「退職勧奨」は解雇と違う? リストラ時の注意点を弁護士が解説
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こんにちは、弁護士法人ALG&Associate大阪法律事務所の長田弘樹です。
米国大手SNS企業で実施されている大量解雇通告を受けて、同社の日本法人でも解雇通告がはじまっていると言われています。また日本では「整理解雇の要件」によって、一方的な整理解雇は違法の可能性があるとも指摘されています。
整理解雇とは少し異なる「退職勧奨」の概略と、通達時のポイントを解説します。
「退職勧奨」とは?
退職勧奨とは、使用者が労働者に対し「辞めてほしい」「辞めてくれないか」などと、退職を勧めることです。
退職勧奨は、労働者の退職の意思表示を促す事実行為にとどまっていれば、整理解雇を含め解雇と法的性質が異なるため、退職金の支給率や求職者給付(いわゆる失業保険)の給付制限期間などに違いがあります。
退職勧奨は会社都合と自己都合のどちらになる?
使用者からの退職勧奨に応じて退職した場合、自己都合退職とはならず、会社都合退職となります(雇用保険法23条2項2号、雇用保険法施行規則36条9号)。
前項の特定受給資格者とは、次の各号のいずれかに該当する受給資格者(前条第二項に規定する受給資格者を除く。)をいう。
二 前号に定めるもののほか、解雇(自己の責めに帰すべき重大な理由によるものを除く。第五十七条第二項第二号において同じ。)その他の厚生労働省令で定める理由により離職した者
事業主から退職するよう勧奨を受けたこと。
このため、退職勧奨に応じて退職した労働者は、自己都合退職による離職者よりも有利な求職者給付(いわゆる失業保険)を受給できます。
退職勧奨と解雇、早期退職の違い
退職勧奨に応じての退職は、使用者の一方的な意思表示によって労働契約を解約する「解雇」とは異なり、労使双方の合意にもとづいて労働契約を終了させる「合意解約」に当たります。退職勧奨に応じて退職した場合は会社都合退職とされますが、解雇については、解雇事由によって自己都合退職と扱われることもあります。
早期退職とは、会社が就業規則などに早期退職(優遇)制度を定めており、その規程を適用した退職となります。一般的に早期退職制度は、所定の定年年齢より早期に退職する者について、退職金を割増で支給するなどの優遇措置を実施することで、定年年齢に達する前の退職を奨励する制度のことです。早期退職は、優遇措置を受ける代わりに進んで退職する者なので、「自己都合退職」とされることが多いです。
退職勧奨のメリット・デメリット
退職勧奨のメリットとしては、解雇事由がなく、裁判例上解雇が有効にならないケースであっても実施でき、解雇予告(労働基準法20条)も不要となる点にあります。
一方でデメリットとして、退職勧奨は、あくまで退職するかどうかは労働者の意向次第となるので、労働者が退職勧奨に応じなかった場合には、雇用関係が継続する点にあります。そのため、労働者が退職勧奨に応じなかった場合の対応も考えておく必要があります。
退職勧奨する際のポイント
退職勧奨に応じても自己都合退職とならないことはすでに述べたとおりです。
会社都合での退職により離職している者は、特定受給資格者(雇用保険法23条2項2号)に当たり、求職者給付(いわゆる失業保険)の受給の始期と期間において有利に取り扱われます。
退職勧奨に応じて離職した者は、特定受給資格者に当たるものとして雇用保険法施行規則36条9号に定められており、会社都合退職と取り扱われています。
ポイント(1):退職理由と退職時期
会社都合退職として扱われる退職理由としては、以下のようなものが挙げられます(雇用保険法23条2項2号、雇用保険法施行規則36条9号参照)。
- 倒産
- 解雇(労働者の責めに帰すべき重大な理由による場合を除く)
- 賃金の3分の1以上が支払期日までに支払われなかったこと
- 離職の直前6か月のうちいずれかの月において1か月当たり100時間以上の時間外労働が行われたこと
- 使用者のハラスメント
- 退職勧奨を受けたこと
(参照)雇用保険法23条2項2号 – 厚生労働省、雇用保険法施行規則36条9号 – 厚生労働省
会社都合退職として取り扱われる場合は法律で定められており、それ以外はすべて自己都合退職と扱われます。
退職時期は、退職理由が会社都合と自己都合とにかかわらず、基本的には労使間の合意によって定められます。
ポイント(2):退職金や有給休暇などの取り扱い
退職金の支給率は、会社の就業規則などの定めに従います。たとえば、会社によっては、懲戒解雇の場合には退職金の不支給や減額を定めていることがあります。
一般的に、退職勧奨に応じて退職する場合、退職金は定年や辞職により退職した場合と同様に支給されることが多いです。
有給休暇の取り扱いについても、会社の就業規則などの定めによります。一般的に、退職勧奨に応じて退職の意思表示をしてから、退職日までの期間で調整して有給休暇を取得する労働者が多いです。
なお、使用者には退職にともなって消滅する有給休暇を買い上げる義務まではないので、有給休暇が残っている場合にはご注意ください。
ポイント(3):退職を強要しない
退職勧奨は、使用者が辞職を勧める行為であり、使用者による合意解約の申し込みに対する承諾を勧めるという事実行為にとどまっている必要があります。
退職勧奨の実行自体は基本的には自由ですが、勧奨行為が執拗で不当な強要にわたる場合には、不法行為と評価される可能性もあります。
適法な退職勧奨であると認識して行われた使用者の行為が、労働紛争を生じさせることがありますので、退職勧奨の態様や程度には留意する必要があります。
合意してもらうことがポイント
退職勧奨は、使用者が、労働者の辞職または合意解約の申し込み、もしくは承諾を促す行為です。退職勧奨は、労働者の自由な意思を尊重する態様である必要があり、この限りで使用者は勧奨行為を自由に実施できるものです。
あくまで労働者の意思による退職であることが、解雇権濫用法理の適用を排除する根拠ですので、退職勧奨の対象者には納得していただき、退職について労使間で合意が形成されているといえる必要があります。