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逆境に潜むチャンス、「売り手市場」の人事戦略が競合優位性構築のカギを握る

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こんにちは。特定社会保険労務士の榊 裕葵です。

昨今、様々な業界や会社、職種などで人材が不足し、採用は「売り手市場」と言われています。

時代は人口減少のさなかにありますが、少子高齢社会労働人口の減少については、より大きな問題として捉えられており、「人材不足」について頭を悩ませる企業人事も多いことと思います。

この「売り手市場」の中で、どのような対策を講じるべきかについて、考えてみたいと思います。

人材不足や採用難の現状

それでは、どれくらいの売り手市場なのか、データを見ながら定量的に確認をしてみたいと思います。

まず、厚生労働省が7月28日に発表した有効求人倍率(季節調節値)ですが、前月比で0.02ポイント上昇して、1.51倍となりました(*1)。これは、求職者1人につき、1.51個の仕事があるというイメージになります。

そして、この1.51倍という数字は、バブル期をも上回る、過去43年4か月ぶりの高水準で、高度経済成長期に匹敵する売り手市場ということになります。

一般職業紹介状況(平成29年6月分)について

出典:厚生労働省「一般職業紹介状況(平成29年6月分)について」

ただし、世の中には様々な仕事があるわけですから、総合的な数字を見るだけでは正確な実態把握はできません。そこで、有効求人倍率を業種ごとに掘り下げてみたいと思います。

まず、目立って有効求人倍率が高いのは、介護サービスの職業(3.36倍)、運輸・郵便事務の職業(3.27倍)、接客・給仕の職業(3.60倍)、建設の職業(3.82倍)などです(*2)。世間的な肌感覚とも一致すると思いますが、介護・飲食・建設といった仕事は、人手不足感が強いといえます。

エンジニア不足にあえぐIT業界、一方事務職は「買い手市場」

また、情報処理・通信技術者(4.60倍)に関しては、介護・運輸・飲食・建設など以上に、極めて人手不足感が強いです。

私もIT系の会社の経営者様や人事担当者様から、「エンジニアがなかなか採用できない」とか「エンジニアをどれだけ採用できるかが勝負だ」と言った話を伺うことが少なくありません。

一方で、一般事務の職業(0.31倍)、会計事務の職業(0.70倍)、営業・販売関連事務の職業(0.84倍)といったように、事務的職業では有効求人倍率が1倍を割っており、逆に「買い手市場」となっています。

「HRテック」や「フィンテック」に欠かせない職種と、人員削減が進む職種の分かれ目

この点、私の個人的な感想としては、事務的職業が「買い手市場」であり、情報処理・通信技術者が「売り手市場」であることが非常に興味深いです。

それはなぜかと言うと、現在「HRテック」とか「フィンテック」といった言葉が盛んに聞かれるようになり、会計や人事労務をITの力で自動化するサービスが爆発的に普及しつつありますが、

・そういったITサービスを作り出す技術者の争奪戦が起こっていること
・IT化で間接部門のスリム化で人員削減が進んでいること

といった業界トレンドの動向と、有効求人倍率のバランスがピッタリと一致し、数字上の裏付けを持って説明することができるのではないか、ということに気が付いたからです。ご同感いただける方も多いのではないでしょうか。

企業にとっての「売り手市場」のメリット・デメリットは?

さて、このように業種によって「買い手市場」「売り手市場」が分かれますが、そもそも論に戻って、「買い手市場」あるいは「売り手市場」だと、それぞれ、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?

こちらについて、主に経営者の方や人事担当者の方向けに、企業側の視点から説明をしたいと思います。

「買い手市場」の場合は企業にとって基本的にメリットしかない

まず、「買い手市場」の場合ですが、こちらは基本的にはメリットしかないでしょう。

企業はたくさんの応募者の中から、いわば「よりどりみどり」なわけですから、自社にピッタリな人材をじっくりと選べばよいということになります。

応募者の切磋琢磨にも期待できるかもしれません。

「売り手市場」の場合デメリットはあるものの、優位性を築くチャンスでもある

一方で、「売り手市場」の場合はどうでしょうか?

そもそも応募が少ないということや、同業他社との人材の奪い合いで初任給が高騰するなど、やはり企業にとってはデメリットの側面が大きいです。

しかしながら、「売り手市場」だからこそのメリットもあります。

自社が求職者にとって魅力的な職場であれば、他社の採用がままならず人手不足に苦しむ中、自社に求職者が集まってくれて、他社に先んじてシェア拡大や新規出店を狙っていくことができます。

「売り手市場」というのは、その業界でビジネスチャンスがあるにも関わらず、人手不足で事業拡大ができないという状況ですから、逆に言えば、人手さえ確保できれば、競合他社に対して大きな優位性を築くことができるのです。

「売り手市場」の中で人材を確保する3つの鉄則

それでは、「売り手市場」の中、しっかりと人材を確保するためには、どのようなことに注意をすれば良いのでしょうか?

(1)賃金設定を見直す

まずは、やはり賃金面の話は避けて通れないでしょう。

ハローワークや民間の求人媒体などでも「基本給20万円以上」というように、賃金で絞り込みを行う傾向にありますから、同業他社に対して賃金が見劣りする場合は、それだけで求職者の選択肢に入らなくなってしまう可能性が高いです。

しかし、逆に賃金を高く設定しさせすれば、人が集まるのかといったら、必ずしもそうとは言えませんので、安易な設定は禁物です。

(2)働きやすさへの配慮

業界標準程度の賃金を設定できたならば、次は「働きやすさ」で勝負すべきだと思います。

すなわち、「残業が少ない」「有給休暇が取得しやすい」「パワハラやセクハラが無い」「育児休業を安心して取得できる」「上司や同僚とのコミュニケ―ションが取りやすい」といったような、職場環境の構築です。

現在は、良いうわさも悪いうわさもインターネットで瞬く間に広がりますから、「辞めたらまた採用すれば良い」というような使い捨ての感覚では、遅かれ早かれ、誰も採用できなくなってしまうでしょう。

(3)既存社員が辞めない職場環境づくり

そして、「売り手市場」でもう1つ、是非意識をして頂きたいのは、「既存の社員が辞めない職場環境づくり」です。

新規採用が必要になるのは、事業拡大という場合もありますが、退職者が出るので代替要員を確保するという場合も少なくないでしょう。

つまり、何が言いたいかというと、「退職者が出なければ、売り手市場であろうが、買い手市場であろうが、採用に焦る必要がない」ということです。

「売り手市場」の時には、採用活動に血眼になるかもしれませんが、「売り手市場」だからこそ、外に目を向け過ぎず、貴重な社員が社外へ流出しないよう、既存の従業員満足度に気を配って下さい。

まとめ

「売り手市場」の場合は、求職者からしてみれば、転職が容易になっているわけですから、自社よりも労働条件の良い職場があれば転職したいと考えるのは当然です。

また、繰り返しになりますが、逆に言えば、企業側からしてみれば、働きやすい会社でなければ求職者を確保できないということです。

売り手市場においては、求人票の書き方とか、どの媒体に広告を出すかとか、採用活動自体のテクニックも必要ですが、それと同じくらい、いや、それ以上に働きやすい職場環境を作ることが大切なのだということを強調して、本稿の結びにしたいと思います。

【参照】
*1:一般職業紹介状況(平成29年6月分)について – 厚生労働省
*2:職業別一般職業紹介状況 – 厚生労働省

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