「不当解雇の金銭解決制度」審議開始!法令化時に何が変わる?【弁護士が解説】
- 公開日
こんにちは、弁護士法人ALG&Associate大阪法律事務所の長田です。厚生労働省を中心に「解雇無効時の金銭救済制度」の導入が検討されています。この制度が導入されると、企業はどのような対応が必要になるのでしょうか? 今回は「解雇無効時の金銭救済制度」と導入が検討されている背景を紹介いたします。
不当解雇の金銭解決制度導入検討の背景
現在の日本の労働法制では、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利濫用として無効になります(労働契約法第16条)。使用者が労働者を解雇し、労働者がこれを争う場合、原告として訴訟提起する労働者は、労働契約に基づく地位確認と、解雇後に支払われるべき賃金等の請求を行うことが一般的です。
解雇が無効と認められれば、労働者は職場に復帰することができ、解雇時以降の賃金(バックペイ)が支払われることになります(民法第536条2項)。
しかし、訴訟や労働審判まで行った労働者が、その後に使用者と友好的な関係を築くことは困難なことから、解雇が無効と判断されても結局は職場に復帰しないケースが多く見受けられます。
また、和解によって解決する場合においては、解決金の額にばらつきがあり、双方にとっておよそいくらくらいが妥当であるかの見通しをつけにくいという実態もあります。
このような点を踏まえ、職場復帰を前提とせず金銭(労働契約解消金)を支払うことで労働契約を終了させるという、紛争解決方法のあり方が模索されているのです。
解雇無効時の金銭救済制度とは?
検討されている解雇無効時の金銭救済制度は、以下のような観点から制度設計すべきであるとされています。
(1)無効な解雇がなされた労働者救済の実効性を高める観点から、あくまで労働者の選択肢を増やすこと(労働者申立制度)。
(2)解雇が無効と判断されることを前提に、職場復帰を希望する者は従来どおり地位確認請求ができること。
(3)迅速な紛争解決や予見可能性を高める観点から、一回的解決に資するものであること。
これらを通して見ると、議論されている解雇無効時の金銭救済制度のあり方としては、使用者が労働契約解消金を支払うことによって解雇をしやすくするというのではなく、あくまで労働者保護の観点から、労働者が解雇を争う場合のオプションを増やすという方向性であることがわかります。
したがって、解雇無効時の金銭救済制度が導入されたとしても、解雇が容易になるわけではありません。他方で、これまでに起こりがちな原告である労働者が、本心では会社に復帰するつもりがないにも関わらず、未払賃金等支払請求とともに労働契約に基づく地位確認請求を行うことで、むやみに紛争を長期化させ解決を遠のかせるといった事態を抑制する効果があると思われます。
想定される解雇無効時の金銭救済制度
まず、地位確認請求との関係については、労働契約解消金請求訴訟と地位確認請求訴訟は同種の訴訟手続によるものなので、併合提起が可能になると思われます(民事訴訟法第136条)。
そして、労働契約解消金債権と、解雇後の労働契約存続中の未払賃金債権としてのバックペイ債権とは別であることから、これらを別個かつ同時に請求することが可能になると思われます。
仮に、労働契約解消金請求訴訟を提起した時点で労働契約が終了するという制度にすると、以後のバックペイは発生しませんが、労働契約解消金が支払われない段階で労働契約が終了してしまうため、労働者保護に欠けると考えられるでしょう。
さらに、労働契約解消金債権と不法行為に基づく損害賠償請求権との関係についても、原則としてはバックペイ債権の場合と同様、これらを別個かつ同時に請求できることが可能になると思われます。
ただし、不法行為に基づく損害賠償請求権には、財産的損害と精神的損害(慰謝料)の二つの側面があり、いずれもその大部分が労働契約解消金債権とバックペイ債権に含まれると考えられます。
そのため、労働契約解消金請求やバックペイ請求とは別に、不法行為に基づく損害賠償請求をしても、後者は前二者に含まれてしまうことになるかもしれません。
では、労働契約解消金は、どのように算定されることになりそうでしょうか。
これについても現時点では何も確定していませんが、まずは算定式の中にどのような考慮要素を設定すべきかということを検討すべきでしょう。
労働契約解消金の中心的な内容である「将来的に得べかりし賃金等の財産的価値についての金銭的補償」については、当該労働者が今後どれだけ雇用継続を見込まれるかという点が重要になるため、年齢や就労可能年数、勤続年数、合理的な再就職期間等が重要な考慮要素となります。
また、労働契約解消金が、金銭の支払いにより解雇に係る紛争を終局的に解決するという側面を有することから、解雇に係る労働者側の事情も考慮すべきかもしれません。
算定式には客観的で定型化した考慮要素が必要であり、その点では当該労働者の年齢や勤続年数等はそれに含めやすいですが、解雇に係る労働者側の事情はさまざまであるため、それを数式として表すことは難しいかもしれません。
おわりに
解雇無効時の金銭救済制度が導入されても、使用者が労働者を解雇しやすくなるわけではありませんので、これまで通り解雇権を行使することは慎重に検討すべきであることは言うまでもありません。
解雇無効時の金銭救済制度は、あくまでも労働者保護の観点から、労働者に新たな選択肢を与えるというものです。ただ、紛争の一回的解決や予測可能性が見込めることなどは、使用者側のメリットであるともいえます。
現時点では具体的な制度は明らかとなっていませんが、使用者も解雇無効時の金銭救済制度が導入されれば、有効に活用していくことが必要となるでしょう。