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多能工とは?メリットや単能工との違い、導入手順をわかりやすく解説

公開日

この記事でわかること

  • 多能工の概要、単能工との違いについて
  • 多能工で企業が得られるメリット
  • 多能工化の導入手順と失敗しないためのポイント
  • 多能工化で参考にするべき、導入の成功事例
  • 多能工に向いている業界・業種、デメリット
目次

一人の従業員が複数の業務を行う多能工(たのうこう)は、業務のブラックボックス化や属人化を防ぎ、従業員のチームワーク向上が期待できます。本稿では多能工について、そのメリットや導入方法、多能工化の導入事例をご紹介します。

多能工とは

多能工とは、一人の従業員が2つ以上の業務を受けもつこと、または2つ以上の業務を担う従業員を指し、「マルチタスク」や「マルチスキル」とも呼ばれます。

多能工(たのうこう)とは、一人の従業員が2つ以上の業務を受けもつこと、または2つ以上の業務を担う従業員を指し、「マルチタスク」や「マルチスキル」とも呼ばれます。

従来、日本の製造業などでは、一人の従業員が特定の業務を担当する「単能工」が一般的でした。単能工は、業務の専門知識をもつ職人、言い換えれば「業務のスペシャリスト」です。製造業などでは、単能工の存在により製品の品質を保てたことはもちろんのこと、イレギュラーな事態が発生した場合も迅速な対応が可能でした。

しかし、企業が単能工のみの状態では、業務がブラックボックス化し、特定の従業員が病気や事故などの不測の事態で不在になった場合、ほかの従業員では対処できず、業務が滞ります。また、特定の従業員が退職する際に引き継ぎがうまくいかないと、製品・サービスの質が下がるおそれがあります。

そこで広まったのが「多能工化」という考え方です。多能工化とは、一人の従業員が複数の業務を担えるように教育・育成し、特定の従業員だけしかできない業務をなくすことです。そして現在、製造業だけでなく多種多様な業界、業種で、多能工化が進められています。

多能工のメリット

業務負荷の均等化

単能工のように業務が属人化すると、特定の従業員だけに業務負担がかかる不公平な状態につながります。しかし、多能工化を進め、業務負荷が多い従業員の業務をほかの従業員に対応してもらうことで、特定の従業員にかかる負荷の偏りを解消でき、従業員の不満も軽減できます。

また、業務負荷の均等化によって長時間労働の解消や有給休暇の取得促進などの労働環境の改善が期待できます。従業員満足度の向上や離職防止の一手となるでしょう。

チームワークの向上

多能工化では、担当以外の業務に携わります。一定の負担がある一方で、他業務への理解が深まるため、多角的な視野の獲得につながります。また、これまで関わりの少なかった従業員同士の交流も生まれることから、信頼関係が構築されやすくなるメリットもあります。多能工化によって、未経験の業務に触れられ、社内全体のチームワーク向上が期待できます。

サステナブルな業務運用

多能工化は、属人的な業務の発生や特定の従業員への依存を防ぎ、安定的な事業継続に有効です。たとえば単能工しかいない状況では、特定の従業員が不測の事態で仕事を抜けてしまうと、業務が滞り、最悪の場合、期日の遅れや企業の信頼低下にかかわります。しかし、多能工化が推進されている環境では、特定の従業員の不在時でも、別の従業員が対応可能です。

また、多能工を教育・育成するためには、マニュアルや手順書の作成が求められます。業務の明文化によって、単能工では見えてこなかった課題が見つかり、課題解決によって潜在的なリスクの回避にもつながります。

多能工化の進め方

多能工化の進め方

1.業務を可視化する

多能工化には時間もコストもかかります。そのため、まず社内・部署内の業務を洗い出し、どの業務に多能工化が必要かを検討しましょう。

各部署の業務内容や業務量から

  • 属人化している業務
  • 非効率な業務
  • 工数過多の業務
  • リソース不足の業務

などをピックアップします。現場をよく知る従業員の意見を取り入れながら、「多能工化する業務」と「その優先順位」「多能工化の方向性」などを検討します。なお、一般的には「属人化している業務」や「リソース不足の業務」を優先させたほうがよいと言われています。

スキルマップなどを活用して、多能工化に欠かせないスキルの把握も役立ちます。

多能工化する業務の優先順位を決めたら、マニュアルや手順書を作成し、業務を可視化します。マニュアルや手順書の作成にあたっては、専門用語はなるべく使わず、見やすい図表や動画などを取り入れ、未経験者でも業務内容や作業工程が理解できるように心がけましょう。

2.育成計画を立てる

続いて、多能工化を効率よく進めるための育成計画を策定します。

育成計画には

  • 育成に充てる期間
  • 育成対象とする従業員
  • 指導役の従業員
  • 指導する業務内容
  • 育成手法

などを明確にします。かかわる従業員だけでなく、ほかの従業員の業務にも支障が出ないように、業務量に配慮した育成計画が重要です。

計画策定後の育成期間では、多能工化にかかわる従業員と綿密にコミュニケーションをとり、多能工化による通常業務への弊害の発生状況を確認しましょう。また、通常業務と並行しての育成は、教える側、教えられる側双方にとって多くの負担がかかるため、企業は従業員の体調にも配慮し、迅速に対策を講じられる準備をしておきましょう。

3.振り返り、改善する

多能工化成功のカギは「振り返り」と「改善」です。育成計画の策定時に期待した効果が実際に得られたかどうかを定期的に評価し、効果が薄い場合には改善策を立て、定着化を図ります。

また、多能工化によるコストがかかりすぎていないか、業務負荷の均等化が予定したとおりに進んでいるかなども確認します。さらに忘れてはいけないのが、従業員の気持ちです。業務に支障がなく、多能工化が順調に進んでいるように思えても、従業員のモチベーションが低下していては最悪の場合、「今のやり方についていけない」と、退職してしまうおそれがあります。振り返りの際は従業員の目線に立ち、必要に応じて育成計画の改善・推進が重要です。

SmartHRのスキル評価

多能工化の進捗確認には、SmartHRの「スキル管理」機能を活用いただくのも一つの手です。多能工化すべき業務に必要なスキルを保有する従業員を可視化し、振り返りに役立ちます。

3分でわかる!SmartHRのスキル管理

多能工化の導入事例

製造業に限らず、多能工化は幅広い業種でも導入可能で、効果が期待できます。多能工化が成果につながった製造業と非製造業の代表的な好事例を紹介します。

トヨタホーム株式会社

トヨタホーム株式会社は、多能工の生みの親であるトヨタ自動車株式会社のグループ会社です。自動車生産で培った技術を生かした注文住宅は、品質の安定と生産性向上のために住まいの約8割を工場でつくり、現場では組み立て作業が中心となるユニット工法を採用しています。一般的なハウスメーカーの場合、工場の従業員は部品製造のみを担当し、建築現場の従業員は工場でつくられたユニットを据え付けるだけです。

しかし、トヨタホームでは工場勤務の熟練者も含め、高い生産効率の維持を目的に、工場・現場それぞれの業務に対応可能なフレキシブルな人材育成に取り組みました。

また2015年当時は、住宅の販売数は減少傾向にあり、大量生産の効率化だけを考えていては、企業成長が期待しづらい市況でした。そこで、需要増加が見込まれるリフォーム事業で必要となる人材育成を目的に、同社では技能の向上と伝承にも注目。そのための取り組みとして、溶接、物流、木工、電気の配線作業、外壁の5部門で競う「技能向上競技会」を開催しています。大部分の従業員が参加するこの競技会では、家づくりに必要な一連の作業を手作業で行うため、家づくりの全工程を学ぶのに大いに役立ちます。実際、同社では当時盛んだったインターネットのブロードバンド化に伴い、配線作業が増えた際、配線作業に対応できる多能工を迅速に3倍に増やし、生産性アップを実現しました。

(参照)トヨタ式の住宅部材生産、「多能工」育成で進化-日本経済新聞

株式会社星野リゾート

温泉旅館やリゾートホテルなどを営む株式会社星野リゾートは、収益率および顧客満足度向上のために多能工を導入しました。それまでのホテル業界では、従業員は昼に休憩する「中抜けシフト」が一般的であり、働き方もフロント、レストラン、客室など、業務ごとに担当者が決まっていました。そこで星野リゾートでは、すべての従業員がフロント、レストランサービス、客室掃除、調理補助の4つの業務を担当できるように多能工化を進めました。また、各従業員の業務習得度と実践度を数値化して人材の育成度合いを測定し、多能工化によるメリットの理解・浸透に努めました。

上記の結果、互いの業務フォローによって生産性が改善され、収益率の向上が叶いました。さらに多能工化によって宿泊者との接客機会が増加し、顧客満足度の向上も実現させました。

(参照)星野流、規模100倍の外資ホテルとの戦い方-東洋経済

業務効率化×多角的な視点で事業に改革を

一人の従業員が複数の業務をこなす多能工は、特定業務を担う単能工と異なり、「従業員の業務負担を均等化」や「潜在的なリスクを回避」といったメリットがあります。また多能工は、他業務の理解が深まるため従業員が多角的な視野をもてるようになり、チームワークの向上や業務の効率化が図れます。

多能工化を進める際は、業務を可視化して未経験者でも理解できるわかりやすいマニュアルを作成しましょう。そして、育成期間や振り返り時には、従業員の変化をよく観察し、必要に応じて早めに対策を講じることが大切です。

ツール活用で実現する効率的な多能工化

SmartHRでは、多能工化に欠かせない「スキル管理」機能を提供中。従業員の保有するスキルを可視化し、多能工化に不足しているスキルが一覧でわかります。

メリットが多く挙げられるものの、実現に向けて工数のかかる多能工化。本機能が活用して効率的な多能工化をサポートします。

お役立ち資料

3分でわかる!SmartHRのスキル管理

FAQ

  1. Q1. 多能工を取り入れるべき業界・業種は?

    A.製造業から多能工が始まったことからもわかるように、モノづくりにかかわる業界・業種は多能工化の効果が期待できます。また、ホテル業界や旅館が属する宿泊業や、スーパーマーケットなどの流通業界、建設業界も多能工が必要とされる業界・業種と言われています。

  2. Q2. 多能工のデメリットは何ですか?

    A.多能工化を進める際にコストと時間がかかることです。また、多能工化では慣れない業務に取り組むため、業務上のムダが発生しやすい点もデメリットです。さらに、多能工化によって従業員の負担が重くなりすぎると、従業員のモチベーションが低下し、離職につながる可能性があることもマイナス面と言えるでしょう。

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