1. 経営・組織
  2. 組織開発

エンゲージメント分析の方法をわかりやすく解説!分析事例もご紹介

公開日
目次

従業員のエンゲージメント向上は、企業にさまざまなメリットをもたらします。向上の第1歩はエンゲージメントサーベイによる現状把握です。本稿では、エンゲージメントサーベイの概要や実施手順とポイント、分析方法について解説します。

エンゲージメントサーベイとは?

「エンゲージメントサーベイ」とは、従業員エンゲージメントを調査する方法です。従業員が仕事に対してやりがいや働きやすさを感じているか、指針に共感しているかなどを把握できます。

「エンゲージメント」のビジネスにおける重要性や向上施策、事例については、以下の記事で詳しく解説しています。

エンゲージメントサーベイの目的

エンゲージメントサーベイの最大の目的は、これまで把握できていなかった従業員や組織の状態を把握し、優先的に取り組むべき課題を把握、施策の立案・実行に活かすことです。

適切な施策によってエンゲージメントが向上すれば、個人や組織の生産性向上、人材の流出リスクを低下させることも期待できます。

エンゲージメントサーベイの説明。上記本文の内容が記述。

エンゲージメントサーベイの実施手順とポイント

エンゲージメントサーベイの実施手順は以下のとおりです。

  1. 目的の明確化
  2. サーベイの質問設計
  3. 従業員によるサーベイへの回答
  4. 回答結果の分析
  5. 分析結果を踏まえた人事施策の実施

エンゲージメントサーベイで測定する際の代表的な項目は以下のとおりです。

  • 主体性
  • モチベーション・意欲
  • 企業文化
  • 業務内容
  • 報酬・評価制度
  • リーダーシップ
  • 人間関係・コミュニケーション
  • チームワーク
  • 情報共有
  • ワークライフバランス
  • 成長機会・キャリア

エンゲージメントは、待遇や職場の人間関係、就労環境などの「働きやすさ」だけでなく、「企業理念への共感」や「仕事に対する意欲」までを指標に含みます。

一方関連する概念の従業員満足度は、従業員が企業に対して感じる「働きやすさ」が指標のため、サーベイを実施する際は待遇や職場の人間関係、就労環境など働きやすさにまつわる質問が中心となります。

エンゲージメントサーベイの質問項目については、以下の記事でより詳しく解説しています。

エンゲージメントサーベイの分析方法

エンゲージメントサーベイの分析手法はさまざまです。大切にしたい項目や実施の目的に応じて方法を選びましょう。

(1)属性ごとの傾向分析

属性ごとの分析によって特有の課題やエンゲージメントの傾向を発見できます。属性の分け方は部署別、役職、年齢・年代、性別、勤続年数、勤務地などがあります。

属性ごとの傾向分析の例は以下のとおりです。

部署別分析の例​

サーベイスコア

部門
スコア
営業部門
3.8/5.0
製造部門
3.2/5.0
IT部門
4.1/5.0
管理部門
3.5/5.0

特に低スコアの質問項目:

  • 製造部門「キャリア成長の機会」(2.8/5.0)
  • 製造部門「上司からのフィードバック」(2.9/5.0)

​​抽出される課題の仮説

製造部門では、単調な業務による成長実感の欠如

  1. 製造現場の管理職の1on1スキル不足
  2. シフト勤務により上司との対話機会が限定的
  3. キャリアパスが不明確で将来像が描きにくい

人事施策

製造部門向けキャリアパス制度の整備

  • 多能工化プログラムの導入
  • 技能資格制度の創設
  • ローテーション制度の確立

製造部門管理職への支援

  • 1on1トレーニングの実施
  • シフト間コミュニケーションツールの導入
  • マネジメント研修の強化

役職別分析の例

​​サーベイスコア

役職
スコア
一般社員
3.6/5.0
主任/係長
3.2/5.0
課長
3.4/5.0
部長以上
4.2/5.0

特に低スコアの質問項目:

  • 主任/係長「ワークライフバランス」(2.7/5.0)
  • 課長「権限委譲」(2.8/5.0)

​​抽出される課題の仮説

  1. ミドルマネジメント層の業務過多
  2. プレイングマネージャーとしての役割過重
  3. 上位層からの権限委譲が不十分
  4. マネジメントスキルとプレイヤースキルの両立困難

​​人事施策例

ミドルマネジメント支援

  • 業務棚卸しワークショップ
  • 権限委譲ガイドラインの策定
  • マネジメント専任ポジションの新設

役職別研修の強化

  • 新任管理職研修の刷新
  • タイムマネジメント研修の実施
  • メンタリングプログラムの導入

年齢・年代別分析

​​サーベイスコア

年齢・年代
スコア
20代
3.6/5.0
30代
3.2/5.0
40代
3.4/5.0
50代以上
3.8/5.0

特に低スコアの質問項目:

  • 30代「将来のキャリアビジョン」(2.9/5.0)
  • 30代「報酬への満足度」(2.8/5.0)

抽出される仮説

  1. 30代でのキャリア停滞感
  2. ライフステージの変化による金銭的プレッシャー
  3. 中堅層の役割期待と処遇のミスマッチ
  4. 専門性深化とマネジメントパスの選択に悩む層の存在

​​人事施策例

キャリア開発支援

  • 30代向けキャリアワークショップ
  • 専門職制度の導入
  • 社内公募制度の拡充

処遇制度の見直し

  • 職務給制度の導入検討
  • 専門性評価の報酬への反映
  • 選択型福利厚生の拡充

(2)過去データと比較

サーベイは継続的な実施が重要です。過去のデータとの比較によって項目ごとの変化や施策の効果を確認できます。

以下が過去データとの比較分析の例です。

例1

属性
前回スコア
今回スコア
変化
抽出された仮説
人事施策
入社後3年以上10年未満
63
87
+23
オンボーディングを担うメンター制度を導入したことで改善されたと思われる
メンター制度を継続しつつ、オンボーディング研修の機会を設ける

例2

属性
前回スコア
今回スコア
変化
抽出された仮説
人事施策
マーケティング部
81
62
-19
大型案件によって過重労働が続いてしまっていることが要因と思われる
時間外労働の管理と時間外労働の厳格化を推進する

過去と現在の推移を分析する際は、属性別のスコア変動だけでなく全体平均の増減確認も重要です。属性別の大きな変動が全体スコアに反映されていない場合や、逆に属性別の変動が小さくても全体スコアが大きく変化している場合があるためです。

(3)相関分析

相関分析は、エンゲージメントサーベイで集めたデータと、人事評価や勤怠管理などのデータの関係性を分析する手法です。単純な相関関係だけでなく、さまざまな要因を複合的に分析する必要があります。

たとえば、各部署のエンゲージメントスコアと有給取得率を分析する場合、以下のような多角的な視点が必要です。

  1. 定量データの確認


  2. 定量データの確認
    • エンゲージメントスコア
    • 有給取得率
    • 残業時間
    • 離職率
    • 生産性指標
    定性的な要因の考慮
    • 業務特性
    • 繁閑期の影響
    • マネジメントスタイル
    • 部署の組織文化
    時系列での変化
    • 四半期ごとの推移
    • 前年同期比較
    • 施策実施前後の変化

分析例

 部署A:有給取得率は低いがエンゲージメントが高い → 業務にやりがいを感じているが、業務量に課題がある可能性

部署B:有給取得率は高いがエンゲージメントが低い → ワークライフバランスは良好だが、他の要因(キャリア開発機会等)に課題がある可能性

(4)項目の構造化

改善したい項目の結果をみても、クリティカルな課題が見えてこないケースもあります。その際は改善したい項目間の関係性を統計的に分析し、組織固有の課題構造を明らかにすることが重要です。

たとえば「ワークエンゲージメント」を改善したい場合、以下の2つの階層で相関分析を実施し、関係性を定量的に把握します。

第1階層:仕事満足度、報酬・評価制度、上司との関係、仕事の意義
第2階層:リーダーシップ、コミュニケーション、目標管理、フィードバック

たとえば各階層から以下のように課題を抽出できます。

第1階層での発見例

  1. 「上司との関係」スコアが低い場合
    • リモートワーク環境での1on1の質低下
    • 部下の期待値とマネジメントスタイルのミスマッチ
    • 評価の納得感不足
  2. 「仕事の意義」スコアが低い場合
    • 目標と成果の紐付けが不明確
    • 会社のビジョンと個人の業務の接点不足
    • キャリアパスの見えづらさ

第2階層での具体的課題例

  1. リーダーシップ関連
    • フィードバックが一方通行
    • 権限委譲が不十分
    • 成長機会の提供不足
  2. コミュニケーション関連
    • 情報共有の質・量が部署により偏在
    • 対話の機会不足
    • 心理的安全性の欠如

第1階層で特定した課題領域を第2階層で深掘りすることで、より具体的な施策につながる課題が見えてきます。ただし、これらの課題は組織によって異なるため、自社の文脈に沿った解釈が重要です。

エンゲージメント分析で注意すべき点

エンゲージメント分析で注意すべき点の説明。下記本文の内容が記述。

(1)相関関係と因果関係の違い

エンゲージメントサーベイのデータ分析では、相関関係と因果関係の違いを前もって理解しておきましょう。

相関関係とは2つの要素が連動して変化する関係を示します。たとえば1on1の実施回数が多い部署ほどエンゲージメントスコアが高い、といった関係です。ただし、これは必ずしも直接的な影響関係を意味しません。

一方、因果関係は1つの要素が他の要素に直接的に影響を与える関係を指します。たとえば、新たな評価制度の導入により、従業員満足度が向上したような場合です。時間的な前後関係があり、他の要因を加味しても影響関係がみられるのが特徴です。

実務では、以下の3つの視点で分析を進めることが効果的です。

  • 複合要因の考慮(組織風土、外部環境、個人特性)

  • 時間軸の把握(即時的影響と中長期的影響)

  • データの質の確認(サンプルサイズ、継続性)

(2)他社と比較しすぎない

一般的な水準を把握するため、他社との比較は参考指標として活用できます。ただし、同じ業種や規模の企業であっても、社風や組織構造、制度など、複数の視点から要因を分析することが重要です。

(3)問題は個人だけでなく関係性にあると考える

エンゲージメントサーベイの結果を分析するなかで、特定の個人や組織についての課題が浮かび上がるケースもあります。

しかし、エンゲージメントサーベイは課題や意見の抽出、可視化が目的。特定の個人や組織を責めるのではなく、複数の視点から課題や要因を分析し、改善施策やアクションにつなげることが重要です。

エンゲージメント分析の事例

【事例1:株式会社くふう住まいコンサルティング様】年次ごとの傾向分析

業種:建設・不動産 従業員数:101〜500名

株式会社くふう住まいコンサルティングでは、人的資本情報開示に関する情報取集のためのエンゲージメントサーベイや従業員のキャリア観を把握するためのキャリアサーベイ、心理的安全サーベイ、ワークライフバランスサーベイなど複数のサーベイを実施しています。

とくに在籍年数の属性で区切った際、特定の年次の幅のなかにエンゲージメントや帰属意識がほかの年次の幅と比べて、やや低い範囲がありました。

事前にある程度は想定していたものの、実際に数値として確認できたことで、その後の具体的な施策やアクションにつなげやすくなったそうです。

現在は、フォローアップのために、年次や階層別に研修の実施を検討し、対応を進めています。

株式会社くふう住まいコンサルティング様の事例詳細は以下の記事をご覧ください。

【事例2:ポールトゥウィン株式会社様】部署ごとの傾向分析事例

業種:IT・インターネット 従業員数:2001〜5000名

ポールトゥウィン株式会社では、急速に従業員が増加するなか、組織と従業員の状態を可視化する目的でサーベイを開始。具体的には、退職サーベイとエンゲージメントサーベイを正社員・アルバイトなどの雇用形態に関係なく全従業員に実施しています。

エンゲージメントサーベイでは、エンゲージメントの低い部署が明らかになりました。実施前の仮説が数値でも可視化され、アクションを起こしやすくなったそうです。

具体的なアクションとして、エンゲージメントが低い部署に所属するすべての従業員と面談し、コミュニケーションの活性化や組織体制の変更、配置転換といった対策を進めています。

ポールトゥウィン株式会社様の事例詳細は以下の記事をご覧ください。

エンゲージメントサーベイの分析後のアクション

抽出した課題を解決するための人事施策の検討と実行

エンゲージメントサーベイの分析によって抽出される人事課題には、組織、マネジメント、個人など複数のレベルの課題があります。

組織レベルではビジョンの浸透度や部門間連携、マネジメントレベルではリーダーシップの質やコミュニケーションの充実度、個人レベルではキャリア開発機会やワークライフバランスなどが重要な観点です。

課題に対しては、短期・中期・長期の時間軸での施策検討も効果的です。たとえば、短期的には1on1ミーティングの定例化やオンライン学習の導入、中期的には評価制度の見直しやキャリアパス制度の整備、長期的には組織構造改革や人材育成体系の再構築などがあります。

「1on1ミーティング」については、以下の記事で詳しく解説しています。

抽出した意見を組織運営に反映

サーベイから従業員のポジティブな意見を抽出できた場合、今後の組織運営に反映させるのも分析後の重要なアクションの1つです。

従業員のポジティブな意見は、より働きやすい職場環境の構築のヒントになりえます。さらに意見が反映された施策により、従業員は個人の意見が組織のなかで尊重されていると実感でき、帰属意識の向上も期待できます。

たとえば、特定の部署で高評価を得ている柔軟な働き方の仕組みや、チーム間のコミュニケーション方法などは、他部署への展開が可能な好事例となります。

ただし意見を組織施策に反映する際は、以下の点に留意が必要です。

  • 複数の部署や階層からの意見を収集し、偏りのない判断を心がける
  • 定量データとの整合性を確認する
  • 実現可能性と費用対効果を検討する

SmartHRで従業員や組織の状態を把握し、課題解決の第1歩を

取り組むべき組織の課題を特定し、的確な対策を検討・実行するには、従業員データの収集・分析が欠かせません。

SmartHRの従業員サーベイでは蓄積された従業員データをもとにエンゲージメントサーベイを手軽に配信。さらにHRアナリティクスでは、雇用契約や入社手続きといった労務管理機能で収集したデータとタレントマネジメント機能で収集したデータ(※)をもとに個人や組織の状態を可視化・分析できます。

※現在は利用できないデータが含まれています。順次データ連携を実施予定です。

SmartHRのHRアナリティクスの詳細は、以下のお役立ち資料「3分でわかる!SmartHRのHRアナリティクス」をご覧ください。

お役立ち資料

3分でわかる!SmartHRのHRアナリティクス

FAQ

  1. Q1. エンゲージメント分析とは何ですか?

    エンゲージメント分析は、エンゲージメントサーベイにより従業員が仕事に対してどれだけの熱意や関心をもっているか、また会社にどれほどの帰属意識をもっているかを測定し分析することです。サーベイの結果から得られた課題をもとに人事施策を行い課題解決を目指すことや、把握した従業員の意見を組織運営に活かすことが可能です。

  2. Q2. エンゲージメント分析の方法にはどのようなものがありますか?

    エンゲージメント分析には以下の方法があります。

    • 属性ごとの傾向分析
    • 過去データと比較
    • 相関分析
    • 項目の構造化

     1つの方法だけではなく、複数の方法を用いて分析することで、有益な結果を抽出できます。

  3. Q3. エンゲージメント分析する際の注意点は?

    エンゲージメント分析をする際には、以下の注意点が挙げられます。

    • 相関関係と因果関係を前もって理解しておく
    • 他社と比較しすぎない
    • 問題は個人ではなく関係性や組織にあると考える

人気の記事