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「採用選考に関する指針」の概要と実態。これに背くとどうなる?

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こんにちは、特定社会保険労務士の榊 裕葵です。

「採用選考に関する指針」は、日本経済団体連合会(以降「経団連」という)が新卒採用活動の解禁時期などを定めたガイドラインのことです。

ひとことで言えば、企業間の競争により採用活動が歯止めなく前倒しになり、学生の学業を圧迫することを避けるために設けられた指針です。

新卒採用活動に関するガイドラインの歴史

このような新卒採用活動に関するガイドライン誕生の歴史は、1953年までさかのぼります。この年に「就職協定」が誕生し、「就職協定」により企業と学校の間で採用活動の開始時期が自主的に申し合わされていました。しかしながら、それはあくまでも紳士協定にすぎず「青田買い」が横行しました。

そこで、1997年に「就職協定」は廃止され、経団連がこれに変わるものとして「倫理憲章」を定めました。経団連は、日本の政治経済に大きな影響力を持っているため、純粋な紳士協定である「就職協定」よりも実効性を持つことが期待されました。

倫理憲章は当初、「採用活動の早期開始の自粛」「学業の尊重」というような抽象的な内容が多く、具体的日程が明記されたのは「正式内定日は卒業年次の10月1日以降」という点に限られていましたが、逐次見直しが行われ、早期化しがちな就職活動時期の前倒しを抑制する方向で改定が繰り返されました。

そして、この「倫理憲章」は、2013年に「採用選考に関する指針」と名称が改訂され、現在に至っています

「採用選考に関する指針」の概要

採用選考に関する指針も、随時改定が行われているのですが、2020年度入社対象者向けに発表された最新の指針は次のようになっています。

  • 広報活動は「卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降」
  • 選考活動は「卒業・修了年度の6月1日以降」
  • 正式な内定日は「卒業・修了年度の10月1日以降」

具体的な日程を示した部分は上記の通りですが、指針では他に次のようなことを求めています。

  • 「公平・公正な採用の徹底」:男女雇用機会均等法、雇用対策法、若者雇用促進法に沿った採用活動を行う
  • 「正常な学校教育と学習環境の確保」:大学等の学事日程を尊重
  • 「多様な採用選考機会の提供」:秋季採用、通年採用等で留学経験者や卒業時期の異なる学生等へ配慮

「採用選考に関する指針」に背くとどうなるのか?

採用選考に関する指針は、我が国の大企業の多くが加盟している経団連が出している指針であり、その影響力は大きいとはいえ、法的強制力も罰則もありません

経団連は、加盟する全企業に対し、この指針に従うよう促していますが、仮に従わなかったとしても、除名などの処分になることは無いようです。

また、そもそも経団連に加盟していない外資系企業やベンチャー企業などは全くその拘束を受けませんので、採用選考に関する指針を気にすることなく採用選考を行っていることが実態ではないかと思います。

ですから、採用選考に関する指針が、実際にルールとして機能しているのかというと、各企業の自主性に任せられていると言わざるを得ないでしょう。

あえて、採用選考に関する指針に背いた場合のデメリットを挙げるとすれば「あの企業は採用選考に関する指針を守っていない」と世間的な批判を受けてしまう可能性があることくらいかもしれません。

「採用選考に関する指針」の課題と新卒採用の未来

そもそも、「採用選考に関する指針」の大前提となっている、新卒一括採用制度自体が限界にきているのかもしれません。

新卒一括採用は日本特有の制度という側面が強いですので、グローバル化が進んだ現在、どの国の企業に就職するのも自由ですから、優秀な学生は採用選考の開始をのんびりとは待っておらず、海外の企業から声をかけられたらそのまま就職してしまうかもしれません。

また、昨今は、学生のときからインターンやアルバイトをしていたベンチャー企業に、そのまま就職するというパターンも増えてきているようです。

こういった就職活動のグローバル化や多様化が進んでいる今、どのような指針を作るにせよ、新卒一括採用の考え方で縛ろうとすること自体が、逆に学生の就職活動を妨げているという可能性も踏まえ、ゼロベースから新卒採用の仕組みを再構築しなければならない時代が来ているのではないかと私は思います。

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