モデル就業規則や雛形から「就業規則」を作成する際の注意点5つ
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就業規則を作成するにあたっては、厚生労働省のモデル就業規則をはじめ、インターネットからダウンロードしてひな型を手に入れるのは難しくありません。
しかし、ひな型を活用するに当たっては、多かれ少なかれ、自社に合った形にするためのカスタマイズが必要です。
そこで、本稿では、ひな型をつかって自社で就業規則を作成していく場合、特に注意を払っておきたいポイントを5つ、「無期転換5年ルール」や「副業解禁」など直近のトレンドも踏まえ、紹介していきたいと思います。
(1)就業規則における、無期転換された「元契約社員」の扱い
平成30年4月1日以降、多くの会社で無期転換権の対象となる契約社員が発生することが予想されています。
多くの就業規則のひな型では、社員を「正社員」「契約社員」「パート社員」という3パターンで分類しており、無期転換された「元契約社員」の立ち位置がハッキリとしていません。
この点、無期転換された「元契約社員」にしてみれば、「私は正社員と同じ待遇が受けられるはずだ」という期待を持ち、正社員と同様の賞与や退職金が支払われると考えるかもしれません。
会社として、「契約社員が無期転換された後は正社員と同じ待遇を保証する」という考えであれば問題ないのですが、職務の内容や転勤の有無などを鑑みて、正社員と同じ待遇はできないと考える企業もあると思います。
そういった場合は、無期転換後に適用される労働条件で、労使の考え方の違いでトラブルにならないよう、新たに「無期社員」という社員のカテゴリーを追加して、無期社員に適用される労働条件を明確に定めておく必要があります。
(2)就業規則の「休職」に関する定め
「私傷病で労務に服することができない場合、一定期間の“休職”を与える」という条文が、厚生労働省のモデル就業規則を含め、ほとんどの就業規則に入っています。
「休職」という制度自体は労働基準法で義務付けられたものではないので、理論上は削除することもできるのですが、実態として一定の休職期間を与えないまま解雇をした場合、裁判などでは会社が負ける可能性が極めて高いです。
そのため、会社のリスク管理という意味において、そして社員への福利厚生という意味においても、休職の制度は就業規則に定めるべきです。
しかしながら、「休職期間」は、自社の経営体力に合った長さにすることが必要です。例えば、就業規則のひな型の中には、年単位での休職を認めるような書き方になっているものもありますが、会社の経営が年単位の休職に耐えられるのかを検討する必要があります。
休職期間中も本人及び会社負担の社会保険料は発生しますし、本人の復職までに時間がかかる場合は、残った社員で仕事をカバーしなければならないので、マンパワーに余裕がない中小企業では過重労働を誘発してしまう恐れもあります。
ですから、経営体力が大きいとはいえない場合は、休職は1ヶ月から2ヶ月程度を原則として、勤続年数に応じて上乗せがあるような制度設計が無難ではないかと思います。
(3)就業規則の「休暇」に関する定め
ひな型の就業規則には、「慶弔休暇」「病気休暇」「リフレッシュ休暇」など、様々な休暇メニューが定められていることがあります。ただし、これらは労働基準法で定められている以上の上乗せの福利厚生的な休暇です。
有給休暇をほとんど消化できていて、さらに休暇制度を増やしたいということなら良いのですが、有給休暇がほとんど消化できていないのに、それ以外の休暇メニューを増やしても、制度が形骸化してしまうか、休暇を使う社員と遠慮して使わない社員で不公平感が生じてしまう恐れもあります。
また、今後の法改正で年5日以上の有給休暇の付与の義務化も予定されていますので、法令順守のためにも、まずは業務の効率化などを通じて、有給休暇を消化できるような労務管理体制を構築し、有給休暇の消化が進んだならば、次のステップとして会社独自の休暇制度を取り入れていくことが賢明でしょう。
有給休暇が消化できていないうちに、ひな型に書いてあるから、他社でやっているからという理由で、休暇のメニューを増やしてしまうのは避けたほうが無難でしょう。
(4)就業規則の「副業」に関する定め
平成30年1月31日、厚生労働省がモデル就業規則の内容を改め、その内容には副業容認が含まれています(*1)。
しかし、まだ世の中に出回っている就業規則のひな型も、副業禁止や、厳しい許可制を前提にしたものが多いようです。
この点、本業に悪影響を与えない副業は原則自由に行うことができるというのが現在の労働法の解釈であり、世論もそのようになってきていますので、副業を容認した上で、副業を行う場合には必ず会社に届け出ることや、どのような場合には会社は副業を注視させるかなど、社員の副業状況を適正に把握し、チェックができるような内容の就業規則を作成していくべきでしょう。
就業規則で副業を禁止したために、社員が隠れて副業を行い、大問題になってから発覚したというようなリスクのほうが危ないため、発想を転換して、社員が副業を申告しやすい就業規則を作成することで、副業の「見える化」を行い、リスク管理を行っていくという考え方を取るのが、これからの時代は望ましいのではないでしょうか。
副業における法的リスクについては下記記事をご参照ください。
(5)就業規則の「昇給」だけでなく「降給」に関する定め
一般的にモデル就業規則では「昇給」という条文が入っていて、「毎年○月に昇給を行う。」といった内容が書かれています。
基本的に年功序列で昇給が行われ、会社の業績が厳しかったり、本人の勤務態度や成績が良くなかった場合は「悪くて据置」という考え方が主流であった時代はこれでリスクは無かったのだと思いますが、現在の労務管理においては「アウトプットに比例した賃金」という考え方が主流になってきていますので、人事評価の結果においては「減給(基本給の引き下げや手当のカット)」を行いたいという場面も出てくることが考えられます。
人事評価の結果による減給は、それが権利濫用にならなければ会社の人事権の範囲とは考えられていますが、その根拠が明確でなければ争いになった場合に会社側の主張が認められないリスクが高まりますので、少なくとも「人事考課の結果によっては昇給だけでなく減給もありえる旨」を就業規則に定め、可能であれば、どのような評価を受けた場合に減給になるかも(例:C評価を連続2回取った場合)、就業規則に具体的に定められていると法的にも説得力が増し、社員の理解も得られやすいのではないかと思います。
就業規則作成のまとめ
以上5つのポイントを紹介しましたが、もちろんこの5つだけが注意すべき点の全てではありません。
モデル就業規則は、すべての会社で適用できるよう「最大公約数」で作成されていますし、インターネット上で手に入るひな型は、必ずしも最新の法改正や労務管理のトレンドを反映したものではない可能性もあります。
就業規則のひな型は、ゼロから就業規則を作成することに比べれば、作成の手間を大きく減らしてくれることは間違いありません。
しかし、自社に合った就業規則の形にしっかりとカスタマイズした上で活用していくべきものであることを忘れないで下さい。