人生に向き合う面接からはじまる採用ストーリー。候補者を惹きつける3つの施策とは
- 公開日
この記事でわかること
- 面接で候補者を惹きつける手法
- 採用成功に結びつく体制構築と母集団形成の方法
- 採用後に活躍できる研修内容と注意点
目次
少子高齢化社会が加速する今後、人材確保を重要課題としている企業も少なくありません。本連載企画「採用成功の極意」では、母集団形成、面接、内定後フォローなど、採用に関するあらゆる場面の採用成功につながる施策・アイデアをご紹介。
第1回目は、建設DXを牽引するサービス「SPIDERPLUS」を展開するスパイダープラス株式会社の面接・体制・入社後研修のポイントに迫ります。
- 石井 功一さん
スパイダープラス株式会社 コーポレートデザイン室 執行役員HRセクション責任者
- 山崎 愛佳さん
スパイダープラス株式会社 コーポレートデザイン室 HRセクション HR企画・運営チーム
採用基準の原則は「いいヤツ」。
カルチャーフィットとコーチャビリティを重視
御社は中途採用において、採用活動だけでなく入社後の活躍も見据えて、さまざまな取り組みを実施していらっしゃいます。まずは、採用のコンセプトやテーマをお教えください。
石井さん
大きなテーマとして定めているのは少し言い方が難しいですが、「いいヤツを迎える」です。優秀な方は世の中には数多くいらっしゃいますが、当社は成長中のフェーズであるため、カルチャーフィットとコーチャビリティは必要な要素として見ています。
「いいヤツ」の定義とは?
石井さん
「不遜なくモノごとに取り組み成長できる方」です。どんなに優秀な方であっても背景の理解なく何かを批判したり、相手を侮ったりする方は全体の成長においては弊害が大きいと考えています。私のチームでも「不遜だけは認めません」とよく話しています。この部分は面接で結構しっかりチェックしていますね。
ポイントは「ジョインした瞬間は、組織に1円も還元していないという当たり前の状態を把握できるか、そのマインドをもてるか」を見たうえで、バックグラウンドやスキルをチェックしています。
「不遜ではないこと」を見抜くために、面接ではどのような工夫をしているのでしょうか。
石井さん
面接もひとつの縁なので当然ですが、企業が人材を選別するスタンスでは臨んでいません。これまでのキャリアを振り返って率直に感じたことを、候補者の方と一緒にどんどん深掘りしていきます。
抽象的な感覚や具体的な意思決定、そしてその背景や周囲への発信内容などについて話していただく。それにより、個々のアプローチや成果に集中する方と、ノイズに干渉される方との違い、さらにはそれが「不遜の種」を含むかどうかを判断できると考えています。
そして、私たちも候補者もフェアな関係であるという想いから「面接の場が何かしらの転職活動の材料になるものであって欲しい」と実施しています。
とおり一辺倒ではない面接が候補者を惹きつける
今お話しいただいたことは、石井さん以外の面接を担当される方も同様なのでしょうか。
石井さん
基本的な考え方は同じですが、それぞれの面接官の個性はあります。たとえば、営業部門で面接する際には、「候補者の方がご自身のこれまでの成果を内省して、当社でも再現できるか」などを重視している面接官(部長)もいます。
社内で表彰された結果などは、経歴書でもわかりますよね。結果を残せた理由や、違う環境でも同様の結果を残せるのかが重要です。これまでのプロセスをご自身のなかで整理して、再現できるのかを判断している面接官もいます。いろんな視点の面接があった方が、結果として組織の多様性を進められるため、面接官の個性も大切にしています。
つまり、とおり一辺倒の面接はしていらっしゃらないのですね。
石井さん
「面接で必ずこれを聞いてください」という、いわゆる面接の型は重視していません。それぞれの面接官の個性が出るような形で面接を運用しています。
現在のスタンスで面接するようになってから、面接での成果は向上しているのでしょうか。
石井さん
私が面接に関わるようになった3年前から、このスタンスで採用活動を進めています。
当社へのほとんどの応募者は、最初はスパイダープラスという存在を知らなかった方が多いです。しかし1次、2次、最終と進む面接の過程で、多くの応募者が確実に入社への動機を高めています。
その裏には、一方通行ではなく、個々の候補者のバックグラウンドや活動に対してフィードバックしていることが挙げられます。また、面接官がある程度の柔軟性をもって面接し、公平な関係でマッチ度を図っていることも影響しているのではないでしょうか。
ときには現職に残ることを薦める
「向き合う姿勢」が入社動機を高める
石井さんが考える「面接の極意」をお教えください。
石井さん
面接で大切にしているのは「短時間でお互いを知るために最大限の努力をする場である」ことですね。
具体的にはどのようなことでしょうか。
石井さん
当社がオファーした方は、他社からもオファーを受けているケースも少なくありません。転職先選びは、人生を左右する事柄でもあります。
私は、「オファー内容が覆ることはないので、悩んでいるのであれば、後悔しないように安心して質問をし尽くしてください。他社も内定が出ているのであれば、できる限りの質問をして後悔がない判断をしてください」とお伝えしています。
場合によっては、一旦スパイダープラスの採用担当者としての役割は忘れますので、一緒に悩みましょうという話もします。
キャリア相談もしているのですね。
石井さん
転職は人生の岐路点なので、候補者の方のお悩みごとによっては、そのまま現職に残った方がよいのではと話す場合もあります。とくにオファー面談では、候補者のキャリア形成を真剣に考えることを大切にしています。
本来であれば、入社に向けて自社の魅力をより伝えたいところのはずです。
石井さん
結果的に現職に残ることが、候補者の人生にとって最良の選択であるなら、それでよいと考えています。そういった姿勢がとれることこそ当社の魅力であると思います。
候補者の琴線に触れる「あなただから聞きたい」との問い
他社と比較した際に、面接の感想を候補者の方に伺ったことはありますか。
石井さん
私以外でも形式ばった面接をする人があまりいないので、「今までにない面接だった」と言っていただくケースが少なくありません。当社CROの川合の面接でも同様の感想をいただくことが多いですね。
山崎さん
私が当社に転職したときも、川合との会話が印象的でした。一言で言うと、キャリアについて深掘りする1on1のような面接でした。なかでも非常に印象に残ったのは「プロフェッショナル山崎さんの流儀みたいになってきたね」とお伝えいただいたことです。穏やかな雰囲気のなか、自分自身のことをしっかりとお伝えできたと感じています。
現在、私はオンボーディングも含めた組織開発を担当しています。先日、入社1か月後面談を実施した際に、社員の方が「面接で採用可否のジャッジをされているように感じなかった」とおっしゃっていました。面接のなかで「全員にしている定型の質問ではなく、自分としっかり向き合い、知ろうとしてもらえていると感じた部分が入社の決め手だった」と言っていただきました。
「部門人事」を配置し、文化づくりや採用にコミット
採用活動全般に関して、どのような組織形態にしているのでしょうか。
石井さん
HRだけの活動では母集団が広がっていきません。当社では2023年、バックオフィス、セールス、エンジニアの各組織の執行役員が部門人事の責任を追う仕組みを試しました。
部門人事の責任者の方は、採用に関してどのようなミッションをもっているのでしょうか。
石井さん
各部門人事の責任者は、採用とそれぞれの文化づくりにもコミットしています。そのなかで採用に関するアイデアを共有します。具体的には、複数のエージェントを招いて合同の説明会を開催し、現場の部長が魅力を直接伝える取り組みなどがあります。
それぞれの部門人事で自由にアイデアを出してもらう仕組みは可能性も広がりますし、何よりも面白いです。
エージェントを招集した説明会は、どのくらいの頻度で開催していますか。
石井さん
2023年の7月に初回を開催して、これまで3回開催しました。特別な手法ではなく、母集団形成の手段の1つと考えているので、定期開催ではなく母集団の不足に応じて実施しています。
説明会ではどのような内容をお伝えしているのでしょうか。
山崎さん
川合からは将来の組織像を共有していました。社外のパートナーとして、将来的なビジョンや展望を一緒に進めるのは、当社のアイデンティティとして重視している部分でもあります。候補者の方が弊社と一緒に働くために必要な情報は、十分にエージェント説明会で提供できているのではないでしょうか。
石井さん
各部門の人事をはじめ、業務解像度の高いメンバーが具体的に説明することで、仕事のリアリティーも伝わるメリットも感じています。
受講ではなく「体験」にするオリエンテーション
採用成功のためには、入社後の活躍イメージの醸成も必要かと思います。どのような取り組みを実施しているのでしょうか。
山崎さん
とくに注力しているのは、中期目線での本質的なひとり立ちを目指すオンボーディングです。そのなかで、HRでは3日間のオリエンテーションと、数回の面談を実施しています。その他、環境に変化の出やすい入社2か月目に個別でご連絡しています。また、中途採用ではどうしても入社時期を周りの方が把握しきれなくなってしまいますので、ご入社から1年が経過したときに「1年間ありがとうございました」というご連絡もしています。
オリエンテーションはどのような内容を実施しているのでしょうか。
山崎さん
もともとは、各部門紹介や社内ルールの共有をメインに1日半で実施していました。現在では、会社の規模の拡大に合わせ、今後活躍してもらうためにも、HR目線でキャリア形成を可能にするオンボーディングが必要と考え、3日間に拡大しました。
多様な人材に参画いただき、多種多様なご経験をされてきた方が増えたことにより、業界理解の深さを揃えることは重要なポイントだと考えています。業務に入ると目の前のことが優先され、大局で見たときに必要となることを自分で学習することが困難になるケースもあり得ます。
そのため、オリエンテーション内容を「会社のことを学ぶ日」「ユーザー・業界を学ぶ日」「働く準備の日」の3日間に切り分け、入社時に業界の理解深耕の機会を設けました。
また、学んだことを自分の業務や目標に対してどのようにつなげられそうかなど、接続のために深掘りする時間も設けています。異なるバックグラウンド・業種の同期入社の方と意見交換をすることで、より理解が深まり、定着も進むと考えています。
オリエンテーションは受講ではなく「体験」で内容を浸透
3日間に変更した効果をどのように感じていますか。
山崎さん
「中途入社者にここまで手厚くやってくれたのは初めて」という声を多くいただいています。重視しているのは、「スパイダープラスで半年後に何をしたいのかをより考え、エンゲージメントが高く働ける状態をつくること」です。
そのためには、会社とユーザー・業界のことをしっかり把握していただく必要があると考えました。オリエンテーションの内容もインプットだけでなく、アウトプットワークも実施しているので、「受講」ではなく、「体験」にできていると感じています。
プロダクトの理解促進のためにどのような工夫をしているのでしょうか。
山崎さん
「SPIDERPLUS」は、建設業を中心とした現場管理サービスなので、業務で接点がなければ使用する場面がない社員もいます。そのため、「SPIDERPLUS」に搭載されているメモ機能をオリエンテーションでのアウトプットとして使用する機会を設けています。会社のことをもっと好きになっていただいたときに「プロダクトを触ってみたい!」と思ってもログインID発行から開始では機会を失ってしまいかねません。誰でもログインできて、少しでも触れる状態をつくることでその後のハードルを下げています。
オンボーディング全体をとおして、HRで注意している点は何でしょうか。
山崎さん
オンボーディングをHRで実施している意味の1つに、「マネジメントしやすい状態を形成すること」があるのではないかと考えています。
入社時は皆さん高いモチベーションで入社いただくのですが、1年後も同じモチベーションで働けているとは限りません。その原因が部署内でのちょっとした違和感の場合には、部署内では言語化しにくいと考えられます。HRが定期的に面談を実施していれば、原因を言語化して部署にフィードバックできます。
そのためにも、相談したいときに相談できる場所の1つとして、HRが機能している状態を目指しています。
ストーリーを描けるブランディングで採用力を強化
2024年以降の採用は、どのようにお考えでしょうか。
山崎さん
組織開発については、キャリア自立の促進を検討しています。
スパイダープラスでは上場後に沢山の仲間がジョインし規模拡大が進んでいます。その過程で当然、入社から2〜3年目を迎えるメンバーも多くなってきました。次のキャリアを考え始める時期に「Why? スパイダープラス」をしっかりと形成したうえで、各人のキャリアを歩んでいただけるような仕組みづくりをしていきたいと考えています。
現在は、オンボーディングの際にこれまでの自分と今後の目標を宣言していただき、6か月後面談にて達成度合の確認をしています。今後はHRとの1on1でコミュニケーションから進化して、全社での動きをしっかりと形成していきたいと考えています。
石井さん
採用では、ブランディングの強化が必須と考えています。候補者にとって、当社の第一印象は「どのような事業を展開している会社なんだろう」が大半です。そこから選考が進むに連れて、右肩上がりに入社動機が高まるため、オファーが成功するという特徴があります。
人材ポートフォリオでは、いっそうの多様性も注力ポイントです。よく話題となる女性の管理職比率や外国籍メンバーの比率向上は当然として、「各自のキャリアにおいてスパイダープラスがキャリアハイ」という状態を構築できれば、多様性に富んだよりよい人材がさらに集まってくるはずです。
そのためには何が必要なのでしょうか。
石井さん
ブランディングはストーリー。建設業界のDXプレイヤーは増えてきていますが、創業から27年、業界を知るテックプレイヤーという当社でしか描けないものを形にしていきます。
採用に関して大きな武器になりそうです。
石井さん
もちろん、細かい施策も重要です。面接のフィードバックなどで候補者の方に向き合っているものの、それを形として表現するのも大切です。たとえば対面の面接でなら、面接を実施する部屋に候補者の名前入りのウェルカムボードを用意すれば、候補者の方のエンゲージメント向上に寄与するでしょう。
このような細かい施策を継続しながら、採用ストーリーをオンボーディング、オリエンテーションにつなげれば、より採用力の強化につながると考えています。
※編集部註:2023年取材時の情報であり、現在の同社の取り組みとは異なる場合があります。あらかじめご了承ください。