後継者育成をスピーディに進めるには?育成手順や成功事例を紹介
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この記事でわかること
- データで見る後継者育成の重要性
- 後継者の選び方
- 後継者育成のポイント
目次
後継者育成の重要性は?
企業を長期的に存続させていくためには、経営を任せられる後継者の育成が不可欠です。
帝国データバンクが実施した「全国企業『後継者不在率』動向調査(2022)」では、2022年の1月から10月までの間に408社の企業が「後継者の不在を理由に倒産した」という結果が出ています。
また、日本政策金融公庫の2023年度調査では、廃業予定企業の28.4%(調査対象全体の16.3%)が「後継者難を理由とした廃業」であると回答しました。さらに、2022年時点における社長の平均年齢は60.4歳となっています。社長の高齢化による事業継承は、多くの企業にとって喫緊の課題であると考えられます。
(参考)全国『社長年齢』分析調査(2022年) - 株式会社帝国データバンク
後継者不足のための倒産を防ぐためには、経営者が若年のうちから、先を見越した後継者育成の推進が重要です。
後継者選定における近年の変化
企業にとって深刻な問題である後継者不足ですが、近年徐々に改善の兆しが見られています。
帝国データバンクの調査では、後継者の不在を理由として廃業を検討する企業が増えている一方で、後継者が「いない」または「未定」と回答した企業の割合は5年連続で減少しています。
このような動きの背景には、コロナ禍で事業の先行きが見通せなくなった経験から、経営について改めて考え直す企業が多くあったのではないかと推測されます。
また、2022年は「同族継承」の割合が大きく低下し、かわりに2位の「内部昇格」、3位の「M&Aほか」の割合に増加傾向がみられます。血縁関係以外での後継者を選択する動きが増えていると考えられます。
さらに、近年では地域の金融機関などで事業継承の相談窓口が普及しているほか、他の企業によるM&Aや事業譲渡が活発化しているなど、事業継承のための方法が整備されています。
存続を目指す企業にとって、後継者選定・事業継承の選択肢が広がっている点はよい変化といえるでしょう。
後継者の選定・育成手順
適切な後継者を選定・育成するための手順を紹介します。
STEP1. 企業の状況を整理する
企業が進むべき方向を見定めるために経営理念・経営戦略を明確化します。理念や戦略を設定してから長い年月が経過している場合は、必要に応じてアップデートしましょう。
STEP2. キーポストの要件を設定する
「キーポスト」とは、企業におけるCEO以外の幹部や管理職といった必要不可欠なポジションの人材です。戦略実行に重要なキーポストを設定し、キーポストに選出する人材に求められる要件を明確にします。
STEP.3 サクセッションプランを立てる
後継者の選抜から育成までの計画を「サクセッションプラン」と呼びます。サクセッションプランの策定方法については、以下の記事で詳しく説明しています。
サクセッションプランを計画するタイミングで、社内の人材と各人が所有するスキルを可視化させておくと、効率的に人材の選定を進められます。
SmartHRの「配置シミュレーション」機能を利用すれば、どのような人材がどの部署にいるのかといった情報をひと目で把握できるため、人材管理の手間を大幅に省略化し、より精度の高い人材配置の実現につながります。後継者として適切な人材の発掘にも役立ちます。
後継者育成を開始する適切な年齢は?
後継者候補の人物には、事業継承の前に管理職としての経験が必要になります。日本では、各役職に登用される平均年齢は課長が47歳、部長は50歳前後です。このイメージから、多くの企業で、後継者となる人物は50代以上の人材が妥当だと考えられているようです。
一方で、海外の企業ではより若年の後継者にポストを明け渡す動きが目立ちます。米国のマイクロソフト社やGoogleで有名なアルファベット社、中国のアリババ社といった世界に名を馳せる企業のCEO達は、40代という若さで後継者に経営者の立場を移譲してきました。
このように若い人材にCEOを任せられる背景には、後継者候補の育成を早い段階からスタートしている点があげられます。海外の企業では、30歳前後の人材を管理職に配置するケースも珍しくはありません。日本のように、上の世代がポストを占拠しており、管理職の席が空かない企業とは状況が大きく異なります。
若い人材を管理職に抜擢すると、早くから後継者候補人材が育つだけでなく、優秀な人材に長期間にわたって責任の大きい業務を任せられる点も大きなメリットです。
後継者育成のポイント
早期から将来の後継者候補を見越した人材育成を進めていくためには、どうすればよいのでしょうか?
従業員が、速いスピードで大きな成長を果たすためには、さまざまな経験を経て学びを得る必要があります。そのため企業には、従業員に幅広い経験を与えられるような人員配置の実施が求められます。
育成につながる具体的な人員配置は、以下が考えられます。
- 企業の主要部門での経験
- 新規事業やセクションの代表を任せる
- 経営者から直接指導を受ける立場での勤務
- 経営権の一部譲渡
後継者育成のために、従業員データをもとにした人員配置をシミュレーションすることも重要です。
成功体験を得ると、成長の加速やモチベーションの大きな向上につながります。将来有望な人材には、苦労が大きくても高い成果が得られるような経験を、企業が積極的に提供することも大切です。
また、社内だけでなく、セミナーや育成プログラム等への参加や関連会社への出向といった、社外での経験も従業員の成長につながります。
成功事例から学ぶ
2019年に株式会社日立製作所のグループ会社として設立された、日立グローバルライフソリューションズ株式会社の初代取締役社長に就任したのは、当時46歳の谷口潤氏でした。
谷口氏は1995年に日立製作所に入社後、システムエンジニアやコンサルタントとして活躍してきました。家電・空調を中心としたプロダクト事業をメインとする同社ですが、IT分野の経験を持ちながら家電事業の経験がない谷口氏が抜擢されたのには理由があります。若さゆえの体力を活かし全世界の様々な人に生の声を聞きに行けること、そして、別のコンシューマービジネス領域に取り組んできた知識・経験を、家電業界に応用できることが期待されたためです。
実際に、谷口氏は3年間(2019年〜2021年)の任期中に、日立グローバルライフソリューションズの立ち上げだけでなく、トルコのアルチェリクとの合弁会社を設立して同社の海外家電事業における基盤を築くなど、家電事業の大規模な構造改革を推進してきました。
2022年からは、新社長である大隈氏が流れを引き継ぎ、合併会社との協働による日立ブランドの海外展開計画や、IoTプロダクト事業のさらなる深化を進めています。
このように、若い人材を抜擢し、その力や経験を活かしてもらうことで、事業のさらなる発展や拡大が期待できます。
(参考)日立、46歳の若い社長に家電を託した新会社の狙いは? - ASCII.jp
(参考)日立の家電、大隅新社長体制で臨む「2024中期経営計画」の課題と進捗|大河原克行のNewsInsight - マイナビニュース
まずは現状把握から進める
本稿では、後継者育成の重要性を解説してきました。企業を存続させていくためにも、今後の経営を考える際には後継者の育成をしっかりと見据えておきましょう。また、代表となる後継者だけではなく、それ以外のキーポストの育成も必要です。
後継者候補には、最初の仕事として管理職や人事部門を任せるのも一案です。経営戦略にとって不可欠な存在である人材戦略に携わる経験は、将来経営に携わるときに大いに役立ちます。
企業を引き継いでいく人材を選ぶためには、組織の現状把握も大切です。企業の経営戦略を明確化し、人事評価制度や人員配置を見直すなど、優秀な人材を発見できる環境づくりが後継者育成の第一歩となるでしょう。
ツール活用で実現する効率的な後継者育成
SmartHRでは、後継者育成に欠かせないスキル把握をサポートする「スキル管理」機能を提供中。従業員の保有スキルを可視化し、次世代の経営者・役員・マネジメント人材に不足している機能が一覧でわかります。
現職の経営者・役員・マネジメントがもつスキルを把握し、後継者候補に必要なスキル獲得に向けた施策に取り組めます。
FAQ
Q1. 後継者育成において、重要なことは?
後継者育成をするうえでは、企業の現状理解が重要です。企業の経営理念・経営戦略を明確化したうえで進めましょう。
Q2. 後継者育成は、どのタイミングで始めるとよい?
日本の企業では、50代以上の人物を後継者に据える事例が目立ちますが、海外企業のように若年の内から後継者育成を始める選択肢もあります。早期から後継者育成を始めると、優秀な人材に長期にわたって責任の大きなポジションを任せられるというメリットが得られます。
Q3. 後継者育成のポイントは?
従業員の成長を促すために、幅広い経験をさせられるような環境づくりが求められます。大きな責任がともなう業務で成功体験を得れば、多大な成長が期待できるでしょう。