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【事例付き】パフォーマンスマネジメントとは?方法や注意すべき課題も

公開日

この記事でわかること

  • パフォーマンスマネジメントとは何か
  • パフォーマンスマネジメントのメリットや、実現できることを紹介
  • パフォーマンスマネジメント導入の具体的な流れを解説
  • パフォーマンスマネジメント導入の成功事例を紹介
目次

パフォーマンスマネジメントは、海外で多くの企業が導入しているマネジメント手法です。変化が激しいVUCAの時代において、従業員のモチベーションを上げ主体性を育むこの手法は、企業力の底上げの面から日本でも導入が進められています。

本稿では、パフォーマンスマネジメントの概要やメリット、取り組み方などについて解説します。

パフォーマンスマネジメントとは

パフォーマンスマネジメントの意味と、必要な理由をまとめた図

パフォーマンスマネジメントとは、従業員が最高のパフォーマンスを発揮して、主体的に業務に取り組めるよう促すマネジメント手法です。短いスパンで上司と部下がコミュニケーションやフィードバックをし、従業員のモチベーションを高め、主体的かつ意欲的に仕事へ取り組めるよう導きます。

パフォーマンスマネジメントが注目を集めている理由として、現代がVUCAの時代であることが挙げられます。VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つの単語の頭文字をとった言葉で、激しい変化により未来が不確実かつ予測が難しい状況を指します。

VUCAの意味をまとめた図

先の見通しが困難な時代だからこそ、企業は状況に応じて柔軟な対応をしなくてはなりません。そのためにも企業は主体的に行動できる従業員の育成に努め、時代への対応力を高めていくことが必要です。

パフォーマンスマネジメントは、アメリカで活動していたコンサルタント、オーブリー・C・ダニエルズ氏が提唱した手法と言われています。上司と部下がコミュニケーションを介して目標を設定し、定期的なフィードバックやコーチングをする点が特徴です。

(参考:Performance Management - Aubrey Daniels International

なお、パフォーマンスマネジメントについては法政大学の心理学科教授、島宗 理(しまむね さとる)氏が著した『パフォーマンス・マネジメント(第2版)-問題解決のための行動分析学-』にて詳しく解説されています。

パフォーマンスマネジメントの特徴

パフォーマンスマネジメントの3つの特徴をまとめた図

リアルタイムで実施する

パフォーマンスマネジメントは、1週間から1か月ごとの比較的短いスパンでリアルタイムにフィードバックをする点が大きな特徴です。

部下と上司が短いスパンでコミュニケーションをとり、目標設定やフィードバック、目標の見直しなどをテンポよく実行します。リアルタイムなフィードバックにより、そのときの状況に合わせた目標の修正や、適切なコーチングが可能です。

JPモルガンでも従業員からの要望に応える形で、「リアルタイムフィードバック」が導入されています。

未来を重視する

パフォーマンスマネジメントは、過去ではなく未来を重視するのも大きな特徴です。過ぎたことでなく、今後どうするかに重点を置きマネジメントします。

そのため、上司と部下で話し合いをするときも、過去の失敗への説教や反省ではなく、今後とるべき行動や目標設定などに多くの時間を割きます。

パフォーマンスマネジメントの目的は、従業員の能力やモチベーションを高め、主体的な行動を促すことです。過去の反省や業務の評価で、モチベーションを下げることは避けます。

上司と部下のコミュニケーションが多い

短いスパンで実施するマネジメント手法ゆえに、自然と上司・部下のコミュニケーションが増える点もこのマネジメント手法の特徴です。

設定する目標は、上司と部下の2人で考えるのが基本です。上司が定めた目標を部下へ一方的に押しつけるのではなく、2人で話し合いながら決めます。

コミュニケーション頻度の高さは、上司と部下の絆を深めるのにも有効です。定期的に面談を行い、2人で話し合いながら前向きな目標を設定する過程で、お互いへの信頼感が醸成されます。

上司と部下の絆や信頼関係が深まれば、業務にもよい影響をもたらします。部下は業務で困ったり悩んだりしていることなどがあればすぐ上司に相談でき、業務をスムーズに進められます。

パフォーマンスマネジメントのメリット

パフォーマンスマネジメントの代表的なメリットとして、「人材流出の防止」「従業員の主体性育成」「部下の特徴を把握」などが挙げられます。

パフォーマンスマネジメントのメリット3つを紹介した図

人材流出の防止

企業にとって、人材は利益に直結する重要なリソースです。どれほど素晴らしい商品やサービスを扱っていても、マーケティングや販売活動をするのは従業員であり、優秀な人材の流出は売上・利益の減少につながります。

企業が、人材流出しないための適切な対策として、パフォーマンスマネジメントは有効です。

パフォーマンスマネジメント手法の実践により、従業員は自身の成長を実感できます。また、上司が現状を把握したうえで、達成可能な目標を2人で設定するため、部下は小さな成功体験を積み重ねられます。その結果、強い自信につながり、エンゲージメントやモチベーションの向上が期待できます。

従業員満足度や組織への愛着が高まれば、「この会社で働きたい」という心理につながり、人材流出の回避や採用コストを削減できます。

従業員の主体性の育成

パフォーマンスマネジメントにおいては、上司と部下が話し合いを介して目標を設定します。人から押しつけられた目標ではなく、自身の意見や気持ちも反映した目標であるため、意欲的かつ主体的な行動を促します。

主体性がないと、自分1人では何も決められず、上司から指示されるまで何もしない、いわゆる「指示待ち人間」になりかねません。主体性のない従業員を部下にもった上司は、その都度指示を出さなくてはならず、業務負担も増加します。

従業員の主体性が育つと、組織全体の生産性向上にもつながります。上司からの指示を待つのではなく、個々が顕在化している課題を自ら考え解決できる人材を育成すれば、企業としても対応力を向上できます。

部下の特徴を把握

生産性を高めるには、適材適所の人員配置が不可欠です。そのためには、個々の従業員が有するスキルや特性などを正確に把握しなくてはなりません。

パフォーマンスマネジメントを取り入れることで、定期的な面談を通じて部下の特徴を把握できます。業務中のやりとりだけでは把握が困難な、部下の有するスキルや特徴を、こまめなコミュニケーションによって把握できます。

また、長所だけではなく、短所や向いていない業務なども把握できます。これらの情報を上司がもてば、部下がもっともパフォーマンスを発揮できる業務を任せたり、向いていない業務から外したり、といった判断がしやすくなります。結果、適材適所の人材配置につながり、職場の生産性向上を実現できます。

パフォーマンスマネジメントの方法

パフォーマンスマネジメント導入にあたり、正しい導入の流れや取り組む方法を把握しておきましょう。

パフォーマンスマネジメントの方法4ステップをまとめた図

ステップ1. 導入目的を明確にする

まずは、導入する目的を明確にしましょう。組織としての具体的な目的を明確にし、上層部だけでなく従業員にも周知しましょう。取り組みが始まり、もっとも影響を受けるのは従業員です。何の説明もなく始まると、面談が必要性や意味に疑問や不満を抱きかねません。何のために導入するのか、事前にきちんと周知しておきましょう。

ステップ2. 従業員が目標を設定する

従業員一人ひとりの目標設定は、上司と従業員が二人三脚で行います。面談で話し合いながら実現可能な目標を設定しましょう。上司が決めた目標を一方的に押しつけるのは避けます。

ステップ3. 従業員のパフォーマンスを観察する

設定した目標を達成できる行動がとれているか、日常的に従業員のパフォーマンスを観察します。1週間から1か月の短いスパンで面談を設定し、コミュニケーションをとることも重要です。

なかには目標達成へ向けた行動をとれていない従業員もいるかもしれませんが、上司が部下へ解決策を教えるのは望ましくありません。解決策を教えればスピーディに問題は解決しますが、主体性を育むパフォーマンスマネジメント本来の目的とずれてしまいます。

このようなケースでは、上司がすぐに解決策を教えるのではなく、部下が自ら考えて解決につながる行動を起こせるよう導きましょう。

部下の主体性を育むコーチングのための3つの原則が存在します。以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。

ステップ4. 従業員にフィードバックをする

従業員が結果を出したのなら、速やかにフィードバックを実施しましょう。また、目標の達成状況や達成率などをチェックし、原因や今後の対応・目標を2人で考えましょう。

フィードバックの際には、主観的な指摘を避け、客観的な視点が求められます。客観的フィードバックの一例として、「SBI手法」があげられます。「Situation(状況)」「Behavior(行動)」「Impact(影響)」の3つの言葉の頭文字をとったフレームワークです。フィードバック時の注意点、役立つ手法を紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。

また、優秀な従業員への表彰制度を取り入れている企業もあります。受賞者だけではなくほかの従業員のやる気を高める効果も期待できます。組織風土や従業員の性格などをふまえて、メリットが期待できる場合は表彰制度の導入検討も効果的です。

パフォーマンスマネジメントの成功事例

パフォーマンスマネジメントをすでに実践している企業の事例も参考にしてみましょう。

デロイト トーマツ

世界最大の会計事務所として知られるデロイト トーマツは、従業員の評価に年間200万時間を費やしていました。しかし、膨大な時間を費やしてはいるものの、それがどれほど従業員の成長や満足度につながっているかを実感できませんでした。

そこで同社は、プロジェクトの進捗をマネージャーとともにチェックする「レビュー制度」や、キャリアなどについてマネージャーと話し合う「チェックイン制度」を導入しました。これらを1週間に一度ずつ実施し、対話を通じて継続的にフィードバックを伝えることで、従業員への理解を深めつつ、従業員の成長やモチベーションの喚起につなげています。

(出典:人事評価なんてもういらない(p.15) - リクルートワークス研究所

アドビシステムズ

アドビシステムズは、かつて1年に1回、従業員をランクづけする人事制度を設けていましたが、評価の直後に離職者が急増するという課題に直面していました。評価が従業員のモチベーションを低下させていることに気づいた同社は、評価の原点に立ち返り、従業員個々のパフォーマンスを最大化する仕組みが必要と考えました。

そこで同社は、マネージャーと従業員が業績目標について1対1で話し合える場を設けたほか、3か月に一度のキャリア面談も用意しました。頻度の高いコミュニケーションによって、マネージャーは部下のことをよく把握できるようになり、適切な判断のもと賞与や昇給額を決めています。

(出典:人事評価なんてもういらない(p.15) - リクルートワークス研究所

ゴールドマン・サックス

ゴールドマン・サックスは、アメリカに拠点を構える金融系企業グループです。同社では、もともと従業員をランクづけして給与を決める仕組みのレーティングを採用していましたが、現在では廃止しました。

現在は評価基盤は360度評価のまま、従来10人の評価者を6人に減らし、フィードバックも定性コメントで伝えるようにしています。従来のように数値で示すのではなく、コメントで将来のためのアドバイスをしたほうが、従業員と組織の双方にとって有益であると、同社の人事部長は話しています。

(出典:人事評価なんてもういらない(p.18) - リクルートワークス研究所

ゼネラルエレクトリック

ゼネラルエレクトリックは、アメリカに拠点を構える世界最大規模の総合電機メーカーです。

同社はかつて、1年ごとに従業員を評価し、下位10%は解雇もしくは配置を換えるといった非常に厳格な人事制度を設けていました。しかし、現在では廃止され、従業員に随時フィードバックする「パフォーマンスデベロップメント」という制度を導入しています。

パフォーマンスデベロップメントにより、上司は部下を分類する立場から、コーチング的なアプローチで部下を導く立場へと変化しました。また、フィードバックの内容もほかの従業員への貢献度が重視されます。この新しい人事制度は、「失敗を尊重する」という同社の新しい社内文化の定着に寄与しています。

(出典:「失敗を心地よく」、成果主義人事を撤廃したGE - 日経XTECH

スターバックス

世界的コーヒーチェーン、スターバックスでは、「パフォーマンス&デベロップメントアプローチ」と呼ばれる人材開発アプローチを実践しています。従業員とリーダーが会話し、個人とスターバックスの目標をすり合わせながら、双方の成長を目指しています。

こうしたパフォーマンスマネジメントの導入により、スターバックスはスムーズな人材育成に成功しています。その結果、全国の店舗で上質なサービスを提供できるようになりました。

(出典:スターバックスで広がる可能性 - スターバックス

パフォーマンスを最大化できる人事制度

パフォーマンスマネジメントを導入し、従業員と上司の定期的コミュニケーションは、従業員個人のモチベーションアップやパフォーマンスアップが期待できるだけでなく、企業の成長にもつながります。従業員は自身の成長も実感できるため、人材流出の回避や組織力の向上も期待できます。

パフォーマンスマネジメントで成果を得るために、本稿でお伝えしたポイントや事例などを参考にしつつ、導入を進めてみてはいかがでしょうか。

お役立ち資料

休職・離職を防ぐために「組織」と「個人」両軸での対策が必要な理由

パフォーマンスマネジメントのFAQ

  1. Q1. 目標管理制度(MBO)との違いとは?

    目標管理制度(MBO)とは、経営学者として活動していたピーター・ドラッカーが提唱したマネジメント手法です。従業員の目標達成度合いを評価する点は同じですが、MBOは1年に1回といった長期的なスパンでフィードバックします。また、パフォーマンスマネジメントが未来を重視するのに対し、MBOは過去を重点的に評価します。

    (参考:目標管理制度(MBO)とは? メリット・デメリットや運用のポイントをわかりやすく解説

  2. Q2. パフォーマンスマネジメントの課題は?

    上司と部下が高い頻度でコミュニケーションをとるため、上司には一定のコミュニケーションスキルが求められます。会話のなかから部下の特徴やスキル、弱点などを把握するにもコミュニケーションスキルが必要です。また、次につながる適切なフィードバックをするには、コーチングスキルも欠かせません。このような理由から、パフォーマンスマネジメントを導入する場合は、上司など管理職のスキルアップも視野に入れましょう。

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