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人材育成で重要な目標設定!SMARTの法則やバックキャスティングなど方法を解説

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人材マネジメントの最適化には適切な目標設定が欠かせません。「目標」とは、到達すべきゴールに至るために必要な行動や指針を指す概念であり、人的資源の労働生産性を最大化するうえで非常に重要なテーマです。本記事では、人材育成の重要課題である目標設定の重要性や、目標策定時に押さえるべき「SMARTの法則」や「バックキャスティング」といったコツについて解説します。

目標設定とは? 目標と目的の違いについて

前提として、企業とは「人的資源」「物的資源」「資金」「情報」などの経営資源を活用し、事業活動を通じて市場に付加価値を提供することで発展していく組織です。

そして企業が長期的かつ持続的に発展していくためには、人的資源のパフォーマンスを最大化する仕組みが欠かせません。企業にとって人材育成は非常に重要度の高いテーマであり、従業員の労働生産性を最大化するうえで欠かせないのが「目標設定」です。ここでは目標設定の意味や、「目標」と「目的」の違いなどについて解説します。

目標設定の意味

目標とは、到達すべきゴールに至るために必要となる行動や指針を指す概念です。

目標は大きくわけると「定性目標」と「定量目標」という2つが存在します。

定性目標と定量目標
  • 「定性目標」とは、数値では表せない理念やビジョン、理想像といった抽象的かつ言語的な目標です。成果達成に必要な行動に関わる内容になるため、「行動目標」と称する企業もあります。
  • 「定量目標」は、具体的な数値に落とし込める目標を指し、売上高や市場占有率、営業の成約率などが該当します。

経営戦略が明確であるほど具体的な目標を設定しやすく、最終的な目的を達成するためには定性目標と定量目標をバランスよく設定する必要があります。

目標と目的の違い

目標と目的は「目指すもの」という点においては類似する概念ですが、本質的な意味合いは大きく異なります。

  • 先述したように「目標」はゴールに到達するために必要な手段・指標を指す概念です。
  • 一方で「目的」は最終的な到達点を意味する概念であり、その達成には具体的な目標設定が欠かせません。目的が最終的に目指すものであるのなら、目標はその過程において目指すものです。

つまり目的は「ゴール」であり、目標は目的を達成するための「手段」や「指標」と言い換えられます。

目標と目的の違い

たとえば、経営理念(=目的)は「企業が存在している理由」を明文化したものであり、その実現(=目的達成)こそが組織の存在意義です。そして経営理念の実現という目的の達成には、目標として経営方針の立案や経営戦略の策定にはじまり、需要動向の調査やビジネスモデルの確立、人材マネジメントの最適化など、さまざまな施策を推進しなくてはなりません。

人材育成の領域においても同様で、人材マネジメント実施の目的(エンゲージメント向上、生産性向上など)を明確にすることで、その実現に必要となる具体的な目標設定(サーベイ調査による現状把握・改善、シナジーが生まれる適切な人員配置)につながります。

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目標設定が重要な理由

人材のパフォーマンス最大化には適切な目標設定が欠かせません。人材育成において目標設定が重要となる主な理由は以下の4点です。

  1. 目的達成までの手順が可視化される
  2. 従業員のモチベーションが向上する
  3. 従業員が達成感を得られる
  4. 進捗状況が把握できる

(1)目的達成までの手順が可視化される

目標設定が重要といえる大きな理由のひとつは、最終的なゴールへと至る道筋を客観的視点から可視化できる点です。組織や個人といった規模にかかわらず、目標設定に用いられる有用な手法に「バックキャスティング」という思考法が挙げられます。

バックキャスティングとは

バックキャスティンとフォーキャスティング

バックキャスティングとは、未来のあるべき姿や実現したいと願う理想像といったゴールを起点として、その達成に至るために必要な施策を考える思考法です。このプロセスを経ることで、最終的な目的の達成に向けた手段が可視化され、自身の進むべき方向性や必要な施策を具体的に定められるというメリットがあります。

バックキャスティングと対するアプローチとして、現状の課題・実績から目標を積みあげていくフォーキャスティングという思考法もあります。フォーキャスティングでは、現状から想像した目的設定となるため、成長率に欠けるケースもあります。

(2)従業員のモチベーションが向上する

組織全体における労働生産性を最大化するためには、従業員一人ひとりのモチベーションを向上する仕組みが欠かせません。目標があれば、それを達成するために今何をすべきか意識して行動するようになります。

たとえば、「1か月でこのプロジェクトを完成させるには、今日中にこの段階まで進む必要がある。そのためには1時間以内にこの作業を終わらせよう」といった意識で業務に取り組むようになります。一方、目標がないと、就業時間なので机に向かって漫然と業務をこなす、という状態になりがちです。

また、目標を達成したいという気持ちがあると、「上司に言われたからやっている」という受け身の姿勢から、自分で考えて取り組む自主的な姿勢に変わっていきます。上司が事細かに指示したり、激励したりする必要も少なくなるでしょう。

(3)従業員が達成感を得られる

従業員自らが設定した目標を達成して喜びや満足感を味わうことで、「引き続き頑張ろう」という気持ちが生まれます。目標があると、自分の努力の成果が目に見える形になるので、達成可能な目標を設定することは大切です。ただし、高すぎる目標設定だと成果が出しにくく達成感を得にくく、低すぎる目標設定では組織・個人の成長が望めないので、目標を細分化した段階的な設定をおすすめします。

成功経験を重ねることで、より大きな目標を達成したいという意欲につながり、ひいては労働生産性の最大化に寄与します。

(4)進捗状況が把握できる

適切かつ段階的な目標設定により、最終的なゴールへと至る道筋が具体化され、現時点における立ち位置を俯瞰的な視点から分析できます。

たとえば、Webメディア運用の担当チームが「オウンドメディアの自然検索流入数を前年比120%にする」という目標を設定したと仮定します。それによって既存コンテンツのリライトやキーワード選定の見直しといった施策の具体化につながるのはもちろん、それらの進捗状況や達成度の客観的な測定が可能です。また、目標の達成割合を段階的に分析することで各施策の課題が明確化され、軌道修正を図りやすくなる利点があります。

人事評価の正しいあり方や失敗しない方法など、下記の記事にまとめていますのでご覧ください。

目標の設定方法

個人目標と組織目標では設定する際の方向性が異なります。ここでは、目標設定時に押さえておくべきポイントについて、個人視点と組織視点で解説します。

個人目標の設定方法

個人目標設定における重要なポイントは、個人目標の達成が組織目標の実現につながるかどうかです。組織のなかで自分に求められている役割を正しく理解し、それを個人目標に反映させることが大切です。

また、達成度を定量的かつ客観的に評価できる目標を設定する点も重要です。例を挙げると、営業担当であれば「新規顧客を1人でも多く獲得する」といった抽象的な目標だけではあまり効果的ではありません。それよりも、「アポイントメントの獲得数」や「客先への訪問回数」「成約率」といった定量的かつ具体的に評価できる要素を目標として設定するようにします。

加えて、目標に明確な期日を設けることで、その達成へ向けたプロセスをより詳細に設計できます。

組織目標の設定方法

組織目標を設定するにあたり、まず、経営理念や企業の目的に立ち返ってみることをおすすめします。目的を意識することで、組織目標の大まかな方向性を定められるからです。

組織目標を立案・策定する際の重要ポイントは、事業戦略や中長期計画と連動させることです。「事業戦略で特に注力したいものは何か」「中長期計画で達成が困難なのはどれか」を洗い出すと、どのような組織目標を立てればよいかが見えてくるでしょう。

また、企業は顧客や取引先、一般消費者との関わり合いのなかで存在するため、市場動向や需要調査などの分析結果を目標に反映させることも重要です。

さらに、競合を調査して自社と比較し、自社の特色や強み・弱みをより明確に把握することも、目標設定の助けになります。

目標設定に役立つ「SMARTの法則」とは?

目標設定にはさまざまな手法が存在しますが、なかでも代表的なフレームワークとして挙げられるのが「SMARTの法則」です。

SMARTの法則とは、1981年にジョージ・T・ドラン氏による論文「There’s a S.M.A.R.T. way to write management’s goals and objectives」にて発表された理論です。一般的には、以下5つの単語の頭文字を取って、SMARTの法則と呼ばれています(現在では、ほかの有識者によって異なる単語を用いる場合もあります)。

SMARTの法則
  • ​「Specific(具体性)」:具体的かつ明確な目標であるか
  • Measurable(計量性)」:その目標は定量的に評価・分析できるものか
  • Achievable(達成可能性)」:実現可能性について十分に考慮されているのか
  • Relevant(関連性)」:目標の達成がどのようなメリットを組織にもたらすのか
  • Time-bound(明確な期限)」:そして目標に明確な期日が定められているのか

個人および組織の目標設定時は、この5つの要素を満たしているか否かの意識が大切です。

SMARTの法則に則った目標設定により、実際の行動に落とし込みやすくなり、行動に対するモチベーションの維持や進捗管理の効率化につながります。

SMARTの法則は、人材育成の領域においても押さえるべき重要なフレームワークです。たとえば、近年ではDXの推進が多くの分野で重要課題となっていますが、「優秀なデジタル人材を確保する」というSpecificを満たしていない曖昧な目標設定では、成果は期待できません。このようなケースでは「本年度は8名の新卒を採用し、そのうちAI技術とクラウドコンピューティングに精通するエンジニアを最低3名確保する」といった具体性をもった目標設定が必要です。

業種ごとに役立つ目標設定の例文

事務職や営業職、看護師、公務員といったさまざまな職種ごとに、目標設定の参考になる例文をまとめています。記事内では、「新卒・新人向け」「それ以外の従業員向け」それぞれに分けて、紹介しています。

目標設定をするコツ

個人や組織が目標を設定する際は、いくつか押さえるべきポイントがあります。なかでも重要度の高いポイントが以下の3点です。

  1. 従業員の興味関心にもとづいた目標を設定する
  2. 実現可能な小さい目標から設定する
  3. 設定する目標数を絞る

(1)従業員の興味関心にもとづいた目標を設定する

従業員のパフォーマンス最大化には、報酬の獲得や罰則の回避といった外発的動機づけではなく、好奇心や探求心などの内発的動機づけが必要です。自らの興味関心にもとづく目標なら、達成したいという気持ちが働きやすく、労働意欲や貢献意識を維持しやすくなります。

そのため、個人目標の設定時は、従業員にとって興味関心のある目標が望ましいでしょう。従業員がもつ志向性や価値観の把握が適切な目標設定につながるため、従業員への面談や満足度調査といった定期的な施策実施が必要です。

(2)実現可能な小さい目標から設定する

突飛な目標設定は実現が困難になり、行動を起こすモチベーションや達成に向けた意欲の減退につながりかねません。理想の成果につながらず、そのまま諦めてしまうケースも多く見られます。大きな志を抱くのは大切ですが、目標設定においては労働意欲や貢献意識を高く保てるように、小さな到達点の段階的な設定が必要です。

はじめは小さい目標を設定し、徐々に目的の達成に近づけるような高い目標設定が大切です。徐々に難易度を高めながら段階的なステップアップにより小さな成功体験が積み重なり、自己肯定感が向上し、チャレンジ精神の醸成にもつながります。

(3)設定する目標数を絞る

目標の重要な役割のひとつは、優先順位の可視化です。あまりに多くの目標を設定してしまうと興味や関心が分散し、一つひとつの目標を達成しづらくなります。

そこで必要となるのが、時間管理のマトリクスを用いて、目標に重要度を加えるプロセスです。目標を

  1. 「緊急かつ重要」
  2. 「緊急ではないが重要」
  3. 「緊急だが重要でない」
  4. 「緊急でも重要でもない」

という4つの領域のいずれかにプロットし、重要度の高いものから優先的に取り組みます。このプロセスにより優先度の高い目標が可視化され、最終的なゴールへ効率的に到達できます。

目標設定については、「目標管理制度(MBO)」と呼ばれる方法もあります。詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

適切な目標設定により、効果的な人材育成を

目標とは、ゴールに至るために求められる行動や指針を指す概念です。目標と目的は類似する概念ですが、目的は「ゴール」で目標は「手段」と言い換えられます。たとえば、企業理念や経営ビジョンの実現が目的であるのなら、その達成に至るために必要となるのが目標です。

人材育成の領域でも同様であり、人材マネジメント実施の目的を明確化すると、目的実現に必要な目標を具体的かつ明確に設定できます。適切な目標設定は人的資源のパフォーマンスを最大化し、ひいては競合他社にはない独自の企業価値を創出する一助となるでしょう。

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