【Next2021】「ありたい姿を明確にするのが第1歩」DXの本質と、そのためのチームの作り方
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2021年6月22〜24日、SmartHR主催イベント「SmartHR Next 2021」を開催しました。テーマは「人材マネジメントが創る、VUCA時代の経営」。本セッション「DXの王道 〜DXを実現するチームの作り方〜」では、株式会社KADOKAWA Connected 代表取締役社長 各務 茂雄(かがみ しげお)さんにご登壇いただきました。
DXの本質と、各務氏が実践で得た課題解決のためのアプローチについてご紹介します。
株式会社KADOKAWA Connected 代表取締役社長
KADOKAWAの戦略子会社として設立されたKADOKAWA Connected社長。KADOKAWA執行役員、ドワンゴ本部長も兼務。情報経営イノベーション専門職大学准教授。Microsoft Corporationにてモビリティ&クラウド技術部部長、アマゾン ウェブ サービス ジャパンでProfessional Service 本部長を経た後、 2017年 1月にドワンゴ入社、 ICTサービス本部本部長などを歴任。18年 6月、カドカワ(現 KADOKAWA)のグループ CIOに着任。 KADOKAWA、ドワンゴを含むグループ全体の IT戦略を担当。19年 4月より現職。KADOKAWAグループで運営するサービスのインフラ開発・運用や ICTコンサルティング、働き方改革支援を手がけ、その実績を活かしたデジタルトランスフォーメーション(DX)アドバイザリーサービスも提供。
DXの本質と、経営基盤「守りのDX」を固めることの重要性
講義の冒頭、各務氏はDX(デジタルトランスフォーメーション)の本質について「知恵というアナログの価値を生かすことが必須であり、そのためにデジタル思考やデジタル技術を活用すること」と説明。
「DX自体は、あくまでも手段であり、知恵やヒューマンタッチの価値を生かしていく、残してくことがゴールだと考えています」と示しました。
続けて各務氏は、デジタルトランスフォーメーションの言葉を分解し、デジタルとトランスフォーメーションの意味を解説。デジタルとはデジタル思考とデジタル技術のこと、トランスフォーメーションとは「既得権益、会社の見えない資産を一旦手放すつもりで、新しい時代に変化し、バージョンアップをしていくことが本質的。人を変えることが原点にある」と説明しました。
また、デジタル思考とアナログ思考の違いについて「デジタル思考は、外資系が得意とする合理的で、白黒はっきりする考えのこと。アナログ思考は日本企業が得意とする曖昧さを重視する考え、曖昧さを許容する考えのこと」と定義。「両者のバランスをどのように取っていくべきかを考えながら、DXを進めています」と明かしました。
DXには大きく分けてデジタル技術を活用することで新たな価値を提供する“攻めのDX”と、会社の経営基盤である“守りのDX”があります。
それらについて各務氏は「会社の経営基盤“守りのDX”がしっかりしていないと、“攻めのDX”を進めたところでスケールしない、永続しない」と述べました。
ありたい姿を定義することがDXの第一歩
“守りのDX”を前進する上で重要なのは、ありたい姿をきちんと定義することだといいます。
その理由について各務氏は、「ありたい姿の定義があいまいがゆえに、どこを目指したらいいのかわからない。そういった点からDXの課題は始まっています。だから、最初にやるべきことは、企業文化や行動規範、DXによって成し遂げたいこと、どうありたいかを明確にすることです」と説明。
自分たちのチーム、お客様、一般消費者、ビジネスパートナー、関わる人すべてがWin-Winである仕組みを作るには、「自分たちのありたい姿を前提として決めることの必要性」と「ありたい姿がないと競合からマーケットを奪われてしまう可能性」があるとしました。
一方で、年功序列な日系企業、大企業の場合には、事業部ごとに利害関係がなかなか一致しないという課題があり、メッセージを統一するのが難しい、ありたい姿を全社向けにはっきり言えないなどの側面もあります。
「これこそが、DXの最初の課題だと思います」と各務氏は述べ、「ありたい姿が曖昧であるがゆえに、現状とのギャップを定義できないことも課題である」と、つまずきポイントを2つ説明しました。
一網打尽にできる根本原因は経営リソースにあり
ありたい姿と現状のギャップを定義できた場合、次にすべきことは「一網打尽にできるような根本原因を見つけること。経営リソースをよくすること」と各務氏は言い、詳細を説明しました。
経営リソースが良くなると利益が生まれ、投資ができ、人材のレベルが上がり、生産性が上がるというGoodサイクルが回ります。一方で、経営リソースが悪化すると、利益が出にくく、投資ができず、人のレベルが上がらず、生産性が上がらないBadサイクルに入っていきます。
そのため、ヒト・モノ・カネ・情報という経営リソースをよくすることが重要なのです。
さらに「特に、変化の時代で最も重要とするのは、人材という経営リソースかなと思っております」と各務氏。
続けて「人材という経営リソースを良くするためのポイントは、アナログ思考とデジタルを組み合わせたときに持っている強みが何かを、徹底的に発見すること」としました。
それを図式化したスライドを用いて各務氏は、サービス化について説明。
アナログの価値を最大化することが攻めのDX。それをデジタル思考化させて、知恵や感性を共有し、お客様に提供できるサービス化とするのがやるべきことの1つ。
要望・属人化・陳腐化したような固着化した仕組みの解像度を高めて、再構成、分かりやすくするというサービス化というアプローチがもう1つです。
それをインフラ化することで、よりコストダウンをしながら経営基盤にすることこそが“守りのDX”としました。
これらについて説明した上で各務氏は、DXを進めるポイントについて「攻めのDX、守りのDX、どの部分にに取り組んでいるかを意識することが大切です」と述べました。
また「人や組織という縦割り組織と、DXの横串の仕組みには、大きなギャップがあり、それらを繋げていくことこそがDXの肝であると」各務氏。
ただし、各事業やサービス、人の成熟度のステージによって、属人化がOKなのか、横串化するべきなのを見極め、人やチームのパフォーマンスを最大化することが大切です。
特に仕組みが陳腐化している場合、新しい取り組みをしても足元が揺らぎ逆効果になる可能性があるというのも注意すべきポイントだと言います。
次に、DXが失敗するアンチパターンをあげて各務氏は「ゴール設定の重要性を改めて説明。ゴール設定がわかりづらいと本気で実行しにくく、DXが進まないどころか、結果的に社内が混乱して実力低下する可能性があります」とその重要性を説明しました。
続けて「DXは山登りのようなもの」と各務氏。
ゴールが多段であることと、先行する人がいること、それを進める上での王道を外さないように進めることの重要性を述べ「大事なポイントは、社長、役員陣、部長・課長、現場の社員が、それぞれの役割でやるべきことを進めることで、スムーズに進みます。どのポジションの人が何をするかを明確にしたうえで、全員でDXを進めることがオススメです」とDXの推進に悩む担当者に伝えました。
DXを解決するサービスチームを作るための3つのポイント
DXの解決策の1つに、サービスチームを作ることがあると各務氏。
そして、サービスチームを作るための3つのポイントを紹介しました。
1.仕事の役割が明確に設計されている
人とチームは、サービスを提供する関係にあります。スライドの青い枠には、さまざまな人が存在していること、その人同士がサービスをお互いに提供し合い、チーム全体でも1つのサービスを提供しています。
さらに、サービスチームというには、サービス概要、対象顧客、顧客に対するメリットとデメリットをどう解消するか、提供するサービスの詳細、サービスレベル。費用感、ロードマップ、連絡先、FAQを明確化することが必要です。
その理由について各務氏は「誰が、どのチームが何をやっているかを明確することで、連携度が高まり、変化に強くなります。逆に何でもやりますというのは、オーバーコミットしてしまって、相手の期待値に対して答えられない可能性も出てきてしまうので、ある意味何もできないということに等しいです。まずは、できること、やらないことを明確にするのが大切です」と説明しました。
2.コミュニケーションが最適化されている
サービスチームができた後は、サービスチーム内、サービスチーム間での連携が大切です。
具体的な例として、各務氏はコロナ禍で顕在化したリモートワークの課題について触れながら、リモートワークとリアル双方のコミュニケーション再設計における重要性を説明。
「例外を認めた上で、ベースとなるコミュニケーションを設計することで、どのタイミングで出社するかが明確となり、リモートワークとリアルのコミュニケーションが最高のレベルでできるようになる」と述べました。
また、経営陣からの情報共有・情報発信については「伝わらないから共有しない、この情報は加工して伝達しよう、そのような事が現場と経営陣の距離を離してしまいます。ですので、コントロールをして発信をして伝えるのではなく、必要な時に探索できるように、可能な限り全ての情報を共有することが重要です。そうすることで、経営陣と現場の距離が近くなり、スピードと変化が大事な場面での意思決定がスピーディーになるでしょう」と触れました。
3.実力主義で多様性がある
サービスチームとしての役割が明確化し、連携が高まった上ですべきことは、従業員・チームが働いた結果を実力主義で評価することだと言います。
KADOKAWA Connectedの場合は、ポジションで仕事をするのではなく、ロールで仕事をすることで給与を決めているとし、「給料を上げるためには、役職につくことを目指すのではなく、どのロールを自分が取るかを決めること。場合によっては、ロールを下げて仕事をすることも選択できるようにしている」と説明しました。
また、報酬については、給与と賞与を明確に分けているのだそう。
給料は、従業員の努力で変わる部分であり、自分であげたいという場合には「このロールをやるので、こういう給料にしてください」と自己申告できるようにしており、賞与についてはどのプロジェクトに入ったか、会社の業績がどうかで変化するものとし、社外でも活躍できる人材育成を目指しているそうです。
また、次世代の企業の形とし、各務氏は教育機会について「今後は教育・自己成長・変化が大事になっていくため、雇用契約でも業務委託でも差異なく、同じように取り扱っていくってことが大事かなと考えています」と展望を話しました。
最後に、各務氏は会場に訪れた人たちのネクストステップについて「やはり大事なポイントは、経営リソースを良くすること、特に最も変わりにくい、人的リソースを良くすることが一網打尽するポイントではないと考えています。
貴社の価値を、価値の源泉を明確にし、本日説明したことを進めることで、Goodサイクルがぐるぐるぐるぐると回っていくようになるんじゃないかと考えております」と述べ、講演を締めくくりました。
【執筆:於ありさ】