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経営陣の本気が成功の鍵。三井住友信託銀行「Well-being」浸透策

公開日

この記事でわかること

  • Well-beingが与えるパーパス経営への影響
  • Well-beingを実現するための「4つの価値共有施策」
  • 社員に対する「Well-being具体的施策」
目次

経営者や人事担当者には、人的資本開示やWell-being、VUCAなど時代を捉え、持続的な企業成長に向けた取り組みの実施が求められています。SmartHRとPeople Trees合同会社は、変革の最前線にいるゲストをお招きし、リーダーとして企業を先導していく方々へ向けて有益な情報をシリーズとしてお届けする「令和の人事」セミナーを開催しました。

今回は三井住友銀行株式会社 執行役員の矢島 美代さんをお迎えして、三井住友信託銀行でのWell-being(ウェルビーイング)経営の具体的な取り組みをご紹介。「Well-beingの捉え方や実施理由、具体的な施策」などについてお話しいただきました。

登壇者矢島 美代 さん

三井住友信託銀行株式会社 執行役員 Well-being推進担当

住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)入社後、マーケット事業で為替ディーラーを担当。金融法人営業、ポートフォリオマネージャーなど経て、40歳のとき港南台支店にて信託銀行業界初の女性支店長に抜擢される。新商品開発や投資信託販売開始、CS推進部の新設、2011年の東日本大震災直後の二子玉川支店の開設に従事するなど、複数の新規業務の立ち上げに携わる。2人の子育て、親の介護をしながら、仕事を継続。2016年、法人業務部にて女性初の執行役員に就任。2021年から現職。

Well-beingはパーパス実現の最適な手法

昭和の時代は経済的な豊かさというシンプルな目標に向かって、社会・会社・社員が連動し、右肩上がりの経済成長を実現していきました。平成の時代は、社会課題が高度化・複雑化し、価値観の多様化が進みました。

そして現在の令和の時代は、社会構造や産業構造の変革、コロナのパンデミックを経て、人々の生活様式までもが大きく変化をする転換点にあるのではないかと考えています。こうした時代には、社会・会社・社員の重なりが薄れがちになります。そこで我々は、社会・会社・社員をつなぐ共通の価値として、当グループのパーパスを明確化しました。

社会構造や産業構造の変革、コロナのパンデミックを経て、人々の生活様式までもが大きく変化する転換点にある現在では、社会・会社・社員の重なりが薄れがちになる。そのため同グループでは、社会・会社・社員をつなぐ共通の価値として、当グループのパーパスを明確化したという。

以前のグループのミッション・ビジョン・バリューは、2012年の銀行統合時に各行の設立趣意書を参考に策定したものでした。しかし2020年に、我々が未来にありたい姿からバックキャスティングで3か年の中期経営計画を作成しました。

同時に、我々の存在価値である「信託の力で、新たな価値を創造し、お客さまや社会の豊かな未来を花開かせる」というパーパスを策定しました。

Well-beingがパーパス実現の鍵となる

パーパスの実現には、社員の内発的な動機づけが重要になります。これを体現するうえで鍵を握るのが「Well-being」です。当グループでは、Well-beingの実現によって、目指したい世界観を、「社員と、お客さまや社会の幸せを創造する好循環」と定義しています。

同グループでは、Well-beingの実現によって、目指したい世界観を、「社員と、お客さまや社会の幸せを創造する好循環」と定義している。

社員一人ひとりのWell-beingが価値創出の原動力となり、お客さまや社会のWell-being実現に貢献していく。その結果として、社会の成長とともに当グループの企業価値が向上し、そのことが社員一人ひとりの励みや誇り、やりがい、幸せにつながるという好(幸)循環の創造を目指しています。

投資教育による資産形成支援で「FINANCIAL WELL-BEING」を実現

好(幸)循環の一例をご紹介します。当グループはお客さまと社会のWell-being向上策の1つとして、価値創出の担い手である社員自身の「FINANCIAL WELL-BEING」に向けた資産形成支援を強化しています。

具体的には、年金、退職金を含めた将来のキャッシュフローを具体的に落とし込んだライフプランニングの実践や、持株会・確定拠出年金など福利厚生の有効活用について、全社員向けの資産形成教育を展開しました。

教育受講後の社員アンケートでは、「将来のライフイベントの把握に非常に役立った」「福利厚生の活用方法と意思決定に役立った」など、非常にポジティブな反応が多く見られました。また、持株会の年間拠出額も、20代から30代の若手、中堅層の積極活用を中心に2.5倍に増加し、未来へ向けた行動変容が数字になって現れています。

Well-beingの実現に向けた「4つの価値共有施策」

では、社員のWell-beingの実現に向けた当グループの取り組みを紹介いたします。

同グループでは、社員一人ひとりがWell-beingになり、それが人的資本の強化につながり、価値創造のプロセスを通じてお客さまや社会のWell-beingが実現できると考えている。

当グループでは、資本のなかでも人的資本は価値創造の基盤であり、競争力の源泉であると捉えています。社員一人ひとりがWell-beingになり、それが人的資本の強化につながり、価値創造のプロセスを通じてお客さまや社会のWell-beingが実現できると考えているのです。

また、会社と社員が対等な関係で向き合い、会社のパーパスのもと社員のやりがいが高まることで、会社と社員双方の成長を生み出すと考えています。経営と社員の近接化を図り、社員も自らの幸せや充実、やりがいなどをしっかり考えて実現していく。双方が真剣に正面から向き合うことで、この想いが重なる部分が増えていき、その結果、よい企業風土や文化の創出につながりました。

会社と社員の双方が真剣に正面から向き合うことで、よい企業風土や文化の創出につながったという。

これまで会社と社員の価値を共有するため、双方向のコミュニケーションに注力してきました。価値共有に向けた取り組みを4つご紹介をいたします。

価値共有施策(1):経営×社員の対話機会の創出

1つ目は、経営と社員の対話の機会を多く設けたことです。

全社員向けにパーパスに込めた想いを社長が自ら伝える機会として、全26回、参加人数1万人以上の社長キャラバンをオンラインライブで実施するなど、対話の場を設けた。

全社員向けにパーパスに込めた想いを社長が自ら伝える機会として、全26回、参加人数1万人以上の社長キャラバンをオンラインライブで実施しました。

三井住友信託銀行の社長・大山の口癖は「人の心に火をつけろ」ですが、社員から活発に質疑があり、非常に臨場感のある熱いキャラバンになりました。そのほか、各現場の課長層、店部長、次長層に対しても、社長とオンラインで直接対話をする機会を設けております。

また、Well-being担当役員の私からも、パーパスとWell-beingに込めた強い想いを全社員に発信しました。実施当初は、Well-beingに対する社員の疑念の声もありましたが、「本気で会社も変わろうとしている」との声が徐々に増えてきました。

価値共有施策(2):評価運営の見直しとマネジメント研修

2つ目は評価運営の見直しと、その定着に向けたマネジメント研修です。

全マネジメント層に対して「リモートマネジメント研修」「1on1研修」「評価者研修」と、3段階で研修を実施。各研修とも1,000人以上のマネジメント層が受講した。

パーパスを踏まえて、事業ごとに2030年のありたい姿を明確化し、2022年度からは評価運営として中長期的な到達点を目標に入れた運営に変更しました。社員一人ひとりが将来のキャリアや、なりたい自分を想像した自律的な能力開発を目指しました。

また、価値観が多様化して難易度が上昇しているマネジメントにおいて、マネジメント層をサポートする研修を拡充しました。はじめて全マネジメント層に対して「リモートマネジメント研修」「1on1研修」「評価者研修」と、3段階で研修を実施。各研修とも1,000人以上のマネジメント層に受講してもらいました。

個を尊重し多様性を高め合うためには、一人ひとりと丁寧に向き合うことが重要になると考えております。

価値共有施策(3):サーベイ導入で職場単位の改善をサポート

3つ目の価値共有は、職場単位でPDCAを展開する仕組みとして、各店部の希望性で導入したパルスサーベイです。

パルスサーベイを導入している店部では、年に一度実施している社員意識調査において改善傾向が高いという。

複雑化する各職場の課題や改善点をクイックに把握する目的で導入しました。「PDCAをすぐに展開できるため、改善につながりやすい」と、現場からも好評を得ております。興味深いのは、パルスサーベイを導入している店部では、年に一度実施している社員意識調査において改善傾向が高いことです。

価値共有施策(4):店部実施のWell-being好事例を共有

4つ目が、Well-being文化の浸透に向けた店部間での取り組みの共有です。

Well-beingイベントでは、浸透に向けた課題の共有や、社員が自発的にボランティアで立ち上げた委員会活動の取り組みなどを披露し、ボトムアップで活動しているメンバーを迎えてディスカッションしている。

グループ会社の社員を対象に、Well-beingイベントなどを開催しています。浸透に向けた課題の共有や、社員が自発的にボランティアで立ち上げた委員会活動の取り組みなどを披露し、ボトムアップで活動しているメンバーを迎えてディスカッションしました。引き続き、職場単位の好事例を水平展開して、価値共有を進めていきたいと考えています。

社員に対する「4つのWell-being施策」

Well-beingの実現に必要な会社と社員の価値共有について紹介しましたが、社員のWell-beingに向けた施策も実施しています。具体的な取り組みを4つ紹介します。

Well-being施策(1):健康経営

1つ目は、心身の健康確保に向けた「健康経営」への取り組みです。三井住友信託銀行の健康経営で特徴的なことは、健康関連のKPIに「アブセンティーイズム(従業員が会社を病欠している状態)」「プレゼンティーイズム(健康問題が理由で生産性が低下している状態)」そして「ワーク・エンゲージメント」を設定し、その先にWell-beingの向上を掲げていることです。

6年連続で経済産業省の健康経営優良法人認定制度「ホワイト500」に認定されている。

そして、メンタルヘルス対策やアンガーマネジメント、勤務間インターバル11時間など、当グループでの取り組みを評価していただき、6年連続で経済産業省の健康経営優良法人認定制度「ホワイト500」に認定されています。このようなWell-beingの土台となる健康経営への評価は、非常に重要だと考えております。

Well-being施策(2):全社員対象の株式報酬制度の導入

2つ目は、「株式インセンティブプラン」です。これも非常に当グループらしい取り組みと考えております。

「株式インセンティブプラン」は、パーパスに込めた経営の想いを社員と共有するためにも非常に有効だという。

全社員向けに毎年、譲渡制限付きの株式を支給する「RS信託」という株式報酬制度を導入しました。パーパスに込めた経営の想いを社員と共有するためにも、「RS信託」は非常に有効だと確信しています。

社員向けの株式報酬や、一部の幹部を対象とした株式報酬は他社にもある制度だと思いますが、当グループの特徴は「全社員かつ金額が一律」という点です。社員からも「株式を所有することで経営戦略に興味が湧いた」「自分の財産も増やせるので株価を上げていきたい」など、自然とオーナーシップが醸成され、経営としても社員に対する説明責任が従来以上に必要になってきています。

ほかにも、持株会の奨励金を従来の8%から20%に引き上げました。全社員向けの金融教育とセットで展開することで、資産形成支援も強化しております。この一連の取り組みは、海外機関投資家とのエンゲージメントにおいて、非常にポジティブな評価を得るという副次的な効果もありました。

Well-being施策(3):キャリア採用の拡充と若手・中堅人材の抜擢

3つ目は「キャリア採用の拡充と若手・中堅人材の早期登用」です。

2021年に設立したデジタル戦略を担う新会社のCEOは、当時30代の社員を抜擢。社内外の多様なキャリア、個性をもった人材が柔軟な発想で新しい風を吹き込んでいる。

キャリア採用は30年以上前から積極的に取り組んでおり、現在では在籍社員の約20%前後をキャリア採用社員が占めています。また、環境問題や社会課題の解決に向けて、専門的な博士号を持つ研究者や専門家などの理系分野のキャリア採用者のみで構成される「Technology-based Finance team」が発足し、現在では10人超のチームとなっています。

さらに、2021年に設立したデジタル戦略を担う新会社のCEOは、業務公募制度で募集し、当時30代の社員を抜擢しました。新会社のメンバーも当初の30名規模からキャリア採用を中心に増強するなど、社内外の多様なキャリア、個性をもった人材が柔軟な発想で新しい風を吹き込む予感があります。

Well-being施策(4):「専門性研磨」と「社内副業制度」

4つ目は、「専門人材の活躍と社内副業」です。高度な専門性を発揮して活躍する社員を「フェロー」として認定し、専門性に見合った柔軟な組織運営を実施しています。

「フェロー運営」は、2022年度からは20・30代の若手社員にも認定を拡大し、現在では300名規模にまで達しております。専門レベルによって処遇差は設けていますが、最大で年収比で20%前後の給与の上乗せとなっております。

活躍領域の拡張には複数の専門性を高める必要はありますが、他事業、他部署の業務を兼業して、社員本人の能力やイノベーションを目的とした社内副業制度も導入しています。サステナビリティやコーポレート・ブランディング、Well-beingについてもスタッフを募集して、対象部署を拡張しながら若手や地方拠点の社員など、多様な人材がチャレンジしています。

これからの人事部門には「企業風土の醸成」が求められる

これまでにご紹介した各種施策の効果は、「時間外の削減」「リスキリングの強化」「経営と現場のコミュニケーション」など、社員のWell-beingの実感となって浸透してきていることが確認できております。

Well-beingを基軸とした人的資本の強化施策以外にも、当グループの人事担当役員からも、未来に向けた社員と会社の双方の成長のために、社員への投資を強化していくと直接発信をしてもらっています。

Well-beingを基軸とした人的資本の強化施策以外にも、当グループの人事担当役員からも、未来に向けた社員と会社の双方の成長のために、社員への投資を強化していくと直接発信している。

もっとも力点を置いて説明があったのは、「人材への向き合い方が変わりつつある」という点です。現在、人材は「資源として管理する対象」から、「資本として価値創造の投資対象」へと変化しています。また、個人と会社の関係も、個人の価値観やニーズの多様化にもとづいて自律的なキャリアを描き、「会社に対するオーナーシップをもって働く形」に変わりつつあります。

当グループの社員も社会の一員であり、社員への投資は、社会共通資本への投資として当グループの社会的責任であり、パーパスにも適うことだと考えています。

また、4月にグループ各社の社長および店部長に向けて、三井住友トラスト・ホールディングス株式会社取締役執行役社長の高倉からは、「イノベーションは異端の挑戦から生まれる」とメッセージを贈りました。

店部長の皆さんは部下の皆さんの挑戦を促し、支援してください。たとえ失敗しても、次のチャンスの学びになったと褒め、試行錯誤のなかから前に進めそうなことを見極めていただけるようお願いいたします。勇気をもって何かを進めている人が潰されないように守ってください。これからの100年も挑戦と開拓の精神で、信託の力で豊かな未来を共に築いていきましょう。

引用:三井住友トラスト・ホールディングス株式会社取締役執行役社長 高倉 透

私はこのメッセージに心を揺さぶられました。社員が目を輝かせて挑戦し、失敗をも成長に変えながら、Well-beingに働き続けられる企業文化は1つの理想だと考えています。

私は「Well-being経営とは何か」と問われた際に、「人々の活力を向上すること」と答えています。これからの人事部門は、社員の活力を向上させるために、企業風土の醸成が重要な役割になっていくのではないでしょうか。

【令和の人事 #1】人的資本の価値を高める「ウェルビーイング経営」

ウェルビーイング経営を推進するためにまず必要なこととは?

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