重要だと感じましたね。

ワーケーション制度の効果

利用者は非利用者よりポジティブな意識変化が生まれる

春花:ワーケーション制度の効果はどうでしたか? 何か測定されていたのでしょうか?

東原さん:「ワーケーションよさそうだけど、それを説明する材料がない」とお困りの方は多いかもしれません。弊社ではその効果を定量的に示す必要があると考えていました。「JALだからできるんでしょ」というご意見もあると思います。

そこで、自社だけでなく、私が社外で業種や職種混合で実施した働き方改革プロジェクトの、調査結果をご紹介します。

(ワーケーションの浸透に向けた取り組み 調査結果)

(ワーケーションの浸透に向けた取り組み 調査結果)

東原さん:こちらの図は、大学でワークエンゲージメントを専門とされている先生にも監修いただいたワーケーションに関する調査結果です。図の縦軸が上にいくほど、ポジティブな回答。横軸は定点観測の回数です。

1〜5回目と書いてあるのは、ワーケーションの回数です。青い線はワーケーションせず、ずっと東京のオフィスで働いている人です。オレンジ色の線は、1回目、2回目、4回目、5回目は東京で働いているけれど、3回目だけハワイでワーケーションをした人です。この図は、120人のうちの10名程度がワーケーションをしている条件での調査結果です。

調査結果を解説すると、「どの程度仕事に対してストレスを感じるか」という調査項目では、3回目でストレスを感じないと答えた人が増えています。

「上司との関係性は良好ですか?」についても、3回目で上がっています。上司との関係性が良いおかげでリモートワークでも関係性が掴めているという、ポジティブな回答だと捉えています。

「この会社で働き続けたいですか?」という項目では、おもしろい数字がでています。3回目でもちろん上がっているんですが、ワーケーションから帰ってきてからも下がっていないんですよね。ワーケーションの効果が持続しているんです。「プライベート、私生活は充実していますか?」についても、同様です。

一般的に、ワークエンゲージメントは旅などに行くと2〜3週間下がらないそうです。よって、そのワーケーションを実施した期間だけでなくもう少し長い目で見た場合にも、働く意欲によい影響が出ると考えています。ワーケーションの推進において重要なのは、これらのエンゲージメントとの関連性ではないでしょうか。

生産性もあがるに越したことはないですが、こちらばかりにフォーカスしてはミスリードする可能性もあります。その地域でしかできない経験を経て、インプットが増え感性を養うことで、長い目でみたパフォーマンスの発揮が期待されることがワーケーションの魅力ですね。

効果を生み出す秘訣は、社内での成功事例を積み重ねること

春花:エンゲージメントという言葉があがりましたが、以前から意識していたのですか? それともこの取り組みでわかったことですか?

東原さん:両方あります。歳をとると、世界が狭くなりがちで、会社だけの情報で埋もれていきます。それでは何かジャッジするときの材料が少ないのではないかと感じていました。

環境を変え刺激を受け、モチベーションが上がることで、社会の流れやお客さまのニーズに敏感になれるのではないでしょうか。ワーケーション制度を通してモチベーションが向上し、外の環境からインプットし、業務に活かす。これらはエンゲージメント向上にもつながると思います。ワーケーション制度はゴールではなくて、エンゲージメント向上のためのステップといえますね。

春花:すごく素敵な施策ですね。このような新しい施策をうまく進める方法やポイントを教えてください。

東原さん:やはり成功事例を作ることが大切です。ワーケーション制度を体験した部下がイキイキと働いているのを見れば、上司の考えも変わると思います。さきほどの調査結果でも、「プライベートが充実している人は、仕事も充実している」と答えているんです。

春花:ワーケーション制度を検討している方の参考に、注意すべきポイントについて教えてください。

東原さん:はじめての試みでしたので、当時はかなり慎重にすすめていましたが、今思うと会社の課題や制度設定の背景、誰をターゲットにするか、それらを事業の成長や人財育成にもっとうまく紐付けられたかもしれないなと感じますね。

制度立案者に求められることは、どうしたら実現できるかを考えること

春花:制度の運用において、想定していたリスクはありましたか?

東原さん:2つあります。1つがコストをどう考えるか、もう1つが労務管理です。ただ、そこまで導入ハードルが高い制度だとは思っていないんですよね。

今回、ワーケーション導入の目的は休暇取得促進でしたので、会社として大きな負担があるわけではありませんでした。労務管理、労災についてのご質問も多く受けますが、社員を守るために業務と休暇の線引きはしっかりする必要がありますね。

リスクよりも、どうしたら実現できるかを考えることが、すごく大事だと思います。

春花:ありがとうございます。あっという間にお時間となりました。最後に、ご覧になっている方々が、一歩踏み出せるような一言をお願いします。

東原さん:今の時代、社員が求めていることを踏まえると、やはり働き方改革は必要だと思います。また、制度運用において一番大事なことは、性善説の立場に立ち、どうすれば実現できるかを考え抜くことだと思います。人事労務の立場にいると、性悪説で制度設計しがちですよね。

ワーケーション制度はリスクも大きくなく、シンプルな制度設計で取り入れられます。社員のワークエンゲージメント、モチベーションの向上につながりますので、ぜひ検討してみてください。一緒にワーケーションできる企業が増えるといいなと、個人的には思っております。今日は貴重な機会をありがとうございました。

【執筆・まえかわ ゆうか】
エディター / ブランディングプランナー / カレー屋さん。アパレルからビジネス分野まで幅広い分野でクリエイションを提供する。専門分野は食。

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