評価基準の正しいつくり方。目的と運用上の注意点、“評価規準”との違いは?
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評価基準は、従業員の目標達成度などを評価するための基準のことです。評価基準は適切な人事評価運用や従業員のモチベーション向上に欠かせません。成果評価や能力評価、情意評価など、評価基準の種類や、つくり方、評価基準づくりのポイントを解説しています。
評価基準 = 目標達成度の評価基準
評価基準とは、個人もしくはチームがどの程度目標を達成できたのかを評価する基準のことです。教育現場でもよく使用されますが、企業では主に人事評価に使用されます。
評価規準との違い
評価するための「基準」とは、尺度などの比較のもとになる具体的な標準のことです。一方、同じ読み方のため間違われやすい言葉に「評価規準」というものがあります。「規準」とはルールや手本、決められた枠という意味合いであり、「評価基準」でいう尺度を表すものではありません。
評価基準が必要な理由
なぜ、企業において評価基準が必要なのでしょうか。ここでは、その理由をまとめました。
(1)適切な人事評価運用
評価基準が必要な理由のひとつに、企業は「人事評価制度を適切に運用しなければならない」というものがあります。人事評価の際、評価基準が設けられていないことで、評価者の主観が入る可能性があります。このような主観が入った評価は、適切な人事評価とはいえません。評価者は主観を入れず公平な評価をするため、従業員は適正に評価されるために、「評価基準」の設定はとても重要です。
(2)従業員のモチベーション向上
従業員のモチベーション向上にも、評価基準は大きく関わります。従業員は、人事評価制度において何を基準に評価されているのかがわからない場合、評価に納得できないでしょう。それにより企業に不信感を抱き、仕事へのモチベーション低下の可能性があります。また、従業員間で評価に対する不信感が大きくなり、離職が相次くと、最終的には人材の流出や利益の損失につながります。
評価基準を設けて従業員に公表し理解を得ることは、適切な人事評価制度の運用にリンクします。また、どのような実績が評価されるのかなどの評価基準を知ると、従業員の仕事に対するモチベーションも上がるでしょう。従業員のモチベーション向上は、企業全体の利益につながります。
(3)組織の目的達成
組織が達成すべき目的のために、部署ごとに必要な目標が細分化されます。そして、それぞれの部署に属する従業員に対して、個人目標が設定されます。個人目標の達成度を正しく測るために、評価基準が必要です。
つまり、正しい評価基準で個人目標が達成されると、部署ごとの目標達成につながり、結果として組織が掲げる目的達成が叶います。そのため、評価基準には組織の目的と齟齬のない設定が必要です。
4種類の評価基準
適切な評価基準には、主に4種類の項目があります。ここでは、評価基準における「成果評価」「能力評価」「情意評価」「年功評価」について解説します。
1.成果評価
成果評価とは、業績評価とも呼ばれ、個人に与えられた業務の目標達成度などを評価します。主に、売上や営業の訪問件数など、数値化できる結果を評価します。一方、数値で成果の判断がつきにくい職種の場合、独自の成果指標を設ける企業も多いです。成果評価では、基本的に天変地異や景気動向、および予測不可能な事態などの「外的要因」に左右されない評価が原則とされています。
成果評価では、主に以下の評価基準があります。
- 個人に与えられた業務に対して設定した目標の達成度を測る「業績目標達成度」
- 業務において、目標として掲げた課題の解決もしくは達成度を測る「課題目標達成度」
以上の評価基準に加え、目標達成までの行動プロセスも評価対象にすると、指導や今後の育成につながることもあります。また、設定した目標とは直接結びつかない日常業務の評価も対象にする場合もあります。
2.能力評価
能力評価とは、実績とは別に、業務を推進するために必要となるスキルや知識などの度合いを評価します。一般的には保有する資格などで評価されますが、ほかにも理解力や交渉力、提案力などの目に見えにくい能力も評価対象とするケースも多くあります。
能力評価では、主に以下の評価基準があります。
- 保有資格および職務上必要な専門知識や業務知識をみる「知識評価」
- 職務上、必要とされる理解力や交渉力、提案力、企画力、実行力などをみる「能力評価」
能力評価では、従業員のスキルや知識を的確に把握できます。そのため、担当業務とのミスマッチが防止でき、適材適所の実現が可能です。また、評価基準が明確になると、従業員も組織で求められているスキルを把握できます。
3.情意評価
情意評価とは、仕事に対する意欲または姿勢などを評価します。そもそも「情意」とは、感情や意志、心持などの意味があります。従業員の内面にある情意を尺度としますが、目に見えにくいものであることから、客観的な評価が難しく、評価者の主観に寄りやすいというのが特徴です。そのため、勤怠などの具体的な行動様式を評価対象とする場合もあります。
情意評価では、主に以下の評価基準があります。
- 自己を律することで、組織のルールを重んじる行動を取ろうとする姿勢「規律性」
- チームで業務を円滑に進めるためのコミュニケーションを取ろうとする姿勢「協調性」
- 業務を受動的にこなすだけではなく、自ら提案したり改善したりするなどの能動的な姿勢「積極性」
- 与えられた仕事や自分の役割を最後まで完遂させようとする姿勢「責任性」
主観が入りやすい情意評価で注意したいのは、「ハロー効果」という現象です。思い込みの一種であり、項目のうち1つの評価がよいとほかの項目もすべてよく思ってしまうことなどが当てはまります。誤った判断は今後のためになりません。情意評価では、細心の注意を払った評価が大切です。
4.年功評価
年功評価とは、いわゆる「年功序列」のことであり、多くの日本企業では長い間採用されてきた評価基準です。年齢や勤続年数が主な判断基準であり、企業からすると安定した従業員数を確保でき、従業員からすると安定した収入や将来設計が立てやすいといったメリットがあります。
しかし、近年では人材コストの観点や働き方の多様化により、年功評価を採用しない、もしくは比重を下げるなどの企業が増えています。その代わり、スキルやキャリアなどに重点を置く、成果・能力主義の企業が目立っており、評価基準も時代により変わりつつあることがうかがえます。
評価基準のつくり方
評価基準は、業種や企業のスタイルによって適したものを用いることが大切です。以下で解説する3つの項目を基本にして、ブラッシュアップしていきましょう。
(1)職務ごとの評価項目の決定
まずは4種類の評価基準のうち、職務ごとに適用する評価項目を決定します。どの項目を重視するかは所属する部署、職種によって異なるからです。たとえば、具体的な数値目標のある営業職では成果評価がしやすいですが、数値目標をもたない事務職をはじめとしたバックオフィスでは能力評価や情意評価などが重視されます。
部署や職種ごとに日々の職務を明文化し、それぞれに適した評価項目を選定しましょう。この際、部署として達成すべき目的、ひいては組織全体の目的達成につながっていく評価項目の選定が重要です。
一方で、一般的な企業では前述の事務職や管理職のように、数値目標などを対象とする成果評価ではなく、能力評価や情意評価といった項目が当てはまる職種が多い傾向にあります。そのため、評価が曖昧にならないように、組織が抱えている従業員の職務を正確に把握し、適切な評価項目を選定しましょう。
正しい評価項目の選定により、取り組むべき目標や目標達成時の評価が明確になるため、従業員のモチベーション向上に寄与します。
(2)等級(グレード)の決定
次に、職務に応じた等級(グレード)を決定します。等級とは、職務のスキルや役割に応じ、企業が従業員に期待するレベルのことです。等級数については、従業員の成長や企業の5年後のビジョンを意識することが重要です。等級数が多いと各等級での滞留年数が短くなり、昇格・降格の頻度が高まります。一方、等級数が少ないと等級間の差が明確になり、昇格時に大きな達成感が得られます。
等級数は企業ごとに異なりますが、一般的には以下のステージごとに4〜6つの等級へ細分化していくとよいでしょう。
- スタッフステージ:役職がついていない一般従業員
- リーダーステージ:主任および係長などの中間管理職が該当
- マネジメントステージ:課長および部長などの管理職が該当
(3)評価内容の言語化・数値化
最後に、決まった等級に対して期待する役割を言語化し、レベルを数値化します。等級の役割に対して、どういった成果を期待しているのかを明確化します。このとき、従業員の成長プロセスをイメージすると設定しやすくなります。また、等級ごとの課題や目標を社内でドキュメント化しておくのもおすすめです。従業員への周知がしやすくなったり、目標達成の尺度が測りやすくなったりするメリットがあります。
等級ごとに期待する役割を設定したら、次は評価内容の数値化です。期待する役割に対して、評価内容の数値を5〜7段階ほどで設定し、判定できるようにします。加えて、ここでは「成果評価」「能力評価」「情意評価」などの最終評価に反映される評価基準の比率を職務ごとに設定します。職務の特性などを考慮しつつ、多角的な意見を取り入れて設定しましょう。
以下の記事では具体的な評価規準のつくり方について、より詳細に解説しています。
評価基準をつくる際の注意点
評価基準をつくり運用していくうえで、いくつか注意しておくべきポイントがあります。
評価で終わらず、行動に結びつける
評価基準の評価だけで終わらせずに、その後の従業員の行動に結びつけることは大きな成果につながります。そもそも、評価基準設定の目的は適正な評価だけではなく、従業員の現在の立ち位置を明確にして行動を促すことです。そのためには、従業員のモチベーション向上も重要です。
行動を促すには、適切なフィードバックも大切です。ただ評価をされただけでは、「どうしてこのような評価になったのか」などの疑問点が残り、なかには納得のいかない従業員もいるかもしれません。従業員が自分自身の評価を認識し、今後の改善につなげるためにも、なるべく具体的なコメントやよい点・悪い点を伝える必要があります。この際、できるだけ1対1で丁寧なフィードバックをする場が必要です。コミュニケーション促進にもなり、信頼関係が生まれるかもしれません。適切なフィードバックを与えることで、評価だけで終わらず、行動を促し成果につなげることができます。
適切なフィードバックについて解説した記事が複数ありますので、ぜひご覧ください。
相対評価と絶対評価を適切に使い分ける
相対評価と絶対評価の使い分けも、評価基準づくりのポイントです。「相対評価」とは、周囲と比較した評価であり、「絶対評価」とは、周囲とは比較せずにその従業員だけをみた評価を指します。どちらにもメリット・デメリットがあり、どちらが正しい評価方法なのかは一概にはいえません。
相対評価は、比較対象があることから評価しやすい点や、従業員同士の競争力が高まるといったメリットがあります。また、評価に主観を排除でき、評価のバラつきを抑えられます。一方で、従業員が納得しにくい側面もあり、個人の成長を促すといった点では、デメリットにもなりえます。
絶対評価は、従業員の業績や能力の直接的な評価のため、従業員も納得感が得られモチベーション向上につながりやすいです。一方で、評価者によって評価にバラつきがみられたり、評価者の責任も重くなりやすかったりする面もあります。
このように、それぞれに特性があるため、評価基準の目的に応じて両者を使い分けることが重要です。
相対評価・絶対評価それぞれにメリット・デメリットを解説した記事をご覧いただき、参考にしてください。
評価基準を社内に周知する
評価基準をつくっても社内に浸透しなくては、成果につながりません。従業員が評価基準を理解していないまま進めても、うまく運用できないでしょう。また、評価基準が社内に周知されると、企業の経営ビジョンの浸透や企業にとって望ましい人材の理解につながります。従業員は、明確化された評価基準を知ると、企業が理想とする従業員像が把握でき、評価達成が目標になりモチベーションも上がるでしょう。
一方で、評価基準を明確にして社内に周知することで、デメリットも起こりえます。ひとつ目は、評価者の業務量が増える可能性です。これまで自分の裁量で進めていた評価ができなくなり、明確化された基準のもと、細かい評価が必要になります。業務量の増加に加えて、責任も重くなります。さらに、評価される従業員にとっても、評価項目および内容が細分化されることで、評価者と同じく業務量が増加する可能性があります。
しかし、評価基準の周知は、適切な評価制度の運用に欠かせません。運用や管理、周知後のケアのためにも、しっかりと準備したうえでの周知が大切です。
Great Place to Work Institute(GPTW)が主催する2022年「働きがいのある会社」ランキングベスト100に選出された、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズの「人事評価制度の運用方法」をぜひお役立てください。
評価基準を正しく設けて、適切な人事評価を
評価基準とは、従業員がどの程度目標を達成できているかを評価する基準のことであり、企業の人事評価で使用されることが多く、適切な人事評価の運用や従業員のモチベーション向上に必要となる施策です。主に成果評価や能力評価、情意評価などが用いられ、近年はこれまで一般的であった年功評価が採用されないケースも増えています。
評価基準づくりは、職務ごとの評価項目の決定からはじまり、等級の決定や評価内容の数値化などが求められますが、業種や企業独自の手法へのブラッシュアップが理想です。また、評価基準を社内に周知させ、評価だけで終わらせずに行動への結びつけや、相対評価と絶対評価の使い分けがポイントです。