人事・労務担当が知っておきたいHRニュース|2025年11月振り返りと12月のポイント
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こんにちは。社会保険労務士法人名南経営の大津です。時間が経つのは本当に早いもので、今年も年末が近づいてきました。今月は賞与の支給、年末調整などで忙しい月となりますが、安心して年末年始を迎えられるように、しっかり対応していきましょう。
さて、年末調整に関連する事項としては、11月20日にマイカー通勤手当の所得税非課税限度額が引き上げられ、マイカー通勤が多い企業においてはさまざまな対応が求められています。今回はこのテーマから取り上げていきます。
11月のトピックを振り返る
トピック1 通勤手当の非課税限度額引き上げへの対応
政府による骨太方針2025のなかで、以下の方針が記載されています。
物価上昇が継続していることを踏まえ、予算、税制における長年据え置かれたままの様々な公的制度に係る基準額や閾値について、国民生活へ深刻な影響が及ばないよう、省庁横断的・網羅的に点検し、見直しを進める。
そのうえで、長年据え置かれてきた公的制度の基準額や閾値の例として以下が挙げられ、速やかな見直しを実施するとの方針が示されていました。
- 交通遺児育成給付金
- 子どもの学習・生活支援事業(生活困窮者自立支援制度)
- 食事支給に係る所得税非課税限度額
- マイカー通勤に係る通勤手当の所得税非課税限度額
このうち「4. マイカー通勤に係る通勤手当の所得税非課税限度額」が、2025年11月19日の所得税法施行令の改正により引き上げられました。ガソリン価格の高騰が続くなか、マイカー通勤者にとってはありがたい改正となっています。
2025年11月20日に施行され、2025年4月1日以後に支払われるべき通勤手当(※)に適用されます。
※同日前に支払われるべき通勤手当の差額として追加支給するものを除く
改定後の非課税限度額は以下のとおりです。
図表 改定後の非課税限度額

実務上の注意点は、今年4月に遡って適用されることです。以下のような対応が求められます。
- 今回の非課税限度額の引き上げによって、新たに非課税となる金額がある場合には、年末調整の際に精算する。
- 年の途中に退職した従業員のなかで、1に該当する人がいる場合には、源泉徴収票の再交付が必要。「支払金額」欄を訂正し、摘要欄に「再交付」と表示する。
- 賃金規程において、「非課税限度額の範囲において通勤手当を支給する」と定めている場合には、通勤手当の追加支給が必要となる。
- 今回の引き上げより影響が出る従業員や退職者への連絡と説明が必要になる。
マイカー通勤手当の非課税限度額引き上げについては、以下の記事でもくわしく解説していますので、あわせてご覧ください。
トピック2 過労死等防止啓発月間
1988年に全国の弁護士が「過労死110番」を開設してから40年近くが経過しますが、残念なことに、日本では過労死の問題が未だ大きな社会問題として存在しています。
以下のグラフは令和2年度から令和6年度にかけて、脳・心臓疾患にかかる労災請求件数と支給決定件数の推移を表したものです。ここ数年、労災請求件数と支給決定件数がともに増加しているのが実情です。

こうした背景から、厚生労働省では11月を「過労死等防止啓発月間」として、重点的な監督指導や過重労働解消相談ダイヤルなどを実施しました。キャンペーンポスターにもあるように、命よりも大事なものなどありません。こうした機会を捉えて、自社の働き方に問題がないのかを省みる取り組みを進めたいものです。

12月のポイント
いよいよ年末が近づいてきました。今月は冬季賞与と年末調整の準備が大仕事となるでしょう。冬季賞与準備は10月号、年末調整は11月号でお伝えしていますので、以下ではそのほかのトピックを取り上げていきます。
トピック1 協会けんぽの被扶養者資格再確認
2025年12月2日以降は、従来の健康保険証が利用できなくなります。これにより、今後医療機関を受診する際は、マイナンバーカードに紐づけたマイナ保険証の提示が原則となります。

マイナ保険証の登録状況は、2025年10月末時点で8,739万人、マイナンバーカード保有者の87.8%に留まり、マイナ保険証を保有していない人も一定数いるようです。マイナ保険証がない場合は、「資格確認書」を医療機関等に提示することで、これまでどおり保険診療を受けられます。
資格確認書は、従来の健康保険証を保有(※)し、2025年4月30日時点でマイナ保険証を持っていない方などに発行されています。
※2024年11月29日までに新規に資格取得(扶養認定)の決定をされた人
健康保険証の利用終了に伴い、従業員やその家族から問い合わせがくる可能性が高まります。マイナ保険証の発行方法(登録方法)や、資格確認書の扱いを以下で確認しておくとよいでしょう。
トピック2 インフルエンザ対策
今年はインフルエンザが例年よりも1か月早く流行し、16年ぶりに11月中に警報レベルという大流行の兆しを見せています。

社内で感染が拡大しないよう、まずは感染防止の対策を進めましょう。感染を防ぐには、まず飛沫感染、接触感染といった感染経路を断つことが重要です。
- 人が多く集まる場所から帰ってきたときには手洗いを心がける
- アルコールを含んだ消毒液で手を消毒するのも効果的
- 普段からの健康管理も重要。栄養と睡眠を十分にとり、抵抗力を高めることもインフルエンザの発症を防ぐ効果がある
また、予防接種も重要です。予防接種は発症する可能性を減らし、もし発症しても重い症状になるのを防げます。ただしワクチンの効果が持続する期間は、一般的には5か月ほどです。また、流行するウイルスの型も変わるので、毎年、定期的な接種が望まれます。
社員の健康を守り、業務の安定稼働を実現するために、インフルエンザ予防など、日ごろの健康管理が重要になります。
トピック3 勤務間インターバル制度
労働政策審議会において、労働基準関係法制見直しの議論が進められています。そのなかで、現在努力義務とされている「勤務間インターバル制度」の実効性ある導入促進といった議案が取り上げられています。
勤務間インターバル制度とは、1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル)を設け、働く人の生活時間や睡眠時間を確保するものです。とくに睡眠時間の短さと脳・心臓疾患発症には相関関係が認められるため、十分な睡眠時間を確保するためにも、一定のインターバル確保は重要です。

令和3年7月30日に閣議決定された「過労死等の防止のための対策に関する大綱」では、以下のとおり目標設定されていましたが、導入率は5.7%(令和6年就労条件総合調査)に留まっています。
- 2025年までに勤務間インターバル制度を知らなかった企業割合を5%未満とする
- 2025年までに、勤務間インターバル制度を導入している企業割合を15%以上とする
今後予定される法改正では、罰則付きの措置義務にまではならないと予想されています。しかし、過重労働による健康障害の防止にもっとも効果が高い取り組みですので、法改正に先立ち、導入の検討を進めることをおすすめします。導入検討にあたっては、厚生労働省が用意している「勤務間インターバル制度導入・運用マニュアル」を活用するとよいでしょう。
2025年のHRニュースの振り返りと2026年の展望
毎月連載している本HRニュースも年内はこれが最後となります。今年は2年連続で5%を超えた賃上げや、過去最大となった最低賃金の引き上げ対応など、賃金に関する話題が多い1年となりました。また法改正としては4月と10月の2回に分けで施行された改正育児・介護休業法への対応の負担も大きかったのではないでしょうか。
年が明けるとすぐに春季闘争や労働基準法改正に関する報道を頻繁に目にすることになるでしょう。ヒト・モノ・カネ・情報という経営資源の中で、ヒトがもっとも希少な時代となり、人事担当のみなさんの役割はますます大きくなっています。
来年も人事労務に関するさまざまなトピックが飛び交う1年になりますので、まずは体調に気を付けて、よい年末年始をお迎えください。








