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単純比較はできない「離職率の落とし穴」、3年以上の定着を目指すカギとは?

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こんにちは、アクシス社会保険労務士事務所の大山です。

このところ、働き方改革の流れの中で、「従業員エンゲージメント」についても取り上げられる機会が増えているように感じます。

この「従業員エンゲージメント」を保つ、あるいは向上させることができれば、業績向上も期待できますが、反面、「従業員エンゲージメント」が下がってしまえば、離職に繋がってしまいかねません。必要上に離職が相次いでしまうと、離職が離職を生む負のスパイラルに陥ってしまうことも考えられます。

一方、働き方も多様化する中で、ひとつの企業に長くとどまるということが、すべての人にとって良い結果をもたらすというわけではなく、その考え方はより複雑になっていると言えるかもしれません。

今回は、「離職率」をどう捉えるべきなのか、また離職に対して着手すべき施策としてどのようなことが考えられるかについて考察します。

「離職率」の高い企業の定義とは?

離職率とは、ある時点での入社人数に対して、ある時点での退職者数を百分率で示したものということになるのでしょうが、決まった定義はありません。

この定義で離職率を比較し、一様に企業の良し悪しを評価することの乱暴さは明らかです。

極端な例をあげれば、人の出入りが激しく平均50%と離職率が高い業界があるとして、その業界で「離職率30%で高いから人材流出を対策します」と決めたところで、施策の効果が思ったように伸びず、余計なコストとしてのしかかり、競争力を下げてしまうかもしれません。

逆に、離職率平均1%の業界があるとして、その業界で「離職率が10%と高くないからウチは安泰だね」と看過していたら、人材流出の差がこれまた競争力低下につながりかねません。

上記の例では、単純に極端な数字のもと業界特性を引き合いに出しましたが、これ以外にもビジネスモデルや地域などなど、各社で特徴は異なりますし、企業それぞれもっときめ細かく自社の離職率を分析しなければ、これからの環境下では企業として生き残れないのではないでしょうか。

働き方が多様化していることも踏まえるべき

また、多様な働き方が存在し、人生の選択肢を自らの責任で決めることが昨今の人生設計のトレンドです。

この事実を不可としないなら、「中学卒業後に就職した人は7割 / 高校卒業後に就職した人は5割 / 大学卒業後に就職した人は3割」が3年以内に仕事を辞めることについて、自社の離職率を取り立てて問題視することは何もないはずです。

「離職しなかった社員」の分析と施策を優先すべき

自社の離職率を分析し、経営に役立てるなら、入社3年目以降の、すなわち、3年間離職しなかった社員を分析し、どう処遇するかを考えるほうが優先順位としては高いと思われます。

そうはいっても、入社3年間何にもしなければ、本来であれば定着していただろう社員も辞めてしまうことになりかねないので、対策しないわけではありませんが、重点施策は、入社3年目以降にあるのではないかということです。

「初期離職理由」を分析し、施策を導く

各企業の事情を踏まえた重点施策は、個々に分析しなければなりません。

ここでは、労働政策研究・研修機構(JILPT)の資料シリーズNo.171「若年者のキャリアと企業による雇用管理の現状」の第6章、第3節「早期離職の理由」を参考に、その傾向と施策を見てみましょう。

早期離職の理由

出典:独立行政法人 労働政策研究・研修機構

こちらによると、初職が正社員であった離職者の初職を辞めた理由を男女別に見ると、全ての区分で1、2位になっている「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」という理由のほか、時間的経過における男女の違いに特徴があります。

男性の「仕事が自分に合わない」理由は、3年以上になると約10ポイント減少し、「賃金の条件が良くなかった」は、3年以上で上昇傾向になります。

一方、女性については、「人間関係が良くなかった」は、3年以上になると、約10ポイント減少し、その反面「結婚、子育てのため」は、各区間で2倍以上跳ね上がっています。

3年以上の定着を目指す、3つのキーポイントとは?

以上のことから、3年以上定着のキーポイントは、

1. 労働時間の削減
2. 賃上げ
3. 女性が活躍する社会の実現

が挙げられるでしょう。

このキーポイントの1と2は、労働時間を削減しつつ賃上げをするという一見相反するポイントのように見えます。

しかし、個々の企業が自社の残業形態を分析し、生活残業が多いということであれば、賃上げを先行させることで不要不急の残業が減少し、キーポイントの1と2が同時に改善されます。

また、生活残業が多いという分析結果でない場合、キーポイントの1と2を同時に解決する策は「生産性の向上」でしょう。

しかし、生産性を求める式には、分子に営業利益や人件費が含まれているので、それ以外の分子、すなわち

・設備投資(減価償却費)の増加
・労働環境の改善(動産・不動産賃借料)

に取り組むことが必要ということになります。

ここで、「設備投資の増加」と「労働環境の改善」の取り組みは、同時にキーポイント3の「女性が活躍する社会の実現」にも結びつきます。

仕事の経験を積み、後輩の指導やリーダーとしての能力を発揮する時期に「結婚、子育てのため」離職しなくてもよい職場環境を構築するための仕掛けづくりや投資が、3年以降の「離職率」を減少させる最優先事項ということになります。

【画像出典】
※ 資料シリーズNo.171「若年者のキャリアと企業による雇用管理の現状」第6章、第3節「早期離職の理由」 – 独立行政法人 労働政策研究・研修機構

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