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「心理的安全性」が生むエンゲージメントと組織運営への効果【セミナーレポート】

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目次

「心理的安全性」は組織運営の重要ポイントとして昨今注目を浴びています。6月27日に開催されたSmartHR・Smart相談室主催のセミナーでは、組織・人事領域でのデータ分析・コンサルティング事業を展開する株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役の伊達 洋駆さんをお迎えし、「心理的安全性」が従業員のメンタルヘルスや組織全体の生産性に与える影響についてお話しいただきました。

本記事では、自社に適した形で心理的安全性を高める方法や、期待できる効果をご紹介します。

伊達 洋駆 氏

株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役

神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。

2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。

著書に『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)や『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)など、近刊に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)がある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

心理的安全性が高いと、チーム内でどんどん意見が言える

本日の講演では、大きく3つのパートに分けてお話していきます。1つ目は、心理的安全性とは何か。2つ目は、職場で心理的安全性を高める方法。3つ目は、心理的安全性を醸成する人事です。

まずは「心理的安全性とは何か」について説明していきます。学術的には、「対人関係のリスクをとっても安全であると感じること」と定義されています。これだけでは抽象度が高いので、掘り下げて説明していきます。

講演資料。「自分の評価が下がるのでは」「非難されるかもしれない」など、対人関係のリスクを羅列した図。本文中にもリスクの例は記載しています。

まず「対人関係のリスク」の例でお話ししましょう。皆さんはチームのなかで、何か思いついたり、意見を言いたいと感じたときに、「これを言うと自分の評価が下がるんじゃないか」「うっとうしいと思われるんじゃないか」「非難されたり、無視されてしまうのではないか」「自分が意見を言うことで、雰囲気が悪くなってしまうのではないか」と、不安を感じて踏みとどまってしまうことはありませんか。これが、「対人関係のリスク」です。「ここで意見を言っても、自分の評価が下がるわけではない」と思えて、どんどん意見を言える状態が、「心理的安全性が高い」状態を意味します。

心理的安全性が低いと、新しいアイデアが浮かんでもアイデアを共有しようせず黙ってしまいます。他の人の行動や意見が「ちょっと変じゃない?」と思ったときも、改善を促さず黙って見過ごしてしまうでしょう。また、仕事で自分が失敗したとき、心理的安全性が高ければ失敗を報告して対策を検討しますが、心理的安全性が低い場合は失敗を隠そうとしてしまいます。

講演資料。心理的安全性という概念は結局、何を捉えているのか?→それは「人間関係の質」。と記載している。

「心理的安全性が高い」とは、自分が何か失敗したときや意見があるときに、誰かから責められたり、自分の評価が下げられたりしないと思える状態を指します。心理的安全性とは、「人間関係の質」を表す概念であるとご理解いただければと思います。

人間関係の質が仕事の質やメンタルヘルスに影響があることは、皆さんも感じられていると思います。学術研究においても、心理的安全性を高めるとパフォーマンスが高まるうえに、メンタルヘルス的にもポジティブな状態で働けることが明らかにされています。

講演資料。心理的安全性が高いと「ネガティブな結果を気にせずに仕事に打ち込める」「さらに信頼関係も生まれる」。結果としてエンゲージメントが高まる。と記載している。

対人関係のリスクや不安を感じず仕事に集中すれば、パフォーマンスを高められます。つまり心理的安全性を高めていくことは企業にとっても意義があるのです。また、ネガティブな結果を気にせずに仕事に打ち込んでもらえます。信頼関係を築きやすくなるので、結果としてエンゲージメントが高まります。「エンゲージメント」とはポジティブメンタルヘルスの非常に重要な指標のひとつで、仕事に対して熱心にいきいきと取り組んでいる状態を意味します。

職場でできる、心理的安全性を高める方法

サーバント・リーダーシップ

皆さんの職場では、心理的安全性を高めるために工夫していることがありますか? コメント欄を拝見しますと、「1on1」や「上司からの自己開示」「会議の初めに風通し宣言をする」「意見を否定しない」「アサーション」「ニコニコしていれば大丈夫」など、コミュニケーション系の工夫が多いようですね。


会社のなかで心理的安全性を醸成していこうと進めるときに、ハードルになるものがあります。それは悪い評価を受けるのではないかなどと感じさせてしまう「評価懸念」です。この障壁を払拭するためには、評価者であるマネージャーの役割が重要であると、学術研究のなかで言われています。

講演資料。サーバント・リーダーシップの説明。本文中にも同様の説明を記載しています。

心理的安全性を生み出す要因の1つが、「サーバント・リーダーシップ」と呼ばれるマネージャーの振る舞い方です。これはマネージャーが、自身よりもメンバーの考えに寄り添って、メンバーを優先して接していくリーダーシップのことを呼びます。マネージャーが自分のことを犠牲にしてでもメンバーのことを考えてくれると思えるのであれば、部下は安心できますよね。

「サーバント・リーダーシップ」を高めていくために、マネージャーはまず、メンバーが今どのような仕事をしているか、どのような感情になっているか、などの状況を理解する必要があります。そのうえで、メンバーに成長の場を用意します。また、部下の感情の変化に対して、理解し寄り添い、話を聴くことが重要です。


メンバー側からも「サーバント・リーダーシップ」を促せます。心理的安全性を高めるために重要なのは、マネージャーとメンバーの間で、お互いの状況や気持ちを知ること、知らせることです。日頃から業務上の自分のニーズや自分の置かれている状況をマネージャーに伝えれば、お互いを理解し合えます。

被信頼感の獲得

心理的安全性を醸成していくために有効な要因の2つ目は、「被信頼感」です。「被信頼感」とは、相手に信頼されていると感じることを意味します。ただ、マネージャーからメンバーに「あなたのことを信頼していますよ」という言葉をかけたからと言って、部下の被信頼感が高まるわけではありません。信頼を行動で示すことが重要になります。

部下の被信頼感を高めるためには、エンパワーメントと呼ばれる、権限委譲が有効です。難しい仕事を思い切ってメンバーに任せてみてください。また、マネージャーからの自己開示も非常に有効です。メンバーに助言を求めることで、メンバーは「自分は信頼されている」と感じられるでしょう。

メンバー自身がマネージャーからの信頼を獲得しようとする必要もあります。仕事を積極的に引き受ける、定期的に仕事の進捗を報告する、マネージャーとの約束や設定した期限を守っていくことが有効です。

以上のように、心理的安全性を醸成していくためには、信頼を示すこと、信頼を得ることの両方が重要です。

講演資料。マネージャーが不安でもメンバーに仕事を任せることで、メンバーに対する信頼を示し、メンバーは任されたことをやり切ることで信頼を得る、その相互関係が心理的安全性の醸成において重要であることを記載。

心理的安全性を高める人事

ここまでは職場レベルでできることをお話ししました。ここからは、人事、組織レベルでできることを4つご紹介します。

(1)組織の状態の把握

1つ目は、現状把握です。組織サーベイなどを行って、心理的安全性がどのような状態であるか、会社ですべきことは何かを把握することが非常に重要です。心理的安全性を促す要因は企業によって違ううえに、同じ会社でも職場ごとに心理的安全性の高さが異なる可能性もあります。

(2)マネージャーが学びあう場を用意

2つ目は、マネージャーが学び合う場をつくることです。心理的安全性を高めるために重要な存在であるマネージャーは、同じ立場同士で話をする機会が少なく孤立しがちです。まずは集まり、それぞれの職場での悩みや、心理的安全性を高めるために行っている工夫のポイントなどを共有してみてください。予想外の解決策や悩みに対するヒントを得られます。

(3)適切な目標設定

3つ目は、適切な目標の設定です。心理的安全性が高まれば、どのような状況でもうまくいくというわけではありません。人間関係が良好なために、仕事をさぼってしまうことも起こり得ます。ここで重要になるのが、適切な目標設定です。たとえば、達成度や期限、量、結果が具体的な目標、現状では手が届かないような難しい目標を立てるなどが必要です。目標設定の方法を教育したり、お互いの目標を共有する仕組みを作っていくと、心理的安全性を高めたあとの効果が高まりやすくなります。

(4)会社への愛着を高める取り組み

4つ目は、会社への愛着を高めることです。心理的安全性を高めたところ、不満ばかりが出てきてしまうことがあります。研究では、自分のことばかり考えている人が集まっている集団は、パフォーマンスや成果に繋がりにくいことがわかっています。ここで重要なのは、会社や組織に対する愛着を高めることです。自分の意見を言いやすい環境を作りつつ、会社や職場を良くするための意見が出てくる状況を作れるでしょう。

会社への愛着を高めるための方法の1つに、ミッション・ビジョン・バリューや経営理念を定めて、社員に浸透させていく取り組みが挙げられます。みんなが同じ方向を向いて、価値観を共有すると、会社への愛着が高まりやすくなります。

もう1つは会社から社員へ支援する場合のアナウンスです。会社から支援されていると感じると、愛着をもってもらいやすいことがわかっています。会社から施策を​​打ち出すときに、社員のことを考えての決定であることが伝わるようにアナウンスするとよいです。そうすれば、心理的安全性を高めても自分勝手な不満だけが出てくる状況を避けられ、会社を良くするための意見が出てきやすくなります。

以上のように、心理的安全性を高めるためには人事や組織側が担う役割も重要となります。

ここまで、私から「心理的安全性」というテーマで、「心理的安全性」とは何か、職場で高めるにはどうしたらいいか、人事、あるいは組織側が心理的安全性を醸成するにはどうしたらいいかについてお話ししました。細かい点については、『60分でわかる!心理的安全性・超入門』に書いていますので、そちらを参考にしていただければと思います。

お役立ち資料

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質疑応答

  1. Q1. 心理的安全性と、なれ合いや仲良しの境界線や違いを教えていただきたいです。また、わがままと意見の差はどのようなところにあると思いますか。

    「心理的安全性」における「人間関係の良さ」とは、「意見が言いやすい」「振る舞いを気にしなくてよい」といった、対人関係のリスクを感じにくい状況をさすものです。一方で、人間関係の質はよいけれども、仕事に対してみんな前向きではないこともありますよね。集団としてプラスになる質を重視していただくと整理がつくと思います。

    わがままと意見の差についても同様です。自分のことしか考えていないメンバーから成り立っている集団で心理的安全性が高まってしまうと、わがままを言いやすくなってしまいます。心理的安全性は、良くも悪くも、集団がもっている性質をエスカレーションさせます。もともと「頑張ろう」という人が多い職場では効果的に働きますが、「多少悪いことをしても結果を出せればいい」と思っている人たちが集まっている場合、非倫理的な行為が横行する場合もあります。自分の職場の特徴を見つめ直していただくと、心理的安全性を高める際の注意点がわかると思います。

  2. Q2. 心理的安全性をはかる指標はありますか。

    心理的安全性の議論を発展させたエイミー C. エドモンドソンが作った指標があります。私の本でも記載しておりますので、ぜひご覧ください。

    参考:伊達洋駆(2023)『60分でわかる!心理的安全性・超入門』(技術評論社)

  3. Q3. コミュニケーションや信頼構築が重要であることはわかりましたが、マネージャーとメンバーのどちらの立ち位置にも、コミュニケーションが苦手な人はいると思います。そのようなタイプの人には、どのようにアプローチをかけていけばよいでしょうか。

    心理的安全性を高めにくいパーソナリティの人がいることは確かです。たとえば、コミュニケーションが苦手、外向的ではない、細かいことが気になってしまうなどの特徴をもった人です。そういったメンバーに対して、対策を大きく変える必要はありません。ただし必要な対策を個別に丁寧にやっていくことが必要です。

  4. Q4. 心理的安全性は、マネージャーとその部下間で問われることが多いですが、メンバー間で好き嫌いがあった場合、心理的安全性に及ぼす影響はありますか。また、そういった場合、マネージャーはどういった振る舞いをするのがよいでしょうか。

    当然ながら、好き嫌いなどで人間関係がうまくいっていないと心理的安全性が高まりにくくなります。だからこそマネージャーは、自己開示をしたり、サーバント・リーダーシップで部下一人ひとりのニーズを理解しようとする姿勢でいる必要があります。

    注意すべきことは、マネージャー自身がすべての部下に対して同じように接しているつもりでも、知らないうちに接し方の濃淡が出ている点です。ご質問にある「好き嫌い」は、類似性の差から生まれるものです。類似性が高い相手とは、自然とコミュニケーションを交わすことが増え、関係の質が深まりやすい傾向があります。これは、上司部下間でも同僚間でも同じです。裏を返すと、共通項が見つかっていない相手とは仲が深まりにくいと言えます。相手と自分の共通項を考えて関係の濃淡のばらつきを平準化すれば、全員に対して深い関係構築が可能です。

  5. Q5. 所属先組織が最低でも備えておくべき条件や状態を教えてください。

    備えておくとよい条件は、2つあります。1つは「自分のことも大事だけれども、この職場のことも大事だ」という気持ちをもってもらうことです。全員が高い気持ちでというのは難しいかもしれませんが、会社への愛着を高められます。

    もう1つは、適切な目標設定ができていることです。心理的安全性が高まっても、目指すべき方向性や水準が良くなければ、組織としてのパフォーマンスは高まりません。

  6. Q6. 心理的安全性を壊すような発言や態度を取る上司への上手な提起の仕方はありますか。

    これをダイレクトに指摘できる職場は、心理的安全性が高い状態だと思います。1つの方法は、上司の上司に対してアプローチしていくことです。会社のなかで進めやすい方法かと思います。

    もう1つは、少しユーモアを交えながら相手に問題提起をしていくことです。「承認」は上司から部下のことを言われがちですが、「こういう部分が素晴らしいですね」と、部下から上司に対しての承認も大事です。褒めたり感謝を述べたりする合間に、「ここを直してもらえると、みんなが発言しやすいです」と言うと、受け入れてもらいやすいです。

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