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パーパスも組織構造も“人”を大切にするために。躍進企業に学ぶ組織づくり

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目次

“飛翔する企業への変革” をテーマに3日間にわたり開催されたカンファレンス「SmartHR Next 2023」。さまざまなゲストをお招きし、経営戦略・組織戦略・人事戦略についてのセッションを開催しました。

「組織の未来図」をテーマに行われたDAY2では、「急成長企業の組織づくり 成功の裏では何が?」と題し、躍進する企業の組織づくりを学びました。登壇したのは、バリュエンスホールディングス株式会社の嵜本 晋輔さん、株式会社ヤマップの内海 良介さんです。

  • 登壇者嵜本 晋輔 氏

    バリュエンスホールディングス株式会社 代表取締役

    1982年、大阪府出身。関西大学第一高校在籍時にスカウトの目に留まり、2001年にJリーグのガンバ大阪に入団するが、2003年に戦力外通告を受け退団。その後JFLの佐川急便で1年プレーした後、22歳でサッカー界から引退。2011年12月にブランド品のリユースなど、サステナブルな事業を行う株式会社SOU(現 バリュエンスホールディングス株式会社)を設立。その後、設立から7年で東証マザーズ市場に上場。元サッカー選手としては初めての上場企業社長となる。2022年6月にDリーグ参入を発表し、Valuence INFINITIES(バリュエンス インフィニティーズ)を結成。

  • 登壇者内海 良介 氏

    株式会社ヤマップ 人事マネージャー

    1978年生まれ、福岡市出身。早稲田大学卒業後、新卒で名古屋の繊維商社「豊島」から人事キャリアスタート。その後、リクルートエージェント(人材紹介)→JR博多シティ(商業デベロッパー)→ビズリーチ(ダイレクトリクルーティングコンサルタント)と複数の企業にて、採用・育成・採用コンサル・マネジメントを経験し、多岐に渡るエリア・業界にてHR領域に関わる。2021年から登山地図GPSアプリ「YAMAP」を運営する株式会社ヤマップへ入社、人事・採用責任者として現在に至る。座右の銘は「良き介在」。RUNと登山と家族が生きがい。

  • ファシリテーター入山 章栄 氏

    早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール教授

    慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で、主に自動車メーカー・国内外政府機関 への調査・コンサルティング業務に従事した後、2008 年に米ピッツバーグ大学経営大学院より Ph.D.(博士号)を取得。 同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。2013 年より早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール准教授。2019 年より現職。専門は経営学。「Strategic Management Journal」など国際的な主要経営学術誌に論文を多数発表。著書は「世界標準の経営理論」(ダイヤモンド社)、「世界の経営学者はいま何を考えているのか」(英治出版)「ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学」(日経BP社) 他。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」のレギュラーコメンテーターを務めるなど、メディアでも活発な情報発信を行っている。

  • モデレーター大熊 英司 氏

    フリーアナウンサー(元テレビ朝日アナウンサー)

    1987年テレビ朝日入社(アナウンサー職)。2020年ナレーター・フリーアナウンサーとして活動開始。

組織の規模や状態と、一人ひとりの可能性を見つめる組織づくり

嵜本さん

パーパスは経営陣には浸透しやすいものの、社員に浸透させるには工夫が必要かなと感じます。ヤマップさんのパーパスは社員にどの程度浸透していますか?

内海さん

100人と規模の小さい組織かつ「山好き」という共通項があるので、比較的パーパスが浸透しやすかったです。ただ、スケーリング(規模が拡大)するとパーパスが抽象的に感じられるようになり、社員のモチベーションが下がりやすいと聞きました。

成長段階に合わせて組織をアップデートされてきた嵜本さんは、どう対処されましたか?

嵜本さん

社員一人ひとりの可能性を信じて、ポテンシャルを開花させる。私はこれこそが企業の役割だと思っています。「地球、そして私たちのために循環をデザインする」というパーパスを社員に伝えるために、みんながやりたいことを実現できる環境づくりに注力しています。

具体的には、3年ほど前から社内公募制度をはじめました。各事業部門が全社に対してピッチを行い、自部門の事業に参画してくれる社内人材を募集するものです。この制度を利用すれば、社員はやりたい仕事、希望する職場環境を自ら選べます。「仕事や職場環境を選ぶのは自分自身だ」という機運を自然発生的に生み出していけるのです。

バリュエンスホールディングスさまにおける公募・社内デュアルキャリア実施状況をまとめた表。四半期ごとに公募した結果、115名の社員が手を挙げ、41名の社員がデュアルポストを獲得している。

バリュエンスホールディングスさまにおける公募・社内デュアルキャリア実施状況

大熊さん

組織構造を職能制から事業部制に移行された2023年以降、ヤマップさんではどんな変化がありましたか?

内海さん

職能制から事業部制に移行した背景には、事業を多角化したいという思いがありました。しかし、従業員100人のうち、半分を占めるのがエンジニアです。エンジニアが担当している専門性の高い業務を、事業部の部長だけでマネジメントするのは困難です。そのため、別軸で職能のマネジメントも入れています。2軸のマネジメントを交錯させながら、社内でどうコミュニケーションを取っていくかが、組織としてのいまの課題です。

ヤマップさまにおける2013年の設立から2023年現在までの歩みと組織展開を示した図。

ヤマップさまの設立からの歩みと今後の組織展開

内海さん

顧客起点のサービスでありたいという思いも、事業部制への移行を後押ししました。お客さまに支えられて成長してきたサービスですので、改めてお客さまが求める価値の提供を目指したいと考えたのです。そのためには事業部ごとに業務を見直し、きめ細やかに組織を変えていきたいと思いました。

入山さん

事業部ごとにエンジニアを管理するのって、すごく大変ですよね。働く場所も時間も多様化しているいま、全社一括で管理したほうが簡単なはずです。だからこそ、相当な覚悟がないとできない取り組みだと感じました。

内海さん

そうですよね。入山さんがおっしゃったようなペインを覚悟しながらも、それ以上に事業部の中に意思決定権をもちたいという強い思いがありました。それまではエンジニアリソースの調整に時間を取られ、事業のスピード感が不足していました。事業部ごとにエンジニアを管理することで、この問題を解決したいと考えています。

エンジニアはこだわりが強く、とくに自分の興味や成長につながる物事への熱意には目を見張るものがあります。その熱意をリスペクトしつつ、顧客起点の経営に寄せていく。これを実現するためにも、事業部制という形が最適だと考えています。

マンネリ離職を防ぐ「飽きない仕組み」とは

大熊さん

デジタル人材が不可欠なこれからの時代、組織の見直しが非常に重要です。嵜本さんは今後の組織づくりにおいて、どのような点に注目していきたいと思っていますか?

嵜本さん

アスリートのデュアルキャリアです。当社ではアスリートのための社内デュアルキャリア制度を実施しています。

我々の考えるデュアルキャリアとは、副業ではなく、どちらの仕事にも100%コミットして働くという考え方です。将来の不安から夢を手放さなければいけないアスリートに手を差し伸べられないかと考えたことが、アイデアのきっかけでした。我々としてももっと多くの人材を採用したかったので、うまくいけばwin-winの関係を築けると思ったのです。

午前中は練習をして、午後から働く。試合がある土日は休日を確保して、平日に集中して働く。すべてのアスリートに対して面談を行い、一人ひとりにパーソナライズした働き方を実現しています。現在約20名ほどのアスリートのみなさんにご利用いただいています。

興味深いのは、デュアルキャリアを実施している社員のほうがそうでない社員よりも、すべての部門においてパフォーマンスがよかったことです。まだまだデータ量は少ないですが、デュアルキャリアが社員のモチベーション向上に貢献している可能性は高いです。

バリュエンスホールディングスさまにおけるデュアル制度実施者と未実施者の比較を示した表。デュアルキャリア制度実施者のほうが高いスコアになっている。

バリュエンスホールディングスさまにおけるデュアル制度実施者と未実施者の比較

嵜本さん

これまで多くの退職者を見てきました。退職者に共通するのは、仕事への慣れによるマンネリ化です。環境を変えればいいと転職しても、根本的な原因を解決しない限り、マンネリ化は再び起きてしまうでしょう。根本的な原因は、同じ仕事を年単位で続けていること。デュアルキャリアなら週ごとに仕事の内容や働く場所を変えられるため、マンネリ化を防ぐ仕組みになりえると思っています。

入山さん

本当に、飽きることは最大の敵ですよね。終身雇用制が過去のものとなったいま、仕事に飽きると簡単に辞められる。その点、飽きない仕組みを提供できるデュアルキャリアは、非常におもしろい取り組みだと思います。アスリートだけではなく、アイドルやお笑い芸人などにも当てはまりそうな話ですね。

内海さん

ヤマップでも創業当初から副業を解禁しています。自社では得られないスキルを得たい、違う分野の業務を経験したい。こうした欲求を副業によって退職せずとも満たせるようになり、退職率が抑えられているのかもしれません。デュアルキャリアに限らず、社員目線の職場環境づくりは非常に重要です。その点でも共感する制度でした。

強い組織には「自社ならではの行動規範」がある

大熊さん

ヤマップさんは、どのような組織を目指していきたいとお考えですか?

内海さん

リアルなコミュニケーションをより大事にしていきたいです。生き方が多様化するいま、メンバーがパーパスを体現したり、それを通じてお客さまにパーパスを感じていただくには、リアルなコミュニケーションが必須だからです。

その一環として、ヤマップには勤務時間中の登山を許可する制度があります。同じチームのメンバーとの「チーム登山」のほか、別のチームのメンバーが集まる「シャッフル登山」を3か月に1回のペースで開催しています。コミュニケーションの課題は山積みで、これだけで十分とは言えません。そのときの組織の規模や状態を見きわめながら、必要な施策を考えていきたいです。

ヤマップさまにおけるリアルコミュニケーションの強化に関する指針。

ヤマップさまにおけるリアルコミュニケーションの強化

大熊さん

嵜本さんは組織づくりや経営において、何を最も大切にされていますか?

嵜本さん

人の可能性の解放です。私自身、何もなかった状態から自分の可能性にフォーカスした結果、未来が開かれてきました。社員も一人ひとりすぐれた才能を持っているけれど、本人がそれを自覚していないケースもよくあります。

だからこそ、社員の可能性を解放する仕組みづくりが必要なんです。社員がいかに自身の可能性を信じて向き合えるか、成長の限界をつくらずにいられるか。それを念頭に置いて、さらにいろいろな施策を打っていきたいです。

入山さん

ヤマップには、基本的に山が大好きで仕方ない人が入ってきますよね。それが仕事のモチベーションになっている面があるのに対して、バリュエンスホールディングスでは「とにかくリユースが好き」という人は少数派でしょう。だからこそ嵜本さんは、社員にどう成長機会を与えるかを非常に考えられている印象がありました。

リユースが好きというわけではないけれど、「入社すれば成長できるし次へのステップが開けそうだ」。みんながそう感じるから、これだけ拡大されたのだと思います。ヤマップさんもこうした仕組みや行動規範、企業文化を磨くことで、山好き以外の人にとっても魅力ある企業になりそうですね。

内海さん

まさにいま、バリューの見直しを進めており、その内容が行動規範につながってくると思います。行動規範をもとに組織が磨かれていかないと、既存のメンバーはいつか辞めてしまうし、新しいメンバーも入ってくれないでしょう。

山好きがはじめた会社なので、山に甘えてきた部分は多々あります。でも、ここから先はそればかりではいけない。企業としての行動規範を確立させて、「山好き」という要素がなくても魅力ある組織を目指していきたいです。

大熊さん

内海さんは他社でも人事のお仕事を経験してヤマップに入られましたが、ヤマップならでは組織づくりのやりがいはどんなところにありますか?

内海さん

ヤマップは「人の会社」です。従業員の健康があって、その家族の健康があって、はじめていい仕事ができる。そんなふうにいつも人をピラミッドの頂点に置く代表の姿勢に、組織づくりのやりがいを感じています。

最近では人的資本が注目されるようになり、これまでのヤマップの取り組みが評価されたようなうれしさを感じます。これからも人を大切にする組織づくりを続けていきたいです。

“飛翔する企業への変革” をテーマに3日間にわたり開催されたカンファレンス「SmartHR Next 2023」。経営戦略から組織戦略、人事戦略まで、さまざまな企業の実践を知ることで、変革のヒントが得られます。各講演の模様は、イベントレポートにてお楽しみください。

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