機密情報漏えいの当事者にならないためのポイント【弁護士が解説】
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こんにちは、弁護士法人ALG&Associates大阪法律事務所の長田弘樹です。
労働者は、労働契約上の付随義務として、信義則(民法1条2項)にもとづき、使用者の営業上の秘密(企業秘密)を第三者に漏洩することや、目的外使用をしてはならないという義務を負っています。
企業秘密を故意に漏洩した場合はもちろん、過失によって漏洩してしまった場合も懲戒処分や損害賠償の対象となり得るので注意が必要です。
今回は、機密情報漏洩の当事者になってしまった場合のリスクや日々の業務で注意すべきポイントについて、解説していきます。
企業の機密情報を漏洩した場合どうなるのか
機密情報漏洩による罰則
企業のなかには、就業規則上の服務規律の一環として「職務上知りえた事実を他に漏洩しないこと」などの規定をしているところも多いでしょう。営業秘密を漏洩した場合には、このような職務規律違反として従業員に対する懲戒処分や解雇がなされることもあります(古河鉱業足尾製作所事件判決・東京高判昭和55・2・18等参照)。
また、企業の機密情報を漏洩してしまった場合、秘密保持義務違反として、使用者が労働者に対し、損害賠償を請求することがあります。(エープライ(損害賠償)事件・東京地判平成15・4・25等参照)。
機密情報漏洩が発覚した企業の対応
機密情報漏洩が発生すると、企業の社会的信用が大きく損なわれるだけでなく、場合によっては、企業が損害賠償責任を負うこともあります。そのため、企業が機密情報漏洩をした従業員に対し、懲戒処分、解雇や損害賠償請求などの厳しい措置をとることがあります。
機密情報漏えいをした個人への制裁
個人が、企業が管理する機密情報が記録された文書やUSBなどの外部記録媒体を外部に持ち出した場合、窃盗罪(刑法235条)が成立する可能性があります。
また、自らが管理権限を有している、企業の機密情報が記録された文書や外部記録媒体を外部に持ち出した場合、窃盗罪は成立しないものの、業務上横領罪(刑法253条)が成立する可能性があります。
さらに、個人が自ら所有する外部記録媒体などに機密情報を記録して外部に持ち出した場合、窃盗罪や業務上横領罪は成立しないものの、不正競争防止法違反(同法21条参照)となり、刑事罰を受ける可能性があります。
このように機密情報を漏洩すると、懲戒処分や損害賠償などの対象になるだけでなく、刑事罰が科される恐れがあるので、注意する必要があります。
日々の業務のなかで気をつけるべきポイント
前職の知識(経験)を活かす場合のポイント
転職後に前職で知り得た営業秘密を漏らしてしまった場合、不正競争防止法違反となり、損害賠償などの対象となる恐れがあります。
不正競争防止法では、営業秘密に該当するためには、以下の3つの要件を満たす必要があるとされています。
- 有用性:商業的価値が認められる情報であること
- 非公知性:保有者の管理下以外では一般に入手できない情報であること
- 秘密管理性:情報が秘密として管理されていること
そのため、転職後に前職の知識(経験)を活かそうとする場合、注意する必要があります。なお、前職で、一般的に得られた知識(経験)については、営業秘密に該当しないと考えられます。
個人に関わる情報のメールやチャットでの誤送信
個人情報を含むメールやチャットを誤送信してしまった場合、会社の信用を大幅に低下させることとなります。
メールやチャットでの誤送信を防ぐための方法としては、宛先のオートコンプリート機能を無効にする、メール送信をする前に第三者にチェックしてもらうことなどが考えられます。
また、万が一、誤送信してしまった場合に備えて、個人情報が記載された添付ファイルを暗号化するなどの対応も考えられます。
退職者、不採用者の個人情報の取扱不備
退職者、不採用者の個人情報が適切に管理されておらず、外部に流出させてしまうことが起こり得ます。
特に、退職者の履歴書については、5年間の保存義務が定められており(労働基準法109条)、不採用者の場合として比較して、外部に流出するリスクが高くなっているので注意が必要です。
対策としては、退職者や不採用者の個人情報が記載された書類が外部に流出することのないよう、鍵で管理された場所で保管しておくなどの対応が考えられます。
カフェやホテルなどのフリーWi-Fiを利用した業務など
カフェやホテルなどのフリーWi-Fiを利用する場合、重要なデータに関する通信内容が外部に流出してしまう恐れがあります。
対策としては、有料の公衆Wi-Fiを利用する、VPNを利用するなどの対応が考えられます。
知らないうちに情報漏洩えいに加担しないために
企業の秘密情報を漏洩してしまった場合、懲戒処分や損害賠償請求を受けるリスクがあるだけでなく、場合によっては刑事罰の対象となる可能性もあります。
情報漏洩については、誰にでも起こり得るものです。
知らないうちに情報漏洩に加担することを避けるためにも、日々の業務のなかで情報漏洩を起こさないための対策をとっていくことが非常に重要です。