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賃金も生産性も右肩上がり。みんなが豊かになる「人的資本経営」とは

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目次

“飛翔する企業への変革” をテーマに3日間にわたり開催されたカンファレンス「SmartHR Next 2023」。さまざまなゲストをお招きし、経営戦略・組織戦略・人事戦略についてのセッションを開催しました。

「変革の舵取り」をテーマに行われたDAY1では、「みんなが豊かになる人的資本経営」と題し、従業員や世の中を豊かにする企業経営のあり方について議論しました。登壇したのは、株式会社小西美術工藝社のデービッド・アトキンソンさん、株式会社SmartHRの倉橋 隆文です。

  • 登壇者デービッド・アトキンソン 氏

    株式会社小西美術工藝社 代表取締役社長/元ゴールドマン・サックス証券 金融調査室長

    オックスフォード大学(日本学専攻)卒業後、大手コンサルタント会社や証券会社を経て、1992年ゴールドマン・サックス証券会社入社。大手銀行の不良債権問題をいち早く指摘し再編の契機となった。同社取締役を経てパートナー(共同出資者)となるが2007 年退社。2009年に創立 300 年余りの国宝・重要文化財の補修を手掛ける小西美術工藝社入社、取締役に就任。2011 年代表取締役会長兼社長、2014 年に代表取締役社長に就任し現在に至る。1999年に裏千家に入門し、2006 年に茶名「宗真」を拝受。2016年 財界「経営者賞」、2017 年「日英協会賞」受賞、2018 年 総務省「平成 29 年度ふるさとづくり大賞個人表彰」、2018 年日本ファッション協会「日本文化貢献賞」受賞。

  • 登壇者倉橋 隆文

    株式会社SmartHR 取締役COO(最高執行責任者)

    取締役COO(最高執行責任者)。2008年、外資系コンサルティングファームマッキンゼー&カンパニーに入社し、大手クライアントの経営課題解決に従事。その後、ハーバード・ビジネススクールにてMBAを取得。2012年より楽天株式会社にて社長室や海外子会社社長を務め、事業成長を推進。2017年7月、SmartHRに参画し2018年1月、現職に就任。

  • ファシリテーター安田 雅彦 氏

    株式会社 We Are The People 代表取締役

    1989年に南山大学経営学部卒業後、西友にて人事採用・教育訓練を担当、子会社出向の後に同社を退社し、2001年よりグッチグループジャパン(現ケリングジャパン)にて人事企画・能力開発・事業部担当人事など人事部門全般を経験。2008年からはジョンソン・エンド・ジョンソンにてHR Business Partnerを務め、組織人事やTalent Managementのフレーム運用、M&Aなどをリードした。2013年にアストラゼネカへ転じた後に、2015年からラッシュジャパンの人事統括責任者 Head of Peopleに就任。2021年7月末に同社を退社し、株式会社 We Are The People 起業。現在は20数社の「人事顧問」として人事制度策定・組織開発・マネジメント育成などをサポートしている。

豊かになるためには、生産性向上が必要

安田さん

インフレが進み、実質賃金の低下が続くなか、従業員、そして世の中が豊かになる経営とはどのようなものでしょうか?

アトキンソンさん

従業員、そして世の中が豊かになるためには、賃金を上げなければなりません。会社は売上から仕入れやコストを引いて残る付加価値から賃金を払っているわけですから、原資となる付加価値が必要です。この付加価値を高める一番の方法は、生産性を上げることです。つまり、皆が豊かになるためには生産性を上げていく必要があります

日本の生産性は2023年に世界36位にまで下がり、先進国のなかでも下位の状況です。企業規模別の生産性を世界上位のドイツと比較すると、大企業の生産性はそれほど変わらないものの、中小企業の生産性はドイツの6割ほどと低いことがわかります。日本の労働人口の約3割が大企業に勤め、残りの約7割の人は中小企業に勤めています。

安田さん

つまり、日本企業の生産性が低いのは、中小企業の生産性が低いこととほぼイコールと考えてもいいのですね。

日本とドイツにおける企業別の労働生産性を示したデータ

アトキンソンさん

おっしゃる通りです。製造や建設業界などでは、中小企業が大企業に価格転嫁できていないと言われています。確かにそうした事実も一部にはあると思いますが、生産性の低さとの間に因果関係はほとんどありません。日本ではBtoCの企業ほど生産性が低く、BtoBの企業ほど生産性が高い傾向があります。BtoBの企業だけを見ると、日本全体の生産性を48万円ほど上げています。

しかし宿泊・飲食業界などのBtoCの企業では多くの人が最低賃金に近い賃金で働いています。こうした業界のマイナスの影響がプラス分を打ち消しているのが現状です。日本の生産性が低い原因には、こうした産業構造の問題もあると思います。簡単に言えば、サービス産業の問題です。

倉橋

日本の生産性が先進国で下位のレベルまで落ちているのは、衝撃的な事実でした。賃金を上げなければいけないという世論の一方で、生産性を上げないとそれは難しい。そうした現実がいよいよ深刻になっていると実感します。

アトキンソンさん

一般的に経済成長は、「人口が増加すること」「賃金や生産性が上がっていくこと」の2つの要素で構成されています。人間が増えれば、食べものや着るもの、住む場所が必要です。冷蔵庫などの家電や自動車も必要になるでしょう。本来、賃金が上がらなくても、人口が増えればGDPは増えます。

ただ、日本は生産年齢人口が1995年から2022年までの間に1,400万人も減っています。働き手も消費者も同時に減っているなか、生産性を上げなければ賃金とGDPは向上しないんです。これまではなんとかGDPを維持してきましたが、近年の生産年齢人口の減少ペースを考えると、それももう限界だと思います。

倉橋

労働人口をすぐに増やすのが難しいなか、生産性を上げることの必要性は非常によくわかります。他方で、企業は日本経済のためだけでなく、必要な人材を確保するためにも賃金を上げざるをえない時代です。経営者には二重の賃上げプレッシャーがかかりはじめています。

従業員自ら賃金交渉をする必要もある

アトキンソンさん

賃金が上がらないのは企業側だけの問題でなく、日本の労働者の受身な姿勢も一因です。賃金は長く勤めていれば勝手に上がっていくものではありません。海外では、賃金に不満があれば交渉するのが一般的です。それが叶わなければ転職するだけです。

賃金を上げるための選択肢は転職だけではありません。勤め先の社長のやり方が気に入らなければ、起業して自分が社長になればいいのです。日本では起業というと若い人をイメージするかもしれませんが、アメリカやイギリス、EU全体といった海外では40~50代が起業のボリュームゾーンです。その年齢から起業して賃金を増やすのも、有効な選択肢です。

倉橋

経営者としては、賃金交渉に応じるのが難しい側面もあると思います。日本は解雇がしにくい国です。賃金を上げる代わりに、それに見合うパフォーマンスを出せなければ解雇する。こうした交渉が難しいため、賃金を上げる手を打ちにくいのかもしれません。

とはいえ、従業員としては「賃金を上げてくれなければ転職します」と訴えるのがベストだと思います。一方で、「給与を上げるぐらいなら辞めてもらってもいい」と思われるような人材であれば、交渉しても引き止められません。人的資本としての自分の価値を正当にはかるためにも、こうした交渉は有効だと思います。

安田さん

交渉と言うとつい「終わった仕事をどう評価するか」を議論しがちです。しかし、本来議論すべきなのは「この仕事にコミットします」と宣言したことを実現できたかどうかですよね。

アトキンソンさん

仕事の内容や賃金、就きたいポジションを会社に伝えることは大切です。それに見合った仕事の内容を決めることもできるからです。

倉橋

日本では、自分の仕事内容や賃金、キャリアについて直接会社と交渉できる人は少ないかもしれません。経営者の皆さんも「従業員が賃金に満足しているのか」「成長を実感しているか」このあたりをスムーズに答えられる方は少ないと思います。もちろん直接聞ける関係を築くことが一番よいですが、直接交渉するまではいかなくても、アンケート調査などで従業員の満足度を把握することは必須だと思います。

いま動かなければ、日本企業に先はない

アトキンソンさん

生産性向上を実現するには、リスクを取って挑戦することが必要だと思います。イノベーション、オーナーシップの醸成と言ってもいいかもしれません。社長が挑戦しようと決めたとき、つぎに必要なことはアイデアです。設備投資を考えるのはその後です。設備投資がアイデアにもとづいて有意義に実行されれば、社員教育、技術革新と順調に進んでいきます。

その点、日本にはアイデアがあります。国民1人当たりの特許件数は世界有数です。ただ、国内ではそれがまったく活かされていません。アイデアがあるのに、それをイノベーション、ひいては生産性向上につなげられていないんです。アメリカをはじめとする先進国でも、イノベーションによる生産性向上は年率でたった1%。その小さなイノベーションを確実に積み上げてこられたかどうかが、いまの生産性の差なのです。日本にだってできないわけがありません。

安田さん

日本企業がアイデアをイノベーションや生産性向上につなげるためには、どうすればいいのでしょうか?

アトキンソンさん

働く人は、イノベーション意識のある経営者を選ぶ必要があるのかもしれません。「売上は増えているのか」「DX推進など新しいことに挑戦しているのか」「組織を定期的に変えていっているのか」「お客さまや従業員とコミュニケーションを取っているのか」など、さまざまなチェックポイントがあるはずです。

倉橋

DXは比較的簡単に生産性を上げられる領域です。経営者はビジネスモデルの構築や商品価値の向上を担い、それを支える中間管理職の皆さんにはDXなどの設備投資を進めていただきたいと思います。人手不足のいま、システムや設備に任せられる仕事はどんどん任せることが効率化、その先の新しい付加価値の向上につながるはずです。

デジタル・トランスフォーメーションに取り組むことによる具体的な効果を示したデータ

アトキンソンさん

DXの推進はもちろん必要ですが、その方向性が重要です。日本ではコスト削減のためにDXを進める話が多いですが、それでは発展性がありません。クリエイティブなこと、イノベーティブなことにリソースを割けるようにDXを進める考え方に変えていくべきです。付加価値を増やすDXです。

倉橋

まさにいま、動かなければいけない時期に来ていますね。人材不足が深刻化するなか、賃金を上げなければいけない。そのためにはお客さまに価格転嫁しなければいけないプレッシャーは大きくなる一方です。動きが遅くなると、会社はそのプレッシャーに負けて生き残れなくなってしまうでしょう。少しでも早く動きはじめ、小さくともイノベーションを起こし続ける。これからの会社経営には、こうした姿勢が大事になりそうです。

“飛翔する企業への変革” をテーマに3日間にわたり開催されたカンファレンス「SmartHR Next 2023」。経営戦略から組織戦略、人事戦略まで、さまざまな企業の実践を知ることで、変革のヒントが得られます。各講演の模様は、イベントレポートにてお楽しみください。

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