ラグビー×馬!?から学ぶ AI時代に求められるリーダー像
- 公開日
“AIとHRのつながり”をテーマとするイベント「SmartHR Connect 〜AIとHRテクノロジーが紡ぐ革新的企業への進化〜」が、2024年7月17日(水)に東京国際フォーラムで開催。
本セッションでは、株式会社HiRAKU 代表取締役 / 元ラグビー日本代表キャプテンの廣瀬俊朗さんと株式会社COAS Founder, Ownerの小日向素子さんが登壇。
それぞれの専門分野から考える、AIの時代に必要なリーダーシップのあり方についてをテーマにトークセッションを実施しました。
- 登壇者廣瀬俊朗氏
株式会社HiRAKU 代表取締役 / 元ラグビー日本代表キャプテン
1981年生まれ、大阪府吹田市出身。5歳からラグビーを始め、大阪府立北野高校、慶應義塾大学、東芝ブレイブルーパスでプレー。東芝ではキャプテンとして日本一を達成した。2007年日本代表選手に選出され、2012年から2年間はキャプテンを務めた。現役引退後、MBAを取得。2019年、株式会社HiRAKU設立。
- 登壇者小日向素子氏
株式会社COAS Founder, Owner
NTT入社後、外資系に転じ、マーケティング、ブランディング、新規事業、海外進出などを担当。日本支社マーケティング部責任者に、世界初の女性及び最年少で就任し、2年で組織再生を達成。2009年独立。暮らしと仕事と学びが重なる、をテーマに活動を開始。馬の研修と出会い、国内外の牧場で学びを深める。国際資格EAGALA(Equine Specialist/Mental Health Specialist)取得。
2016年株式会社COAS設立。各種機関で組織開発、リーダーシップ等についても勉学し、札幌の牧場で馬から学ぶプログラムを資生堂等、延べ2,000人以上のエグゼクティブに提供。自らの技法と哲学をナチュラル・リーダーシップとして体系化し、今年2月、『ナチュラル・リーダーシップの教科書』(あさ出版)を出版。
試合に出られない選手にも「居場所」をつくる
小日向さん :
廣瀬さんはラグビーの元日本代表キャプテンとしてご活躍されましたが、振り返ってご自身はどんなリーダーでしたか?
廣瀬さん
ラグビーのリーダーって「ついてこい!」とか「任せろ!」といったイメージが強いかもしれませんが、僕はそういったカリスマタイプではなく「どうやったらみんなで楽しくやれるかな?」をすごく考えるタイプでした。
小日向さん
実際に周りの人に意見を聞いていたのですか?
廣瀬さん
すごく聞きました。「何のために勝つのか?」「勝った先に何があるの?」といった「WHY」や、その大義を成し遂げるための「HOW」をみんなで考えることを大事にしてきました。その土壌に共感できたら、みんなで一緒に頑張る気持ちになれます。
企業でいうと、会社の大義やミッションにどれほど共感できているか、自分の言葉で人に声をかけられているか、このような視点が必要です。企業の方向性がミッションとずれていたら、上司に対してでも「違う」と言えるくらいの覚悟をもてるかが大事だと思います。
小日向さん
「大義」ってとてもいい言葉だと思います。ビジネスでは似た言葉で「コミットメント」がよく使われますが、少し違いますかね。 コミットメントは「この会社で私はこういう仕事をします、そこにコミットします」ですが、それ以上の意味はありません。他部署の失敗に対して自分の責任だとは思わない。
廣瀬さん
ラグビーではスクラムを組む人もいますし、ラインアウトで大事な役割がある人もいますが、お互いがチームのことを考えて助け合ったり、どう思っているかを気にかけたりしているチームは本当に強い。試合中はいろいろなことが起きるのに、その時に「自分のコミットメントはこれだけですから」といった姿勢でいたらまったく成立しません。いいラグビーができるかどうかは、原点にある覚悟や人間関係が大切です。
現代は他者へのケアがないがしろにされていますが、もっとお互いをケアしあって大事にするのが、日本らしい考え方だったのではないかと思っています。
小日向さん
そのとおりですね。具体的にどのようなケアをされていますか?
廣瀬さん
僕のテーマは「居場所をつくる」でした。試合に出る選手は居場所がありますが、一方で試合に出られない選手にも居場所があるかどうかがすごく大事なんです。
試合に出られない選手に新しく入ってきた選手のメンターをお願いしたり、練習中にいいプレーができたときに声をかけたり。その選手は試合に出られないし悔しい気持ちもあるけど、チームに関与して居場所があると感じられる。そうするとチームに対する想いやロイヤリティーが変わっていきます。
選手は監督が決めるのでキャプテンに人事権はありませんが、自分のできる範囲でできることを考えて、どんどん試して積み重ねる。いいものは残っていくし、選手が気に入らないものはやってもらえません。ダメだったら別の方法を考える、その繰り返しが大切ですね。
馬との対話でナチュラル・リーダーシップを身につける
廣瀬さん
小日向さんの馬の話をお聞かせください。どんな活動をされているのですか?
小日向さん
「ホースローグ」という馬と対話する現場研修をしています。馬と関わる研修ですが、乗馬はしません。
受講者が馬と接して、その後に馬たちの行動にどのような意味があったのかを室内セッションで振り返ります。セッションでは、馬とのふれあいの様子を抽象化して、仕事やプライベートでの人とのやりとりに関連付けて考えるのをひたすら繰り返す。大体3日ぐらい続けると、無意識に嫌な気分になって泣くなど、モヤモヤに耐えきれない状態になります。
その後もフォローアップコーチングを続けると、次第に行動変容していきます。通常、人間の生存戦略に関わる行動パターンを変えるのは難しく、10年くらいはかかります。でもこのセッションでは、短ければ1年程度で行動を変えられる場合もあります。
廣瀬さん
リーダーシップの観点では、どのようなスキルが養われるのですか?
小日向さん
私は自分の内面を見直して、身体的機能も含めたすべてを使いなおす新しいリーダーシップ、「ナチュラル・リーダーシップ」を提唱しています。
ナチュラル・リーダーシップを身につけるための、10の行動様式をまとめた書籍も出しました。馬の組織理論を元にしていて、この10の行動様式ができればナチュラル・リーダーシップが身につきます。
まずは、自分の感覚を鍛えるところから始めます。仕事をしていると、使用する神経伝達経路やホルモンが偏って、感覚が閉じやすくなるので、そのバランスを整えていくようなイメージです。
廣瀬さん
研修ではどのようにして整えるのですか?
小日向さん
人間は言葉でコミュニケーションをしますが、本当は喋らなくても感覚だけで意思疎通できるはずだと考えています。
馬はほとんど感覚しかない動物です。人間のように前頭葉が大きくないので、感覚でやり取りするしかない。馬との対話を繰り返していくと感覚が研ぎ澄まされ、物事を正確に感じる力が身につくので、他人と信頼関係をもてます。
廣瀬さん
行動様式の「5.『弱さ』を尊重する」や「6.真の危機以外はエネルギーを温存する」はどのような内容ですか?
小日向さん
馬は牙も角もない、逃げることで生き延びてきた弱い生き物です。だから彼らの気づく力は強い。馬と同じ粒度で周囲のものに気づいてコミュニケーションができれば、気づく力が養われ、多様性といった「他者の弱さ」も尊重できるようになる。
それと、馬は人間よりたくさんの情報を敏感に感知しますが、生死に関わらないと判断したら、すぐ地面に首を近づけ餌を食べる。重要なこと以外はエネルギーを温存しているからなのですが、バーンアウトしないためにとても大切な力です。
ステップ3の内容は、企業内などの複数者間の関係性で必要な行動様式です。これらができていればとてもいいチームになると思います。
廣瀬さん
「8.ゴールよりプロセス」とか「9.複数でリーダーシップをとる」は、スポーツの現場でも一緒です。僕もみんなでリーダーシップを発揮していくチーム作りをしているので、興味深いですね。
大きな成長を望むなら、考える時間を減らして行動あるのみ
廣瀬さん
ラグビーと馬の話をしてきましたけど、AI時代に求められるリーダー像という、このセッションのテーマに戻っていきましょう。
小日向さん
私は人間の動物的な感覚や機能を呼び戻す必要があると考えています。人間が言語化できることは、すべてAIのほうが上手にできる時代になりつつあります。しかし、先ほど説明した10の行動様式の内容は、AIにはできません。
なぜAI時代に求められるリーダー像としてナチュラル・リーダーシップが適しているかというと、環境が変わっても環境にあわせて自分の能力を使い、柔軟に変更できるためです。
廣瀬さん
ホースローグを受けられない人でも、日常で感覚を鍛える方法はありますか?
小日向さん
たとえば、集中視野と周辺視野です。多くの方は焦点を2つあわせて対象を見る集中視野だけで生きていますが、180度ぐらいの範囲をぼんやり見る周辺視野を鍛える。そのような身体ワークをするだけでも、感覚が広がって変化が起こると思います。
廣瀬さん
僕はスポーツのときにやっています。ボールをめちゃくちゃ見つつも、敵チームの陣地を「どういう風に立ってるかな」となんとなく見ています。
小日向さん
2つの視野を同時にもてたら最高です。集中視野だけだと疲れ過ぎてしまいますし、周辺視野だけだとぼーっとし過ぎてしまう。両方とも同時にもつと大量に適切な情報を得られるので、必要なことだけに脳を使えると言われています。
廣瀬さん
なるほど、ではラグビーをやっていると、自然と感覚が鍛えられてAIにできないことができるようになるのですね。そういった意味で、感覚値というか、身体性ってやっぱりすごい。でも今の時代のなかで人間が身体性をどうやって取り戻していくのか。
僕は最近ケニアなどに行っていますが、サファリのような人間が優位じゃない場所に行き、日常では体験できない感覚に晒されると、新しい発想が生まれやすいのかなと思っています。物理的にもいろんな場所に行きながら、感覚や身体値を高めていくのが、AI時代に求められるリーダーシップなのかな。
小日向さん
旅をする・移動する・環境を変えると、身体が自然と鍛えられるのでオススメです。
廣瀬さん
考える前に行くのがいいのかなと思っていて「こういう理由でこういうメリットがあるからスペインに行きます」じゃなくて、「とりあえず行ったれ!」ぐらい。そこから学べることもたくさんあると思うので。
頭で理解し過ぎない時間を作るというか、その感覚を養うというか。そういう姿勢がさらに大事な時代になってきているのかなと。
小日向さん
頭で考えることは予定調和であって、自分の能力の外に出られません。むしろ衝動にしたがって行動して、そこで体験して得るほうが、成長の速度は早くなると思います。
世界のリーダーシップ研究者たちが「リーダーシップの唯一の資質は内省だ」と言っています。
小日向さん
ナチュラル・リーダーシップでは、リーダー・シップサイクルを日々の生活で意識してほしいと伝えています。内省は反省とは違います。間違っているといった視点で振り返るのではなくて、「あのときどうだったんだろう」「もしあんな風に対応したらどうだったんだろうか」と厳しく自分を内省することがすごく重要です。
あとは、相手や周囲がどんな状態だったか観察して、その状態を理解する。「聴く」ことですね。内省する、聴く、そして行動を変えていく。変えた行動に対して周りからフィードバックをもらって、また内省して……というプロセスを繰り返すのが学び、習うことであり、成長のサイクルです。内省して、死ぬまで成長し続けられるのがリーダーの唯一の資質と考えております。
廣瀬さん
成功し続ける」ではなく、「成長し続ける」ですね。
小日向さん
成長、変化です。変化が生きる希望になると思っています。